第五十八話「ほのぼのゲー路線を目指そう! part4(終)」
教室にて。
隣の座席の学ランを着た炭鉱マンが話しかけてきた。
「そんでさ、まぁ頑張って自分をポリゴンの隙間に固定してぶっ飛ばされないようにしたわけよ」
なかなか厳しい見た目だなぁ。
「とりあえずその無精髭、校則違反だからな」
「あん? 産毛みてぇなもんだろ。でさぁ、兎人間のとこって近づきすぎると最初のお絵描き空間にぶっ飛ばされちゃうじゃん? 頑張って固定した眼球とその他の身体の部位の間にワールドが挟まる感じでさ、引き伸ばされちゃってさ。マジ視神経がラグいのよ。わかる?」
欠点のある容姿を指摘されてるってのにめっちゃ喋るやん。
視神経がラグいってなんだよ。
この仮初の肉体に神経なんか通ってねぇ。お前のVR機器が悲鳴あげてるだけだ。
「山っち……ミスった。クソ監督さー」
アホの倉本、もといハッピー黄金野郎の森マンが話しかけてくる。
ここだけいつも通りだから脳がバグりそうだ。
「次は五感の内どれを責める予定なの?」
何? 急に。
視覚に決まってるだろ。
視神経は通ってないんだ。普通なら失明するような光でもここじゃ大丈夫なんだぜ。
とはいえ今それをここで言えば全員が俺の敵に回ってしまう。
だから俺は一旦黙して攻撃の機を伺うのさ。ケケケ。
「ろくでもねぇ表情してんな。今の内に始末しとくか?」
「始末されるのはどっちだろうな? かかってこいよ。一緒に生徒指導室行きになろうぜ」
殴り合い対決が終わったら反省文速書き対決だ。
俺、負けねぇから。
「——そこまでだお前達。授業を始めるぞ」
ガラガラと扉が開き、眼球がデカすぎてトンボみたいな顔になっている奴が入室してくる。
デスゲームマンだ。
「授業だ〜?」
「おい、教師に向かって何だその口の利き方は」
俺は舌打ちをした後机に乗せていた脚を下ろした。
一応はコイツの“平穏MOD”とやらのお披露目中だ。
従ってやるさ。少しの間な。
「おいクソ監督。こいつ何やるつもりだと思う?」
「こいつデスゲーム好きじゃん? 多分デスゲームものにありがちな日常回帰パートがやりたいんじゃないか?」
「あー、なるほどなぁ。お前よくわかるね」
相手のことをよく知ること。
これがレスバの第一歩だ。
当然俺はデスゲームマンについて深い理解を得ている。本名とか。
「というわけで今回はこのVRツールを実際に使ってどうやってゲームが作られているのか、学んでいくぞ」
いつの間にかそこそこ聞く価値がありそうな講義が始まっていた。
しゃーねぇな。
教室を見渡す。生徒役としてここにいるのはだいたい10人前後ってとこか。
各お披露目会でちょっとずつ脱落者が出たからな。
そんなもんだろう。
「まず教科書の第1章、圧迫感についてを開いてくれ」
初手圧迫感の教科書があるわけねぇだろ。
とりあえず誰も使っていない椅子があったのでデスゲームマンに向かって抗議の意を込めて投げる。
叫び声をあげながら投擲された椅子は軽く避けられ、黒板に叩きつけられる形となった。
デスゲームマンが涼しい顔で続ける。
「圧迫感について規制は一応存在しているが、これは感覚全般にかけられたセーフティによるものであり、個別設定ではない。これは前提知識だ。そして感覚全般にかけられたセーフティ……これは非常に閾値が緩い。つまり個別設定されていない感覚を組み合わせて閾値ギリギリを攻めることで市販のゲームではありえない苦痛を生み出すことが可能なんだ。この苦痛の配合表については巻末にイラスト付きで載っているぞ」
だから教科書ねぇつってんだろ。
配合表を見せろつってんの。
授業の体を取ってる癖に学ぶ権利を剥奪するなっつー話なの。
俺が抗議の意を込めて炭鉱マンの椅子を奪い教壇へ投げ込もうとしていると、デスゲームマンが机をバン、と叩いた。
「ふう。少し、気が抜けすぎているようだな皆。何か大変なこと——非日常的な出来事にでもあったのかな? 例えばそう……デスゲームに参加した、とかな」
お、なんかイベント始まったな。
「すいません椅子泥棒がいますこの教室」
「何故分かるかって? 決まっているだろう……この私が黒幕だからだ! 暴力を封じられた程度でぇ! 死の恐怖は揺らがないッ! 始めるぞ……新たなデスゲームをなァ!」
デスゲームマンが炭鉱マンの悲痛な声を無視しつつ、何やらボタンのような物を取り出した。
何? 押しても良いからはやく配合表見せろよ。
「そんなことじゃろうと思っておった。デスゲームマンよ。前までなら、全てをスルーしておった。皆の自主性を、損ねたくなかったからのぅ。いいか、このワールドをMODを導入した上で解放しているのはワシじゃ。その点において、絶対的な権限が発生してしまっておる。こういった干渉は本来わしの望むところではない」
立ち上がったのは、校則違反のオンパレードのような制服を着たくろりんだ。
「ほう。では、今回はどうするおつもりで? どのような干渉を?」
「お披露目会の正常化のため、その凶行を止めさせてもらう。いや、既に止めたと言うべきか……」
2人が話している間に教壇へ忍び足で近づく。
「そのスイッチは押すべきではないぞ」
「いいや、限界だ! 押すねッ!」
デスゲームマンの手からボタンを奪い連打する。
さぁ、どこに出るんだ!? 俺の教科書はよぉ!
「あ、ちょ、オイ!」
「ふむ。因果応報と呼ぶべきか。何やら怪しげな設定の数々……全て対象をお主にしておいた」
「へぇ、なるほど。それはそれは……全部? 全部って言いましたか今」
ボタンを連打しながら教室を見渡してみるが教科書は出現しない。
おかしいなぁ。
「どれがどれだか調べるのはちょっと、のぅ。ネタバレは嫌じゃし」
「いやネタバレとかじゃなくて、まずい、おい連打をやめろ……! おいマジ、マジのやつ、ぅううううぐあああああああああああッッッッッ!!!!!!!」
教壇のデスゲームマンが悲鳴をあげる。
うるせぇな。授業中だぞ。
「まずい、この、ままでは……」
このままでは? 何?
教科書を見せちゃう?
「教、科書……に」
教科書……に? をじゃなくて?
「教科書になっちゃううううううああああああああああああああッッッッッガガガがガガガ!!!!!!!」
うおっグロ……
デスゲームマンの身体が折り畳まれ一冊の本になっていく。
皮膚が泡立ち文字を形成していく。
このお披露目会の終了を悟ったのかくろりんがログアウトし、他の皆もそれに続いて消えていく。
なるほどなぁ。
俺は少しだけ居残り、皆と同じようにログアウトした。
【ほのぼの系MOD品評スレ】
120:監督
品評対象:平穏MOD
興味深い配合表を知れた! 星5
121:名無しの開拓者
ガチで終わった——
122:炭鉱マン
最悪マジで
123:PVPマン
行ってないから知らんけど配合表って何?
バベルボブルとか?
124:名無しの開拓者
4体配合の中でも1番調べなくても分かりそうなやつで例えるなよ
125:名無しの開拓者
普通にAFじゃね
126:監督
何? 俺の知らん話するのやめてね
不快だから
127:名無しの開拓者
こいつ言いたい放題やな
128:PVPマン
そんなこと言いながら裏で普通に調べてくるからなコイツ
レスバで勝つためだけに
129:デスゲームマン
いやぁ教科書になってめくられるの最悪でした
130:名無しの開拓者
やっぱバグではあのレベルのアバターには辿り着けないからなー
デフォアバのデータ直弄りしかないけど……ちょっと芸術点に欠けるよネ
131:監督
そういやここ変態の集まりだった……
132:くろりん
デスゲームマン、言わんでも分かると思うがの
133:デスゲームマン
あ、そっすよね
失格すか
134:くろりん
失格というかまぁ
失格でもあるし、天罰も待っておるぞ
134:デスゲームマン
えっ
135:炭鉱マン
まぁ唯一故意にやってるからな
136:名無しの開拓者
ほんまか? 他は故意じゃない判定ほんまなんか?
137:森マン
一応排出率ミスは俺のせいだし
138:名無しの開拓者
ハズレ枠とはいえ悪意がこもりすぎてなかったか?
139:監督
別に悪意ぐらいいいだろ
140:PVPマン
いいわけねぇだろ
141:名無しの開拓者
いいわけなさすぎて草
142:くろりん
とまぁ、ここまでじゃな!
届いたMOD全てのチェックが終わったぞ
143:監督
え? 炭鉱マンのMODないの?
144:くろりん
いや、あったぞ?
145:名無しの開拓者
どれだ……?
146:PVPマン
花に椅子に俺のMODに……無くね?
147:炭鉱マン
いや普通に野人に餌やって仲良くなったら仮面脱いでくれる仕様を追加しただけ
野人の巣MODのパッチノート更新されてるだろ?
148:監督
は? しょぼ
149:森マン
あーなんか緑色の人から聞いたなぁそれ
150:PVPマン
それ有りなん?
151:くろりん
まぁ既存のMODをほのぼのした方向で再調整というのも悪くはないのでの
しかしPVPMODを入れずとも動くとはいえ違和感のある仕様じゃったので、一旦お披露目会は見送りという形になったのじゃ
またこれを基準として、既存のMODを再調整する形で提出してきたものに関しては一律でお披露目会を行っておらぬ
お披露目会は新規で作った者の特権というわけじゃ
さて皆のもの、ノミネート作一覧を用意したので、今から30分以内に投票を頼むぞ!
152:名無しの開拓者
グローバル MODもなんか再調整されてるじゃん
153:監督
フォントを柔らかくしたらしい
154:名無しの開拓者
そっか……好きにしたらいいと思う
155:PVPマン
俺って俺のMODに投票していいの?
156:くろりん
よいぞ
157:PVPマン
よーし
ま、自票が無くても優勝な気がするけどな
【ほのぼの系MOD 優勝者発表スレ】
1:くろりん
時間になったので、新規でスレを立てさせてもらったぞ
2:PVPマン
おつかれっす
3:名無しの開拓者
結構再調整してるやつあったなー
水MODの明度調整とか普通に良かったし
4:水マン
あざす
5:監督
ししおどしは?
6:水マン
適当に作ったら世界を破壊しそうになったんでやめた
7:監督
しても良いんじゃないかな
8:名無しの開拓者
ううん
クソ監督、世界の美しい面をもっと見よう
9:監督
美しいものが壊れると、ざまぁみろって思うし
醜いものが壊れた時も、ざまぁみろって思う
10:PVPマン
こいつ本当にまともな家庭で育ったの?
路地裏でゴミ食いながら勝手に育ったとかじゃなくて?
11:名無しの開拓者
調理器具とか食ってそう
12:監督
食ってねぇよ
まぁ食わされた雑魚は数名いるようですが
13:名無しの開拓者
あんま老人に雑魚とか言っちゃダメだよ
14:炭鉱マン
見ようによっちゃメスガキに見えてきたな……
15:くろりん
集計が終わったぞ!
では優勝者の発表じゃ!
16:名無しの開拓者
おっ
17:PVPマン
わくわく
18:監督
どきどき
19:炭鉱マン
お前は失格だろ
19:監督
ふぁくふぁく
まざふぁく
20:炭鉱マン
は? やるかてめぇ
21:くろりん
優勝は!!!!!!!
将棋マンの「将棋MOD」!!!!!!!!!!
22:将棋マン
え
23:名無しの開拓者
ウオオオオオオオ!!!!!!
24:PVPマン
いやーマジか
確かにパッチノート見る感じ強そうだったけど負けるかー
25:名無しの開拓者
将棋マン最強!将棋マン最強!将棋マン最強!
26:デスゲームマン
ま、今回は素直に讃えましょう
27:監督
ちったぁやるみてぇじゃん?
次は負けねぇぜ
28:炭鉱マン
失格者どもがほざいてんじゃねぇよ
将棋マンさんおめでとう
俺あんま読んでなかったんだけどどんな変更だったん?
29:名無しの開拓者
俺もあんま読まずにとりあえずPVPマンのやつに票入れてたわ
30:くろりん
再調整の内容は、将棋マンの応援付きモードの追加じゃの!
31:炭鉱マン
へー、確かに聞くだけでほのぼのすんね
32:名無しの開拓者
うお今慌てて聞いてきたけどエッッッッロ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
これ、“使います”ね
音MADに
33:炭鉱マン
おいお前俺の悲鳴で音MAD作って動画あげてたやつだろ
マジで殺してやるからワールド来いや
34:名無しの開拓者
批評対象:将棋マンさんのちょい照れ混じりの応援ASMR
成人男性の色気を見せてくれて、きもちくしてくれてありがとう 星5
35:PVPマン
自分の応援でほのぼのしてもらえると思ってるとこあざといな
36:将棋マン
あのすみません、猛烈に恥ずかしくなってきたのですがノミネート自体取り下げることって可能ですか
37:監督
勉強中とかこれ聞きながらやりたいし取り下げないで欲しい
38:名無しの開拓者
大人な見た目に反して結構少年っぽい声やねんな将棋マンさん
すけべやね
39:将棋マン
うわあああ待ってどうしよう
本当に恥ずかしいんですが
なんか勢いで作っちゃって
ごめんなさいごめんなさい
40:くろりん
まぁまぁ
良いではないか、こういう方向の黒歴史なら優しい方じゃ
人徳によるところも大きいじゃろうしなぁ
41:水マン
まぁ唯一の良心だし
42:名無しの開拓者
ふむ
将棋に用いられるのはたいてい座布団である点が気に入りませんが……まぁ、良いでしょう
今度私に座りながら応援をしていただけませんか?
43:将棋マン
嫌ですよ、何ですかそのお願い
44:炭鉱マン
まともすぎる————(落涙)
45:名無しの開拓者
本当のほのぼのは、ここにあったんやなって
46:監督
それに比べてデスゲームマンはカスすぎる————(落雷)
47:デスゲームマン
うわそうだった
それあるんでした
最悪です本当に
将棋マンさん応援してくれませんか?
48:将棋マン
罰に応援も何も無いと思いますよ
49:名無しの開拓者
くぅ〜沁みる〜
やっぱ時代は正気の人やねんな……




