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アラニュエの森  作者: あわふじ
第1章
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3/8

#知らない場所

目が覚めると、ふかふかのベッドの上にいた。


見慣れない天井と、少し感じる全身の違和感。


横を向くと、船員の二人も同じように寝ているのが分かった。


「鹿野、松原」


呼びかけてみるも、反応はない。


はて、一体何がどうなってこうなったのか。


一人で考え始めようとした時、ドアを叩く音が聞こえた。


反射的に目をつぶってしまう。


何か喋りながら部屋に入ってくるのが聞こえて、藤田は薄く目を開けた。


二人が心配そうにこちらを見て話しているが、言葉が全く分からない。


そのうち、一人が藤田が薄目で様子を伺っていたことに気づいたらしい。


目を輝かせながら近づいてきて、何やら喋りかけてきているが、単語の聞き取りすらできなかった。


言葉が分かっていないのが伝わったらしく、相手も困ったようにもう一人の方を振り返っている。


もう一人は考え込んでいる様子だったが、思いついたらしく何かを言った。


空気が変わるのを肌で感じた。


不思議な感覚だ。


「これでどう、かな」


不安そうに、何かを言ったもう一人の方が首を傾げている。


「言葉伝わる? 大丈夫?」


近くにいた人も心配そうに藤田を見ている。


突然言葉が分かるようになったことに戸惑いながらも、藤田は頷いた。


「よかったあ、助かったんだね!」


嬉しそうにしている人を見て、何が何だか分からず、もう一人の方を見る。


もう一人は苦笑して、藤田に近寄ってきた。


「こら、スク。困ってるでしょ」

「あ、ごめんなさい。俺、スクっていうの。あなたの名前は?」


どういうことだ? と状況に首を傾げながらも答えた藤田。


「藤田っていいます」

「フジ?」

「藤田……ふじ、た、です」

「え? フジタ?」


不思議そうにもう一人の顔を見たスク。


「ロトちゃん、どういうこと?」

「名前が違うんでしょ。スクが混乱させたみたいでごめんなさい。僕はロトっていいます」


ロトは頭を掻くと、はは、と小さく笑った。


「僕もあなたたちのことを聞きたいんだけど……たぶん、フジタさん? はここのことを聞きたいよね。ここはね、ソルセルリーって惑星なの」

「ソルセルリー?」

「うん。魔法の惑星。フジタさんたち、別の惑星の人でしょ。空から落っこちてきたんだもの」


唖然とした藤田。


魔法の惑星だなんて、聞いたことがない。


「宇宙のことは長く研究してるけど……ソルセルリーなんて聞いたことも」

「え、フジタさんって研究者なの? ロトちゃんと同じだ」


スクの言葉に、目を丸くしてロトを見る。


穏やかな雰囲気の人だ。


「スク、余計なことを言って混乱させないの。ごめんね、フジタさん」


スクを怒りながら、申し訳なさそうな顔をしているロト。


「いえ……研究者なんですか?」

「そう言われたらそうかも。学園の先生だから」


とすると、教育機関というものもちゃんとあるらしい。


かなりこの惑星は発展している。


「あまりにも授業をやらないから、この間怒られてたけどね」

「明後日からちゃんとするんですー、授業準備してたの見たでしょ」

「はいはーい」


ロトとスクは仲が良さそうだが、スクは見ている限り研究者ではなさそうだ。


なによりも、スクはまだ子どもだ。


藤田の視線に気づいたのか、スクが藤田を見る。


「俺は学園の学生なの。ロトちゃんの弟子!」

「弟子っていうか、住みついてるだけでしょ。ほら、ユキにご飯あげてきて」

「あ、そうだった。じゃあ、フジタさんまたあとでね!」


そう言って元気に部屋を出て行ったスク。


わ、と階段でつまずいたらしき音も聞こえてきて、藤田は苦笑した。


見れば、ロトも苦笑している。


いつものことなのだろうか。


「フジタさん。聞いていい?」


ロトがかしこまった様子で藤田に向き直る。


「なんですか?」

「この二人の名前は?」


そう言って、隣のベッドを見る。


「あぁ……手前が松原で、奥が鹿野です」

「マツバラさんと、シカノさん?」

「はい」


ロトはうーん? と首を傾げている。


何かおかしなことでもあるのだろうか。


「名前は長くても大体三文字なの。だから、珍しいなって」


藤田も首を傾げていると、ハッと気づいたようにロトが説明をしてくれた。


「そうなんですか?」

「うん。普通は名前は二文字」


かなり名前の文化が違うらしい。


同じ名前の人も結構いるんだ、とロトは笑っている。


「フジタさんのこと、フジって呼んでいい?」

「あぁ……構いませんよ」

「ありがとう。僕のこともロトって呼んでね」


そう言って、ロトは微笑んだ。



「あ、鹿野。松原も目を覚ましたか」


二人が動いた気配に、藤田が目を上げる。


藤田が目を覚ましてからは、随分と時間が経ったような気がする。


「……藤田先生?」


ゆっくりと体を起こした鹿野と松原を見て、ちょうど部屋にいたロトが立ち上がった。


「え、誰」

「怖がらないで、ちょっと身体の調子を見るだけだから」


警戒する鹿野を見てロトは微笑むが、どうやら鹿野にはロトの言葉が分からないらしい。


松原も分からないらしく、藤田の顔を見てきた。


助けを求めている。


「ロト、言葉が分からないみたい」

「あれ? フジにかけたときに二人にもかかったと思ったんだけどな……言語通訳」


言葉が分かってから聞くと、まるでそのままの呪文だ。


「どう? 言葉、分かる?」

「え? あ、はい」


戸惑いながらも頷く松原。


鹿野も警戒はしているが、頷いた。


「藤田さん、これは」

「安心して、助けてくれた人だから」


藤田がそう言うと、少し怯えながらも警戒を解いた鹿野。


「大丈夫? ちょっと手出してくれる?」


松原の方が話が通じると思ったのか、ロトは松原に向き直る。


「手?」


不思議そうにしながら、松原が左手を差し出す。


その手にロトは右手を重ねて、目を閉じた。


ぱあっと松原の身体が光る。


ロトは眉根を寄せてしばらくそのままにしていたが、少し経つと目を開けた。


松原の身体の光も消えていく。


その様子を、目を丸くして見ている鹿野。


「元々、左足痛めてるの?」

「左足? あぁ、確かに痛めてたけど」

「治しておいたから」

「え?」


目を見開いた松原。


ベッドの上で足を動かしてみたらしく、呆然としている。


「本当だ、痛くない……」


今度は鹿野に向かったロト。


「えっと、シカ……なんだっけ」


名前を呼ぼうとするが、名前を覚えられないらしい。


「鹿野です」


首を傾げているロトを見て、鹿野の方から名乗った。


「シカノさんね。マツ、と同じようにするだけ。痛くないから、手出してくれる?」


本当? と疑うように松原を見た鹿野。


「痛くないよ。ちょっとあったかいな、くらい」


それを聞いて、鹿野はおそるおそる左手を差し出した。


ロトはその上に手を重ねて、目を閉じる。


ぱあっと鹿野の身体が光る。


「わ、すごい」


思わずこぼれたロトの声に、藤田も松原も首を傾げた。


すぐに鹿野の身体の光が消えて、ロトが目を開けた。


「体調は大丈夫そうだけど、あちこち弱ってる。大丈夫?」


そう言いながら、近くにある棚の引き出しを開けるロト。


「弱ってるって、どういうことですか?」


鹿野が眉をひそめる。


「魔力の流れというか……身体の気の流れが不安定なの。マツ、は左足のところ以外はちゃんと流れてたけど、シカノさんはすぐ止まっちゃって」


ロトは引き出しの中をなにやら探していたが、ないなあ? と首を傾げている。


説明をしてほしそうに二人が藤田のことを見ていたが、藤田もよく分かっていない。


肩をすくめて、首を横に振った。


今度はロトは部屋のドアを開ける。


「ユキー、杖持ってきてくれない? 机の上にあるから」


ワン! と吠える声と、たたっと獣が走る音が聞こえる。


「犬?」

「杖?」


鹿野と松原は不思議そうにしているが、藤田も何も理解できていない。


そのうち、木の棒をくわえた茶色の犬が部屋の前に現れた。


ロトがしゃがみ、木の棒を受け取って頭を撫でる。


「ありがとう、ユキ。スクが帰ってきたらご飯にしようね」


またワン! と吠えて、犬はたたっと駆けていく。


「ロト、今のがユキ?」

「うん」

「白くないんだね」

「そうだね。でもあの子はユキだよ」


へえ、と藤田は首を傾げる。


不思議な名前をつけるものだ。


ロトが立ち上がって木の棒を一度振ると、木の棒が少し伸びて形が変わった。


杖、という言葉がぴったりだ。


「シカノさん。ちょっとごめんね」


ロトは鹿野に近寄り、なにか言っている。


どうやらこれは翻訳されないらしい。


杖から鹿野に向かって白い光が放たれた。


鹿野は目を丸くしている。


「どう、かな。ちょっと見せて」


今度は勝手に鹿野の手を取り、ロトが目を閉じる。


「お、気の流れが安定した。どう?」

「身体が、軽い」


鹿野の言葉に、満面の笑みを浮かべたロト。


「うまくいったみたい。よかったあ」


ドサ、とそのまま鹿野がいるベッドに座る。


「あ、忘れてた。僕、ロトっていいます。あなたはマツ……マツバ……」

「松原です」

「マツバラさん。で、シカノさん。合ってる?」


頷いた二人。


「あの、長いからマツとシカでいい? 僕、覚えられないから」


あはは、と頭を掻いたロト。


鹿野と松原は顔を見合わせていたが、同時に頷いた。


「本当? よかった、僕のことはロトって呼んでね」


ふふ、とロトは微笑んだ。

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