第6話 機体操作の試験、そして戦闘
俺は傭兵ギルドで実技試験を受けるため、シミュレーターのコックピットへと乗り込んだ。
俺の操作する機体は戦闘艦の中型機で光学ビーム砲が2基と三連装ミサイル発射管が1門の特段と突出した物はない普通の機体だっだ。
戦闘が開始すると突然、シミュレーターのスクリーンに別の機体が映し出された。
(いきなり敵か!!)
そう思った俺は急いで球体レーダを確認するが、識別コードはどうやら味方の物だった。
しかし、味方の機体にはこれといった武装がなく比較的ゆっくりと宇宙を航行していた。
俺はこれらの状況を踏まえて一つの答えを出した。
(これは……護衛任務!! 味方の機体は輸送船、あるいは民間の乗り合い船なのだろうな)
俺は周りの状況からそう判断すると、次の瞬間、シミュレーターの警告音が鳴る。
〘ブッー……識別コード不明機体が接近中〙
「敵機がおいでになったな!!」
俺が球体レーダを確認すると敵機は二機、いずれも左舷下方からだった。
俺は機首を敵機へ向け機体を発進させるが、あくまでも護衛なので護衛機体から離れない様に一定の距離を維持した。
敵機が前方から迫ってくると俺は一機に向けて光学ビームを発射する。
俺の放った光学ビームは敵機のディフレクターシールドに命中するが、白月と違いディフレクターシールドを一撃で消失させるような火力はなかった。
そう、本来は敵機のディフレクターシールドを削りつつ回復しないように戦闘し、ディフレクターシールドが飽和して消失した所を撃破、それが本来の戦い方らしい。
つまり白月の火力は異常なのだ。
俺は牽制の為、ミサイルを前方の敵機に向けて発射すると、敵機は俺の発射したミサイルを回避の挙動すら見せずディフレクターシールドで受ける。
俺は続けざまに光学ビームを連射した。
放った光学ビームはシールドの表面で光の玉となり弾け、その輝きは明滅を繰り返した。
敵のディフレクターシールドはじわじわと削れていった。
敵機が目前に迫り、俺は機体を大きく旋回させて、あえて敵機を後ろにつかせようとした。
思惑通り敵の一機はそのまま俺の背後についたが、もう一機は護衛対象の方へ向かった。
(させるかよ!)
俺は背後の敵の光学ビームを回避しながら、護衛対象へ向かう敵の後ろへ回り込む。
光学ビームを叩き込みつつ、ミサイルを発射。
敵のディフレクターシールドが飽和し、機体を包む膜が消える。
その瞬間、俺は敵機のスラスターに光学ビームを当て、スラスターを破壊する。
敵機はそのまま誘爆し撃墜する。
「まずは1機目」
すぐさま背後の敵へ対応するため、俺はスラスターを逆噴射する。
急減速した俺の機体は、敵の背後を取り、そのままミサイルと光学ビームを発射、一気に畳みかけた。
敵機はミサイルと光学ビームの連撃に耐えきれず、ディフレクターシールドが砕け散り、そのまま爆ぜた。
だが、試験はそこで終わらない。
内容や状況を変えたステージが次々と出て、俺はそれらを難なく撃破していった。
そして、初の機械クリスタル生物との戦闘になった。
スクリーンに映し出されたその姿に、俺は思わず息を呑む。
水色と白色のクリスタルで覆われた全翼機のようなフォルム。
背中には二連装の砲身、明らかに兵装で、生物なのに兵装を持つという矛盾が、逆に不気味さを際立たせていた。
しかも、数が多く、ざっと見ただけでも二十五体以上。
しかもミサイルは全て迎撃され、光学ビームも効かない。
(……厄介にもほどがあるだろ)
機械クリスタル生物たちは、まるで群れで狩りをする鳥のように、リレー式で入れ替わりながら俺を追い立ててくる。
「これじゃ完全に獲物扱いだな……」
左右後方にぴったり張り付くように追尾してくる二体。
背中の二連装砲が三百六十度回転するようで、その砲身が俺へと向けられる。
次の瞬間、粉のような粒子のようなビームが放たれた。
(光学ビームじゃない……!?)
戦闘艦の光学ビームとはまったく違う挙動。
だが、驚いている暇はない。
俺はスキル〈思考加速〉を発動し、迫りくる粒子ビームを難なく回避する。
しかし、前方には、俺の進路を塞ぐように複数の機械クリスタル生物が展開していた。
俺は敵の攻撃を避けながら、わずかな隙を探る。
(正面からは無理だ……なら──)
「敵が前に来るなら、逆に利用させてもらう!」
正面を突破するのは無理だと悟った俺は機体の逆噴射をかけ、一気に減速。
勢い余って前へ出てきた機械クリスタル生物の背後へと回り込む。
俺はダメ元でそのまま後部の噴射口へ光学ビームを撃ち込んだ。
機械クリスタル生物は砕け散り、さっきまでまったく効かなかった光学ビームが、嘘のようにクリスタルを粉砕した。
「なんでだ……さっきまで効かなかったのに……」
俺は先ほどの戦闘を思い返し、状況を照らし合わせる。
(前方と横から撃ったビームは弾かれた。だが、後部からの一撃は通った。)
俺はそこでひらめいた。
「そうか! 奴の弱点は後部の噴射口!」
弱点を突けたことで、戦闘は一気に楽になる。
そう思っていた時期が、俺にもありました。
しかし、現実は甘くなかった。
機械クリスタル生物は、まるで嘘のような速度で俺の動きを学習し、即座に対応してきたのだ。
「残り半分くらいか……クソッ」
(こちらの動きを物凄い速度で学習するから、俺の動きが読まれてる……)
そう、俺の得意は近距離での接近戦。
だが、その攻撃パターンはすでに完全に読まれており、ほとんど通用しない。
ならば、まだ試していない戦い方をするしかない。
俺は現状を変えるため他に方法はないか探った。
「何か他に使える武装は……」
俺は機体を操作しながら、手元のパネルへ指を滑らせた。
機体に搭載されている兵装が機体の平面図とともに映る。
「M.C.O.ジャマーミサイルMk3が一発……これなら」
俺は聞き慣れないミサイルの名前に、なんとかこの状況を乗り切れるのではないかと望みを託し、ミサイル発射管に装填する。
「行け!! ファイヤー!!」
俺は操縦桿の引き金を引いて敵に向けてミサイルを発射した。
ミサイルは火を噴き、一直線に機械クリスタル生物に向かって飛んで行く。
当然、ミサイルは迎撃され駄目かと思った。
しかし、ミサイルが爆発した瞬間、周囲の機械クリスタル生物たちが一斉に動きを変えた。
俺への射撃が止まり、敵は俺には目もくれなかった。
敵はまるで磁石に吸い寄せられるように、爆発地点の周囲を旋回し始める。
「なるほどこう使う訳か」
俺はその隙にスラスターを吹かし、群れから距離を取った。
追ってくる気配はなく、ただただ、爆発地点を旋回していた。
それはまるで鳥の群れが集まって飛んでいるようにしか見えなかった。
(これくらい離れればいいか)
光学ビーム砲の射程ギリギリまで後退し、照準を合わせる。
ミサイルの効果が切れたのか、機械クリスタル生物たちは俺を探すように散開し始めた。
そのうちの一体が、背を向けて飛んでいた。
(……もらった)
俺は後部の噴射口へ照準を合わせ、引き金を引いた。
光学ビームは敵の噴射口へ直撃し、敵はクリスタルの破片となって砕け散る。
他の個体は、砕け散った仲間の残骸の周囲を探るように飛び周り、俺を探していた。
俺はそこを集中的に狙い次々と撃っていく。
何機か撃破した後、俺が撃っている方角に気づいたのか俺の方に向かって飛んでくる。
敵は俺の位置が正確にはわかっていないのか、俺のいる方向に粒子ビームを乱射しながら飛んでいた。
「そろそろか……」
俺はそろそろ敵が俺の動きに対応する頃だと考え、その場から離れてスペースデブリがあるエリアに移動した。
俺はデブリの影に身を潜め、死角からの射撃を試そうと息を潜める。
機械クリスタル生物たちは散開し、デブリの間をゆっくりと移動しながら俺を探している。
(……今だ)
敵が通り過ぎ背を向けた瞬間、後部の噴射口めがけて光学ビームを放つ。
俺は撃破したらすぐに隠れる位置を変える。
敵は撃破された仲間の場所へ集まり、周囲を探してからまた散っていく。
俺はその行動パターンを利用し、同じ手を繰り返した。
敵は次第に複数で行動し始めたが、それでも隙はある。
俺はデブリの影を渡り歩きながら、一体、また一体と撃破していった。
そして、最後の一体が砕け散った瞬間、俺は大きく安堵の息を吐いた。
(……なるほどな)
戦って分かったことがある。
機械クリスタル生物は大幅な攻撃パターンの変化に弱く、パターンの変化に対応するまでに時間がかかる。
逆に言えば、攻撃パターンを学習した後の戦闘は嘘のように強く、こちらの攻撃は対応されて通用しない。
もし俺がスキル〈思考加速〉を使えなかったら、このシミュレーターの機体では確実にやられていた。
(……あれが実戦だったら、笑えないな)
張りつめていた緊張が一気にほどけ、俺は大きく息を吐き出した。
〘以上で終了です。お疲れ様でした〙
シミュレーターの画面越しに女性職員の声が響き、直後、ハッチがゆっくりと開いていく。
「終わった~~……」
俺はコックピットから這い出るように降り、思いきり背伸びをした。
すると、奥の部屋から女性職員が小走りで出てきて、目を丸くしながら近づいてくる。
「驚きましたよ。まさか全部倒してしまうなんて」
「えっ……倒してよかったんですよね?」
思わず聞き返す。
たしかに、敵の強さは徐々に上がって行くとは言われたが、最後のあれはどう考えても新人向けの難易度じゃなかった。
「はい、倒して構いませんよ。ただ……新人の方は最初の三つのステージをクリアすれば合格なんです」
「三つ!? そんな簡単でいいのか!」
試験が思った以上に簡単で少し驚いた。
「ええ。ですので、三つ目以降はランクアップ用の試験なんですよ」
「どおりで強いわけだ……最後のは流石に少し苦戦しましたから」
俺が肩を落とすと、女性職員は苦笑しながら続けた。
「私も驚きましたよ。あの数の α型 を全部倒してしまうなんて」
「アルファ型?」
「はい。機械クリスタル生物には種類があるんです。戦闘艦サイズの個体が α型、それを格納する母艦クラスが β型。他にも細かく分類がありますが……」
そこで女性職員は、少し声を落とした。
「本来、α型は傭兵ランクAの方が対処する相手なんですよ。
新人の方が相手にするような存在ではありません」
「……え?」
「それを新人の方が全部撃破してしまうなんて、本当に驚きました」
女性職員は、心の底から感心したように微笑んだ。
その尊敬の眼差しに、胸の奥がじんわりと熱くなる。
俺は、正直ちょっと舞い上がっていた。
受付カウンターへ戻ると、傭兵契約の手続きが始まった。
書類といっても紙ではなく、タブレット端末に映し出されているデジタル形式だった。
俺は項目を埋めながら、女性職員からギルドの成り立ちについて話を聞く。
「この傭兵ギルドは、天桜日皇国が設立した組織なんですよ」
「天桜日皇国が……?」
「はい。機械クリスタル生物や宇宙盗賊の対処を主な目的としていて、一つの国を除く全銀河のコロニーに支部があります」
女性職員はさらっと言ったが、規模が桁違いだ。
「国が設立した組織なら、他国は嫌がりそうですけどね。それに傭兵ギルド組織憲章に書かれている内容からするとデメリットの方が大きいと思うんですが」
「普通はそうなんですが……傭兵ギルドは有益な技術や情報を無償提供していますし、それに、傭兵ギルド組織がなかった時代は機械クリスタル生物や宇宙盗賊のせいで発展の阻害や被害の方が大きいいので各国もそれに割く費用のほうが大きいそうですから。政治的な思惑より、メリットの方が圧倒的に大きいんでしょう」
確かに、俺の目の前にある傭兵契約の傭兵ギルド組織憲章にも、国にとって便利すぎるほど便利な内容が並んでいた。
しかし、傭兵ギルド組織憲章には穴と呼ぶべき箇所があることを俺は見つけた。
だが同時に、傭兵ギルド組織の底知れない恐ろしさも感じた。
それは、まるで銀河規模の劇薬のようだった。
「不安を煽るようなことを言いましたけど、憲章を破った国は一つしかありませんし、ギルドが各国にできてから数千年は経っていますから安心してください。……はい、これで傭兵ギルドの登録は完了しました」
女性職員はそう言って、契約の控えと識別コードを俺のアカシック端末へ送信した。
俺のアカシック端末に登録完了の通知が表示される。
(……終わった。俺も正式に傭兵か)
俺は傭兵になった実感がわかないものの、これから先の方針をどうすればいいのか、そのような考えがいくつも頭の中をよぎる。
俺は深呼吸し考えを振り払う様にして、ハルカとトウシが待つ場所へ向かう。
新しい世界での、新しい肩書きを胸に抱えながら。
傭兵ギルド組織 憲章
第一条(非営利原則)
傭兵ギルド組織(以下、当組織)は、いかなる形態の利益も一切望まない。
第二条(中立・不干渉)
当組織は、政治や戦争などへの介入を一切行わない。また、いかなる国家および第三者からの介入も受けない。
第三条(不当干渉への制裁と撤退)
国家または第三者が当組織に対し不当な干渉を行った際は、以下の措置を執行する。
1. 当組織は当該対象への役務を永久に停止し、当該国家から永久的に撤退する。
2. 当該第三者の会員登録を永久に行わず、以後いかなる依頼も受理しない。
第四条(技術および情報の公開・秘匿)
当組織は、有益な技術や情報について、特許や権利を一切主張することなく一般に公開する。ただし、危険な技術および情報は完全に秘匿する。
第五条(上位規範と情報保護)
当組織は、いかなる国家の法体系下にあっても、個人の情報、および危険な技術・情報を公開しない。たとえ国全体の全企業に適用される法律であっても、この規範を侵害するものは例外なく『不当な干渉』と定義し、第三条を適用する。
第六条(門戸開放と平等)
当組織は、あらゆる人種および種族を問わず、等しく依頼の受理および会員登録を受け付ける。
第七条(支援の拒絶)
当組織は、いかなる国家、団体、個人からの支援も一切受け取らない。
第八条(依頼の選別と拒否権)
当組織は、持ち込まれたいかなる依頼に対しても、独自の判断に基づき受理を拒否する権利を留保する。
1. 組織の中立性を損なう恐れ、または秘匿情報の安全を脅かす恐れがあると判断された依頼は受理しない。
2. 拒否の際、依頼主に対していかなる理由も開示する義務を負わない。
3. この拒絶の判断に対し、第三者が異議申し立てや強制を行うことは『不当な干渉』とみなす。
一応、気になる人向けに傭兵ギルド組織 憲章を書いておきます。
次回は、いつだろう……4月中にはもう一話とは考えています。
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