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貨幣の力は無限大!不戦の魔術師再び

 貴族連合軍は大部分が領民兵、傭兵団とのことであった。彼らを少数の貴族の血縁者達とその私兵たちが率いているという形だ。帝都へ向けて進行し、不安定な帝国の首脳陣を掌握するつもりらしい。


「貴族たちの反乱か。やはり一筋縄ではいかないようだ。地方をまとめあげる領主として存在価値を見出していたのだが、国に反逆する以上は、その権力を剥奪するしかないな」


 貴族連合軍の反逆により、帝国議会ではその対応についての論が交わされていた。


「こちらも軍を編成したいのだが、かなりの者が退役してしまったため、帝国軍が出せる戦力ではよくて五分といったところです」


 帝国兵士の大半は民間に戻っており、かつてマルキアの地を踏んだような軍は起こせないとのことであった。


「それで十分です。そもそも戦闘して勝つつもりなどありません。血を流すのは私の考えに反しますからね。貨幣で解決させてもらいます」


 どう対応しようか狼狽していた帝国議会にとって、私の発言は救世主のようだったのだろう。軍の指揮権、および予算の執行について、全権が私に委ねられることになった。


「エリス、まずは貴族連合軍の兵達に宣伝を。貴族連合を離脱すれば、帝国軍兵士として日当銀貨8枚の雇用を保障すると伝えてくれ」


「かしこまりました」


 帝国は貴族連合軍に、公務員募集のお触れをだした。


「すごいなこの給料は。今の倍以上じゃないか。これでは貴族の領地でぐずぐずしている場合ではない!」


「それに家族の安全や住むところも保障してくれるらしい。これはいよいよ見限るときか……」


 その夜、貴族連合軍から多くの兵が脱走した。脱走した彼らは貴族達の領民であったが、貴族たちにそれ以上の義理立てする理由はない。彼らは家族の元に帰り、より理想的な生活を求めて帝都兵士となる準備をはじめた。


「領民兵の多くが貴族連合軍を離脱したようですが、未だ彼らの下には傭兵団が残っているようです」


「彼らは純粋に金で雇われた傭兵達だ。一見すると彼らはより多くの資金で転ばせられそうだが、傭兵としてのプライドがそれを許さなかったのだろう。彼らは依頼主との契約を全うすることを信念としており、一度成立した契約を後から曲げることは、今後の信用にかかわるために決してしないそうだ」


「芯の通った方々なのですね。その戦力は未だ強大とのことです。どのようにいたしましょう?」


「次は傭兵団を貴族連合から切り離す。エリス、この書状を送ってくれ」


その翌日、傭兵達にも帝国から文書が届いた。


『諸君らが筋を通す人間たちであることを見込んで依頼する。これから指定の地点に帝国軍1個師団を派遣する。おそらく諸君らと同程度の数のはずだ。諸君らもそこへ向かい、自分の職務を全うしてほしい』


 その知らせをうけた傭兵達はただちに指定された地点へ向かった。向かった先は鉱山と畑があるごく普通の村であり、たしかに帝国軍がすでに到着していた。しかし彼らは戦闘するつもりどころか、畑を耕していたり、鉱山を掘っていたりする者ばかりだった。


「代表、これはどういうつもりでしょうか」


 ひとりの傭兵が団長に対して尋ねる。


「なるほど。これは貴族たちの時代は終わったかもしれないな」


「彼らはまるで無防備ですが、強襲しますか?」


「その必要はない。我々はここで時間をつぶせばよい。なんなら帝国軍のやつらを手伝ってやっても良いぞ」


「それでは貴族たちとの契約違反にはなりませんか?」


「帝国軍をここで釘付けにしてやってるんだ。何も問題はあるまい。憎らしくも帝国は、我々と同規模の人数をここに置いているようだ。同数の敵と睨み合っていましたと報告させてもらうさ」


 かくして領民兵に加えて、傭兵団も貴族連合軍を実質離脱する形となった。その結果、貴族連合軍には貴族の血縁者達とその私兵のみが残ることとなった。こうなっては貴族連合は、実質戦闘力を失ったも同然である。貴族たちは帯剣して軍を率いているものの、それは己の存在を誇示するためであり、実際に命を危険にさらして戦う気はまったくない。領民兵と傭兵を失った貴族連合軍は、今や貴族自ら交戦しなければならない状況である。軍の士気はきわめて低く、統率は乱れていた。その前に帝国の正規軍が整然とした隊列で現れた。


「ばかな、帝国軍のほとんどは傭兵団がおさえているはずではなかったのか!?」


 貴族連合軍の目の前には、開戦前に揃えた帝国軍の全軍がいた。傭兵団が足止めしている帝国軍は、厳密には軍を退役した者達だったのだ。だがそのような内部の事情は、貴族たちには分かるはずもない。なぜなら以前から正規軍にも農耕や鉱山開発をさせていたので、所属上退役しているかどうかは判断できない。畑を耕しているからといって、それは帝国軍であるという前提で考えざるを得ないだろう。


 もはや戦闘を行うまでもなく大勢は決した。貴族たちに降伏勧告をおこない、彼らはこれを受諾した。帝国への反逆罪として領地を没収することも検討されたが、この案はあえてとらなかった。その代わり貴族たちに自分たちの領地の開発を命じ、労働者たちにしかるべき賃金を支払うことを約束させた。今ある仕組みを大きく崩さず、生活水準を上げる方がまずは良いだろう。代償として貴族たちは蓄えていた資産をどんどん吐き出すことになるが、その金が民間で循環するようになるため、大変望ましい状況だ。


こうして貴族たちの反乱は終結し、貴族たちは富と権威の象徴から、土地開発の経営者という立場に移行していった。


兵士もいわゆる労働者。賃金の高い方になびきます。次回は再び、帝国議会での舌戦が繰り広げられます。

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