戦略っていう戦略はないんだけどね!
「ふは、ふはは、ふはははは!」
キャロット城にて攻城戦が開始して数日、今なお落ちぬ城を見ながらピトラーは愉悦に嗤う。
「素晴らしい、素晴らしいではないか!」
何体目かの戦車が稲妻に飲まれ粒子と化す。
稲妻の発生元・・・勇者トリスタンは、顔色も変えずに次の戦闘に身を投じる。
「あれが勇者か!あれほどのNPCがいるというのか!」
ピトラーは顔を歪める。
あれほどのNPCを屈服させ、我が軍に迎え入れればランキング10代も夢ではない。
なんとしてもあれが欲しい。
ピトラーが夢見心地に指パッチンすると、スーモが背後から現れる。
「スーモよ、私はあれが気に入った、手伝え」
「こんな所で足止めを食らうわけにもいかないデス、今回は協力するデス」
スーモがそう言いながら闇に消える。
「さて、まずは動きを封じる必要があるな」
ピトラーはこれ以上の戦車の導入を止め、自らトリスタンの前に躍り出る。
トリスタンは一瞬驚くが、すぐ平静を保つ。
「これは・・・まさか総大将自ら前線に出てくるとはな」
「ああ、私はお前・・・が・・・ほしい」
背中の四本アームが戦闘態勢に入ると同時にトリスタンが稲妻を纏い切り込んでくる。
ピトラーはその攻撃を軍刀で少しずらすと四本アームでトリスタンの拘束に取り掛かる。
しかしいち早く態勢を立て直したトリスタンによって、簡単に弾かれてしまう。
「なんと、なんと美しいことか」
だがピトラーは諦めない、四本アームと軍刀を自在に操り、トリスタンを押し込む。
トリスタンも負けじと剣をふるい、両者の力が拮抗する。
両者互角、一歩進めば一歩後退する、そんな戦いの中、トリスタンの表情が曇る。
目線の先にはキャロットの軍兵と戦車がぶつかる姿。
トリスタンは急ぎ剣に稲妻を纏わせると、戦車めがけてレーザービームを発射する。
レーザービームに当てられた戦車は溶解したかのようなエフェクトの後、粒子となって消える。
「ほう?随分と余裕があるではないか」
ピトラーはニヤリと笑みを浮かべると、戦車ユニットの砲台を最大限キャロット軍に向ける。
トリスタンはピクリと反応すると、今まで以上に激しい稲妻と剣に纏わせる。
「守る余裕があるか?勇者殿よ」
しかしトリスタンの稲妻は、四本アームによって止められる。
同時に発射した砲弾によってキャロット軍の半分が消し飛ぶ。
「この悪魔め・・・!」
「これは戦争だぞ?随分とぬるい事を言うではないか」
キャロットの士気ゲージが一気に減ったのを確認し、ピトラーは目の前のおもちゃに嗤い掛ける。
「しかし意外と頑丈だな」
予想通りとはいえ、まさかNPC如きにピトラーが封殺されるとは。
だがそれゆえの共闘がピトラーにはある。
焦るトリスタンの足元に黒い影が伸びると、四本アームを受け止めると同時に足元が闇に覆われる。
「なんだこれは!?」
「申し訳ありませんが、動きを封じさせてもらうデス」
トリスタンは新手の出現に驚きながら、蔑みの視線をピトラーに向ける。
「この卑怯者が!」
「ふはは、勝てば良いのだよ、勝てば」
稲妻をまとった剣を弾き飛ばし、ついでに片手をつぶしておく。
トリスタンが苦痛に顔を歪めるのを肴に、例の白い液体を取り出す。
「さて、チェックだ」
ピトラーはアームでトリスタンを宙ぶらりんにすると、その首元めがけてシリンダーを突き刺す。
「ぐ、ああ!?」
トリスタンがアームにつられたままビクンと体をはねる。
「さあ、これで貴様も私のおもちゃだ」
「この・・・何を・・・」
まだ意識があるのか。
今までのNPCであれば即落ちだったが・・・流石は勇者といったところか。
だがしかし攻撃をしてくる気配はなくなった。
「さぁ勇者よ、お前の敵はあっちにいるぞ?」
「ふざ・・・けるな・・・!」
トリスタンは口ではそう言いつつも、剣をキャロットに向ける。
敵の最大の駒は手に入れた。もはや陥落は時間の問題。
ピトラーが高笑いを上げる中、トリスタンがキャロット向けてのろのろ動きだす。
「完全に傀儡になるのも時間の問題、ピトラーは最強の駒を手に入れたぞ!」
ピトラーが歓喜に打ちひしがれていると、トリスタンの動きが止まる。
「む?」
何事かとトリスタンの視線の先を見ると、名前も覚えていない、ここの領主の姿があった。
「なーにが大丈夫だこの野郎、押されてる上に敵に操られるとか恥ずかしくないのぉ?」
領主がそうトリスタンを煽ると、トリスタンは顔を真っ赤にしながらも、うめくように叫ぶ。
「アーサー・・・!逃げてくれ・・・今の私では・・・!」
トリスタンが徐々に速まる剣速でアーサーとやらを切りつける。
アーサーとやらは避けようとしたが、あまりにのろすぎてもろに斬撃にあたる。
「いってぇ!HPが半分もってかれたぞ!?」
むしろトリスタンの攻撃をもろにくらい半分程度で済むのも異常ではあるが・・・。
ピトラーは静かにアーサーを睨む。
なぜあんなに余裕でいられる?今あいつはピンチのはずだろう?
アーサーは、続くトリスタンの攻撃を見ながらニヤリと笑みを浮かべる。
するとトリスタンが糸が切れたように倒れる。
「なんだと・・・?」
ピトラーが驚愕に目を見開く中、アーサーとやらはニヤニヤと手に持ったブツをクルクル回す。
「悪いなあんた、こいつはこれがなきゃ指一本動かせないんでね」
そういいながらアーサーがカツラを見せびらかす。
ピトラーは舌打ちを打つと、忌々しげにアーサーとトリスタンを見比べる。
「あと、いい加減俺の領地に攻撃するのをやめたほうが良いぞ?このまま戦うってんなら痛い目みるぞ?」
「この状態で覆せるとでも?」
最大戦力は失ったが、キャロットの士気はもはや風前の灯火、このままカツラを奪い返して侵略するまでだ。
「一応警告はしたからな?」
アーサーはそう言いながら悪い笑みを浮かべると、システムウィンドウを開く。
【魔王軍がキャロット陣営の増援に入りました】




