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序
六時を少し過ぎた喫茶店だった。
通りに面したガラスの向こう、光が斜めに差していた。歩道を、誰かが横切っていった。
ドアベルが鳴った。
カウンターの中で、店主が頷いた。
奥のテーブル席に、女が一人座っていた。本を閉じて、鞄に入れているところだった。視線が、ドアの方を向いた。
入ってきた女が、向かいの席に座った。
しばらくして、店主が二人の前に白いカップを置いた。湯気が立ち上がった。
「アスカ、夏服、もう出した?」
最初に座っていた女が言った。
「まだ」
「私はもう出した。今日、これも、新しいやつ」
シャツの袖が、軽く引っ張られた。淡い水色だった。
向かいの女が頷いた。それから、もう一度、頷いた。
会話は、それで終わった。
二人は、しばらく黙ってカップに口をつけていた。窓の外、木の葉が、夕方の光に揺れていた。
時間が経った。
「じゃあ」
最初に座っていた女が立ち上がった。
向かいの女は、頷いた。
ドアベルが鳴って、店内が静かになった。
向かいの女は、そのまま座っていた。
白いカップに残ったものを、最後まで飲んだ。




