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第十三話:うさぎの絶体絶命、一匹狼王子の襲来!


「……嘘でしょ。なんで、どうして御堂くんがここにいるのよ……!」


ハミング・デリの惣菜コーナー。紺色のエプロンを締め、神業のようなスピードで煮物のパック詰めをしていたうさぎは、自動ドアのチャイムとともに店内に現れた「招かれざる客」を見て、文字通り石化した。


夕暮れ時の活気に満ちた店内に、およそ不釣り合いなほど仕立ての良い高級ウールのブレザー。そして、周囲を寄せ付けない鋭い眼光。

蒼成学園の《《一匹狼王子》》、御堂玲央がそこに立っていた。


「いらっしゃいませ。……お客様、カフェのご利用でしょうか?」


入り口のレジカウンターで、カフェ担当の湊が声をかける。玲央の放つ独特の威圧感に、湊の背筋に冷ややかなものが走った。


(……なんだ、このガキ。ただの金持ちじゃねえな。この刺すような視線……どこかで見たことがあるような……)


湊は、かつてうさぎが話していた「学園の鼻持ちならない連中」の一人ではないかと直感する。

同時に、うさぎに向ける玲央の視線に、ただの知人以上の「執着」を感じ取り、無意識にカウンターを握る手に力が入った。


玲央は湊の警戒心を悠然と受け流すと、真っ直ぐに惣菜コーナーの奥、震えながら背中を向けているうさぎへと歩み寄った。


「……随分と熱心な『公務(アルバイト)』だな、白姫。その頭の校章、なかなか笑えるファッションじゃないか」


低く、愉しげな響きを含んだ声がうさぎの鼓膜を叩く。うさぎは悲鳴を飲み込み、錆びついた人形のようなぎこちない動きで振り返った。


「み、みみみ、御堂くん!? なぜあなたがここに!? 迷子? もしかして、高級住宅街へ帰る道を見失ってしまいましたの!?」


「残念ながら、俺の辞書に迷子という言葉はない。少し腹が減ったんでな。この店で一番『腕のいい』奴に、何か食わせてもらおうと思って来たんだ」


玲央の視線が、うさぎの頭に巻かれた「校章ハンカチ」と、脱ぎ忘れた「片方のローファー」をなめるように動く。

うさぎは顔を真っ赤にし、必死に「お嬢様スマイル」を維持しようとしたが、引きつった頬がそれを許さない。


◇◇◇


「ちょっとうさぎ、お友達? 随分とシュッとした男の子じゃない」


厨房の奥から、店長の結衣が手を拭きながら顔を出した。玲央は結衣に向かって、短いが礼儀正しい会釈を返す。


「初めまして。白姫さんには学園でいつも……世話になっています。御堂です」


「あら、まあ! うさぎにこんな素敵なお友達がいたなんて。湊、お客様をカフェコーナーへご案内して。うさぎ、あんたが担当しなさい。惣菜の方はもういいから」


「えっ、店長!? ちょっと待ってください、あたしはまだ仕込みが……!」


「いいから行きなさい! お友達を待たせるなんて失礼よ」


結衣の鶴の一声で、うさぎは絶望の淵に叩き落された。


案内役の湊は、面白くなさそうに玲央をジロリと見やる。


(……こいつ、うさぎの何なんだよ。あいつがこんなに慌てふためくなんて、ただのクラスメイトじゃねえな)


腹の底で渦巻く得体の知れない焦燥感を押し殺し、湊はぶっきらぼうに言った。


「……こちらへどうぞ。足元、気をつけてくださいよ。うさぎが散らかした野菜のクズでも落ちてるかもしれないんで」


「……ああ。構わない。慣れている」


◇◇◇


カフェコーナーの小さなテーブル。

玲央は窮屈そうに椅子に座り、メニュー表を握りしめたまま震えているエプロン姿のうさぎを見上げた。


「さて、白姫。……いや、――《《店員さん》》。俺をもてなしてくれるんだろう?」


(……あんまり調子に乗ると、本当にひっぱたいてやるんだから……っ!)


うさぎは周囲に聞こえないよう、心の中で猛烈に毒づいた。しかし、玲央は怯むどころか、さらに身を乗り出して楽しげに囁く。


「いいぜ。だが、その前に注文だ。……お前が一番自信のある料理を持ってこい。学園では見せない、お前の《《本当の味》》ってやつをな」


湊が離れた場所から、苦々しい顔で二人を注視している。

店内の空気は、かつてない緊張感と、一匹狼王子の気まぐれが生んだ妙な熱に包まれていた。


学園の「共犯者」から、店員と客へ。

うさぎのサバイバルな放課後は、予測不能な訪問者によって、さらなる大混乱の渦へと突き進んでいくのだった。



(第十三話 完)


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