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東方極限想  作者: みょんみょん打破
古代編
14/67

西行妖と封印 前編 幽々子

 時は千百九十年 二月一六日


 一人の歌聖が死んだ。


 大きな桜の下で。


 しかしその歌聖はなんの無念もない、安らかな顔をして眠っている。


 歌聖は自然を愛し、死ぬまで旅をしてまわった。

 だが自分の死期を悟ると、己の願いでもあった見事な桜の木の下で永眠した。



『願はくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ』

 

 しかしそんな歌聖を、ある者は嘆き。

 ある者は苦しみ。

 またある者は後を追う様に自害した。


 人間達の生気を吸っていった桜は西行妖という妖怪桜になった。


 そして今では白玉楼には二人しか居ない。


 歌聖の娘、西行寺 幽々子。

 幽々子の護衛役、魂魄 妖忌。


 そんな幽々子は退屈していた。

 妖忌には頼りづらいのだろう。

 しかし退屈というが、幽々子は体が弱く、動き回れない。

 それ故、退屈なのだ。

 しかしそこに一人の青年と妖怪が現れた。






「神楽、貴方に会わせたい子がいるの」


 妖怪の山で妹紅の修業をし、頃合いか。と思ったとき、大噴火が起こった。

 そして妹紅と妖怪の山を出て、妹紅と旅を続けているといきなり紫がスキマの中から言ってきた。


 ――幽々子の事か……?


 俺は前の世界での知識を引っ張り出す。

 西行寺 幽々子。

 西行妖を封印するため、自害して木の下に埋まる。

 それで閻魔に白玉楼で幽霊達の管理をする亡霊に転生――転生でいいのか?――したはずだ。

 しかし遂にこの年代まで来たのか……。幻想郷ももうすぐだ。


 俺は了承し、妹紅を永遠亭に帰す。


「行こうか」

「ええ、繋げるわよ」


 スキマに入る。出た先は屋敷だろうか? があった。後ろには先が見えないほど長い階段があった。渡りたく無いもんだ。


「ここは白玉楼。冥界よ」

「冥界ねぇ」

「ええ。妖忌ー!!」


 妖忌。とは先代庭師であり、妖夢の爺、師匠であると言われている半人半霊だ。

 紫が大声で呼ぶと屋敷から一人の老人と半霊が出てきた。

 髪はオールバックで腰まであり、一括りにしている。

 腰には二振りの刀。

 服は男性用の着物を着ている。但し両胸辺りに半霊のマークがある。

 ……ダンディーだ。渋い。そして着物の上からでも分かる筋肉。無駄な肉が無い。


「何用でござりましょう。紫殿」

「いきなりでごめんなさいねぇ、この人は私の旦那なんだけれど。入っていい?」

「ほう……。この方が……。相当鍛えてらっしゃる様で。お手合わせ願いたいですな……」


 妖忌は目を鋭くし、俺を射抜く。

 はっきり言うと断りたい。何を考え、どれくらいの腕前か等が、一切わからない。ごめん被りたい。

 霊力妖力八割でも負けるかも知れない。


「……。妖忌と言ったな。あんたも凄い手練れな様だな」

「ほっほっほっ……。儂はまだまだです」

「今度、修業に付き合ってくれないか?」

「技は盗むものです」


 ――打ち合いには付き合うから自分で見て、感じろって事か。

 まあ後で話そう。


「神楽、行くわよ。妖忌、悪いけど案内してくれる?」

「はい」


 こちらです。と妖忌が俺達を案内した。

 廊下に入り、縁側を通り、一つの部屋にたどり着く。

 ここです。妖忌が案内を終わったからか、引っ込んでいった。


「幽々子ー! 入るわよー! いいー?」


 良いわよー。のんびりした声が部屋から聞こえた。

 ガララッと、戸が開く音がした。その部屋真ん中にテーブルと座布団があり、そこでのんびりと、まったりとお茶を飲んでいる人物がいた。

 ふわりとした青の帽子を被り、ピンクの髪。

 ところどころフリルの様な物を付けている青い着物。


 西行寺 幽々子だ。


「あら紫。こんにちは。そこの男前な殿方は誰かしら?」

「こんにちは、幽々子。この人は前に言ってた私の旦那よ」

「へえー、紫が興奮して話してたのはその人の事なのね」

「や、ちょ、ちょっと……!」

「やあねえ、冗談じゃない」


 ――ほう、気になるな。

 俺を置いていき、姦しく話をしている紫と幽々子。

 しかしその話し、気になるな。


「俺は未知神楽だ。よろしく頼む。所でその話し、聞いても良いか?」

「私は西行寺 幽々子よ~。よろしくね~。その話だけれど……。紫、貴方の事を考えながらじい――」

「きゃあぁああ!! やめて! お願いよ!!」


 ――…………!!


 その言葉の意味を知り、生暖かい目を紫に向け、優しく言った。


「紫……。別に引きはしない。我慢出来なくなったら言ってくれ」

「ちょ、ちが、あ、い、いやああぁああ!! 幽々子と神楽のばかぁああ!!」


 泣き出してしまった。選択を間違ったか? まあいいや。


「なんでここに呼んだんだ?」

「そうそう、私の友人を紹介したかったのよ」


 俺がそう聞くと泣いていたのに、けろっとして言った。

 嘘泣きだったのか、泣き止んだのか。

 嘘泣きだろうな……。

 そして多分会わせたいだけじゃ無いだろう。

 恐らく、いや十中八九幽々子の事。

 西行妖の事だろう。


「幽々子、これから少し泊まって良い?」

「良いわよー」

「ありがとう」


 ずいぶんあっさりしてるな。

 なんか怪しさを感じたが、いくら考えても幽々子にメリットは無い。と思う。そこで思考をやめた。





 その日の夜、幽々子が寝静まった時。

 俺と妖忌、紫は庭の西行妖が見える場所にいた。


「さて神楽――」

「言いたい事は分かる。あれは妖怪桜だな? あれをなんとかしてほしい……か?」

「そうなんだけど。出来る?」

「いや、不可能だ」


 俺の言葉を聞き、紫は驚愕に顔を歪ませる。

 そして続けて言った。


「だが、封印ならいけるはずだ。幽々子の能力はなんだ?」

「封印? そう。あ、確か……――」

「死霊を操る程度の能力でございます。しかし、あの西行妖の影響で死を操る程度の能力を持たれてしまいました」

「むぅ……」


 妖忌に台詞をとられ、ご不満な様だ。

 別にそれくらい良いじゃないかとは思うが……。


「そうか。……、ふむ……」

「何かわかった?」


 俺は無表情のまま、無慈悲に、あたかも今思い付き、答えを導き出したかのように発言した。


「このままだと幽々子が自害してしまうかも知れないな」


 なっ!? そんな声が二人から聞こえるが、続ける。


「この桜は生気を吸いすぎた。俺でもどうにも出来ないだろう。もう人を殺すだけの妖怪になってしまったんだ。幽々子もそれを知っているようだし、なにより嘆き疎んじている。恐らくだが、今度の満開に自害するだろうな。そんな目だった」


 実際俺は結末を知っている。このあと転生だので記憶を無くしてしまうが。

 そんな事を知らない、今気づいた。という風にするのは難しいもんだ。


「ゆ、幽々子が……。自殺……? 嘘でしょ……? 嘘だって言ってよ! 神楽!!」


 大切な友人が自害するという話を聞き、信じられない! といった風に、俺の体にすがってくる。


「私はこれでも護衛をやって、一緒に住まわせて貰っています。幽々子様は時節、言うのです。私が死んだらこの桜はどうなるのかしら。と……」


 妖忌は悔しそうに唇を噛む。


 俺はどうしたらいいんだろうか。

 いや、助ける事は無理なんだが。


 ――でもなんとか……。いや、俺は全能じゃない。なんでも救えると思うな……。しかし、悔しいなぁ。

 だがこれでいいんだ……。


「封印しよう。幽々子は自害してもその苦しみは味わい続けるぞ」

「護衛役なのに何も出来んとは……!」

「神楽は……、なんで淡々と平気でそんなこと言えるの……!?」


 紫が非難の顔で俺に向かって言う。

 俺だって……。


「紫……、お前は俺が平気だと思ってるのか? 一日だとしても友人の窮地をしって、それでも俺がなんとも思ってないと思ってるのか……?」


 紫はその声を聞くととうとう泣き崩れた。

 妖忌は涙を出しはしないものの、地面を殴った。

 その殴った地面は砂埃をあげた。

 

 三人とも自分の力を大事な時に使えなく、苛立ちを覚える。

 大切な者を守る、犠牲を用いてでも。

 犠牲は幽々子。大切な者も幽々子。

 今の幽々子を犠牲にして、もう一人の幽々子を守る。

 幽々子が死に、封印して幽々子を永遠の苦しみから守る。

 それが俺達に、俺に出来る事だった。


    

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