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貨幣を貪る者達、議員の仕事は終わらない

 帝国の復興は順調であり、中央銀行の業務もあらかた軌道に乗せることができた。そろそろ帝国に肩入れするのも潮時だろう。サーヴェルは私に専属顧問にならないかと誘いをうけたが、「自分はあくまでマルキアの執政官ですから」と丁重に断り、帝国を後にした。





 私は実に2年ぶりのマルキアに帰国を果たした。エリスが私たちが不在時のマルキアの財政について報告書をまとめてくれた。マルキアの国家運営は堅調であったものの、少し気になる点がある。


「なるほど、中央銀行券を発行することで予算的な制約はないものの、それにしては増えすぎているように思えるな。労働者の賃金はどうなっている?」


「一般的な農作業者や鉱山夫の賃金は、日当銀貨3枚程度のようです。以前と比べて増えたわけではなさそうです」


「そうか。国が中央銀行から借り入れして支出を続けている以上、世の中に存在する貨幣の量は増えているはずだ。しかし労働者の賃金が上がっていないのなら、それはどこかに貯蓄されているのだろう」


 マルキアに流通する貨幣を金貨から銀行券に移行させたことによって、儲けを自宅にため込むことが物理的に簡単になった。個人が貯蓄をするのは決して悪いことではないが、それが特定少数の者に極端に集中するのは、やはり健全ではない。


「まずは貯蓄の実態を炙りだすために手をうとう。エリス、銀行に新たな業務を依頼するように伝えてくれ」


 中央銀行が、金貨銀貨だけでなく銀行券を預かる事業も始めたことをお触れとして出した。これに対し国内の商人たちはこぞって中央銀行を訪れ、ため込んだ中央銀行券を預けていった。それもそのはず、金貨ほどではないにしろ、家にそれ相当の価値のある紙を置いておくのは、やはり盗難のおそれがある。であれば使用するのに最低限の銀行券を手元に残し、あとは預かってもらおうというのは自然な発想だ。


 この預かりに対する証明書は、今度は流通させるつもりはないので利用者氏名を明記し、ついで額面を記した証書を発行した。これでマルキアは国内の主要な商売人の資産の実態を把握することができるのである。その中で何名か不自然にも大量の資産を蓄えている者がいた。


「この男は何をしている商人なのか?」


「鉱山開発の責任者のはずです。国が査定した計画書では、重労働のため、労働者の賃金は日当銀貨5枚となっていたはずですが」


「ただちに現地に調査員を送ろう」


 現場の作業員に聞き込み調査を行った結果、労働者たちは日当銀貨3枚で働いているとのことであった。


「なるほど、意図的に労働者の賃金を高く申告して予算を獲得し、実際には低い賃金で働かせて差額を着服していたか」


 私たちは集めた証拠を商人に突きつけ、商人は事実を認めた。


「処遇はどうなさいますか? 中央銀行の資産を差し押さえますか?」


「いや、その必要はない。ただちに労働者に適正な賃金を支払うように命じる。もちろん過去の分も遡ってだ」


 商人は資産を切り崩して労働者たちに正規の賃金を支払った。また今後の再発予防として、国から時折監査役を送ることも通達した。





「次の案件です。この者は国から農耕地の開拓事業を委託されている商人なのですが、どうも妙なのです」


「どのように?」


「現地を監督したり、労働者に給料を支払ったりしているのはどうも別の人物のようなのです」


「労働者たちの雇い主ではないのか? しかし国に提出された事業所には人を雇って荒れ地を開拓すると記されているな。資金の流れを調査せよ」


 調査の結果、この男は国から任された農耕地開拓の事業を、別の人物に再委託していることが分かった。しかもその際に、国からつけてもらった予算よりも少ない金額で別の商人に頼んでいた。すなわちその差額で儲けていたのだ。


「いわゆる中抜き屋だな」


 将来的に事業の数が膨大になって、国が直接現地に委託せねばならないときは、事業の割り振りを仲介屋に任せるときが来るかもしれないが、今はそのときではない。なにより中抜きは何の生産物も生み出さずに金を得ることができる。そのような者がおっては、現場で汗を流して働いている労働者に示しがつかない。


「この者を召喚して資産を差し押さえよ。国の関与しない仲介については、現時点で禁ずるものとする。今後仲介者が間に入る場合は、事業計画書にそれを明記することを命じる」





「次はこの人物です」


「まだいるのか」


「この人物は農作物を生産者から買い取り、それを市場に販売している者です」


「ふむ、農業従事者も自身で販売ルートを持っていなければ、誰かに販売を委託するのも悪くない方法だ」


「しかしこの男の儲けは相当なものです」


「彼がそこまで儲けられるのならば、生産者から安く作物を買いたたいているか、消費者に高額で売りつけているかだ。悪質な者であれば、生産物を買い占めて値段を釣り上げているかもしれないな」


「そのすべてかもしれませんね」


「至急調査員を送って仕入れ価格と消費者の買値を調べさせろ」


 調査の結果、作物の市場価格は大きく操作されてている形跡はなかった。この者は生産者の作物が余っているのを逆手にとって、相場よりも相当安く仕入れていることが分かった。生産者たちは本来得られたはずの所得をこの者に抜かれている形となる。


「悪質な転売屋だな。このような状況にならないように、国が買い取る農作物の価格を保障するよう通達しよう」


 作物を不当に安く仕入れようとする者がもしいれば、その者に売るくらいなら国がすべて買い取ることについて、あらためて農業従事者たちにお触れをだした。これで生産者が損をすることも起きないだろう。





 貨幣を潤沢に供給すれば、儲けようとする知恵はどれだけでも出てくる。しかし最も大切にしなければならないのは、末端の労働者の賃金だ。彼らを冷遇すれば国の発展はあり得ない。潤沢な資金も一部の者達の懐にたまっていくだけでは意味がないのだ。


「もう私のできることはないだろうと思って、気楽に過ごそうと思っていたのだが……」


「まだまだやることがありそうですね」


 つい最近まで金貨銀貨でやりとりしていたこの国が、貨幣制度の発想を変えることでここまで発展できた。祖国では政治家として母国を導くことはできなかったが、そのような自分にも二つの国の争いを止めただけでなく、共に発展する道しるべをつくることができたのだ。しかし貨幣が溢れる世の中には、それを悪用せんとする輩が沸いて出てくるのも必然なのかもしれない。それによる弊害を取り除くことは、その変革の中核を担った私の責務であろう。これからのマルキアのために、私は執務室に座った。


「そういえば、銀行の中の金貨、どなたも取りに来られませんね」


「ああ、もうずっと預かりっぱなしで良いんじゃないかな」





『国会議員が異世界に転移!?現代の貨幣理論で異国を救済せよ!!』


~完結~


ご愛読いただき、本当にありがとうございました。「国会議員が異世界に転移!?現代の貨幣理論で異国を救済せよ」これにて完結です。

初投稿の作品でしたが、皆様のご支援が励みになり、無事完結させることができました。

よろしければ、ご評価・ご感想等いただけると幸いでございます。


また、次回作


『何の特殊技能もない一般男性が国を救う!?獣人の国シルメアの異世界救国紀』

https://ncode.syosetu.com/n4470hc/


を連載中でございます。こちらもお目通しいただけると嬉しいです。


読者・投稿者の皆様のご多幸をお祈りしております。


大和ムサシ

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