1119.天界裁判8
「まぁそう焦るなよ悪人さん。マイネさんを重罪にしたいのはわかるけど、あんたの一存で決められるわけじゃないだろ?」
「ぐ、減らず口を……」
「アクニエル、声が聞こえん。少し黙っていろ」
やーい、メタトロンに怒られてやんの。
「弁護人も、挑発しないように」
こっちも窘められてしまった。やっぱりべろべろばーっ、は、やり過ぎだったか。
『その火事で死んだ人たちは、本当にただ焼き殺されただけでしたか?』
っと、ようやく目的の証言の場所に来たな。
俺の反応に天使たちも次の言葉が聞かせたかったことなのだと気付いたようで、無駄話を止めて聞きにいる。
『ふむ……良い着眼点ですヒロキ。彼らの一部はマイネに感謝しておりました。殺してくれてありがとう、と。ゆえに救済措置は十分あるでしょう』
「これは……」
ウリエルさんが思わず呟く。
同じ地獄の管理者だからか、五官王の言葉を受け、顎に手を当て思考を始める。
「えー、確かに、マイネさんの行いに関して、地獄でも罪はあると思われているようです。また、正義の味方ではないのに正義の味方を偽ったことも地獄では罪になる様子。とはいえ、今回は天界裁判。必要なのは死にたくないと叫んでいたとされる一般人を無理矢理焼き殺した罪があるかどうか」
「それは……」
ウリエルがはっと気づいたように顔を上げるが、無視して俺は続ける。
「つまり、今回の告発にあたる一般人たちが死にたくないと告げていたにも関わらず、問答無用で焼き殺した、という点において、弁護側は瑕疵があると指摘します。つまり、クモリエルにより姿を異形へと変えられた一般人の中に、もう死にたい、殺してくれ、そう願っていた者もいた。そして彼らはマイネさんの行動により、間違いなく救われたのです。五官王がそんな彼らが居たことをこうして証言してくださいました」
「くっ、やられた……」
ウリエルが思わず呻く。
何がやられたかって? おそらくこの先の展開まで理解したようだ。
ま、しばらく俺の演説聞いてくれよ。
「さて、今回告訴側に立ったウリエルさんはこう言いました。死にたくないと叫ぶ民間人に対して火を放ったとされているが? と。しかし、五官王様のお言葉により、この告訴に間違いがでてきましたね。さてウリエルさん。果たしてマイネさんの行動は無理矢理の殺害だったのか、それとも死による救済だったのか。死んだ一般の方が何人いて、何人が死にたくないと叫び、何人が死なせてくれと叫んでいたでしょうか?」
「そ、それは……」
「お、おい弁護人、さすがにそれは証明できんだろう! 無茶振りだぞ!」
おっとアクニエル君素晴らしい合いの手だ。おかげでメタトロンとウリエルさんが渋い顔したぞ。
「ええ、その通りです。貴方に同意するのは癪ですが、無茶振りなんですよ。まさに悪魔の証明。どちらがどれだけいたのか。それは死んだ一般人たちしかわかりません。あるいは彼らが向かった死後の世界で判明するかもしれませんが、ここ、天界においては証明不能! つまり、先ほどウリエル様が告発して来た【死にたくなかった、もう普通の暮らしも出来ず、他の人と分離も出来ない不特定多数の集合体】を焼き殺した罪、それが証明できなくなりました」
「なっ!?」
「ええ。だってそうでしょう? もしかしたらそれは集合体の中のたった一人の意見かもしれない。そしてその他大勢の集合体となった一般人は、死んで救われたいと願っていた。つまりマイネさんの行いは救済。天界において迷える子羊たちに死の安らぎを与えることは救済である。天使法典にもそう書かれてあります」
これこそがウリエルが理解してしまったパワープレイ。
たった一つの証言で元をうやむやにして盤面をひっくり返す。
こうなってしまえばもうどちらが正しいかなど天界だけで議論は出来ない。
「いかがでしょう裁判長? 原告側の告訴内容の一つはもはや審議不能かと思われますが?」
「う、ううむ……しかし……」
納得いかないだろうなぁ。
でも証明できないのも確かなんだよね。
「ま、待ってくれ裁判長。弁護人は審議をうやむやにしようとしているが、死にたくないと願っていたものが居たことも確かに事実なのだ。一人でもいるならば……」
「大衆の正義・大衆の堕落の定義」
「……うぐ」
「天使法典に曰く、国家あるいは集団において、たった一人の正義と大衆の堕落があった場合、全てを堕落として焼却する。ソドム・ゴモラの審判に則る、とあります。つまり個よりも大衆の状況に左右されるとありますが?」
「た、ただの人間がなぜ天使法典の内容を!?」
ふ、さっきお兄さん天使から貰ったからな。アイテムボックス内に入れておけばメニュー画面から必要な情報ぶっこ抜き出来るの便利だよね。さぁて、どう出る裁判長?




