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アイドルシグナル  作者: ぽんず
もう一度だけ
17/24

2人の名前

数日経っても、ユニット名は決まっていなかった。


候補だけは増えていく。


でも、どれもしっくり来ない。


ライブ終わりの帰り道でも、レッスンの休憩中でも、湊はずっとスマホを見ながら「これどうですか?」と聞いてきた。


そのたびに俺が却下する。


「“Blue Flame”は?」


「厨二」


「“Astral”」


「読めねぇ」


「神代さん、厳しすぎません!?」


湊が机へ突っ伏す。


今日はスタジオ終わり、そのまま近くの公園へ来ていた。


夜風が少し冷たい。


自販機の前のベンチへ並んで座りながら、俺は缶コーヒーを開ける。


湊は隣でいちごオレを飲んでいた。


甘そう。


「ていうか神代さんも考えてくださいよ」


「考えてる」


「ほんとですか?」


疑いの目。


失礼だな。


でも実際、俺は名前を考えるのがあまり得意じゃなかった。


昔のグループ名も、大人が勝手につけたものだったし、自分で“名前”を作る経験なんてほとんどない。


だから余計に難しい。


ただの言葉じゃ駄目だと思った。


俺たちがこれから背負う名前になる。


ステージで呼ばれて、ファンが口にして、いつか大きい会場で響くかもしれない名前。


そう考えると、中途半端なものにはしたくなかった。


湊はスマホを見ながら、小さく呟く。


「僕、“光”とか“星”とか好きなんですよね」


「お前そういうの好きそう」


「なんかアイドルっぽいじゃないですか」


まあ分かる。


湊はそういうキラキラしたものが似合う。


逆に俺は、夜とか影とか、そっち側のイメージらしい。


ファンにもよく言われる。


「神代さんって夜っぽいですよね」


「意味分からん」


「でも分かります」


「お前まで言うな」


湊が笑う。


その横顔を見ながら、ふと思う。


最初に会った頃と比べて、距離がかなり近くなった。


昔の俺なら、こんな風に誰かと長時間一緒にいること自体が無理だったと思う。


面倒だったし、深入りされるのも嫌だった。


でも湊は、気づけば隣にいる。


勝手に話しかけてきて、勝手に笑って、勝手に俺の中へ入ってくる。


なのに、不思議と嫌じゃない。


むしろ最近は、その存在が当たり前みたいになってきていた。


「神代さん」


「何」


「僕、思ったんですけど」


湊がスマホを置きながら、少し真面目な顔をする。


「名前って、“今の僕たち”だけじゃなくて、“これから”も入れたいですよね」


その言葉に、少しだけ目を細める。


“これから”。


昔の俺は、そんな先のこと考えなかった。


どうせ壊れると思っていたから。


期待した分だけ苦しくなると知っていたから。


でも今は違う。


少なくとも、こいつといる時だけは。


「……例えば?」


聞くと、湊は少し考え込む。


「再出発って感じもありますし」


「まあな」


「でも、“過去が暗かったから今輝く”みたいな名前は違う気がして」


「なんで」


「神代さん、過去を可哀想な感じにされるの嫌そうだから」


思わず少し笑う。


よく見てる。


確かに嫌だった。


同情されるのは好きじゃない。


過去が不幸だったから頑張ってる、みたいに見られるのも。


俺たちは別に、可哀想な二人組じゃない。


ただ、もう一回ステージへ立ちたいだけだ。


「……じゃあ、“これから”だけ見ればいいんじゃね」


ぽつりと言う。


湊がこちらを見る。


「これから?」


「過去とかじゃなくて」


そこまで言って、少し考える。


それから自然に言葉が出た。


「まだ終わってない、みたいな」


湊の目が少し大きくなる。


数秒黙ったあと、ふっと笑った。


「……いいですね」


「まだ適当」


「でも、神代さんっぽいです」


夜風が吹く。


静かな公園。


遠くで電車の音が聞こえた。


湊はスマホへ何かを打ち込みながら、小さく笑っている。


その横顔を見ながら思う。


昔、一人だった頃は、未来なんて考えたくなかった。


でも今は。


こいつとなら、もう少し先を見てもいいのかもしれない。


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