第8話 あんたとはただの契約でしょ?
私がルーカスを連れて家に戻ると、まず両親が飛び出て来た。
「アリーシャ!三日も帰って来ないから心配して…!」
と言いながら背後にいるルーカスを見るや、二人はのけぞった。
「あ…アリーシャ、そ、それ…。」
私が説明しようとする前にルーカスは後ろからぎゅうっと抱きつき、爽やかに挨拶した…つもりだった。
「アリーのパパさん、ママさん。これから死ぬまでヨロシクな。」
ずっとという意味で言ったのだろう。
ただ、死ぬまで、という言い方はマズかった。
それを聞いた両親はそのまま後ろにバタンと倒れ、使用人たちが慌てて駆け付けていた。
とりあえずルーカスの頭をボコッとまた殴ってやった。
♢♢♢
落ち着いた両親と向い合せにソファに座り、改めて私にべったりなルーカスを紹介した。
「あの…これはルーカスって言って…。」
すると父親が最後まで言う前にルーカスから目線を外しながら言った。
「言わなくてもわかる。こ…黒龍様じゃないか。」
黒龍…様?
なんで様とかつけてんだろ。
母親はその隣でガタガタと震えながら、私の右手の甲を指差した。
「そ…その右手を見ればわかるわ。」
そう、私の右手には龍のタトゥーみたいなのがいつの間にか刻まれていて、水で洗っても全然落ちなかった。ルーカスが言うには契約者に現れる「黒龍の刻印」らしいが、正直めちゃくちゃダサいので消せるなら消したい。
それにしても何でこの二人はこんなに怖がってるんだろう。
そう思いチラッとルーカスを見ると、彼の目がギンギンに金色に光っていた。
コイツ…!
「こら、威嚇をするんじゃない!」
私がまたルーカスの頭をぺしっと叩くと、二人は「ひぃっ」と小さな声を上げた。
そして父親は恐る恐るルーカスの方に目を向けた。
笑顔のつもりだろうが、引きつり方が尋常じゃない。
「あの…黒龍様?」
「ああ、何だ。」
何だかコイツ、いきなり偉そうだな。
「黒龍様には我が家で一番の部屋を用意いたしますので…。」
と父親が言いかけた時、ルーカスはまたもや目を光らた。
「俺はアリーと一緒だ。」
彼は平然と言った。
ちょ…コイツ何言って。
このうら若き乙女と一緒の部屋だと?
いい加減に…、と言おうとしたその時だった。
「俺はアリーは傷つけないが、それ以外の人間など知らんからな。アリーと一緒じゃなかったらこんな家、お前らもろとも吹き飛ばしたっていいんだぞ。」
ルーカスはさらにぎゅうっと抱きしめながら、頬ずりをした。
「アリーも俺と離れたくないよな?」
やばい。
コイツには逆らわんでおこう…。
「も…もちろん。私もルーカスと一緒がいい。」
すると彼はニッコリと笑って、私の頬にキスをした。
「俺の思った通りだ。やっぱり俺たち、相思相愛だな!」
そうして有無を言わさずルーカスは私と同じ部屋にいることになった。
同じ部屋どころか常に一緒。
どこにいても纏わりついてくる。
おい、誰かコイツを止めてくれ!
何でこんなヤツと契約しちゃったんだろ。
私たちが出て行った後、両親はくずれるようにソファから落ちたという。
♢♢♢
部屋に戻ると頼んでおいたお風呂の準備が出来ていた。
出来れば両親との話もお風呂の後が良かったが、どうしても先にということなのでそのままだった。
けど絶対に服とか髪とか臭かったと思う。
私は一目散にバスルームに向かい、服を脱ごうとしたところでピタッと手を止めた。
「ちょっとルーカス、出てってくれる?」
彼は不思議そうな顔をして「なぜだ?」と聞き返した。
「見てわかるでしょ。今からお風呂に入るの。」
「だから何で?」
「何でって、今から服を脱いで体を洗うの。裸になるんだから当然でしょ!」
「別に構わないけど。俺も入ってみたいし。人間の風呂ってやつ。」
は?
駄目だコイツ…。
常識というやつがない。
と思ってる側からルーカスは服を脱ぎ出した。
「ちょっ、ちょっと。何してるのよ!?」
彼はポカンとした顔で私を見ていた。
「え?だって裸になるんだろ?」
コイツ、裸で一緒に風呂に入るって意味わかってんのかな。
そもそも黒龍になった時は裸なわけだし、仲良く水浴びしようみたいな?
すぐに抱きついて来るけど、ただのスキンシップで下心とかはないのかも…。
「ほら、早く。アリーも服、脱ごう。」
上半身裸のルーカスは私に近づき、私の服を脱がそうとシャツのボタンに手を伸ばした。
くう…。
上半身裸とか無駄に色気が…。
本当にカッコイイ…じゃなくて!
「っちょ、ちょっと待って!ルーカス、あなたは知らないかもしれないけど人間は一緒にお風呂入ったり、裸を見せ合ったりしないものなの!」
するとキョトンとした顔でルーカスは
「知ってるよ。でも恋人は違うだろ。だって森の中でいっぱい見たし。裸の人間同士が何やってるか。」
「恋人って…あんたと私は…。」
「恋人だろ?俺、あんな熱烈なキスされたの初めてだし。あれって人間の求愛行動だろ?」
ルーカスは自分の唇をペロっと舐めると、私の耳元で囁いた。
「アリーを見た時から思ったんだよね。美味しそうだって。」
そしてルーカスはそのままぎゅうっと抱きしめるとまた言った。
「アリー、可愛い!食べちゃいたい!」
食べちゃい…。
それってそっちの意味ですか?
それとも本当に食べる方ですか?
どっちにしても、勘弁してーーーーー!
次話を23時に更新予定。
書き溜めたものがなくなり、猛烈な勢いで続きを書いてます。
勢いって大事ですからね(・v・)
読んでくれている方に感謝です。応援よろしくお願いします。