第21話 黒の魔塔(1)
近くで見る魔塔は思ったよりも大きくて圧倒された。
これ、ビル何階分?上が見えないんですけど…。しかも真っ黒な塔ってやっぱり不気味。
魔法属性によって塔の色も違っており、光り属性の白い塔は遠目にも美しい。
私は意を決して中に入った。後ろのルーカスは目を光らせ、昨日のように封印魔法がないか警戒している。もし何かあってもルーカスさえ魔法を使えれば何とかなるもんね。
そしてドアを開けると、そこは天井の高いホールのような場所に真っ黒なローブを着た人たちが行ったり来たりしていた。相変わらず壁は真っ黒だったが、窓から光も入り明かりもいくつか灯っていて想像よりは明るい雰囲気だった。
私とルーカスに気づくと一人の男が近づいて来た。名をグレイソンと言った。この塔の管理責任者らしい。この人が黒の王宮魔導師のトップかな…。
「よくぞ来た。待っていた。こっちへ。」
私は言われるがままについて歩いたが、真っ黒なローブにダークグレーの髪で上から見下ろす感じはちょっと怖かった。紫の目も何だか怪しく光って見え、口数も少なく空気が重い…。エスティオ王が言ってたことってこういうことかなとちょっと思った。
私はルーカスの手をぎゅっと握った。ルーカスはちょっと嬉しそうだ。
一階のホールのようなところを抜け重い扉をあけると、あの瞬間移動できる魔法陣があり床が白く光っていた。来いと言われるがまま白い床の上に立ち、真っ白な光りに包まれた。
そして見えたものは…。
「えっ…何、コレ。」
私の目に飛び込んで来たのはど派手なカラーの壁と奇抜な衣装の人たち。
ポップな曲まで流れて。
そう、まるでハローウィンパーティのような感じ。
魔物と一緒に踊る者もいれば、一緒にお酒らしきものを飲んでいる人もいる。
するとさっきまで案内してくれたグレイソンは黒のローブをバサッと脱ぎ捨てると、その下には派手なストライプのスーツを着こなしていた。
「みんなー。アリーシャと黒龍様が来たわよー!」
え?急にオネエ?
そして皆の目がこちらを向く。
一斉にこちらにどっと押し寄せ芸能人のように囲まれた。
「きゃーーーーーー!何て可愛い黒魔導師ちゃんなの!最高じゃない!」
「黒龍様ってこんな感じか。思ったより人間っぽいな。」
「もっとよく見せて!見えないじゃない!」
「こら、押すな!」
「黒龍とできてるって本当か?どんな感じか教えろ。」
「ちょっと私が先よ!」
私とルーカスが目を白黒させているとグレイソンがどすの利いた声で一喝。
「うるせーぞ!静かにしやがれ。てめーら全員ぶっ殺すぞ!」
一瞬静まり返り、グレイソンが私たちを見る。
「ごめんなさいね。みんなちょっと興奮しちゃって。」
やっぱりオネエ。この変わりよう、一体なんだ。
「あの…みなさん黒魔導師ですか?」
「ええそうよ。何で?」
「いや、あの…。昨日エスティオ王が言ってたイメージと違って…。」
すると皆急に顔色が変わった。そしてグレイソンは悲しい表情を浮かべた。
「エスティオ王は私たち黒魔導師をよく思っていないのよ。魔物を使役することしか出来ないからね。他の魔導師との協力魔法も使えないし。だからあまり関わりたくなくて、極力喋らないようにしてるの。」
ダークブラウンの髪に紫目の女の子はルーカスの金の腕輪を見ると、少し涙目になりながら話した。
「エスティオ王は私たちが使役した魔物にその金の腕輪をはめさせたわ。その時、私の可愛いラスコーをペシャンコにして危うく死ぬところだった。」
彼女の腕には縞模様の可愛いタヌキ(?)がいた。
グレイソンは周りを見渡し、そして私とルーカスをじっと見つめた。
「私たちはね魔物を魔物だとは思っていないわ。アリーシャ、あなたもそれは同じじゃない?少なくとも黒魔導師はきっとそう。だけど他の魔導師は違う。彼らは魔物は倒すべき存在で、痛めつけることも躊躇なくするわ。もちろん凶悪な魔物は別かもしれないけど…。」
「だから俺たちは外ではアイツらのイメージ通りに振舞って、ここでは自由にしてんの。だいたいこのローブといい魔導着といい、真っ黒って。エスティオ王のセンスには付き合ってらんないね。」
そう言ったのはザックという男の子だ。
改めて周りを見渡すと自分の魔物とリンクさせた服装が目立つ。とするとグレイソンの魔物はシマウマみたいのだったりして。私はクスッと笑った。
そしてグレイソンと目が合うと、彼はニコッと笑った。
「それにしてもアリーシャ。あなた本当に珍しいわね。黒龍を使役してるのもすごいけど、金髪にピンクアイの黒魔導師なんて見たことないわよ。」
そう言われてみると周りはダークブラウンやダークグレー、黒髪ばかりで、目の色はみんな紫だ。
「うーん、本当に不思議。」
そう言いながらグレイソンは私にどんどん顔を近づけてきた。ちょっと近くないかなと思った時、後ろからグイっと引っ張られ、ルーカスがガッチリと後ろから抱きしめた。
「おい、お前。アリーに近づきすぎだ。」
見上げると瞳は金色に光っている。
それを見てまた黄色い歓声が上がった。
グレイソンも少し頬を赤らめている。
「やっぱり噂は本当だったのね!やだー!初めて見たわ。魔物と人間のカップル!」
「いや、違うんです。これは!」
私が否定しようとしても誰一人として聞いていない。
ルーカスもウンウンと縦に首を振り、満足気だ。
「俺とアリーはもうキスもしてるし、一緒にも寝た。わかったな、人間ども。」
ルーカスの言葉に「ひゃーーー!」と湧き起こり、皆顔を真っ赤にしていた。
「ちょっとルーカス!皆さん誤解です!誤解!」
と言っても皆もう舞い上がってしまっている。
これじゃ私とルーカスの良からぬ噂はもう消えそうにない。
私はワナワナと震えながらルーカスを見ると、彼はニヤッとしながら金色の瞳で見下ろした。
「俺からは絶対逃げられないよ、アリー。」
そして毎度のように私をぎゅうっと抱きしめた。
コイツ…やっぱり抜け目ない。
ちょっと悪い顔をするルーカスもやっぱりカッコ良かった。
そうしてみんながワイワイしていると、急に警報のような音が鳴り始めた。
急に皆の目つきが変わり、慌ただしく動き出す。
極彩色の壁を真っ黒なカーテンで覆い、音楽を止め、食べ物や飲み物を一気に引き出しの中へ入れる。
そして皆一斉に黒いローブを羽織りだした。
さっきとは一変、お化け屋敷みたいな雰囲気である。
そしてグレイソンを筆頭に皆、後ろにきれいに並び出した。
グレイソンが私とルーカスに手でこっちと合図している。私たちはすかさずグレイソンの近くに行く。
目の前が一瞬白っぽく光ったと思ったら、そこから5、6人の魔導師を引き連れたエスティオ王が現れた。私は彼を見てそういうことかと把握した。
まずグレイソンがお辞儀をする。
「エスティオ様。今日はどのような用件で…。」
エスティオはぐるっと周りを見渡し、顔をしかめる。
「相変わらず辛気臭いところだね。ここは。」
そして私を見つけるとツカツカと近寄って来た。
「アリーシャ、君に今日は会いに来たんだ。私から渡したいものがあってね。」
そう言うと小さな箱を取り出し、パカッと私の前で開けた。中には指輪(?)が入っていた。何だろう。魔道具か何かなのかな。それとも王宮魔導士の証とか?
私が受け取ろうと手を伸ばすと、ルーカスがその指輪を箱ごと叩き落とした。
「ふざけるな。何のマネだよ。」
エスティオはルーカスをジロッと睨むと、指輪の入った箱を拾った。
「懲りないね、君も。昨日あれだけ忠告したのに。」
「何のことだかわからないな。」
「知らないフリか。聞こえてたくせに。私が見ていて昨日はよくも…。」
「さて、何のことだか。」
ルーカスは知らぬ存ぜぬを決め込んでいたが、明らかに何か知っているようだった。
エスティオはもう一度私に指輪を見せると言った。
「アリーシャ。私の妃になってほしい。結婚しよう。」
「えっ、あ…はい?」
今、結婚しようって…。結婚しようって言った?
「それは承諾してくれたということでいいのかな?」
エスティオはニッコリと微笑んでいるが、脳の思考回路が追いつかない。私が一生懸命、彼の意図を理解しようとしているとルーカスがついにブチ切れた。
「お前、ぶっ殺す!!!!」
ルーカスの瞳がギラギラ金色に光り体から光りが出たと思った瞬間、急にビリビリっと彼の体が痙攣しその場にガクッと膝をついた。
「ルーカス!!!」
エスティオはそんなルーカスを冷たいブルーの瞳で見下ろしながら吐き捨てるように言った。
「馬鹿だな。封印の腕輪がある限り私には逆らえないよ。」
エスティオはまたニコッと笑うと私の手の上に先ほどの指輪をのせ、私の耳元で囁いた。
「あんまり黒龍君といちゃつかないでほしいな。君は私のものなんだから。」
そしてグレイソンをチラッと見ると「また来る。」と一言告げ、去って行った。
私はその場にへなへなと崩れ落ち、グレイソンは頭を抱えていた。
ルーカスはまたも悔しそうに床をダンっと叩き、大きな穴を開けた。




