13. 体育祭と恋のエンジェル (6)
はい、懺悔します。私用で忙しく投稿がおそくなりました。なんとかこれで体育祭編は終わった感じになります! まあ、最後にはなにやらひと悶着ありそうですが(書いてて増えました)。というわけで次回ちょっとだけ続くかもですが、中編はこれで完結です!
8月から書いててかなりのノロノロペースでしたが何とか終われました。なんでこんなかかったとかのお話は今度活動報告の方で書くと思うので気になる方は読んでみてください。
追記 2020.10.25
活動報告の方更新しましたのでよろしければご覧ください。
山上君のメールが来てからすぐに野上さんに連絡をした。彼に事情を話をしたこと、彼が話したいことがあることを伝えた。
それを聞いた野上さんはその数日後に二人で会う約束をした。場所はこの間の公園、夕方に会うこととなった。確かに学校だと二人っきりで話せる場所はないし、あの公園なら人通りも少なくお互いに言いたいことを言い合えるはずだ。
そして、体育祭まであと何日という今日に、山上君と野上さんの話し合いが行われるこの場所に。
「奏向、ちょっと体が出過ぎです。もっとこっち寄ってください」
「でも、もう限界だし」
「いくら何でもここは狭いんじゃない?」
エリスと利麻と俺、三人は公園から見えないところの自販機の影に隠れていた。というのもこの件に関して見届けたいとエリスが言い出したのだ。
「ほんとに山上君が野上さんとよりを戻すのか確認しないといけないじゃないですか」
エリス的には、もし二人が元の関係に戻らなければ俺はまた彼女として山上君と過ごすことになると思ってるみたいだ。
こうして俺たちはこっそりと二人の話し合いの場にやってきてしまったわけだ。もちろん気にならないわけではなかったけど、二人のことなのに他の人が見てしまうのはいけないと思ってた。
結局来てしまったことに罪悪感を感じつつ、野上さんが来るのを待っている。山上君は約束の時間よりも早く公園へと訪れていた。
俺たちも彼についていった結果、時間まで野上さんと鉢合わせしないように公園から遠い自販機に隠れているわけだ。
「もうすぐだね」
いつの間にか時間も過ぎ、そろそろ約束の時間になる。すると、公園の入り口に誰かが入っていったのが見えた。
よく見ると、私服姿の野上さんだった。俺たちは忍び足で公園の方へと向かう。入り口の草むらで身を隠すとそっと聞き耳を立てた。
二人はしばらく互いに見つめ合ったまま、言葉は出てこなかった。何を言えばいいか迷っているのか、それとも勇気が出ないのか。
そんな中でようやく言葉が発せられた。
「ごめんなさい!」
言葉を出したのは野上さんの方だった。彼女の体が少し震えているように見えた。
「あたしが、あたしがあんなこと言ったから、だからこんなに話がこじれちゃって。彼氏って話聞いたと思うけど冗談なの。ごめんなさい」
彼女の言葉に、山上君は落ち着いた顔をしていた。むしろ、覚悟が決まったようにも見えた。
「違う、悪いのは俺の方だ」
彼の言葉に顔をはっと上げる野上さん。急いで言葉を紡ぐ。
「でも、私があんなこと言わなきゃ......」
「そうじゃない、そうじゃないんだ。お前に、恵那にきちんと話をしたい。聞いてくれるか?」
彼女は彼の問いにこくんと頷いた。彼は一呼吸おいてから、話し始めた。
「俺は、お前のことが好きだ」
「......えっ」
思ってもみなかった言葉に彼女は言葉を失った。そして、一緒に居たエリスと利麻も俺もいきなりの告白に驚いていた。
「お前に彼氏がいるって言われた時、俺の心がざわついた。すごく動揺してる自分が不思議だった。それと同時に、お前のことが好きだって気持ちにようやく気付き始めたんだ」
野上さんはかなり動揺していた。言葉を出そうとしては飲み込んで、言葉を絞り出すのに時間がかかった。
「じゃあ、なら、なんでこんな長い間何も話してくれなかったのよ!」
今の彼女の感情は嬉しさよりもいままでの時間一人で過ごした苦しさや悲しみの方が上回っているのだろうか。涙ぐんだ瞳で山上君に訴えかける彼女に、彼は苦しそうな表情をしていた。
「悪いと、思ってる。この気持ちが、本当にお前のことを好きな気持ちなのか、はっきりさせたくて奏向に付き合ってもらって彼女のフリをしてもらってたんだ」
「フリ? フリって......」
彼女はまたも驚く。その気持ちはもうぐしゃぐしゃでどうしていいかわからないのかもしれない。
「お前以外の女子と親しくなって、でもやっぱりお前と、恵那との時間がかけがえのないものだってようやく気付けた。恵那と一緒に居たい、一緒に笑い合いたいって思ったんだ」
彼の言葉に、野上さんの頬が朱に染まった。話は続く。
「でも、こんなに時間がかかったのは、それだけじゃない。むしろ、こっちの方が時間がかかった」
「こっちって?」
彼女の問いに、ゆっくりと答える。
「怖かった。俺は恋愛の経験なんてないし、想像もつかない。だから、俺がお前に告白することで今の関係がなくなるのが怖かったんだ!」
「っ!」
山上君の告白は、とっても純粋で、だからこそ野上さんにも何か感じる部分があったのかもしれない。
「もし、お前が俺のことを好きじゃなかったら、もし付き合うことになって関係が変わってしまったら、そう思うとこの気持ちに正直に向き合えなかったんだ。俺は今みたいに二人で馬鹿やって笑い合えるこの関係も大事だったんだよ」
彼女は彼の思いを見つめたまま聞いている。二人ともまた黙ってしまった。彼は自分の思いを告白した。彼女はそれを受け止めた。
二人とも話す言葉を探しているのかなかなか口が開かない。いつの間にか、あたりは暗くなりはじめ街灯が照らし始めていた。
口を開いたのは野上さんだった。大きなため息の後、彼女は話し始めた。
「海人ってさあ、いつもはあっけらかんとしてるくせにこういう時は繊細なんだよね」
「あ、いや」
山上君は身構えていた分呆気にとられていた。きっともっと強い言葉で何かを言われると思っていたのだろう。
「あたしも、海人が好き」
だからこそ、この言葉は彼の心を揺さぶるには十分すぎるほどの言葉だった。
「えっ、あっ、えっ!」
顔を赤らめわかりやすく慌てる彼。
「そんなに恥ずかしがんないでよ! あたしだってさっき恥ずかしかったんだから」
彼の反応に思わず彼女も先ほどの告白を思い出して照れてしまう。こほん、と咳ばらいをしてから話を続ける。
「あたしもずっと、海人のことが好きだった。でも、このままの関係が心地いいって思ってもいて。いつかは告白しようと思ってたけど、ずっと先延ばしにしてた」
野上さん自身も、山上君との関係で思うことがあったようだ。恋愛とは、そういったものなのかもしれない。俺にも、いつかこんなことが起こるのだろうか、今は想像もつかない。
「あたしだって恋愛なんてわかんないよ。漫画に描いてあっても、本当にあの通りの事が恋愛なのかなんてわからない。でもさ、あたしたちはあたしたちなりの恋愛をすればいいんじゃない?」
彼女の言葉に彼は首を傾げた。
「だから、今まで通りでいいってこと。いきなり恋人同士になったからって何していいかわからないし。それなら、いつも通り接するのが一番じゃない?」
彼は少し納得がしてないみたいだ。
「でも、それは恋人っていうのか?」
彼女は笑ってその言葉に返した。
「だって今までだってお互いに好きだったんでしょ? なら何も変わらないじゃない」
「た、確かにそうだが」
ゆっくりと彼女は彼の元へと歩み寄る。
「でもさ、恋人らしいこともしてみたいからさ、その時は付き合ってよね」
彼の顔を下から覗いて話すそのしぐさに、彼はうろたえてしまう。
「善処する......」
その答えに満足したようだ。彼女はそのまま彼の前に手を差し出した。
「あたしと、付き合ってくれますか?」
その答えは明白だった。
「ああ、喜んで」
手を握り返す山上君。すると、そのまま野上さんを抱きかかえるように自分に引き寄せた。
「恵那、本当にすまなかった。それと、ありがとう!」
抱かれたことに驚いたのか、それとも嬉しさが溢れだしたのか、彼女の目に、大量の雨粒が現れる。
「本当だよ! あんなに長い間話さなかったことなんて今までなかったし、不安だったんだから!」
すると、俺は服を後ろに引かれた。振り返ると、エリスと利麻が後ろにいた。
「奏向、帰りますよ。これ以上は、お邪魔ですから」
そう言って俺たちは公園を後にする。
「大体もとはと言えばお前が冗談であんなこと言ったのが原因だろ」
「何よ、全然あたしの事興味ないみたいなそぶりしといて」
「だから気持ちに気づいてなかったんだよ」
「本当に鈍感と言うかなんというか」
「お前だって俺の事気づいてなかっただろ」
「そんなのわかるわけないでしょ」
「なんだよ!」
「なによ!」
公園の去り際、そんな言い争いが聞こえた。そして、ひときわ大きな笑い声に変わったのを耳でかすかに聞きながら、俺たちはそれぞれ家に帰っていった。
~~~~~~~~~~
パン!
大きな破裂音のような音とともに歓声が沸き起こる。一斉にスタートをする生徒の中で、俺は出遅れながらも必死で腕を振った。
他の生徒とスピードは変わらない。しかし、何とかコーナーで体重を傾ける。その分だけ、走る距離を縮めてスピードに変える。
コーナーを曲がりきる頃には何とか横並びの状態になった。最後に全力で腕を振って走る。そして、次の人に持ってるバトンを渡す。
「はぁ、はぁ、はぁ」
息も絶え絶えになりながら順位を確認すると二番目にバトンを渡せたようだった。ダンスで動いた分身軽になったのか多少動けてるように感じる。
クラス対抗全員リレー。俺は最初のランナーとして走ることとなった。同学年で競い合うこの競技はかなりの盛り上がりを見せていた。
「やりましたね奏向!」
走り終わった俺にエリスが駆け寄ってくる。エリスは終盤に走ることになってる。男子顔負けの速さで抜擢されていた。
「うん。エリスも、頑張ってよ」
「任せてください!」
競技は進み、順位の差が広がらないまま各クラスが残り数人となっていた。しかし、エリスの走りでかなり他クラスに差を開いていった。
結果はエリスの走りの貯金によってうちのクラスはぶっちぎりの一等賞だった。
競技が終わると、プログラムを確認する。この後はしばらく参加する競技はなく、そして応援団のダンスを迎えるということになっていた。
利麻と合流すると、俺たちは給水所に向かうことにした。
「あっ、襟澄さん達!」
後ろを振り返ると野上さんと山上君がいた。二人してこっちに駆け寄ってくる。
あの告白の次の日、二人してわざわざお礼に来てくれた。まあ、俺のクラスで付き合い始めたとか言うものだから野次馬がいっぱい食いついてきて大変だったけど。
「この間はごめんね。あんなことになるなんて思わなくて」
そう言って両手をくっつけて謝ってくる野上さん。
「それと、改めてありがとう。いろいろ迷惑かけちゃったけど、おかげで海人とまた仲良くすることができたわ」
「ううん、私たちは大したことしてないし。それに、二人の気持ちが叶ってこっちも嬉しいし」
すると、山上君は俺の方に近寄ってくる。
「奏向、本当にありがとう。お前が背中を押してくれたおかげで、前に進めた」
そう言うと俺の前に手を差し伸ばしてくる。俺も手を出そうとすると。
「はいはいそこまでです。そんなことしたらまた彼女さんに嫌われちゃいますよ」
エリスが割って入ってきた。山上君に対してはまだあまり気を許してないみたいだ。
「ああ、すまない」
「別に、そんなことで嫉妬しないし」
そのまま挨拶を済ませてそれぞれ別れていく。どうやら山上君は次の騎馬戦に参加するらしい。
「海人!頑張りなさいよ!」
「わかってるよ!」
本当に仲のよさそうな会話を聞いて、ほっと安心をした。二人は本当に恋人のように見えた。
それからの時間はあっという間に過ぎていき、プログラムは応援団のダンスになる。
「頑張ってくださいね! 録画してますから」
「いや録画は恥ずかしいよ」
「奏向ちゃん頑張ってね」
二人に送り出されながら、応援団の方へと向かう。もちろんその中には山上君もいる。
「おう、さっきぶりだな。お互い頑張ろうぜ」
「うん、がんばろうね」
すると、ダンスのリーダの先輩が私の方に来た。
「奏向さん、その、山上君のこと聞いたわ。残念だったわね。でも、青春なんてこれからよ!」
どうやら、山上君が野上さんと付き合ったことを知ったらしく、俺が彼に振られたと思っているようだ。
「あ、ありがとうございます」
実際は違うのだが、でも俺はある意味振られたことには変わりないのかもしれない。そう思うと、なんだか泣けてくるような気もする。まあ、二人とも幸せみたいだしそれでいっか。
「みんな集まって、円陣組むぞ!」
団長の掛け声とともに応援団全員が円を組む。
「緑組、全員全力で行くぞ!」
『おー!!』
音楽が流れるとともに、フォーメンションのまま俺たちはグラウンドの方へと向かっていった。
~~~~~~~~~~
「あっ、始まったよ襟澄!」
利麻の声とともにスマホの録画機能をオンにする。画面の中で、大勢が踊り始める中で一人、奏向を捉える。
今回の騒動はかなり面倒だったと思う。喧嘩した二人の仲直り、そしてお互いの気持ちの告白。奏向は山上君と彼女のフリをし、私たちは野上さんと協力をした。
特に、特に奏向が彼女として山上君と一緒にイチャイチャしてたのは気に食わないけど、二人が仲良くカップルとなったのは本職の天使としては微笑ましい限りだ。
そして、あんな面倒事なのに二人の笑顔のために奮闘した奏向は、昔の奏と何一つ変わっていなかった。
「可愛いね奏向ちゃんたちのダンス! え、襟澄!?」
「はい?」
利麻の方を向くと、彼女は目の部分を指さした。空いてる片手を片目に近づけると、液体のようなものが付いていた。
「え? あれ、これって涙? なんで」
「大丈夫、襟澄」
不安そうに見てくる利麻に、何でもないと返す。でも、なんで涙なんて出たのだろうか。答えは画面の中にあった。
「そっか、また奏向と一緒に居られる時間が戻ってくるんですね」
思わず声が漏れてしまった、利麻にもその言葉は聞こえていたみたいだ。
「襟澄ってさ、ほんと奏向ちゃんのこと好きだよね」「そ、そんなですか?」
微笑みながら、利麻がいたずらっぽく言ってきた。
「なんかお母さんみたいだよね」
「お母さんって......姉妹ですから」
私たちは一応姉妹。認識だけの姉妹だけど、私は奏を助ける天使だけど。それでも、彼といる時間を、いられる時間を大切にしたい。
「そっか、襟澄はお姉ちゃんだもんね。でもさ、今回はいいんじゃない? わがまま言ったって」
わがまま、私にとって今一番したいこと。そんなことは決まってる。でも、奏向は付き合ってくれるだろうか。嫌じゃないだろうか。
「ひと段落ついたんだし、奏向ちゃんに甘えてもいいと思うけど」
利麻は私の心を見透かしていた。今回の件で、奏向との過ごす時間は大幅に減っていた。だからこそ、元に戻った今はもっとずっとそばにいたい。
「そうですね。考えておきます」
華々しい音楽とともに踊る生徒たち。奏向も精いっぱい踊るダンスを眺めている。
長かったような体育祭期間はこうして幕を閉じた。




