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消えた記憶と愛する人の嘘 9
こうして午前中、一人きりで静かに過ごしていると、考えなくてもいいことばかりが頭をよぎる。
悪い方へ、悪い方へと思考が流れていくのを、自分では止められない。
記憶をなくすというのは、こうも心細いものなのか。
何も覚えていないのだから、余計なことを考えずに済むかと思っていた。
だが、実際は違った。
知らないことばかりの世界に取り残されたような感覚が、胸の奥にじんわりと広がる。
舞子が気を遣って新聞や雑誌を用意してくれていた。
きっと、何か気を紛らわせるものがあればと思ってのことなのだろう。
だが――
どうしても読む気になれなかった。
活字を目で追おうとしても、内容が頭に入ってこない。
物語の登場人物も、社会のニュースも、まるで別世界の話のようで、現実感がない。
ただ、横になって天井を見つめるしかできなかった。
それがこんなにも苦しいものだとは思わなかった。
治療といっても、今は何かをするわけでもない。
薬を飲むわけでもなければ、特別なリハビリがあるわけでもない。
ただ時間が過ぎるのを待つだけ。
そうして過ごす時間は、想像以上に長く感じられた。




