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契の花 -誾-  作者: 真涼
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第二章Ⅱ 「契約」

「……我。(ほむら)迦紅襲緻(カグツチ)(みこと)を祀る主、神楽である。我の認めし契約者(アグリメア)に、その加護を契約することを願い申す」

 神楽が言霊を綴った瞬間、その前に焔が現れ、そこに『浮遊枠』が現れる。

《なんや神楽~。契約者(アグリメア)ってその女の子か~?》

 ……なんというか残念だった。というかなんで関西弁……?

「えっと、ほむら、カグツチのみこと……様?」

《なんや他人行儀やな~。迦紅襲緻でええよ、カグツチで》

「はぁ……」

 友好的すぎるだろ。飛鳥は内心で突っ込んだ。

 基本神と話すことは大神主以外不可能に近い。契約者ですら声が聞けるか否かぐらいなのだ。普通、神は人間を何も思っていないか、侵略神社の神だと下等生物ぐらいに思っている。そんな中まだ友好的で、契約をしてくれるのが御国八十神というわけだ。

 だが、この焔〝迦紅襲緻(カグツチ)〟尊は、御国八十神の中には入っておらず、友好的でないという話をしていたのだ。

(……今思えば、なんで契約が使えるんだろう)

《なんやねんこの疎外感は。ほなら言うけど、俺は御国八十神なんて肩書きは無いけど、かなり人に友好的な六体の神《尊柱(みことばしら)》の一角なんやで? むしろどんどん契約者アグリメア来いやって思っているぐらいなんやからな》

 ……それにしても良く喋る。

「一回黙って、迦紅襲緻カグツチ

《なんやねんひどいな~》

「……黙・っ・て」

《……悪うござんした》

 もちろん神を手懐けるなんてのも聞いたことは無かった。

「じゃあ、契約の仕方を説明するね。基本的には大神主―つまり私とキスすれば契約できるんだけど―」

「じゃあそっちにしてください!」

 ちなみに誾は「動け~、ん? ……俺の感情を返せ~」と、神世七代(かみよのななや)に向かって(棒読みで)唸っている。だが、ウンともスンとも言わない。

「……でも飛鳥ちゃん、初めてでしょ?」

「!?」

「確かワンダーだと……ファーストキスだっけ? ……やっぱ初めては―」

「お、大きなお世話です!」

 誾は首をひねっていた。

「だからまずは誾で初めてを拭い去って、そっからこっちに来ればいいと思うわけよ。どうかな?」

 う、うう、と飛鳥は覚悟を決め切れずにいる。まあ、当たり前だ。相手は記憶喪失及び感情喪失。自分からやるはずもない。いや、やれるはずもない。

「もしかしたら、何かの拍子で神世七代(かみよのななや)から誾の感情と記憶が出るかもしれないよ?」

「……!」

 ほらほらー。神楽はにこにこ顔で諭すが、飛鳥の脳内では……。

(落ち着け私落ち着け私! そうよこれはただの実験なの! そう、断じて私がやりたくてやるわけじゃない! そう、そうなのよ! すべてはまやかし、すべては―夢!)

 危険思考である。

「……わかりました」

 意を決して顔を誾に近付けていく飛鳥。

「ん? どうかしたのか、飛鳥?」

「誾!」

「なんでしょう」

 誾の口調が突然敬語に変わった。敬意の感情があるはずもないのに……。

「目を瞑っていて」

「なぜだ? 理由―」

 飛鳥は無言の威嚇をした。

「……わかった」

 そういって、ゆっくりと目を瞑る誾。相変わらず紅い神世七代(かみよのななや)は握りしめたままだった。

 そしてまた次第に顔を近づけていく飛鳥。隣でウキウキと見ている神楽の視線が痛かったが、気にしていられなかった。

 というのも、

(ああああああ!! 私の初めてが消えていくぅ! ……でもそんなに嫌じゃない……やっぱり相手が誾だから―って、私はなにを考えているの!? これで近くに読心術使える人がいたら羞恥よ!)

 精神上不安定だった。

 ちなみに神楽はニタニタと見ていた。そう、にこにこでもニヤニヤでもなく、ニタニタと……。

《……あのな、神楽。契約はこんな悪戯のために使うもんやないんやけど……》

「黙って」

《……尻に敷かれている俺って一体なんやねん……》

「その表現だと私とあんたが夫婦みたいじゃない。訂正」

《……悪うござんした》

 飛鳥は覚悟の意の中、〝迦紅襲緻(カグツチ)〟に言いたい事があった。

 ……たまには怒っても、いいんじゃないかな?

 だが飛鳥にはそれを言う気力、活力が残ってはいなかった。

 フ……。

「ん……」

 すでに唇同士で繋がっていたのだから。

「?」

 突然唇に柔らかい物が触れたため、不自然に思ったのか、誾が目を開けようとする。驚くことに一瞬にしてそれに気がついた飛鳥は、バッとその場から離れた。

「飛鳥。今俺に何か―」

「べ、別に何もしてない!」

「……」

 誾の興味の感情が、徐々に変わってきている気がした。

「よし。飛鳥ちゃんの初めても消えたところで―」

「?」

「わあああああああああああ!!」

「突然発狂しないでよ、飛鳥ちゃん……まあいいや。ともかく、これで契約を結ぶことができるね。―〝迦紅襲緻カグツチ〟」

《かしこまりー》

 すると今まで『浮遊枠』のあったところからまた焔が燃え盛り、次は一つの綺麗な赤い石となった。

「飛鳥ちゃん。手を」

「は、はい……」

 神楽が触れていた面とは逆の面に、飛鳥は手を置いた。

 するとその瞬間。赤い宝石から眩い光が放たれ、赤い光で作られたと思われるかんなの花が、二人を赤い空間に閉じ込めるように包んだ。

「我。火紅羅大神主神楽は、貴、契約者(アグリメア)陽向(ひむかい)飛鳥(あすか)に対し、焔〝迦紅襲緻カグツチ〟尊との通神回路を接続、契約を契る事を認可する。―飛鳥ちゃん。接吻」

「は、はい……」

 飛鳥は少々躊躇(ためら)いながらも、神楽の唇に自分の唇を近づけていく。

 フッ……。

 その瞬間。飛鳥は闇に包まれた。


「……姉上?」

「飛鳥ちゃんは無事に行けたかな?」

 神楽は心配そうに倒れている飛鳥を見た。

現世(うつしよ)の裏側。祀られた神の世界。―虚世(うつほよ)に……」


   ●



「―大丈夫か? 飛鳥ちゃんやっけ?」

 突然の関西弁に起こされ、ガンガンと響く頭のまま、飛鳥は少しずつ目を開ける。

 そこには誾とあまり年齢が変わらない紅い少年がいた。

「ほっ。起きたか。飛鳥ちゃん、虚世(うつほよ)は初めてやろ?」

 虚世と呼ばれるところが一体どこであるかは知らなかったが、一瞬で察した。

 どこか現世に似ているが、どこも現世に似ていない空間。上を見上げると果てしなく広い空。前を見ると、まっさらで広大な土地が広がっている。現世にありそうな空間だが、空気が違った。

「え、ええ。……ですが、あなたは?」

 ええ!? もう忘れたんか!? と、紅い少年は驚愕した様子で飛鳥を見る。


「〝迦紅襲緻カグツチ〟や、カ・グ・ツ・チ。ホンマに覚えてへんの?」


「え、ええええ!?」

「うおっ。そこまで驚くことか?」

 ……あー、でもそうやんなーと、カグツチを名乗る少年が言う。

「俺は若くして祀られた神やからな。まさかこの年齢で、みたいなところあるんやろ?」

 コクコク。と、飛鳥は喋らずに頷くのみ。この状況がまったくもって理解できてないようだ。

「……君、やっぱ可愛いなぁー。神楽とは大ちが―」

 ドッシーン!


「……姉上。一体どうしたんだ?」

「いや、ちょっと殺意が湧いてきそうな事を言われたような気がして」


「……あいつは鬼か」

「は、ははははは……」

 飛鳥には笑うしかなかった。

「まあ、時間はたっぷりあるし、身の上話でもさせてくれや」

 そういって、カグツチは静かに語り始めた。


「俺はな。生まれた時に母親を俺の火で焼きかけてしまったんや。もちろん父親はぎょうさん怒った。でも、俺はなーんも知らんかったし、まさか自分が神に生まれているなんて思いもしなかったから、父親にも母親にも甘えようとしたんや。だけど、父親は怒っているし、母親はいつ死ぬか分からない状況。誰に甘えりゃいいんやって話になってしもうてな。自分を塞ぎこんでしまったんや。

 でも結局、神界を渡るには、やっぱ父親の命令しっかり聞いとこ思って、従順になったんや。でも、父親はまだ怒っていた。挙句の果てには剣まで取り出して俺を殺そうとまでしたんや。俺も殺されたないから、必死に逃げた。そしてたどり着いたのが、この虚世(うつほよ)や。

 他にも神様おったし、色々聞いて回ったら現世に神社言うの建ててもらって人の事守って言うさかい、俺もそれやったら生きてる意味ができるかなって思ったんや。訊くところによると、この虚世では年齢が重ならないらしく、今の俺は虚世に来た当時からなーんも変わっとらんってわけや。そんで神楽の父親の建てている神社の主神になったわけや―って、寝てる!?」


「くぅ……、ふぁああ、あっ、すいません。虚世に慣れていないもので、つい……」

「つい、やないやろ! 人がええ話しとる最中に寝るか、普通!」

「それよりも早く契約しましょう」

「酷く疎外感!」

 ふぁあああと、腕を伸ばした飛鳥は、もう一度目を閉じ、契約の事を考え始めた。

「はあ……ほんじゃま、やるか……」

 カグツチも目を瞑り、神の力を呼び醒ます。

「我。焔〝迦紅襲緻〟尊の下に来たりし契約者(アグリメア)。汝の願いを聞き入れよう」

 関西弁はすっかりと消え、紅い光を纏い始めた。真のカグツチの覚醒である。

「私は……。守る力が欲しい。守られてばかりは嫌!」

「……汝の願いに対し、我が契れる契約は一つ。それも汝の力次第だ。契約内容を開示する。奉納は炎を主柱とする。代演として、活動時間、つまり寝るまでの時間を減らすというものも可能である。その際、執行が終了した後、眠りに就くことを用心せよ。……契約」

 カグツチの号令と共に、纏っていた紅い光が飛鳥の方へと移り始める。

「……」

「?」

 その時カグツチの顔が一瞬曇ったような気がした。

「……契約は成り立った。現世へ転送する」

 冷たく言い放った顔を飛鳥は不自然に思いながら、白い光に包まれて意識を失った。


   ●


「おかえり」

「おかえり」

 よく似た男女の声で飛鳥は目覚めた。目を開けると、心配そうに覗きこんだ神楽と、無表情の誾がこちらを見ていた。

「どう? 成功した?」

「え、ええ。成功……したのかな?」

「一回執行してみれば?」

 そう促されたので契約執行の段階を踏む。

「……浮遊枠って、どうやって開くんですか?」

「あー。頭の中で『開け!』って思えば出てくるよ。あとは、言葉で説明する感じ」

「……『浮遊枠』を表示します。契約を執行するため、火紅羅神社との通神回線に接続」

 昨日の誾のように言い、脳内で『開け』と念じてみる。すると、飛鳥の左横に『浮遊枠』が表示された。

「あの……言霊は……」

「言霊は適当にそれっぽい事を言えばいいんだよ。基本それだけ」

 突然適当に言えと言われても言えるはずがない。飛鳥は少し考えた後。

「……我。神との契約から守護する力を与え給わる。守れる力を我に給われ!」

 『浮遊枠』が光りはじめた。

「えっと、奉納内容は……」

「そうだねー……。それじゃあ、そこのろうそくの炎でいこうか」

 飛鳥はろうそくの炎を指差し、

「炎を奉納。許可願います!」

《契約内容【神繕】執行を許可します》

「契約執行! 【神繕】!」

 ……何も起きなかった。

「神楽さん! これは一体何の契約なんですか!?」

「神繕……神を繕う……神の様に繕う……? ……誾」

「なんですか?」

 ボーっと飛鳥を見ていた誾は、立って応対する。

「ちょっと加速の契約使ってみて。奉納内容は……そこのろうそくで」

「わかりました。……『浮遊枠』表示。通神回路接続」

 飛鳥と同じ、真紅の『浮遊枠』が表示する。

「一瞬にして一撃。加速は力。力は繋がり、繋がりは契約」

 やはり適当でいいみたいだ。飛鳥は前回の長々とした言霊を聞いていたので、違いがすぐ分かった。

「……誾は、攻撃や、長距離で使うものと、短距離で使うもので、言霊を分けているみたいだね」

 神楽は深く納得していた。

「炎を奉納。許可を請う」

《契約内容【加速】執行を許可します》

「契約執行。【加速】」

 ヒュンと、一瞬にして本殿の端から端を走った。その速さ三秒程である。

「一回戻ってきて」

 またヒュンとこちらへ戻ってくる誾。

「じゃあ、次は飛鳥ちゃん。誾に両手を(かざ)してみて」

「へ? (かざ)すだけでいいんですか?」

 言われたとおりに誾に両手を翳してみる。すると、光が飛鳥の手から放たれ、誾の方に吸収されていった。

「えっ? えっ!?」

 飛鳥はなにがなんだか分からない様子。

「じゃあ、誾。もう一回契約執行してみて」

「はい。……加速」

 また端から端へ走っていく誾。だが、その速さには、少し磨きがかかっていたように見えた。

 速さは一秒。驚異的な早さである。

「やっぱりそういうことか……」

「ど、どういうことなんですか!?」

 飛鳥は、なんとなく答えが分かってしまっていたが、信じられなかったので神楽の答えを待った。

 誾も【加速】で戻ってきている。

「飛鳥ちゃんの契約―【神繕】は、他の契約を強化する契約だ。前例は全くないけど」

 飛鳥は愕然とした。何せ、この契約は『私のために戦え』と強要するような契約なのだ。ここで痛感してしまう。

 私は一生守られる立場であることを……。

「そ、そんな……」

《……神楽》

「なに、カグツチ」

 飛鳥が落胆する中、カグツチと神楽が小さな声で話し始めた。

《誾くんをこっちに連れてきてくれ。少し話がある》

「……わかった。誾」

 飛鳥の精神がどん底にある状況で、誾が虚世へと旅立った。



「……誾くん」

「なんでしょう?」

「君にもう一つ、契約を与える」


 第二章。続……。


三部構成になってしまって、申し訳ありません。

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