動き出す想い
反乱組織、王都に樹立!!
神聖不可侵の領土を、軍人や官僚が指揮して長期的に占拠する事態に、貴族たちは衝撃を受けた。
彼らは暴動程度…と楽観視していたことを後悔し、すぐさま貴族大連合軍を編成すべく動き出した。
その際、中心的役割を担ったのはジングル公爵とヨーグル公爵であった。
両者はそもそも深刻な対立関係にあり、互いの顔を見るのも嫌!というほど嫌悪しあっていた。
だが今回庶民が王を名乗るという由々しき事態が起こり、その憤りが両者の手を結ばせたのであった。
妥協に妥協を重ね、両者が連携をとって王都に攻め入る事を決めたのは9月21日の深夜であった。
東からはジングル公一派が、西からはヨーグル公一派が王都に襲いかかろうとしていた。
しかし、すでに軍事再編を終え、周辺を厳戒態勢で見張っていた反乱軍はその動きを見逃さなかった。
「東西両公爵に不穏な動きあり」との報が入ったのは22日の早朝であった。
知らせを聞いたリオウは、すぐさま幹部に緊急招集をかけると少年にも知らせるべく歩き出した。
親友が目覚めた今となっては、なぜだか大連合軍さえも恐れるに値しなかった。
むしろ迫り来る敵を共に倒す光景ばかり思い浮かべ、ついニヤニヤが止まらなかった。
その様子は「気持ち悪いわ!」と開口一番少年に言われても仕方がないものであった。
結果として少年はリオウに引きずられながら連行されることになるが…ご愛嬌である。
緊急招集をかけられた幹部たちは、皆一様に深刻そうな表情を浮かべて軍務室に集まっていた。
迫り来る大連合軍はおよそ4万。それに対して我々はわずか1万…厳しい戦になるだろう。
そんな中で、じゃれあいながら(引きずられながら)入ってきた少年とリオウの姿は明らかに場違いであった。
だがトップ2に全く動揺の色が見えないその光景は彼らに安心感を与えた。
こうして恐怖を払拭した幹部は、ようやく優秀な頭脳をフル回転させて勝利に向けた図式を考え始めた。
「さて、迫り来る大連合軍に対して、意見を持つ者は挙手を願う!」
リオウ、偉そうだなーなんて思っていたら、俺以外が一斉に手を挙げたので驚いた。
え、俺も挙げとくべきなのか?
少しだけ…2テンポ位遅れて、こっそりと手を挙げた俺。
「はい、陛下どうぞ!」
まじかよ、これだけ集まっていての俺ですか?!冗談だろー。
というかリオウが俺に敬語使っているよ…奇跡だ。
「奇跡だ!まさかこんな奇跡が起こるとは…ある意味感動した!!」
俺の無駄なひとりごとは思いがけず室内に響いてしまった。
うん、空気が止まった、凍ったな!
…ごめんなさい、でもあのリオウが俺に敬語を使ったんだよ?!
「…奇跡?なるほど確かにこれは奇跡だ、だからこそ長続きはしない…ということか?」
この凍った空気の中では突っ込まないで欲しかったよ。
さすがリオウ、鬼畜だな!
「うん、残念ながらすでに終焉を迎えているな…。おまえも奇跡って思ってるようだし」
リオウが俺に敬語を使うなんて奇跡はもう2度と訪れないんだろうなー。
そんなことを考えていた俺は、ぼんやりとリオウを見つめていた。
そしてリオウも何故か俺をじーっと見つめていた。
…。
……!!
うん?!この状況って客観的に気持ち悪くない!?
嫌な事実に気がついた俺は、急いで目をそらそうとした。
しかしまさにその時!リオウは驚くほど目を輝かせたので思わず見入ってしまった…。失態だ!
「なるほど、両公爵が手を結ぶ奇跡は、しかし当初からほころび始めているか…良い着眼点だ。」
「両公爵の険悪さを利用して共倒れにさせる…ということかー。アハハ!なかなか良い事考えるね!」
…え?!えーと、そんな話だった…け。
「…そ、そうだろうとも!まさにそのことが言いたかったんだな。」
リオウとルドヴィークが揃って俺を誉めてくれるので思わず頷いちゃったよ…。
でも、これ以上意見を求められても何も出ませんぞ!
若干ビビっていた俺だが…うん、何も問題は無かった。
元々発言する気満々だった皆が、どんどん意見を出していったのだ…俺はその間放置されていましたとも。
結局ジングル公爵一派を途中で奇襲して足止めしている間に、わざとヨーグル公爵一派に負け彼らに王城を占拠させることで、両者に著しい利益対立を生む…という案が採られることになった。
そうして両者が争っている間に、ヨーグル公爵領を奇襲して占拠する…らしい。
ねぇねぇ、リオウ!
「どうした?なにか問題か?」
これって王都を戦場にするってことでしょ?王都の民を犠牲にして逃亡するってことだよね。
「…ああ。多少の犠牲は許容範囲だろう?」
でも、王都の民は俺達が守ってきた仲間だろ!さすがにまずいだろう?
「お前は王だ。臣下臣民の犠牲を受け入れることも役割の一つだろ?今は堪えてくれ…。」
そう言うと俺の返答も聞かずに、リオウは颯爽と出て行った。
それに続いて皆も俺に一礼すると、足早に去っていった。
作戦の実行のため、彼らは部下に細かな指示出しをせねばならず、忙しいのだろう。
部屋に一人ぼっちになった俺は、そっとため息をついた。
「悪いな、リオウ。…俺にはどうしても譲れない一線があるんだよ。」
悪いが、臣民の犠牲は受け入れられないんだ。
いくらお前の頼みでも、そんな臣民からも恨まれる王様なんて、やってられねぇよ!
乱暴に立ち上がると、俺はある場所へ向かうべく歩み始めた…。
「では私がお手伝いいたしましょう、陛下。」
「そうそう、頼むな…って、トム!?なんでまだ廊下にいるんだよ!!」
足を止め、振り返ってトムを見つめた。
自分でも血の気が引いていくのが分かるほど、俺は完全に青ざめていた。
やばい、聞かれた!ルドヴィークかリオウに告げ口される…。
トムが静かに俺に近づいてくる。
死刑宣告が下されるかのような気分になるな…。
ついに十分な距離まで近づいたトムは、青ざめた俺の頬に手を伸ばし、そっと撫でた。
「ただ陛下をお待ち申し上げておりました。私の忠誠は貴方様ただ一人に捧げておりますので。」
そう言ってトムは跪くと、俺を見上げて微笑んだ。
「貴方の望みはいつでも私が叶えてみせます、ただ私に命じて下されば良いのですよ、陛下」
何故だろう?トムが浮かべる綺麗な微笑がとても恐ろしくて思わず震えた…。
でも恐ろしいだけじゃない…懐かしい?
こんな微笑をずっと昔に見たことがあるような…。
忘れた過去に想いを馳せた俺は、トムがとても幸せそうに俺を見つめていることに気がつかなかった。
時は止まらない。
過去に戻ることもできない。
常に歩み続けるしかないのだ。
少年が少しずつ、過去の記憶を思い出し始めています。
まだまだ時間がかかりますけど…。




