ヨドさんをお迎えしたと思ったら、早速0点答案の隠し場所から始まるんですの……?
浅利淀 ヨド
主人公で地球出身の能力者の町アビリスターの新しい最強能力者ステップ9の一人。
ミンネ・フランル
ヨドが入居するイカレタヤカタのメイド。
ロル・フランル
ステップ9の一人で能力名はステップ9
セントカクラ アギ
魔法界の有力者セントカクラ家のクズニートお嬢様。イカレタヤカタは相続権を失ったための避難所
ゲンヨウ コウレ
執事でアギの保護者
私の名前はミンネ・フランル。このイカレタヤカタのメイドです。今夜の夕飯は、ステップ9でありこの館の新入りでもあるヨドさんと、執事のコウレ君と共に、ヨドさんの母星・地球の日本という国の料理を作っています。ヨドさんからは「6人しかいないなら私一人で充分」と言われましたが流石にそれは私とコウレ君のプライドがそれを許しませんでした。
「正直、アビリスターの食材が地球の料理に合うか不安ですけど……さすがセントカクラ家ですね。調味料も豊富ですし、これなら本場とほぼ変わらない味になりそうです。」
「アギに天災的な料理を作らせず自分が料理したいと名乗り出てくれたヨドさんには私達の救いの女神です。」
「淀さん。自己紹介が遅れてすみません。私の名前はミンネ・フランル。このセントカクラ家で働くメイドです。」
「よろしくお願いします。ミンネさん」
彼女も母星ではメイドをしていたそうです。正直ステップ9なんて基本は私の弟以外はアレな人ばっかですがこの方はまともそうです。何より私が男なら間違えなく一目惚れするレベルの美人。絶対メイド服もコウレ君に負けず劣らず似合うんでしょうね?……って、私何か変なこと言いました?(笑)
ヨドさんの調理は驚くほどスムーズで、所作にも洗練された美しさがあります。日本という国の食文化に知識まったくないですが、プロとしても通用するレベルなのはわかります。5品目すべてがとても美味しそうで、少なくともお嬢様よりは遥かにまし……いえ、コウレ君以上かもしれません。
「お口に合うかわからないですが味見よろしいですか?」
「ではお言葉に甘えて」
5品目すべて一口ずつ私とコウレ君で味見をしたのですが
「どれもとても美味しいです。」
「特にこの鍋……もう一口惚れしました。」
お世辞じゃなくて本当に絶品です。
「よかったです。あとは盛り付けだけですね。」
盛り付けに至るまでヨドさんの動作はスマートだし貴賓すら感じます。しかしふと重要なことを思い出しました。
「そういえばコウレ君、ヨドさんの部屋はどうします? とりあえず入居できるのは3階の畳の部屋だけですけど、まだ全然掃除してないですよね……」
そして、その部屋に関する重大な事実も同時に蘇りました。どこかの誰かさんのテストの答案の隠し場所だという事実を。
「ですね。ヨドさん、すみません。急な入居になってしまったので部屋の準備ができていません。もし夕食までに終わらなければ、今夜はこちらの金でホテルに泊まっていただいても……」
「いえ。掃除ぐらいさせてください。こちらが急に押しかけたんですから」
「いやいや、掃除ぐらい私がやるから、コウレ達は気にすんな!」
噂をすればまさにちょうど本人も思い出したようです。こういうことだけは記憶力と注意力が働く0点常習犯のお嬢様。
「なんでアギが人の部屋の掃除なんてするんですか。いつもは自分の下着や女の子のモノすらろくに整理しないのに。」
「‥‥とにかくコウレはヨドともう少し雑談でもしてろ!掃除は私とミンネでやるから!」
「‥また0点の答案隠してるんですか?」
下手したら単なる自白よりわかりやすいまである滝汗。まあ私は知ってましたが。
「なるほど。で、0点の答案はどこですかミンネさん?」
私に向けられた笑顔には、第六感的な凄みがありました。執事兼保護者様の説教モード全開です。
「…あい、ミンネ。」
助けを求める目で私を見つめるメガネの劣等生……もといお嬢様。
私の回答は
「‥‥タンスの1番下の段の裏側に10枚ございます。科目は現代文、魔術史、プログラム、論理、古語。」
「どういうつもりってか何考えてんだミンネ。具体的な場所までいうなんて!」
「どういうつもりだもなに考えてんだもアギでしょ。さあ答案見に行きますか?」
表情はいつも通り穏やかながらも目は完全に説教モードに入ったみたいです。
「私ちょっと新しい漫画の構想を思い出したのでこのへんで‥」
「勉強の方が優先ですよ。アギお嬢様」
当然拘束され0点の隠し場所に連行されるなかでも必死に抵抗するお嬢様、いえ劣等生様?
私とヨドさんもついていきます。コウレ君は到着後即答案を見つけだしお嬢様に対しての雷がなり始めました。いつ晴れるのでしょうか?この館の定番行事を見守りながら私は部屋の掃除を開始します。
「ヨドさん?醜態をお見せしてすみません。適当に居間で休んで‥」
そう言い終わるより先にヨドさんは掃除を開始してました。それも完璧超人執事コウレ君に匹敵する手際の良さで。
「こちらの棚、移動させても大丈夫でしょうか?」
「ええ、構いませんが……正直、ここで力を使うのは少し……」
一般的な女子高生の力では到底動かせない重さの棚です。しかし、
「大丈夫ですよ。これぐらいなら」
ヨドさんはあっさり持ち上げました。メイドとしての所作だけじゃなくて怪力の持ち主でもあるみたいです。私も当然手伝ったのですがそれも不要なレベルのスピードであっという間に部屋の大体の不用品はまとめられていました。まあ私だってその気になればこれぐらいはできる自信ありますけど!
「まだシミも残ってますので掃除洗剤貸してもらえますか?」
「どうぞ……すみません、仕事ばかり増やしてしまって」
「いいんですよ。この館に入ること自体、アビリスター側が勝手に決めたことですし、迷惑をかけているのはこちらですから。洗剤が足りなさそうなので、買いに行ってきてもいいですか? 他にも買いたい私物がありますし」
自室の掃除はおろか、学校へ行く身支度すら満足にできないアギお嬢様に、爪の垢を煎じて飲ませたい気分です。
「荷物持ちぐらいは手伝わせてください」
「私もいくぞ」
雷から逃げるチャンスと言わんばかりに名乗りを上げたお嬢様。
「ダメに決まってるでしょ、アギ。これから苦手科目復習しますからね。」
「一応ヨドはステップ9なんだぞ。彼女の買い物に付き合うのはこのセントカクラ家の次期当主として当然の義務だろ」
こういう時だけ都合よく次期当主を強調するアギお嬢様。まあコウレ君もどうせ本人にやる気がろくにないのは承知してます。
「まあヨドさんがいいのであれば。僕は館の家事が残ってるので同行できないですが。」
そもそも学校すら不登校で執筆以外は基本食っちゃ寝するだけの生活で外出する気になるのもそれはそれで貴重ですし。
「まあ、ヨドさんが良ければ。私は館の家事が残っていますので同行できませんが……迷子にならないでくださいね?」
こうして私とアギお嬢様、そしてヨドさんの三人で、商店街での買い物帰りの散歩を楽しんでいました。
「まったく、コウレの奴は何を言ってるんだ。ここに来てまだ数日のヨドはともかく、私が迷子になるなんてあり得ないだろ。私の確かな信頼と実績を知らないわけじゃないだろうに、キッズケータイまで押し付けてくるとは……」
「ですよね……」
(オクスタン高の山で蝶々を追いかけて3日間遭難し、熊に全裸で拘束され捕食されかけたこと。新年会を抜け出して自称100人殺しの放浪者に誘拐されたこと。漫画取材で電車を乗り間違えてベーカ星まで行き、現地で連続殺人犯に遭遇したこと……)
正直、キッズケータイどころか、セントカクラ家の警備精鋭を呼んでもいいレベルの「確かな実績」を誇っています。
「お前ら暇か?」
日課になってるジョキング中のマスブレ殿と遭遇しました。学生が多いアビリスターでも女性3人でそのうち一人がメイドというのは珍しいでしょうしね。
「一応ちゃんとした買い物中ですけど?」
「既にお荷物は購入済みのようだな」
元妻に向けられたジロッとした視線。
「まるで私がお荷物みたいだなおい」
「まあまあ、ロル君」
仲裁に入ってくれるヨドさん。
「くれぐれも迷子になるなよ?ミンネの前だけならともかくヨドもいる前だからな」
「なるかバーカ」
「はいはい。じゃあ俺も見張り要員にならせてもらうよ」
「そういえばミンネさんってひょっとしてロルさんのご親族の方ですか?」
「腹違いの姉ですわ。もちろんこの家のメイドなのもそのコネと思っていただいて結構ですわ」
私は別に気にしてはいません。コネと思われるのも慣れています。しかしヨドさんは申し訳なさそうにしました。
「すみません。苗字が同じですし、顔も似てるなと思って……」
「コネなんてことはないぞ。ミンネは普通にメイドとして有能だぞ。なにしろあのコウレが認めた女だからな」
まあセントカクラ家の方々と知り合ったのは生き別れの腹違いの弟がいると聞いて再会したこそです。そこで初めて兄と共に私がもともとアビリスターの頂点・ステップ9の一人である総合破壊能力者の異母姉であり大師族セントカクラ家次期当主の「元義理の姉」ということを知りました。もちろん自分から自称したとかではありません。マスブレ殿の能力関係者という方がたまたま私と知り合いマスブレ殿と容姿が少なからず似ており私達自身で養子ということでもしかしてとDNA鑑定をしたのです。結果は一致したまたま現存してた私の母親の出生時の資料などからも異母姉弟説が確定しました。
「私もコネとかなんて思ってませんよ。実際ミンネさんは本当に綺麗ですし料理とかもすごく上手ですし。」
「基本的に前の屋敷でも、コウレ以外は最低限の人員しか置かない主義だ。どうせジジイの息のかかった連中しか寄越されないからな。でもミンネはコウレが『万能』と太鼓判を押したからな」
「まああいつにとっても実際飛び級とはいえ高校生なのに下着とか女性特有のものとかを男の自分がやるんじゃなんていうか恥ずかしいしな。実際ミンネ達は頭の良さは確かだからまあアギ相手でも家庭教師役も務まるし。」
そんな会話をしている最中——
私は不穏な気配に気づきました。
路地の影から、明らかにこちらを狙った複数の視線。暴漢らしき男たちが、じわじわと距離を詰めてきています。




