18. プールで難破船!
気づけば三か月以上投稿がありませんが表示されていました。毎度のことなのですが遅くなってしまいすいません! 夏らしいエピソードです! 時期が投稿遅れで重なってしまいましたね・・・・・・
照り付ける太陽で汗がにじみ出てくる。辺りでは蝉が鳴きわめき、夏真っただ中であることを何回も知らせてくる。この時期に外にいることはしばらく引きこもっていた俺にとっては厳しいものであった。
暑さのせいか脈拍も上がってきているような気がする、いやこれは別の理由で何だけども。それは今持ってきたカバンに入ってるものが原因だ。
「奏向、ちゃんと持ってきましたか?」
隣にいるエリスが尋ねてきた。若干嬉しそうな顔が憎たらしく思ってしまう。俺はこの日のためにあんな辱めを受けて、決死の覚悟で来たというのに。
「持って来てますよ」
ちょっと不機嫌そうに答えるとやれやれといった年上な感じの対応をされる。いや、ちょっと待て、俺にとってというか男にとって超えるには高すぎる壁なのだが? 少しは大目に見てもらってもいいのではないか?
「もう、いい加減慣れてくださいね。今日はクラスメイトだけじゃないんですから」
「はぁ、考えないようにしてたのに」
たとえ現実逃避しようとも変えられない現実がある。それでも抗おうとするのが人間というものではないのか。そうこう考えてるうちに待ち人の到着である。
「二人ともお待たせ! 暑い中待たせちゃってごめんね」
「いえ、私たちもひとつ前のバスで来たところですから」
いつものメンバーになっている利麻が到着した。そう、今は夏休み真っただ中で凄まじく暑い日が連日続いている。そんな中で暑さを凌いで遊ぶ場所と言ったらあの場所が思い浮かぶだろう。
「それでは行きましょうか、プールに!」
そう、この暑さを忘れて涼むことが出来るプール。今日は少し遠いところの大きめのプールへと三人でやってきたわけなんだけど。
「や、やっぱ私、帰ろっかな~?」
「いい加減腹を括ってください!」
学校の水泳の授業でのように元は男であるため女子の更衣室に入ることや水着を着ることに抵抗がありまくっている。しかも、今日持ってきた水着は・・・・・・。
「せっかく今日のために可愛い水着かったんですから、遊ばなきゃ勿体ないですよ!」
「だから嫌なんだよ~」
そう、夏の初めに利麻のバイト先へまたヘルプで働いたこともありお小遣いが潤沢になっていた。そんな中プールに行こうという話になり、流れに流されて女性用の水着まで買ってしまったのだ。
いや、あの時は本当に変だったんだよ! 三人でショッピングモールのショップで選びっこしたり、試着してみたり、なんで自分がそんなことをしていたのかあの時の記憶すら曖昧になっている。
ただ言えることは、エリスによると俺はそこそこ乗り気で水着を選んでいたということ・・・・・・ってそんなわけはなく、エリスが結構強引に店の中へと連れていき俺は極度の緊張状態でなすがままになっていただけというのが真実なんだけど。
もうここまで来てしまったら腹を括るしかないのだけれど、それでもやっぱり、恥ずかしい!!
そんなことを思いながら、俺はエリスに引っ張られて施設の中へと入っていった。
~~~~~~~~~~
施設内に入ると受付で支払いを済ませてさっそく更衣室へと向かっていった。もちろん、女子更衣室である。大丈夫だ、俺は水泳の授業でもクラスメイトと一緒に着替えてるし、そう思って中に入ると途端に顔を赤らめてしまった。
中にいたのは同年代の女子から大人の女性まで、時期が時期だけにお客もそこそこいたわけで。当然同年代の女子にしか耐性を持ってない俺は目のやり場に困っていた。
「本当に奏向ちゃんは女性同士の着替えでも動揺しちゃうんだね。なんか思春期の男子と似てるかも」
利麻の的を射た発言に俺は愛想笑いを返すことしかできなかった。そんな状態だからか慣れない水着を着るのに手間取ってしまいエリスに手伝ってもらいながら何とか着ることは出来たわけだが。
いざ着てみると本当に布地が少ない。なんたって胸と股間しか隠れてないのだから。結局購入した水着は可愛い方がいいとビキニの水着になってしまった。
何とか抵抗した結果胸元にはフリルが付いた水色のビキニとなったが、今更思うとこれ胸元に視線を集めることになるのでは? そして、問題はこの姿を大衆に晒してしまうということで。
「やっぱ無理! 絶対に無理だって!」
「もう、少しは男らしく覚悟を決めてくださいよ~」「だって今女だもん!」
もう自分でも情けなく思えてくるような言い訳をして抵抗している。でも、それほどまでに今の姿で人前に立つことに恐怖心とも羞恥心とも思える感情が足枷のように外へ行くことを阻止してくる。
すると、エリスが持ってきたカバンから何かを取り出し始めた。そして、それを俺の方へと掛けてくる。バサリと掛けられたそれはパーカーのようなものだった。
「ラッシュガードという水着の上に羽織るようなものです。とりあえず、慣れるまではそれを羽織っていてください」
そんなものがあったのか、というかいつの間に用意したんだろう? とはいえ確かにこれを羽織れば多少は今よりもマシな感じになることは確かだ。
俺はラッシュガードのチャックを上げようとするとエリスがじーっと睨んでくる。さすがに前を隠すことは許されないみたいだ。逆にチャックを閉めたほうが胸元が強調される可能性はあるかもしれない。
そう考えるとここはエリスに従っていた方がよさそうだ。これ以上利麻に迷惑をかけるわけにはいかないし、俺は覚悟を決めると更衣室の外へと踏み出した。
「あっ、日焼け止め忘れてました。ほら、塗ってあげますから」
「えっ」
その後エリスに体の隅々まで日焼け止めを塗りこまれたわけなんだけど、何とも言えない感覚でちょっと変な声まで漏れたし・・・・・・。ちなみに利麻は自分で全部塗ってた。
~~~~~~~~~~
「二人とも、こっちこっち!」
「お待たせしましたー」
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
いろいろあって、ようやく俺たちは施設のプールの一つ、流れるプールへとやってきた。結局ラッシュガードは入水中は邪魔だからと近くのロッカーに預けてしまった。
けれどもここまで来るのに視線を気にせずに来れたし、水の中に入ってしまえば恥ずかしさも関係ないはずだ、と言い聞かせて今に至る。
このプールは一応流れるプールやウォータースライダー、長距離のプールなど様々なプールがそろっていた。この流れるプールも長さはある程度あるようだった。
プールサイドで軽く準備運動をすると三人でゆっくりと入水する。ひんやりとした水の感触に一瞬ビクっとしてしまうが、この暑さの中だとすごく心地よく感じる。
水の中に肩まで入ると何とも言えない高揚感がこみあげてくる。水の中に入るのってなんか知らないけどテンション上がっちゃうんだよね。三人とも入ったところで俺は重大なことに気が付く。
「私、泳げないじゃん!」
「「そういえば」」
というわけで俺は常にプールサイド付近で水の流れに身を任せることになったんだけど俺の身長でもなんとか足が付くため溺れる心配はなさそうだ。一瞬例の事件を思い出しかけたけどそれは気にしないことにした。
そもそも流れるプールは人も多くて泳げるようなものではないため、結局三人で話しながらぷかぷか浮かんで楽しむことになった。
「それにしてもー、やっぱり奏向ちゃんの水着姿可愛いよね」
「えっ! そ、そう見える?」
当然始まった水着トークで可愛いと言われて驚いてしまう。本当に女になってからこういう褒められ方に対して耐性がなくなってるみたいだ。そもそも男は褒められてもカッコいいとかだから言われ慣れてないだけかもしれないけど。
「うん! 水泳の授業の時から思ってたけどやっぱりスタイルいいよね」
「そうですよ! こう見えて奏向は素敵なボディの持ち主ですから」
おだててくる二人に俺は顔を赤くする。あれ、もしかして俺まんざらでもない感じ?
「気に障ったらごめんなんだけど、奏向ちゃんちょっと小さい感じなのにスタイルいいからさ」
「つまり、エロ可愛いということですよ!」
「なっ! え、エロって!?」
た、確かに俺自身今の姿は可愛い女の子だと思う。いや、過大評価とかじゃなくて俺が男だったら付き合いたいとか思ってしまうはずだ。
誰かのせいでされた小さめの身長、それなのに胸はある程度存在を主張している。標準的な体系括れも一応ある体つき。何故こんな姿になったのか、言うまでもなくアイツの好みによるものだろう。
「いや、そこまでは言ってないけど」
「でも、実際にこの姿は男女問わず魅了する姿だと思いますけど」
「襟澄って本当に奏向ちゃんのことになるとすごいよね。それに襟澄だってモデルさんみたいなスタイルしてるし」
利麻はそう言ってエリスの姿を褒める。確かに理想的なスタイルの持ち主であるエリスは白の大人びた水着がすごく似合っている。
そのエリスは利麻に褒められるとドヤっって感じにふんぞり返る。こういうところなければ完璧なんだけど。
「利麻だって引き締まった体してるじゃないですか。三人合わせてトップモデルスですね!」
なんかよくわからないチーム名付けられたけど、ひとまずやらなくてはならないことがある。俺はそこそこの強さで(といっても今の俺ではそんなに強くないけど)エリスの肩を叩いた。
「痛!」
「え、エロって・・・・・・ば、バカ!」
「あちゃー」
その後エリスが俺に平謝りを続けることになったのだが、最終的に利麻の提案により後でクレープを奢ってもらうことで和解した。
というか俺としてはビックリしたというか、動揺したというか、そういう部分が多かったのだけど。自分がエロいとかって、そんなこと言われたのも初めてだし、頭がなんかモヤモヤする。
流れるプールはそんな感じで終わってしまい。今度は大き目の長距離のプールに行くことになった。せっかくの機会なので利麻に泳ぎ方を教えてもらうことにした。
施設を歩るいていると若い男女が多かったり、子連れの親子がいたりと結構人が来ているみたいだった。ようやくプールに着くと中では自由な泳ぎで泳いでる人が何人かいた。
中には女性と思われる人がレーンをガンガン泳いでいた。かなりハイペースで泳いでるように見えるのに、その速度は全然衰えそうになかった。
俺たちはその人の隣のレーンを使うことになった。ちょうど端のレーンだったし。ちょうど他のレーンも空きがある状態だから練習で迷惑になることはないだろう。
「それじゃあ、さっそく始めようか」
「よろしくお願いします」
「それじゃあ私は適当に泳いでますね~」
エリスはせっかくだからと教えてる間は自由に泳ぐみたいだ。そんなことはさておき、利麻による練習が始まった。とりあえずは浮く練習から始めるみたいだ。
「力を抜いて、そのまま浮かぶ感じで」
「んっ・・・・・・うわっ、ととと」
体から力を抜いて水に浮かぼうとするものの、体勢を維持できなくてバランスを崩してしまう。水の中に沈む前に足をつく。今の体の感覚に自分が対応出来てないみたいだ。
この女の体は男の時の体に比べてなんとなく浮きやすく感じる。多分脂肪の比率が多いからとかあるんだろうが、そのおかげか浮く感覚が違ってうまくバランスを保てないみたいだ。
利麻のアドバイスにしたがって何度も練習をしてみる。最初はなかなか感覚が身に付かないものの次第にコツをつかみ始めていくとそこからは早かった。前のダンスの時もそうだったけど、体力的なこと以外だと感覚が変わっただけで運動神経自体はあまり変わってないのかもしれない。
体が水に浮く感覚さえつかめば後は男の時に得た泳ぎ方で応用が利く。俺はなんとかクロールや平泳ぎなどの基本の泳ぎが出来るようになった。まあ速度はかなり遅いのだけれど。
「すごいよ奏向ちゃん、すいすい泳げるようになって」
「いや、利麻の教え方がよかったからだよ」
「ふふん、さすが我が妹ですね」
いつの間にか泳いでいたエリスが戻ってきていた。毎度毎度この態度で恥ずかしいとかはないのだろうか? 少し休憩しようということで一度プールから上がることになったが、その時丁度隣のレーンで泳いでいた女性も同時に上がろうとしていた。その姿はしなやかな体をした同年代のような姿で。
「あれ? みんなじゃないですか! どうしたのお揃いで」
『涼香ちゃん!!』
そう、隣で泳いでいたのは同級生の加々見涼香ちゃんだった。ここにいるのもビックリしたけど男にも引けをとらない泳ぎをしていたのも驚きだった。
確か利麻が部活に誘ったときはどこかの部活に入ろうとしていたらしく、かなり運動神経がいいというのは知っていたけど、ここまでとは思ってなかった。
「実は三人で夏休みにプール行こうってことになっててね」
「あー、そういえばこの間誘ってきたあれってこのことだったんだ」
実はせっかくだから部活のメンバーで行ってみない? ということになって涼香ちゃんと瀬奈先輩には事前に連絡をしていたんだけど、先輩はちょうど家族旅行が重なっていたらしく涼香ちゃんも予定があったとのことで諦めて三人で行くことにしたんだけど。
「涼香ちゃんこそこんなところで何してたの?」
あはははと少し照れ臭そうにしながら事情を話し始めた。
「お恥ずかしいんだけど、中学時代の友達とここのプールに来ることになってて、だけど急に用事が出来たってドタキャンされちゃって。それでせっかくだから一人で泳ぎに来たんだよ」
そういう事情だったのか、そういえば連絡したときにプールに行くってことは話してなかったな。それじゃあ俺たちがここにいることも知らないわけだ。
「そうだったんだ、それじゃあこの後一緒に回らない?」
利麻の誘いに涼香ちゃんは嬉しそうに目を輝かせた。
「ほんと!? いやー泳ぐのもそろそろ飽きてて困ってたんだよー」
「ちなみに、どのくらい泳いでたんです?」
今現在は12時30分過ぎ。俺たちは10時頃に来たけど涼香ちゃんはどのくらいから来ていたんだろう? さすがにずっと泳いでたってことはなさそうだけど。
「えーっと、開園が9時だったから・・・・・・3時間くらい? おかげでお腹ペコペコだよー」
『えっ』
どうやら涼香ちゃんはかなりのスポーツ大好き少女らしい。俺たちもちょうどお昼時ということで四人で施設内の食事処でお昼を済ませることにした。
他に来ているお客も多かったからかなり混雑してはいたが、何とか席を見つけるとそれぞれ好きなものを食べてお腹を満たした。
「ふー、生き返るー」
「美味しかったね」
お腹が落ち着くと次に何するか相談を始めた。すると、涼香ちゃんが一つ提案をしてくる。
「えっと、さっき見かけたクレープ屋さん気になってて、食後のデザートにどうかな~と」
「本当に涼香ちゃんって甘いものに目がないんだね」「奏向ちゃんも食べようよー」
確かに、食後のデザートはすごくそそられる。他の二人もその気持ちは同じらしくデザート案は満場一致で可決されることになった。
というわけで、買いに行く三人とテーブルで席を確保しておく一人をじゃんけんで決めることになったわけなんだけど、こういう時に限って俺の運は悪いわけで。
「それじゃあ奏向、席よろしくお願いしますね」
「代わりに美味しいの買ってきてよ!」
一人寂しく席でクレープを待つことになった。これだけ人で賑わっていると逆に一人でいるのが寂しく感じてしまう。
それと、し、視線が一人に集中するのがたまらず堪えるんだよな。さっきはエリス達がいたから視線が分散していたけどこの姿で男性の前にいると一回は視線を向けられることが多く俺としては厳しい限りだ。
改めて水着を見ると確かにかわいいデザインだし、鏡で見た姿はとっても素敵だった。けれどもそれはあくまで個人での話。他人に見られるのはまた別の話だ。
肌はかなり出てるし、胸だって、こんな大きさとかがわかっちゃうし。下だって小さいし、やっぱりビキニじゃなくてパンツタイプのにしとけばよかったなー。
可愛いからってごり押しで決めたエリスにはいつかお返ししないといけないな。そんなことを思っているとあることを思い出した。
そういえば、前にもこうやって一人で待たされたことがあったっけ。遠くもない過去の出来事、初めてこの姿になって買い物に出かけた時。思い出したくないような出来事。
「あの時は大変だったなー。まさかナンパに合うなんて」
「ねえ君?」
「そうそうこんな感じで声かけられたんだよね」
「あの、君ってもしかして一人?」
「へ?」
振り返ると水着姿の好青年が二人、そこに立っていた。いや、いやいやいや、こんな奇跡起こらなくてもいいんじゃないですか天使様!
ナンパ、二回目。どうしよう、以前ナンパされた時のことが鮮明にフラッシュバックしてくる。あの時は強引に誘われて腕も振り払えないままに連れていかれそうになって。
いやいや、冷静に、冷静になるんだ俺!とりあえず、状況を確認することが大事。俺はひとまず彼らの問いかけに答えることにした。
「えと、あの、わ、私は友達と来ていて」
「あっじゃあ今は座席取りしてる感じなんだ」
この対応の感じ無理矢理にも連れていくって様子じゃなさそうだけど、前の記憶がどうしても体をこわばらせる。
体が震えてる気がする。声も裏返ってるし、実際かなりビビっているだろう。でも、今はエリス達はいないしなんとかして乗り切らないと。
「は、はいーそうなんですー」
「そ、そうなんだ」
男性二人、高校、いや大学生だろうか。俺の話を聞いて少し考えてるみたいだ。もし逃げ出すにはこのタイミングだろうけどまだ連れていかれると決まったわけではないし、実際かなり勇気がいる行動だし。
結局二人の話し合いが終わるまで俺は固まったまま動けなかった。まるで料理される前の食材のように。片方の男性がちょっと照れくさそうに話しかけてきた。
「えと、もしよかったらなんだけど俺たち向こうで遊んでて、よかったら一緒にどうかなって。もちろんお友達も一緒で大丈夫だから」
「どうかな?」
断ればいい。ただそれだけでこの件は終わるはずだ。でも、前回の記憶が俺を縛り付ける。一言、ごめんなさいと言えばいいのに。その先に起こる悲劇を勝手に想像し、体を震わせる。
「えと、あの、あ、えと」
言葉が出てこない、俺はまるで非力な少女のようなただ言葉にならない言葉を漏らすばかりだ。このまま流されるままに、俺は。
違う、そうじゃない。この人たちはあの時のような強引な人じゃないし、俺だってあの時みたいに対応できないわけじゃない。
今までだっていろんなことがあったんだから。ナンパを断ることぐらい出来るはずだ。いざとなったら声を上げれば逃げられるだろうし。エリス達だってもうすぐ戻ってくる。大丈夫。
俺は覚悟を決めると深呼吸を一回してから二人の方を向く。そして答えた。
「ごめんなさい! 私、大事な友達と遊ぶのでお二人とは遊べません!」
二人に大きく頭を下げる。言い回しは大丈夫だっただろうか、気に障ってないだろうか。緊張するもののゆっくりと顔を上げる。
二人の顔は怒ってなく、逆に残念がっているようだった。
「そっか、じゃあしょうがないね」
「時間取らせてごめんね、友達と楽しんで!」
「は、はい。ありがとう、ございます?」
思ったよりもあっさりと引いてくれた。そのまま二人は俺の視界からいなくなり、そのあとすぐにエリス達が帰ってきた。
「かなたー!! 買ってきましたよー! ってどうしたんですか? そんな呆けた顔して」
エリスに心配そうな顔をされる。ふと我に返りいつも通りの顔に戻す。不思議そうにするエリスからもらったクレープはホイップクリームにチョコソースとイチゴが入ったものだった。
気にせず俺ははむっとクレープにかぶりつく。甘さが口に広がると同時にようやくさっきまでの緊張の糸が切れた。
「あっ、これすっごく美味しい! スペシャルグレートロイヤルクレープってだけはあるね」
なんだか名前だけで豪華そうなクレープをパクパク食べる涼香ちゃん。エリスも利麻もおいしそうにクレープにかじりついている。
「そういえば、さっき誰かと話してた? なんか遠くから人影っぽいのが見えて」
利麻はさっきのことを見ていたようだ。俺はどうしようか考えて、そのまんま話すことにした。
「えーとね、実はナンパされまして」
『ナンパ!?』
一同は大きく驚いた。エリスに至ってはかなり心配そうに体を揺さぶるくらい、いや揺さぶっているんだけど尋ねてきた。
「大丈夫だったんですか! もぐもぐ、以前だって、はむ、あんなことがあったんですし」
「食べるか心配するかどっちかにしなよ」
食欲旺盛なエリスだがやっぱり前回のことを心配してるみたいだった。エリスの心配そうな顔に俺は首を振る。
「大丈夫だよ。あの時みたいなことはなかったから。それにいい人たちだったし」
するとまたエリスが慌てたように俺のことを揺さぶり始めた。
「なっ! それってあれですか、恋ですか!? 恋なんですか!」
「違うから、普通に断っただけだから、話を聞いてって」
俺たちのやり取りに二人が大笑いする。
「あはは、ほんとエリスって奏向ちゃんのことになると大袈裟だよね」
「奏向ちゃんたち夫婦漫才みたい!」
二人に笑われながら、俺たちはしばらくこんなやり取りを続けた。少しは、人と関わることに自信が付いたのかな?
その後は日が暮れる頃まで四人でプールで遊びつくした。帰りのバスで四人仲良く寝てしまうくらい。こうして俺たちの夏休みは楽しい思い出と共に過ぎていった。




