12. 体育祭と恋のエンジェル (5)
はい、まだ続きそうです。ですがもうクライマックスまじかだと思います(この作者適当だな)。なかなか投稿頻度が上がらず申し訳ないですが体育祭編にもう少しだけお付き合いください。
あの衝撃の事実を知ってから、多分十分くらい悶絶してたと思う。ようやく収まるとお互いに話をすり合わせることにした。
「つまり、山上君は私が好きで告白したわけじゃなくて、彼女のフリをしてもらいたかっただけってことで大丈夫?」
「あ、ああその通りだ。ちゃんと伝えられてなくて悪い」
というわけで、私の勝手な勘違いだった。山上君は静香先生に触発されて私にお願いをした。それを、私がうまく聞き取れていなかったこと、それにあの夢の件もあって思考が完全に告白って決めつけていたのも大きい。
彼曰く、体育祭までに気持ちに決着を付けたくてそれまで恋人のフリを頼んできたというのだ。
「いいよいいよ、私もきちんと確認できてなかったし」
だがしかし、なんか心に妙な哀しみが......元男で告白されて慌てた挙句勘違いって落ちならそうなるか。
それと、もう一つ気になることを聞いてみることにした。
「でも、エリス達の話を聞いたのに何で野上さんのこと無視してたの?」
エリスはきちんと野上さんの気持ちを伝えていた。でも、彼はそれを真に受けてはいなかった理由がわからない。
「なんとなく、いつもの冗談やからかいなんじゃないかってのは思ってた。でも、あの時、違う今もだ。まだ答えを見つけられていないんだ。だからあいつらの言葉も無視した。奏向には悪いがもう少し考えたかったんだ、一人でな」
そう言って俯く山上君。どうやら、彼は彼なりに野上さんとのことで悩んでいたらしい。初めての恋に、大好きな幼馴染に、一人で悩み考えていた。
その気持ちは、どこか俺自身もわかる気がした。でも、一人で悩むのがどれだけ辛いかも俺は知っている。
「そうだったんだ」
「ああ。だから本当にすまなかったな」
「うん。でもさ、一人で考えて答えは出るの?」
「えっ」
どれだけ悩んでも、どれだけ苦しんでも、一人で考えて答えがなかなかでないのは俺がよくわかってる。
「山上君さ、答えは出ても決められないんじゃない?」
「奏向、お前......」
山上君は俺の思ってもみなかった言葉に焦っているのかもしれない。それは、昔俺が家からなかなか出られなかったのと同じ気持ちだからだろうか。
「私、昔いろいろ悩んでた時期があってね、そんな時にある人に背中を押してもらったんだ。結構強引にさ」
唐突な俺の昔話にちょっと困惑する彼を尻目に、俺は話を続ける。
「私さ、ずっと一人で悩んでそれでも答えは出ないって思ってたんだ。でもさ、その人が来て違ったってわかったんだ。答えが出ないんじゃなくて、答えを出すのが怖かったんだって」
「......」
あの時の俺は外に出ることが怖くて、でもそんな自分を正当化したくていつまでも悩んでいた。でも、結局のところは答えなんて決まっていたのだ。
その答えは一番望んでたもので、一番に勇気のいるものでもある。俺はその一歩を踏み出すことが怖くて一人で閉じこもっていた。
山上君は俺とは違うかもしれない、けれど彼に自分を重ねてしまった。もし同じなら、一人で考えても答えはいつまででも出ない。誰かが背中を押してあげないといけない。
「もし、山上君もそうならさ、どうすればいいかもうわかってるんじゃない?」
「それは......」
俺は落ち着いて彼の答えを待つ。少しの間無言が続く。大きな風がさーっと俺たちを横切っていくと、彼が口を開いた。
「奏向の言う通りだ、俺は、怖がってる。あいつに、恵那に告白することが怖いんだ」
俺は何も言わずに山上君の話を聞く。彼はいつもの明るい話し方とは違い、どこか苦し気に続きを話した。
「俺は今まで恋なんてものを知らなくて、恵那とは腐れ縁みたいにいつも駄弁ったりバカやったりの関係でいたいと思ってた。でも、この気持ちに気が付いて恵那に告白したら、この関係が壊れるんじゃないかって思い始めた」
彼が語った弱音はとっても純粋なものだった。野上さんとの関係を崩したくないからこそ......。
「俺はその気持ちのまま、何も決められないでいる」
その先を決められないでいた。進めずにいた。たとえ恋人になったとして、今のような関係が続くかわからない。
もしかしたら、もっと深い関係になるのかもしれないし、逆に距離が遠くなってしまうかもしれない。
恋愛を知らない俺にとっては何も言えることではなかった。だけど、彼らがお互いに思いを寄せていると知りながら放ってはおけなかった。
せめて、二人の想いはお互いに届けたい。じゃなければこのまま二人の距離が遠のいてしまうと思った。
「だからこそ、話すべきなんじゃないかな?」
「奏向。だけど俺は」
「全部話すべきだと思う。好きなことも、関係が変わってしまうのが怖いことも、どう話せばいいかわからないことも」
この時、久しぶりに恐怖という感情を感じた。調子に乗りすぎたという自覚はあった。
悩んでる山上君に何度もズケズケと辛いことを苦しいことを言って、彼が取り乱さない訳がない。
だから彼の、ぐちゃぐちゃの感情によって出た怒号に俺はビビってしまった。
「奏向に! 俺の気持ちはわかんねえよ!」
この時ばかしは女の自分が、ずるいなと思ってしまった。
「え、あれ」
「ん! わ、悪い」
気づけば目の端から水玉がぽろぽろと頬を伝っていた。それは前にナンパにあって泣いてしまった時と似ていた。
泣くつもりはなかったのに、彼の迫力に思わず体が震え涙が流れ始めてしまった。男として情けなく、女として泣いてしまった。その涙は止めどなく流れてしまう。
「ほんとごめんな。つい大声出して」
「ううん、だ、大丈夫だから。ちょっと驚いただけだから」
今の状況は誰が見ても山上君が俺を泣かしたという構図になってしまってる。俺が彼を煽ってしまっただけなのに、彼に非はないのに。
それでも、俺は彼に伝えないといけない。前に進めと背中を押さないといけない。この光景は、いつぞやの出来事とまるで重なっていることに俺は気づかなかった。
「でもね、私は山上君と野上さんがこのまま仲が悪くなっていくのが嫌だから、だから私二人にはちゃんと話し合って欲しいの」
「奏向」
しばらく止まらなかった涙は、ようやく収まり始めた。まだ涙目だけど、俺は彼に思いをぶつける。
「すぐにとは言わないよ。ゆっくりでもいいし、それまで私は相談に乗る。でも、きちんと向き合って欲しい。逃げ続けるのは、辛いから」
その後、ほどなくして帰ることになった。お互いにたどたどしく挨拶をかわして帰宅した。
帰路の途中でさっきのことを思い出すと、何であんな言い方をしたのか何であんなことを言ったのか、後悔ばかりが溢れ出した。
ついつい自分も勢い付いて余計なことを言ってしまったかもしれない。これから彼とどう接すればいいのか、野上さんにはどう説明すれば良いのか頭を悩ませながら俺は家に帰宅した。
エリスに事の全容を説明してこれからのことを相談しようとしていた中、俺のスマホに一通のメールが届いていた。
差出人は山上君だった。
「頼みがある。あいつと、恵那と話をする機会を作って欲しい」




