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第四十九話「ツールを買いに行こう!」

「なぜ俺はあんな無駄な時間を……」


 ユアルによる徹夜明け。ズキズキとした頭を抱え、何とか授業を乗りこなした放課後。

 後は即刻帰宅して寝るだけだ。そう決意しそそくさと荷物をまとめた所で、倉本が話しかけてきた。


「山っち〜、買い物行くんだけど付き合ってくんない?」


「付き合わない」


 俺はリュックを背負い、教室を出た。


「前に食事MODの件でさー、俺にツール借りたよね?」


 俺は、なおも廊下でまとわりついてくる倉本の肩をガッシリと掴んだ。


「ああ。あの件は本ッッッッ当に感謝してる……ってスパイスマンが言ってたぞ」


「お礼の言葉だけで済まそうとしてる感じ?」


 そりゃ平時だったら付き合ってやっていたが、今日ばかりはキツい。

 1人で行ってくれ。


「うーん、せっかく掲示板の人と一緒に行くし山っちも誘いたかったけど」


 聞き捨てならんな。

 ……聞き捨てならんかなぁ?

 俺の睡眠の方が大事じゃない?

 聞き捨てよう。


「じゃあまた明日な!」


「えぇー……わかった」


 俺はそのままこの場を去るつもりだったが、僅かな好奇心が湧き、1つ質問をしてしまった。


「誰と会うんだ?」


「えーとね、硫黄マン」


 なるほど大学の機器でVRテロしてたやつね。

 聞き捨てならんわ流石に。



 数十分後。俺達は待ち合わせ場所らしいVR機器の専門店前に来ていた。


「外部ツール買うん?」


「それもあるけど、他にも買いたい物あってさー」


 テロリストを待ちながら倉本と雑談を交わす。

 すると数分もしない内に金髪メッシュの男が現れ、こちらに近づいてきた。


「うーっす。森マンとクソ監督で合ってる?」


「も、森マン……? 下ネタですか? それに……監督? 何? AV……?」


 頭がおかしいんじゃないですか…

 動物たちが住む森や自然を守りたい…


「おうお前の面は割れてんだよ。クソ監督」


「そういうとこズルいよな」


 一方的に面を知られてるの不公平すぎるだろ。

 やっぱデフォアバ改造は法で取り締まるべきじゃないか?


「揃ったし早く店入ろうよ」


「そうだな、ついてこいよVRテロリスト」


「クソガキどもが……」


 VR機器の専門店内に入る。

 ポップなBGMで満たされた店内には、見知ったVRダイブマシンや、はたまた見たことのない形状のマシンまでが並んでいる。


「一階はだいたいEスポーツコーナーって感じだな」


「おっ、操作感度上昇の補助器具あるじゃん。レスバに良いんじゃね?」


「レスバはマシンじゃなくて“己の心”で()るんだ。補助なんて要らないね」


 そんなじゃれ合いを挟みつつ、倉本に先導される形でエスカレーターに乗って二階へ。


「結局何を買いに来てんだっけ」


「森マン。クソ監督には何も話してない感じ?」


「うん」


 何だよ。言えよ。

 場合によっては呼ばなきゃならないだろ。お巡りさんを。


「いやー」


 二階が見えてくる。

 VRデザインコーナーと書かれたポップが見えた。

 ふむ。クリエイター向けの区画っぽいな。


「味覚ってさ。規制緩いじゃん?」


 到着するなり倉本が不穏な一言を放った。

 お前なぁ。


「いいか。世の中には皆分かってるけどあえてやらない事ってのがいっぱいあるんだよ。皆が馬鹿だから気付いてないだなんて思ってるなら大間違いだぞ」


 そう口を尖らせていると、背後の硫黄マンがゆっくりと肩に腕を回してきた。


「俺バカだからわかんねぇけどよォ~、緩い内に色々やらかせるのがこの手の技術黎明期の良さなんじゃねぇかァ~?」


 未来の資産を食い潰すゴミどもが。


「ここで消すべきか……?」


 咄嗟にブロック間の隙間、虚無へと落とそうとして気付く。

 ここはユアルではない……!


「無いよ! 虚無無いよぉ!」


 重複表現やめろ。

 それでも諦めきれず現実世界のズレを探していると、硫黄マンが怯えた様子で背後のエスカレーターを気にし始めた。


「突き落とそうとしてます?」


 流石にそこまでやらねぇよ。俺を何だと思ってんだ。

 

「あー、あった!」


 俺たちが睨み合いをしている隙に倉本は目当ての物を見つけたらしい。

 2人でのそのそと倉本に近寄る。


 ふむ、これは……?


「激辛料理の名店アセット……はぁ…………なるほど。ろくでもなさそうだな……」


「催涙ガスの親戚って呼ばれてる店のラーメンのデータが入ってるんだよね」


「四親等くらいは離れてて欲しいとこだな」


 出来れば他人であって欲しいけどな。

 俺は一縷の希望を込めた目を硫黄マンに向けた。

 この金粉馬鹿を止めてやってくれないか?

 

「どこの論文だったかパッと出せないけど、VR上でなら本来苦手な食べ物を食べることができる傾向にあるってデータが出ててな。辛い物が苦手であってもVRでならその手の辛麺が食えるって人は結構いるんだよ」


 今いらないよそんな知識。

 この場に俺がいて良かった。2人だけなら止まらなかったが、俺なら止められる。


「パッケージの裏見ろよ、物によっては強制で警告画面が出るって書いてないか? 何をしたいのか知らんがな、それを見た上で食うヤツがいると思うか?」


「いると思う」


 ああ、俺もそう思うぜ。

 なんなら俺も真顔で口にしそうだもんな。

 まいったな。想定されるプレイヤーの知能が低すぎる。


「何をするつもりなんだよ」


「強化野人を作ろうと思ってさ。そいつに火を吐かせたいんだよね。でも高温つっても生温いのしかできなくてさ〜」


 良いんだよ生温くて。ゲームなんてぬるま湯で良いんだ。

 というか、そこからどうやって辛味に繋げるんだ?

 ディープキス攻撃でもしてくんのか?


 俺が困惑していると、見かねた硫黄マンが解説を引き継いでくれた。


「味覚の判定位置ってズラせるんだよ。てか拡張もいける」


「……お前ら、嘘だよな?」


「とりま近日中に下地用のMOD作って、そっから強化個体を作る」


 ちくしょう。掲示板の皆、俺を許してくれ。

 リアクションが面白そうすぎてMOD実装まで口をつぐむであろう俺を。





 【MODの動作に関する報告及び質問総合スレ】




103:名無しの開拓者


 オエーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!



104:名無しの開拓者


 キモすぎキモすぎキモすぎ


105:味覚強化マン


 いかがでしたか?


106:炭鉱マン


 あのワールドの土ってちゃんと土の味設定されてt


107:PVPマン


 た、炭鉱マンくん……?


108:炭鉱マン


 ごめん洗面台まで吐きに行ってた

>>105 死ね


109:監督


 やっぱ舌以外で味覚を感じ取ると脳が拒絶反応起こすんやな


110:名無しの開拓者


 砂漠バイオームの味ガチでキモいからオススメ


111:PVPマン


 オススメの意味分かってる???????

 てか普通にリスポーンした時点で具合悪くなってゲーム落としたんだけど何で探索やれてんの???


112:名無しの開拓者


 インフルで高熱出した時に感じる口内の違和感を全身で体感できる新感覚アトラクション


113:味覚強化マン


 本当はもうちょい局所的にしたかったんですけどね

 なんか……全身になっちゃった……


114:炭鉱マン


 お前ワールド来いや

 拳の味を教えてやるよ


115:味覚強化マン


 ちなクソ監督も共犯ね


116:監督


 いや別に俺は買い物手伝っただけだし……


117:炭鉱マン


 ふーん

 じゃあ、君はこれができるの知ってた上で何も言わなかったんだ?

 このMODが貼られた時の「お、新規あちぃ~、早速試すべ」のメッセも嘘だったんだ

 はなから俺らの反応を見て嘲笑うつもりだったんだ?

 俺らが不意打ちで全身味覚人間にさせられて現実でゲロゲロ吐けば良いって思ってたんだ????



118:名無しの開拓者


 炭鉱マンヒス構文


119:名無しの開拓者


 そもそもがいつもヒスってないか?


120:PVPマン


 環境が悪いよ環境が


121:監督


 思ってたんだ? とか言われてもな

 思ってたから黙ってたに決まってるし


122:名無しの開拓者


 うーん、カス!w


123:炭鉱マン


 上等だてめぇコラ

 全身味覚ファイトすっぞ

 敗北の味で腹パンパンにしたるわボケ


124:監督


 なるほど

 いいよ


 俺のワールドに来る感じでいいか


125:PVPマン


 おいこいつなんか隠し玉あんな


126:水マン


 買い物付き合ったとか言ってるからその時に絶対ろくでもない仕込みしてるよ

 やめときなよ


127:炭鉱マン


 ハァ……ハァ……

 それでも俺はこいつに一杯食わせてぇ……!


128:名無しの開拓者


 その一杯の前に味覚兵器ドカ食いさせられない?


129:監督


 安心しろってフェアな勝負にするから

 ほなワールドで^^^^^^^


130:PVPマン


 笑顔きも

 

131:名無しの開拓者


 それ草代わりに使うヤツほんと無理

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― 新着の感想 ―
[一言] なんかストッパー役面してるけど割と元凶に近い山マン
[一言] ろくでもないMODの実験場になってて草。
[良い点] 虚無無いよぉ!で笑っちゃった
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