花畑と山
「これから妹紅と旅をしてくる。用があるなら紫に言って、俺を呼んでくれ」
旅をする事を伝えると皆から「えー」と残念がる声が聞こえる。
止めてくれるな、嫁達よ。
なんて馬鹿な事を考えながら、妹紅を呼ぶ。
「妹紅、おいで。今から旅に行こう。勿論嫌なら言ってくれ」
「ううん、私、神楽と一緒に行く。行きたい」
「そうか」
妹紅の頭を撫でた。妹紅は目を細めて気持ち良さそうにする。
――しかし、どこに行くか……。三百年程度は大した事は無いんだよな。
逆に言うと三百年後に何かあるんだ。しかし何があるかはまだ言わないが。
「妹紅、山か花畑。どっちに行きたい?」
俺が聞くと妹紅は花畑に反応した。
「……。花畑行きたい!」
さて、花畑といったら何を想像する?
色とりどりの花?
鈴蘭人形が踊ってる場面?
いや、俺には緑の髪に日傘をさした女性しか思い浮かばない。
しかし妹紅が行きたいと言ってるのだ。
これは行かないわけにはいかない。
――最悪、一戦……。いや妹紅の為なら百戦だってしてやる!
妹紅の笑顔の為に。と俺は気合いをいれる。
場所は変わり、美しく太陽に向いている大きな黄色い花。
向日葵だ。どこを見渡しても向日葵しか見えない。
普通なら――どれくらいかはわからないが―― 一メートルやそれ以下だろう。
だがここにある向日葵はそれ以上。二メートルは越えている。
それだけで質の高さがうかがえるが、舌状花は綺麗に揃えられ、筒状花も圧巻だ。
俺と妹紅はこの景色に圧倒され、魅入っている。
「これは……。凄いな」
「うん! 凄い!」
妹紅は笑いながら向日葵を見上げたり、触ったりしている。
ふと気配を探ると、近づいてくる強大な妖力を感知した。
その気配は俺の後ろに立つと、問いかけてきた。
「どなた? ここは私の花畑よ?」
「すまんな。俺の娘がここにきたかったみたいで。いや、実際俺も娘も魅入ってしまっていたよ」
見事な畑だ。そう絶賛しながら俺は後ろを振り向く。
緑の短い、艶のある髪に綺麗な紅い目。
日傘をさしており、白のブラウス、襟元には向日葵を連想させる黄色のリボン。
赤いチェック柄の上着とスカートを着ている。
前の世界では《USC》と畏怖と尊敬をもって呼ばれていた。
《四季のフラワーマスター》風見 幽香だ。
「ふふ、ありがとう。貴方、見たところ若いけど。娘さんいるのね」
「いや、これでも無駄に長生きしているよ。あの子は拾ったんだ」
「あら? そうなの? なら愉しめそうね」
――何を。
と言おうとしたが、幽香は何故か俺に畳んだ日傘を向けている。
「私……、弱いものいじめが好きなの」
――昔は小妖怪をいじめていたものだわ。
と優雅に、しかしその顔には見惚れる程の狂喜と震え上がる程の狂気が見え隠れしていた。
「貴方はどんな声で啼いてくれるのかしら?」
興奮し顔を紅潮させ、妖艶に舌なめずりする。
しかし妹紅がいる。その上花だってあるんだ。こんなところで戦えない。
そこで俺は妹紅に言った。
「妹紅。俺は少し遊んでくる。離れておけ」
俺は妹紅が離れた事を確認する。
幽香は俺の“遊ぶ”発言にぴくりと眉を動かした。
「へえ、私を前にしてもその余裕。もっと愉しめそうね」
「ここじゃなんだ、上でやろうぜ」
そういって翼を創造し、飛んだ。
少しして幽香も飛んで俺と向き合う。
「貴方、妖怪なのね。知らなかったわ」
「いや、半分人間で半分妖怪だ。この翼は能力だな」
「ふーん、珍しいのね。啼かすの楽しみだ……わ!」
そう言い切るや否や、日傘の先に妖力を集中さし、一点に放出する。
その狙いはやはり俺だ。ていうかそれ以外ないだろう。
軽々と避け、一瞬で背後に回り殴ろうとした。
しかし、察知した幽香が俺の拳を受け流し、背負い投げの要領で投げる。
だが空中では投げが通用しない。
ただ距離をとろうとしたのだろう。
――その行為は俺には悪手だ!
俺は隙が出来た幽香に一気に近づき、刀を創造して斬る。
それを幽香は日傘で防いだ。
「おい、なんだよその日傘。あの速さ、力で必然的に切断力も上がってる筈だぞ?」
何故か無事で、鍔迫り合い? になっている日傘を見て、疑問に思い、その疑問を口に出した。
「この傘は世界で唯一枯れない花なの……よ!」
幽香の気合いと共に押し戻された。
やはり霊力と妖力を全く出していなかったらこんなものだろう。
「いつになったら本気を出すのよ?」
「俺は本気を出してるぞ?」
そう、本気は出している。ただし、霊力や妖力を出していない本気だが。
「違うわよ、貴方からは妖力やらを感じない。まだ全力を出していないのでしょう?」
「全力を出して戦ったらここら一帯軽く吹き飛ぶけど」
嘘は言っていない。ただ規模を収縮して言ったが。
まあ俺が霊力、妖力を全力で出すと衝撃で幽香や妹紅、畑や幽香の家が軽く吹き飛ぶだろう。
その力で戦うと吹き飛ぶどころではない。
「そう。じゃあこれでどうかしら?」
幽香は日傘に妖力を集中させる。
だがその矛先は俺ではなく。
妹紅だった。
「貴方の娘なんでしょう? ならこうしたら貴方は守る為に全力を出さずにはいられない!」
幽香は妹紅に一点集中さした妖力を妹紅に向けている。
その光景を見ただけで。
いや、見てしまった事で、霊力と妖力を八割出してしまった。
唸る大気。
悲鳴をあげる大気。
空間が蜃気楼の様に歪み、土が舞い上がる。
「おい、それ以上の事をしてみろ。お前を一生後悔の海に溺れさし、死んだ方がましだと思えることを数百、数千、数億やってやる。一生死ねなくしてやる。一生生きれなくしてやる。俺の大切な者に手を出してみろ。その瞬間、殺して生かしてもう一回殺す」
余りの威圧に幽香は顔を真っ青にして大量の汗を流す。
「ご、ごめんなさいね。少し調子にのってしまったわ……。貴方には絶対敵わない……」
「わかればいいんだよ」
幽香は日傘を下げ、降服する。
その行為を見て俺は霊力と妖力を無くし、何事もなかったかのように許した。
「お、怒らないの?」
「ん? 結局何もしなかっただろ? だからいいんだよ。したら何が起こるかなんてわかっただろ?」
まあ想像よりも数百倍は酷いけどな。
そうつけ足し、幽香の前に行く。
「すまんな。加減が出来ず、八割出してしまったよ。」
「あ、あれで八割……なの?」
「ああ、これでも二億以上生きてるからな。強いと自負しているよ」
俺の話を聞き、驚愕に顔を歪ませる。
妖怪は千年で大妖怪だが、俺は何なのだろう。
超妖怪……?
余りにシュールな名前に吹きそうになるが、無表情を意識し、何とか持ち直す。
そう言えば嫁達から聞いたが、俺はあまり感情が面に出ないみたいだ。
恐らくだが、ポーカーフェイスを極めたのか、だろう。
正確には知らないが。
でも心理戦には役立つので――そんなもの未だないし覚り妖怪には意味ないが――結構気に入ってる。
「そろそろ降りないか? 先に降りてくれ」
「わかったわ……」
そう言って俺と幽香は降りる。着地と共に背中に妹紅がしがみついてくる。
「神楽! 大丈夫? 怪我してない?」
「大丈夫だよ、妹紅。遊びだって言っただろう」
「ええ、文字どおり遊ばれたわね」
さっきの殺伐とした空気とは一転、和やかな空気になる。
「ねえ、暫くここに居ない? 貴方達を気に入ったし、また遊びたいのよ」
――うーむ、まだまだ時間はあるし、妖怪の山でまた何百年か滞在するつもりだから良いだろう
そう思い至り、俺と妹紅は世話になる事にした。
「ああよろしく頼む。俺は未知 神楽だ」
「私は妹紅!」
「ええ、よろしく、私は風見 幽香よ」
握手をして、そこに少し住むことになった。
大体五十年だろうか。
いろいろあった。
幽香の着替えを偶然見てしまったり。真っ赤にして妖力で吹っ飛ばされたり、日傘でぽかぽか叩かれたり。
酔った勢いで襲われかけたり。
二人で妹紅を修行さしたり。
この五十年で妹紅は大分霊力の扱いに長けてきた。
しかし、あまり炎しか使わない。それを聞くと妹紅は「名前が妹紅なんだから紅の炎を使いたい。私『も紅に染まりたい』」だそうだ。
言っておくが、幽香とは関係を持っていない。
襲われかけたがノーカンだ。
俺の島じゃノーカンってやつだ。
そして俺と妹紅は再び旅に出ることにした。
目的地は決まってるが。
「またいつでも来なさいよ? 待ってるわ」
「ああ、この五十年世話になったな」
「なにいってんのよ。妹紅もいつでもいらっしゃいね?」
「うん! ありがとう! 幽香!」
俺達はまた来る約束をし、歩き始めた。
道中、妖怪に襲われたりもしたが、妹紅が退治してくれた。
なんとも頼もしい娘だ。
更にところかわって妖怪の山麓。
俺達はいま麓にいる。
妖怪の山は天狗や鬼がいたはずだ。そう今にも天狗が――
「止まれ! 人間!」
噂をすればなんとやら、か?
黒い翼に一本下駄を履き、剣をこちらに向けて威嚇する。
「お前! なぜこの妖怪の山に来た!」
マニュアルを読み上げるかの様にお馴染みの言葉を発する。
「いや、俺達は――」
「聞いてない! 問答無用で殺す!!」
――ええー……。聞いてたじゃないか……。
そこから天狗の行動は早かった。
俺を殺そうと翼を駆使して、低空飛行しながら剣を振り上げ、殺意を剥き出しにし、その手に持っていた筈の剣を降り下ろした。
「どこを向いてる? 俺は後ろにいるぞ?」
「な、なに……!?」
俺は振り上げた瞬間に後ろに回り、無刀取りをした。
無刀取り。相手の懐に素早く入り、武器を持つ手をひねり制す技だ。
この技は、あわよくば武器を取り上げる。という精神と、斬られるという覚悟が必要だ。
武器を制するんじゃなく――まあ俺の場合普通に取り上げられるし力付くでもいけるし、その上斬られても大した問題ではないが――武器を持ってる相手を制する。
その無刀取りをされて、武器を取り上げられた天狗は驚き、尻餅をつく。
「な、なんだお前……! クソッ! お前達! 出てこい!!」
一人では敵わないと悟ったのか、今度は数で攻めてきた。
「神楽……。これ、大丈夫?」
「大丈夫だ、お前には指一本触れさせん」
「いや、そうじゃなくって、この状況。山に入れないんじゃない?」
――ふむ、そこに気づくか……。流石俺の娘だな。
いや、そうじゃないだろう。という声が聞こえるが無視だ。
まあ鬼がいるから大丈夫だろう。
鬼は闘いが好きだから、適当に戦えば住まわせてくれるだろ。
若干投げやりだが、概ねこの作戦で問題無いはず。
しかし相手は十の数だ。妹紅に触れさせず、俺の攻撃で一気に制圧するか……。
ひさしぶりだが速さで数を圧倒しよう。
そう考え、俺は翼を創造して、雷を纏う。
そして風を読んで動く。疾風迅雷の如く。
誰も俺を見つける事が出来ない。感知することは出来ない。
なぜなら妹紅と俺以外は気絶しているからだ。
「いつもなら殺すのになんで生かしたの?」
「考えてみろ、ここで少し住むのに、仲間を殺されて良い思いをすると思うか? だがまぁ、天狗なら悪くするが、鬼達なら多分、「弱い奴が悪い」…………。」
「…………。あ、鬼だ」
「やあ、アンタは誰だい? 相当強い男なんだね」
いやー、戦ってみたいよ。と、その鬼は指の骨を鳴らしながら、好戦的な笑みを浮かべる。
その鬼の容姿は、金髪の長い髪。
額には赤い角があり、星マークがある。
目も同様赤い。
服は体操服のような服を着ており、スカートなのだが、少し透けている。
その中は……、穿いている……とだけ言っておこう。
何がと聞かれたら俺からはブルマのようなものとしか言えない。
星熊 勇儀だ。
何故勇儀が麓にいるのか……。
しかし天狗が出続けるよりも楽か。
俺は未知 神楽だ、あんたは? と問いかけると勇儀は笑みを強くし、星熊 勇儀だと名乗った。
勇儀はついてこいと言い、歩き出す。
俺と妹紅は黙ってついていった。
そこから暫くして、山の天辺、そこにある集落のような場所についた。
鬼達は酒を飲み、宴会気分。
天狗達は酒を持ってきたり仕事で飛び回ったりしていた。
すると一人の鬼が話しかけてきた。
「勇儀の姐さーん! また人間をつれてきたのかぁー?」
「こいつは十の天狗を無力化したんだ。人間かも怪しいけどねぇ。アタシはこいつが妖怪だって言われても信じるよ」
そこまで言うと周りの鬼達が好戦的に笑い、あの勇儀姐さんに! とか言っている。
まあ戦うんだろうなぁ。等と、思いながら黙って話を聞いてる俺、妹紅も空気を読んでるのか、鬼が怖いのか、はたまたただの人見知り? なのか。
「そんなことは良い。戦うなら早く終わらせよう。俺が勝ったら少しの間ここに俺とこの子を住まわせてくれ。お前らが勝ったら好きにしていい」
――まあ、俺は器が小さいからな、お前らの選ぶ場所、勝ち負け、何人と戦うか。位しか選ばせてあげられないが。
と、付け加える。一気に殺伐とした空気になる。
人間如きが……。と思っているんだろう。
妹紅は横で黙って話を聞いてる。
俺が勝つ姿を信じて疑わないのだ。
「へぇ、アンタ面白い事を言うじゃないか……。鬼相手にそれは……、勇気じゃなく、無謀じゃないかい?」
「それ、負けた後でも言えるか? 伊達に永く生きてはいないからな」
「アハハハッ! 気に入ったよ、アンタ」
「そりゃどうも」
掛け合いをして、場所を選ぶ。
場所は大きい広場だ。ところどころ岩がある。
人数は三人らしい。曰く、四天王なのだと。
鬼子母神はいないらしい。
勝ち負けは純粋に気絶か降参で良いみたいだ。簡潔で良いな。
始める直前、妹紅が応援してくれた。
「神楽ー! 早く終わらせてー!!」
よし、一人目は一瞬で気絶さしてやる。
瞬殺だ。いや、殺しはしないが。
一人の男の鬼と向かい合う。
「俺は虎熊童子だ! 早々にやられてくれるなよ?」
「神楽だ。早くしてくれ。妹紅が待ってる」
「そうかい。じゃあ始めるぜ? 早々にやられてくれるなよ!!」
「始め!!」
勇儀が戦いを始める開始の合図をした。
「退け」
「グェッ!」
シーンと静まりかえる。何が起こったのかというと。
始まった瞬間、翼を創造、雷を纏い、光速で動く。
当然殴る。気絶と極簡単な事だ。
「勝者! 神楽!」
ウオォー! やるじゃねえかあいつ! という歓声と共に腕を上げ、妹紅に勝ったとアピールした。
妹紅も笑い、腕を上げてくれた。
地味に嬉しい。よーし神楽調子にのっちゃうぞー! 変なテンションになりながらも満足気に頷いた。
すると次の鬼が出てきた。
「私は伊吹童子、伊吹 萃香。萃して参る!」
そういって現れたのは茶髪の頭にリボンを付け、二本の角を持つ。しかし左にはまた青いリボンを付け、右には白い布を巻いている。
首に赤い布をこれまた蝶々結びをしている。
右の手首には赤い三角錐を付けている。
左手首には黄色の球体。
髪には水色の立方体。
それぞれ、調和を司る。密。
無を司る。疎。
不変を司る。自分自身。だそうだ。
「おっと。これは勝てるかな? わからんから最大限能力を使わせて貰うぞ」
「なにをするか知らないけど一応注意しようかな」
そんな会話から始まる二回戦。
「始め!!」
俺は一気に近づく。そして触れようとしたとき。
萃香は霧状になった。能力だろうな。
厄介だ。触れて能力を全開に使い早々に終わらせようと思ったのだが……。
楽しみたい自分もいるが、妹紅にはかえられない。
「いやー、危ない危ない。開幕で能力を使ってみて正解だったよ。何しようとしてたの?」
「能力を使おうとした」
「へー。触れられないと能力使えないのかな? 良いこと聞いた!」
別に触れなくても出来るって言ったら出来るんだが。
めんどくさいんだよな。
これは所謂見せ物だ。
それがすぐ終わると鬼も天狗も楽しく思えないだろうし。
「神楽ー! 早くー!」
よし、今すぐ終わらせよう。
俺は手を前にやり、大気を、霧を、萃香を掴む。
そして、能力を扱う熟練度の限界を零にした。
熟練度はそのままの意味だ。
例えば剣道。足はこう動かして腕はこうする。
そう分かってても最初は上手く出来ない筈だ。
体が慣れていないからなかなか出来ないんだろう。
能力だってそうだ。
何が言いたいかと言うと。
「おっとっと!」
今まで霧になっていた萃香は人の形に戻った。
萃香はいきなり能力が使えなくなり、焦っている。
「な、なんで使えないの!? お前! 何をした!?」
「なに、早く終わらせたいから能力を一時的に使えなくしただけだよ」
「くそっ! ……、まあいいさ、私は伊吹童子なんだ。能力が使えなくても捩じ伏せてやる!!」
覚悟しなよ! という声と共に萃香が走って俺を殴ろうとしてくる。
俺は受け止めるべく、霊力を四割解放して、萃香の攻撃を――といっても霊力を体に纏って、硬化しただけだが――受け止めた。
「なっ!? 鬼の……力を……。受け止めた……!?」
衝撃で俺は数センチ後ろに下がらされる。
「うむ、鬼もまだまだだな」
俺は半分も出していないが。という言葉を忘れずに付け加える。
霊力四割でどれくらいの力なんだろうか。
ふと疑問に思い、萃香を今出せる七割位の力で殴ってみた。
すると萃香は物凄い速さで飛んでいき、岩にぶつかり、口から血を吐いて気絶してしまった。
――あ、霊力で硬化してたの忘れてた。
硬化とは、ただ硬くなっただけだ。だが硬化した今なら軽いデコピンだけでも鉄球を真っ二つに割れるだろう。
勿論そんな力で殴ったのだから。
「萃香!? 大丈夫か!?」
口から多量の血を吐く。恐らく内臓か何かがやられたんだろう。妖怪でも死ぬことはないと思うが。
一先ず萃香に近付く。
明らかに勇儀が警戒しているが。知ったことではない。
俺は萃香に触れて、妖怪の治癒能力の限界を高めた。
萃香は血を吐かなくなり顔色も良くなった。
「これで治っただろう。安静にして寝かしてやれ」
「あ、ああ、ありがとう」
そう言って勇儀は萃香を抱き抱え、どっかに行った。しかし少しすると戻ってきた。
「アンタ、悪い奴では無いんだね」
「悪いやつならもう殺してる」
「違いない!」
ハハハッ! と男らしく笑う。
流石姐さんと呼ばれるだけあるな。男らしい。女性なのに。
――さて、そろそろ……な?
「勇儀姐さん対! 謎の人間! ……、始め!!」
闘いの合図がなった。
俺と勇儀は睨み合い、そして動いた。
手始めに勇儀は俺を軽く殴ってきた。力が桁違いだ。押された。
霊力四割程度ではきつい。しかし霊力や妖力にはあまり頼りたくない。
確実に勝てるからだ。
――このままの霊力で勝つ! 二億以上の年月、伊達に極めていない!!
妹紅には悪いが少し待ってもらおう。俺の楽しみだ。
俺は軽やかに、しかし重く。素早くも遅い。
リズムをとりながらも軽くジャンプしながら構える。
霊力を常時体に纏い、いかなる状況にも対応できるようにしておく。
「勇儀、遊びは終わりだ。これから本気で行く」
「手始めは終いだ。アタシも本気で行くよ!」
「極めの境地。それは誰にも敗れる事はなく、誰にも破る事は出来ない。圧倒的格上の相手に敗れろ!」
「怪力乱心、星熊童子! 参る!」
俺が一瞬で近付き、心臓部分を掌底を打ち付け、気絶を図る。
しかし勇儀は当たる直前、後ろに飛び、威力を殺す。
飛んだ勢いもあり、数メートル吹っ飛んだ。
「痛いじゃないか」
「よく言うよ……」
ゆっくりと立ち上がり、首の骨を鳴らす。
あまり痛そうではない。
――さてさて、有効打は……?
俺は必死に考え、どう倒すかを頭の中でシミュレートする。
これは無理だ。これも。これでは逆にやられる。
何通り、何十通り、考えては捨てる。
――なるようになるか。
最後にはその結論に至り、構えを解く。
「……?」
勇儀は俺の変化に気付き、眉を潜める。
「スゥー……、ハァー……。」
俺はゆっくりと、深呼吸しながら両腕を後ろに回し、右腕を胸の前に置き、左腕をへその前に置く。
その構えは例えるなら、静。明鏡止水の構え。
無駄な動き、無駄な思考。あらゆる無駄な物を無くす。
相手の呼吸に合わし、総てを制す。
静を以て動を制す。
そして指をくいっと曲げる。
「なんだい? アタシに来いってかい? いいさ、でも後悔すんじゃないよ!!」
勇儀は走り、腕を降り下ろす。
圧倒的破壊力を生み、全てを破壊するようなその腕は、しかし俺に避けられる。
避けた俺は勇儀のひと一人分ほど離れ、構えを変えた。
体を横に向け、左腕を肩と平行させ、右腕は肘から少し曲げる。
対処しやすいように、力を入れず、自然体。
打撃を数発繰り出され、それを肘、掌等で受け止める。最後の大振りで横から来る打撃は潜って回転し、避ける。
そしてまた繰り出されるストレート。また体を回転させ受け流す。その時に軽く体全体を使い、勇儀に腕を当てる。
力を入れていないにも関わらず勇儀は軽く倒れそうになった。しかし持ち直す。
「…………」
勇儀は何度も殴る、蹴りを繰り返すが俺に受け流されたり、受け止められたりする。
「なんだい! 小賢しいね!!」
勇儀は怒りながらも大振りの攻撃をする。
――ここだ!
右ストレートを左腕で止め、その力を利用し、足と腕に力を入れ、勇儀の腹に肘を打ち付けた。
「カハッ……! クッ……! やるじゃないか!」
少しは効いたようで、口から出てしまった唾液を拭き取る。
一撃を入れられないからまた大振りになっていく。
ことごとく避けては少しづつダメージを蓄積させていく。
時には避けて肩と腕を打ち付け、時には両手を相手の耳に叩き付けたり、時には怯んだ隙に追撃をかける。
勇儀の動きに合わせ、まるで蝶の様に踊って優雅に回転しては、蜂の様に打撃を打ち、内部にダメージを入れる。
相手の一歩先を読み、相手が置くであろう場所に足を置く。
態勢を崩し、打ち込み、避ける。
「いい加減にしろ!! さっきからちょこまかと……!! これで終わりだ!! 三!!」
そう言うや否や、勇儀は一歩踏み出す。その時、膨大な量の妖力を感知した。
十中八九三歩必殺だろう。
――どうする? 折角の必殺なんだ……。避けるのは無粋だろうな。霊力と妖力を出してわざとくらうか。
野次馬が、姐さんの必殺が来たぞ!! あの人間終わったな!! なんてことを言っている。
「二!!」
二歩目を踏み込むと、踏み込んだ足を中心に地面が陥没し、大地が浮き上がる。
俺は霊力と妖力を四割出す。
――いや、まだだ、これじゃあ足りない……!!
今度は霊力と妖力五割出した。
――これで何とか行けるか……!!
次に霊力と妖力を混ぜ合わせる。即興だったが何とかなった。
霊力で妖力を支え、霊力で内側を守り、妖力で外側を纏う。
そして腕をクロスさせ、くるべき破滅的な攻撃に備える。
「一!!! うおぉおぉおお!!」
咆哮と共に繰り出される拳。それは唸り、全てを破壊して然るべきだと絶対的な自信を誇っている様だった。
「グッ……! 負けるか……!!」
砂埃が舞う。一人の人物は倒れ、一人は立っていた。
「アンタ……、凄いね。アタシの全力の必殺をまともに受けて平気なんてさ……」
久しぶりに本気を出してスッキリしたよ。と晴れやかに笑い、語りかけてきた。
「しょ、勝者! 謎の人間!!!」
立っているのは、俺だった。
歓声がなる。妹紅はやったー! と喜びの声をあげる。
ただ俺が負けるとは思ってなかったみたいだが。
「勝ったぞ妹紅ー!」
「おめでとう! 神楽!」
そして俺は倒れてる勇儀の場所に行き、手を差し出す。
「ほら」
「ありがとよ」
よっと。そういいながら起こしてやる。
妖力をほぼ使いきったのか、勇儀は倒れそうになる。そこを抱き止め、肩をかす。
「どこにつれていきゃあいいんだ?」
「本当にすまないなぁ……。あそこで頼む」
そう言い、指差したところは、萃香を連れていった家の横だった。
「妹紅もおいで」
「はーい」
妹を呼び、連れていく。そして家に入る。
家に入ると結構広く、真ん中に囲炉裏があり、周りは畳みになっていた。
端には布団が畳まれており、他に物があるといったら棚の上にある星熊盃だった。
星熊盃は簡単に言うと、酒をいれるとその酒は一段良いものに変えるといったものだ。
しかしすぐ飲まないと戻ってしまう。
だから萃香がいつも持っている伊吹瓢箪とは相性が良いみたいだ。
伊吹瓢だが、あれは頑丈な瓢箪なんだ。ただ、なかは酒虫っていう水を酒に変える虫のエキスを染み込ませている。
度数が凄いらしい。
閑話休題。
「妹紅、布団を出してくれ」
「わかったー」
指示を出し、布団を敷いてもらう。
その間も俺は肩をかし、勇儀を支えている。
「敷いたよー」
「ありがとう。ほら、勇儀、寝とけ」
「ああ。本当にすまない」
「さっきからそればっかじゃないか。こういう時はお礼で良いんだよ」
「すまない。ありがとう」
「あー! また言ったー!」
勇儀を寝かせ、俺と妹紅は横に座る。
少しお決まりをしつつ、和やかな雰囲気になった。
「しかし、本当に強いな……。この私が手も足もでなかった」
「まあ、二億も生きてるからな。負けられないよ」
「に、二億!? 道理で強い訳だよ」
呆れながらもあの戦いを思い出したのか、笑っている。
――これから五割以上は出さないでおこうかな……。
霊力と妖力に頼りすぎは良くないしなぁ……。
そうしたら少し楽しめるかも知れないしな。
そう言えばどこに住めばいいんだろう……?
その事を相談すると勇儀は、「今日にでも作らせておくよ、すぐ出来るさ」と言っていた。
その後、勇儀がいったとおり、そこから一時間後に何故か、結構大きい家が出来ていた。
その日の夜、布団にて
――これからここに少し住んで、妹紅に武術を仕込むか。
そんな計画をたて、眠る。そして夜は更けていった。




