第11話 歌姫アリーヴェル②
船内を捜索するが、クラウディアはどこにもいなかった。
私は、一旦アリーヴェルの元へ向かう。
「レイブン様、遅かったですね……なにか?」
「仲間が攫われた」
「えっ、本当ですか?
それに攫われたのは間違いないのですか?」
「ああ、今から犯人を問い詰めに行く――」
「えっ、犯人!」
「説明している時間が惜しい、船長室に案内してくれ……」
「は、はい!」
私は剣の柄を握り、アリーヴェルに導かれるままに走る。
「レイブン様、私にも状況を教えてください!」
「別に怪異でもなんでもない。
よくある話さ。商業船は時に罪人や亡命しようとする乗客も多い」
「その人たちが犯人なのですか?」
「いや、逆だ。むしろ被害者だ。
罪人、亡命する人が攫われても誰も騒がないし、そもそも気にもとめない。
そして、常習的にそんなことが可能な者といえば?」
「船の責任者、もしくはそれに近しい人物……ですわね」
「船員全員が共犯の可能性が高い、アリーヴェル殿――案内が終わったら君は逃げてくれ」
「し、しかし……」
「危険な目に遭ってほしくないんだ。わかるね?」
「はい……」
彼女の声が私の背後で沈む。
「おい、ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」
船員が腰の短刀に手を掛け、警告を飛ばす。
私は、即座に剣を抜き船員の腕を切り落とす。
「うぎぁぁぁ! な、何を……」
「レイブン様、いくらなんでも強引すぎやしませんか?」
「船員が乗客を警告するのに、武器に手をかけるのは不自然だ。だから、相応の対処をさせてもらった」
私は、床に倒れ悶え苦しんでいる船員の傷口を踏みつける。
「うぎゃぁぁぁ! や、止めてくれ!」
「攫った乗客はどこだ?」
「な、なんのこと、ぎゃあああ!」
私はもう片方の腕も切り落とす。
「私はあまり気が長い方ではない。
命があるうちに話したほうがよいぞ?」
「突き当たり下の船倉だ!」
「鍵は?」
「胸ポケットに入っている!」
私は胸のポケットから鍵を取り出す。
そのまま、倒れている船員の顔面を蹴り、気絶させる。
「れ、レイブン様……」
彼女にはあまり見せたくはなかった。
「アリーヴェル殿、自分の客室に戻り隠れていてください!」
「嫌です! 私も一緒にいます!」
食い下がる彼女を見て、ため息が漏れる。
「はぁ、仕方ありません。危なくなったら逃げてください!」
「ふふ、船上に逃げ場などありません。
それなら、最後まで貴方といますわ」
私は、諦めて頑丈な鉄格子に阻まれた船倉の鍵を解錠する。
そこには、檻にいれられ震えている女の子がいた。
そして……
「あぁ……クラウディア……」
衣服を剥がされ、全身に青痣が滲んだ彼女は
――涎を垂らし冷たくなっていた。
クラウディアの首には、痛々しい扼痕が残されていた。
「くそっ! くそぉ!」
俺は床に拳を打ちつけた。
女の子は恐怖で怯えている。
私は檻の鍵を壊し、女の子を解放した。
クラウディアが痛めつけられる場面を見せられたのだろう。
ふと、一番奥の檻に白骨化した死体が横たわっていた。頭部には黒い布がすっぽり収まるように被せられていた。
檻の中に散らばるドレスの残骸で、かろうじて女性だったと判断できる。
「レイブン様……あの牢も解放していただけませんか?」
「君の知り合いか?」
アリーヴェル殿はこくりと頷いた。
私は鍵を壊し――
「後は任せた……」
アリーヴェルにそう告げて、船長室へ向かった。
私は船員を次々に切り伏せ、目の前には船長であろう人物が両手を挙げていた。
「や、やめてくれ!」
「お前は人攫いではないな。女性を攫い慰み者にする……下衆以下の行いだ!」
私は船長の首を跳ね飛ばした。
どうせ、時間を巻き戻すのに――船長と船員を殺したことに意味はなかった。
非効率を嫌う私が、生まれて初めて無駄なことをした……それも、殺意のある人殺し。
私は甲板の上に立った。
……もし、クラウディアの死後までしか戻れなかったら……そう思うと怖かった。
「レイブン様!」
背後からアリーヴェルの声が響く。
「死んではなりません!」
「大丈夫だよ。また、会いに来るから……」
私はそれだけ言い残し飛び降りる。
アリーヴェルの手が、私を掴もうとしたが、空を切った。
✦
……船室……二段ベッドの上段で目覚める。
自身の腕で視界を覆い、呼吸が浅いラウアと……彼女の頭を撫でるクラウディアがいた。
私は咄嗟に、ベッドから降りようとして梯子を踏み外す。
「いたたたた……」
「レイブン大丈夫か!」
クラウディアが私に駆け寄る。
「クラウディア!」
私はクラウディアに抱きつきベッドの上に押し倒す。
「お、おい! レイブン、どうしたというのだ!
頭でも打ったか!」
「クラウディア……一人にしてすまなかった。
もう、君を離さないから……」
年甲斐もなく泣きじゃくり、クラウディアの体温を肌で感じる。
「まったく……怖い夢でも見たのだな……」
クラウディアの手が、私の頭を優しく撫でる。
私はしばらく彼女を抱きしめ続けた。
「なあ! レイブン! クラウディア!
なにしてる!」
ラウアの叫び声で目が覚めた。
いつの間にか寝ていたらしく、
私とクラウディアは抱き合うように体を重ねていた。
「クラウディア、どうして起こさなかったのだ?」
「そ、その……ぐっすり寝ていたから……起こすのも可哀想だと思って……」
クラウディアの透き通るような青い瞳に私の顔が反射している。
「クラウディア……」
「レイブン……」
「こ、こら! ウチの前でいちゃつくでない!
ウチ……泣くぞ……いいのか?」
名残惜しいがクラウディアの上から退いた。
「……と、こんなことをしている場合ではない! クラウディア――一緒に来てくれ!」
「なっ、またウチを置いていくのか?」
ラウアは起き上がり両手をブンブン振るう。
「船酔いが酷いだろ?
大人しくしていなさい」
私の雰囲気にクラウディアの表情が引き締まる。
「レイブン、有事だな?」
「ああ、この船の船長も含めた船員全員が女性を攫って慰み者にしている」
「わかった。行くぞ!」
クラウディアは私よりも先に、レイピアを持って駆け出した。
まずは船倉に女の子を助けに向かうと……船長が女の子に迫っていた。
「お前ら、何者!?」
船長は俺たちに気づき剣を手に取る。
……くそっ、クラウディアがいなかったから、あの子に手を出す気か?
俺が剣を構えるよりも速く、船長の腕をレイピアが貫いた。
「ぐぎゃあああ!」
船長はたまらず剣を落とした。
俺は急ぎ女の子を解放した。
そこからは速かった。
クラウディアとともにあっという間に船上を制圧した。
事情を知った乗客も、船員の拘束と見張りに協力してくれた。
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クラウディアや乗客が見張る中、船員たちに操縦させ、とりあえずはラディニスを目指す。
拘束されていた船長は女の子の母親によって殺されてしまった。
しかし、それを咎める者はいなかった。
船員たちも、死の恐怖に怯え従順に私たちに従っている。
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一通り落ち着いたあと、
私は、一人で船倉に向かった。
なんとなく、あの白骨死体が気になったからだ。
鍵を壊し、被せられた黒い布を取る。
「レイブン様……」
背後から声が響く。
そういえば、時間を巻き戻してからは彼女に会っていなかった。
「……これで、いいんだろ?」
「はい……ありがとうございました」
振り返った時には、アリーヴェルの姿はそこにはなかった。
代わりにフロージアの甘い香りだけが残されていた。




