第五十七話「ほのぼのゲー路線を目指そう! part3」
「まずはこの契約書にサインするんだなも」
「サインはしない。そのタヌキのコスプレをやめろ。さっさとMODの説明をしろ。以上」
「……」
マッシュヘアーの男……PVPマンが舌打ちをしながらタヌキの被り物を外す。
「こっちだ、着いてこい」
今から始まるのは、協力的NPC追加MODのお披露目会だ。
先ほど別のワールドで【厳正なる抽選MOD】(多分不正)によって選ばれた代表者である俺、そしてLiveのカメラ視点役のくろりん。最後に製作者のPVPマン。
今このワールドにいるプレイヤーはこの3人だけだ。
「俺はデバッグ用のアイテムもしっかり作ってる。ざっくり言えばどの辺にMODの生成物ができるかチェックできるツールだな」
3人で森の中を進んでいく。
「何だぁ? 俺が雑に作ったMODをテストプレイ代わりに皆にやらせてるって言いてぇのか?」
PVPマンの後頭部を斧でさわさわしながら平和的な対話を試みる。
無論、攻撃はできない。
できないが、後頭部に刃物を向けられている事実だけで十分な時もある。
「はい。普通、排出率とか事前に確かめるよね」
声に全く動揺がない。
やるな。なかなか肝が据わってやがるぜ。
それじゃ言の刃で戦り合おうか。
「でもさぁ! そこは俺じゃなくて森マンのガバのせいですけどぉ〜〜?」
「監督よ。だいぶ下ネタをかすめておる。チャンネルBANはされたくないのでの……気をつけるのじゃ」
なんなんだよ。
だいぶ倉本のネーミングのせいだろ。
てかよく考えたらユアルやらされてんのも倉本のせいなんだよな。
っぱ自分許せねッスわアイツ。
「よーし、民家が見えてきたぞ」
確かに何か建物らしき影が見えてきた。
「……」
いや民家か? これ。
見るからにコンテナなんだけど。
「ひょっとして中の住人って目を逸らしたら首の骨折ってきたりする?」
「首の骨を折るってのはね。加害行為なんだよ? 協力的NPC追加MODって言ったよね?」
そうすか。
近づくにつれて、あのコンテナに一応窓と扉があるのが見えてきた。
まぁ、家とは認めてやるか。
「この扉を開けりゃいいのか?」
「バッドマナーだな。まずはノックだ」
コンコン。
俺はトイレノックをし、コンテナ内に速やかに侵入した。
内部は簡素ながらベッドにソファ、机、テレビらしき機械にタンス、クローゼット等が揃っていた。
俺はタンスの中身を漁りながらPVPマンにたずねた。
「あのソファに座ってる顔面がパンパンに腫れた人間がNPCか?」
「……」
「こんにちは! 私の家へようこそ!」
なんか喋ってんな。
俺は僅かながら入っていたクラフト素材を懐にしまいながらNPCの衣服のポケットを物色した。
「何も持ってねぇわコイツ。文無しが一丁前に家建ててんじゃねぇぞ」
「あのすいません。加害性をねっとりと見せつけ続けるの、その辺にしてもらっても良いですか」
何? 何すか?
俺はPVPマンのポケットを物色しながらそのマッシュヘアーの奥を睨みつけた。
「じゃあ何すか。ゲーム上ですら犯罪行為したことないって言うんすか。無免許運転に窃盗。はたまた殺人。まったくのゼロって言うんすか」
「ゼロじゃないけど、その時は一応ヒャッハーモードに入ってる感じがあるというか。クソ監督のそれは日常と地続きみたいなテンションで怖いというか」
「笑顔の絶えない家庭で一身に愛を注がれて育ったんですけど? 何不自由ない暮らしを送って、友人にも恵まれてるんですけど?」
「よく真顔で言えるなコイツ……ポケット漁りながら……」
デバッグツール盗んで悪さしたくなっちゃってさ。
何不自由なく育ったから全てを思い通りにしないと気が済まないんだ。
「えーと、とりあえずNPCの説明をするぞ。こいつらはこの星の先住民族の1つ……ヒューアニマンだ」
素直に獣人って言えよだりーな。
「てかアニマル要素どこだよ」
顔パンパンなだけのおっさんじゃねぇか。
「これはハズレだな。もう一種、兎耳付きの可愛い兎人間とかもいる」
あんまハズレとか言ってやるなよ目の前で。
「この星での暮らしはつらいぜ!」
ほらつらいって言ってるよ顔パンおじも。
「そんな感じで周囲にプレイヤーがいるとランダムで定型文を喋る。好感度システムとか、対話とか作ろうとしたんだけど間に合わなくてな……まぁ突貫工事なんでそこは追い追い作り込んでく予定だ」
意外とちゃんとしてるな。
私の家へようこそ、のとこだけ条件付けされてる感じなのかな。
「こんにちは! 私の家へようこそ!」
そうでもねぇな。
「てか獣人じゃねぇだろこれ。何人間だよ」
「これは人間人間だな」
あんま舐めたこと言ってんじゃねーぞ。
改めて顔パンおじを見る。
確かに人間の顔のパーツが極端に誇張されたような見た目をしている。
人間及びその身体構造を心の底から馬鹿にしていないと出てこない造形だ。
冒涜性をねっとりと見せ続けるの、やめてくれませんか?
「この星での暮らしはつらいぜ!」
だろうな。
俺は初めてNPCに憐憫の情を抱いた。
こんなん作っといて俺に道徳を語ってたのかよ。
【ほのぼの系MOD品評スレ】
65:監督
品評対象:協力的NPC追加MOD
別に協力的でもねぇしずっとつらいつらい言ってる
略奪推奨MODに改名しろ
66:名無しの開拓者
これ目から鱗すぎる
確かに
>別に協力的でもねぇ
67:名無しの開拓者
突っ立ってただけだもんな人間人間
68:PVPマン
痛いとこ突くなー
あと略奪の責任を製作者になすりつけるのやめてね
69:くろりん
とはいえ失格になるほどではあるまい
安心するのじゃ
70:炭鉱マン
基準が低すぎる
71:デスゲームマン
ようやく候補が一作ノミネート、ですか……
少しは競い甲斐が出てきましたね
72:名無しの開拓者
そういや人間人間のボイスって誰担当?
73:PVPマン
普通に合成音声
アバターも一応自作
74:名無しの開拓者
えらいなぁ
75:炭鉱マン
これがあるべき姿なんだよな多分
76:監督
まぁ俺のモンスターMODも合成音声と呼べなくもないけど
77:炭鉱マン
すいません人権のことをご存知ない方は議論に入らないでもらっていいですか?
78:名無しの開拓者
と、本名晒しが申しております
78:炭鉱マン
ムキーーー!
79:デスゲームマン
あのムキーーー!じゃないんですが
80:名無しの開拓者
素直で草
81:監督
フリ素野郎は置いといて、兎人間? ってのも一応見たいんだけど
それの見た目次第では評価を改めてやらんでもない
82:くろりん
ああそれ普通に兎耳つけたわしじゃ
83:炭鉱マン
PVPマンくんさぁ
84:PVPマン
別に許可取ったしいいだろ
85:炭鉱マン
はーあ
まぁいいっすわ
とりあえずパンツ覗いてくる
86:くろりん
!!?!!?!?
87:名無しの開拓者
老人セクハラ界隈きた!!!!!!!!!!!
88:名無しの開拓者
こないで
89:監督
お前……くろりんに散々ツール買ってもらってるくせに……
90:PVPマン
出現率激渋な上に扉開かなくて窓から見るしかないから大丈夫
91:くろりん
お、おお
そうじゃったよな
良かった
92:名無しの開拓者
外から眺められるだけで全然ほのぼの指数高めでは?
評価改めか? これ
93:デスゲームマン
まぁ実際アバターの完成度は素晴らしいですからね
94:炭鉱マン
ユアルの壁が……信用できるって?
えぇ、オイ
大手VRMMOでもパンチラバグが実在っただろう……?
人の夢は……
終わらねェ!!!!!!!!!
95:名無しの開拓者
人ってお世話になってるお爺さんにここまで劣情を向けられるものなんだ
96:監督
きめぇなぁ
こういう奴にも人権があるのってやっぱ納得しづらいなぁ
91:PVPマン
万が一のために近付きすぎると最初の謎のお絵描きゾーンにぶっ飛ばす仕様にしてるんで無理っすよマジで
92:くろりん
ああ、そうじゃったよな
93:水マン
えらいなぁ
94:名無しの開拓者
あのお絵描きってシード値設定的なとこだよな?
生成後にぶっ飛ばすと変な事にならね?
95:PVPマン
まぁなるんじゃね
96:監督
おーい、炭鉱マン
変な事になるらしいぞ
97:PVPマン
反応なくね?
98:名無しの開拓者
変な事になっちゃってるかも
99:監督
まぁ元から変な事にはなっちゃってる人だし
フリ素化とか
100:名無しの開拓者
おーい炭鉱マン
とんでもない悪口言われてんぞー
あとしれっとフリ素化を正当化されてるぞー
101:デスゲームマン
まぁまぁ
あのバカは置いといて次のお披露目会といきましょうよ
102:くろりん
そうじゃな
楽しみじゃのう