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契の花 -誾-  作者: 真涼
1/6

プロローグ 「終焉」

話の間が広く開く可能性があります。ご容赦ください。

「お前は何者だ!」

 男が相対するのは一人の少年。黒い長髪に黒い瞳を持つ齢一四程度の少年であった。

「僕はあなたには用がない。そこの彼に用があるのですよ」

 少年は、男の遠く後ろで怯える子を指差した。その子は齢一二である。

「なに? あいつに何の用だ!」

 男と長い黒髪の少年が相対するのは燃える村。そして、火を放ったのは長い黒髪の少年であった。

「大した用ではありません。ですので、安心して―」

 黒髪の少年はゆっくりと口を開く。


「逝ってください」


 刹那。黒髪の少年の体はその場から消え、男が反応する頃には背後に回っていた。

「しまっ!」

 男は急いで背後に回った黒髪の少年に顔を向けようとする。

 だが、

「遅いですよ」

 少年の手には剣が握られていた。

 そしてその剣を躊躇なく男の背中に刺す。

 グサッ……。

「ぐっ!」

 男が苦悶の表情を浮かべる。彼の背中には深々と刺さっていた。

「ふふっ」

 そして少年が躊躇なく剣を抜き取る。

「ぐぁっ!」

 鮮血が背中から溢れ出す。

 そして彼は抜き取った剣に付着している男の鮮血をなめ、

「ふふふっ」

 再度笑った。

 男の眼が霞み始める。消えて行く意識の中、彼はただひたすらに謝り始めた。

「すまないなぁ母さん。守ってやれなくて。すまないなぁ村のみんな。村をこんなにめちゃくちゃにして」

 そして、霞んだ瞳を怯える子に向け、最後の力を振り絞り、笑った。

「すまないなぁ。父さんもう……ダメみたいだ」

 ゆっくりと、そして力なく男は倒れる。それは鮮血が背中からあふれ出しできた血のたまったところであった。

「邪魔をしなければなにもしなかったのに。ふふっ」

 さて、と黒髪の少年は、怯え続ける子に近づき始めた。

「いやだ……」

 子は逃げだそうとするが、足が思うように動かない。

 ただ、手に付けられた腕輪を一生懸命に握っている。

「ふふっ。ねぇ―くん」

 彼が笑いながら歩み寄る。

「いやだ……」

 子が後ずさる。

「この世にはいろんな人がいると思わない?」

 また彼が一歩ずつ歩み寄る。

「い……や……」

 子の心は恐怖感で押し潰されそうになる。

 恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖。

 気持ちは恐怖一色で染まっていた。

「平凡な人、才能を持つ人、金持ちの人、貧乏な人、二枚目の人、三枚目な人。でもね。最終的には人の種類は二つに分かれると僕は思うんだ」

 彼が一歩歩み寄る。

「あ……ぁ……」

 子の目はすでに焦点があってない。さらに恐怖でなにも言えなくなる。

「それはね……」

 彼が言葉を紡ぐ。

 そして彼はにやりと笑った。


「殺す者と殺されるものさ」


 彼がその子の頭を手で掴む。そして彼はその手をゆっくりと、そしておぞましく掲げていく。

「…………………………………」

 子は抵抗する気力もなく力を失う。だがそれを彼は許すことなく、

「なにも言えなくなったかい? あっ、気絶してしまったのか」

 それなら、と彼は短剣を取り出し、躊躇なく腕に勢いよく刺した。

「いっ!」

 あまりの痛みに、子の飛んで行った意識が再び呼び戻される。

「よく見ておくといい。これが今の君の故郷だよ」

 痛みに耐え、目を向けると……、

 燃える家屋、道に倒れる人々、倒れた父親、そして血溜まり……。齢十二と言わず、すべての人々が見るにはあまりにもおぞましい光景であった。

「そしてこれが……」

 今までの態度とは反転、黒髪の少年の表情が残虐なものになる。

 そして再度にやりと笑い、

「君が見る最後の光景だ!」

 と、言い放った刹那、彼の手――正確には彼が付けている指輪の一つ――が光を放つ。

 その光がその子の体を包み始め……、

「ぐわあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 目を見開き、なにか苦しむような表情をしながら光に包まれた。

 光の中に稲妻が走り、バチバチと音を立てて子を狂乱させていく。

「ふふふっ。はっはっはっはっ! さあこれで完成しますよ!」

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 精神が……引き剥がされていく。

「君には見えますか!」

 黒髪の少年は今までの表情に戻ってはいるが、それでもなにかが違う表情で、笑った。


「僕の世界が!」


光が消え、子が倒れる。

「さようなら……名も無い者よ」

長い黒髪の少年の去り際に、七つの花がその子から飛び出した。

「おや?」

 黒髪の少年は、ふふっ、と笑う。

「これも拾っておきましょうか」

 黒髪の少年はもう一度子の方を見る。さて、そろそろ死んでいるだろうと思いながら。

「!」

 その顔は、黒髪の少年が初めて見せた怒りの顔だった。顔はぐにゃりと曲がり、狂気に充ちている様子がとれる。

「ちっ、殺し損ねたか……」

 黒髪の少年の口調が荒いものとなり、赤く光るその目で気を失っているその子を睨みつける。

「……まあいい」

 黒髪の少年は七つの花を手に取り、燃える村を横眼に見ながら静かに村を去っていった。

「どうせこいつは何もかも失っている。そう、何もかも……」



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