消えた記憶と愛する人の嘘 29 「爽快な朝」
投稿しますね!
病院内に響く 穏やかな放送音。
「これより、朝の検温を行います」
目を覚ました瞬間、 いつもと違う感覚 に気づいた。
妙にスッキリしている。
「ぐっすり……寝れたな」
自分でも驚くほど爽快な気分だった。
昨日までは、目覚めるたびに何とも言えない孤独感があったのに。
今日は違う。
「……これも、まいのおかげか」
そんなことを思いながら、天井を見つめていると 病室の扉が静かに開いた。
「おはようございます、高木さん」
入ってきたのは、いつものナースだ。
慣れた手つきでカートを押しながら、柔らかく微笑む。
「おはようございます」
軽く挨拶を返すと、ナースは体温計を手渡しながら、「気分はいかがですか?」 と尋ねてきた。
「問題ないですね。だいぶスッキリしてます」
それを聞いたナースは、 「いいですね! その調子です。順調に回復していますよ」 と、明るい声で言ってくれた。
「ありがとうございます」
そう返しながら、体温計を脇に挟む。
ピピッと音が鳴り、ナースが数値を確認する。
「うん、問題なしですね!」
彼女は満足そうに頷くと、カルテに記入しながら 「この調子で頑張ってくださいね」 と励ましてくれた。
「はい、頑張ります」
ナースは最後にもう一度微笑むと、 「では、また来ますね」 と言って部屋を後にした。
病室に静けさが戻る。
—— 記憶は相変わらず戻っていない。
でも、今朝の俺の頭の中には そんな不安はほとんどなかった。
むしろ、考えているのは まいのことばかり。
昨日のLINEのやり取り、まいの笑顔、
そして、最後にキスをして帰った姿——。
俺は完全に まいにやられたな と思う。
記憶を失っているはずの俺が、たった一日でこんなにも 一人の女性に心を奪われるなんて。
ベッドの上で、もう一度 「ふぅ……」 と息を吐く。
そして、天井を見つめながら、 ゆっくりと笑みを浮かべた。