表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/361

消えた記憶と愛する人の嘘 10


誰かと話したい――


たったそれだけのことが、今は叶わないほど遠いものに思えた。


孤独感が、静かに胸の奥で広がっていく。



時間がしばらく経ち、病室の扉が静かに開いた。


入ってきたのは担当医だった。


「高木さん、調子はどうですか?」


「……まあ、特に変わりはないです。」


医師はベッド脇のモニターを確認しながら、淡々とした口調で頷いた。


「そうですね。検査結果も安定していますし、身体の回復自体は順調ですよ。」


「そうですか……」


当たり障りのない会話。


だが、それだけでは済ませたくなかった。


「先生……退院って、早めることはできませんか?」


思い切って尋ねてみた。


この何もすることのない、ただ時間が過ぎるのを待つだけの状況に、俺はすでに耐えられそうになかった。


だが――


「申し訳ありませんが、あと一週間はこのまま入院していただきます。」


淡々とした声で、医師は告げた。


「今はまだ経過観察が必要ですし、記憶の回復にも時間がかかる可能性があります。焦る気持ちは分かりますが、今は安静にすることが大切です。」


「……そう、ですよね。」


期待はしていなかった。


それでも、少しは希望を持っていたのかもしれない。


結果は分かっていたのに、やはり答えを聞いた途端に肩が重くなる。


あと一週間、この病室の中で、何も思い出せないまま過ごさなければならない。


何をして過ごせばいいのか。


何を考えればいいのか。


この曖昧で、どこにも繋がらない時間を、どうやって耐えればいいのか。


「……はぁ。」


小さく息を吐くと、担当医は少し申し訳なさそうに表情を和らげた。


「焦らずにいきましょう。記憶の回復は人それぞれです。急に思い出すこともあれば、少しずつ戻ることもありますから。」


「……はい。」


そう返すしかなかった。


医師は軽く頷くと、ナースと数点の確認を終え、病室を後にした。


また静寂が戻る。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ