#弟子
「フジ、聞いて!」
バン、と開いたドアの音に、藤田は首をすくめて振り返った。
ドアの前にはスクとユキがいた。
驚いた拍子に落としてしまった栞を拾いながら、藤田は苦笑する。
「うん、話は聞くけどさ。部屋に入るならノックしてくれるかな」
「あ、ごめん」
今までに何度も言っていることだ。
忘れてた、と頭を掻いて部屋に入ってくるスク。
「あのね、俺、ロトちゃんの弟子になったよ」
まばたきをした藤田。
ロトの弟子になりたがっていたのは知っていた。
ただ、弟子になるというのが何を意味するのかはよく分かっていない。
「えっと……それはどういうこと?」
スクは目を輝かせて、藤田の手を取った。
「学園に通える、四年生になれるの!」
おぉ、と藤田は目を見開く。
ということは、ロトとの話し合いもうまくいったのか。
「良かったね」
「そうなの。フジ、ありがとう!」
「え、俺? 俺は何もしてないけど」
ううん、と首を振るスク。
「フジに相談してよかった。フジのおかげだよ」
そっか、と呟く藤田。
スクがそう言うなら、そういうことにしておこう。
ガチャ、と他の部屋のドアが開いた音が聞こえた。
「騒がしいですね、何があったのよ」
顔を覗かせたのは鹿野。
よほどうるさかったのか、迷惑そうな顔をしている。
鹿野に気付いたユキは、スクの元を離れて鹿野に近寄っていく。
鹿野は無意識にユキの頭を撫でた。
「あ、シカ! 俺、ロトちゃんの弟子になったの!」
「はい? 自称弟子から抜け出せたの?」
「そう! ……ん? ジショウデシ?」
頭にハテナを浮かべたスクを見て、苦笑した藤田。
鹿野の言い回しは独特なのか、言語通訳がうまく働かないことも多いらしい。
「自称弟子って通じないの?」
顔をしかめた鹿野。
それなりの期間をソルセルリーで過ごして、伝わりやすい単語と伝わりにくい単語があることには、三人とも気付いている。
ロトとスクもそういう単語があることには気付いていて、言語通訳がうまく働かないということは少なくなってきた。
伝わりにくい言葉を使うのはできるだけ避けよう、とお互いに意識しているからだ。
お互いの惑星についての情報交換が進み、知識としても語彙が増えたことも、言葉の伝わりやすさに関係しているのだろう。
それでも、たまにこうやって引っかかる。
「前はロトちゃんの弟子って言っても、ロトはスクが住みついてるだけだって言ってたでしょ?」
「うん」
「自称弟子って、その状態」
「……あぁ!」
スクも納得したらしい。
「シカ、あのね、ちゃんとロトちゃんの弟子になったよ」
嬉しそうに、改めて鹿野に報告をするスク。
「……そう、良かったじゃないの。弟子になりたかったんでしょ?」
頭を掻いた鹿野。
スクをからかおうとしたものの、やめたらしい。
「そうだよ。弟子になったら親の干渉を受けなくなるから」
思ってもいなかったスクの言葉に、顔を見合わせた藤田と鹿野。
話は聞いていたものの、きちんと師弟制度を理解していたわけではない。
知っていたのはスクが弟子になりたがっていた、ということだけ。
「ロトが親みたいになる、ってこと?」
「そう。でもね、親よりも師匠の方が優先されるんだよ。本当の親よりも親みたいになるの」
なるほど、師匠と弟子というのはそういう関係でもあるのか。
かなり強力な力を持つことになる師弟関係を望んでいたということは、スクの親はスクにとって厄介な存在だったのだろう。
「そっか。松原にも言ったの?」
「あ、まだだ。マツ! 聞いて!」
藤田の向かいの部屋のドアを、バンッと開けたスク。
「ドアはノックしてから開けろ!」
「ごめんなさい!」
案の定、松原から怒られていて、鹿野と藤田は苦笑した。
宇宙船の損傷が激しく、自分たちでは直せないと判断した三人は、そのままロトの家に居候することになった。
もちろん家を出ることも考えたのだが、ロトが必死で家に留まるように引き止めたのだ。
理由を聞けば、この惑星は魔力を持つ人がほとんどのため、魔力を持たない三人が他の場所に行っても生活に苦労する可能性が高いから、という。
街の文化もよく知らないまま街に出たら、ちょっとしたことで捕まってしまう可能性もあるそう。
スクもスクで、三人はソルセルリーの常識から外れているから、すぐに悪目立ちして行き場をなくしてしまうと思っていたらしい。
ロトとスクの説得により、ロトに甘えて五人で一緒に暮らすことになった。
それに伴い、三人で一つの部屋を使っていたのも、一人一部屋に変えた。
ロトが言うには、この家は広くて使い切れないから数人くらい増えてもどうってことはない、らしい。
確かに、藤田たち三人が増えてもまだ部屋は余っている。
ただどう考えても、スクを含めた四人をロト一人で養うことになるのは、かなりの負担になるはずだ。
こっそりスクにその辺りを聞いてみたら、実は学園の先生はかなり給料がいいらしい。
弟子を取ると、弟子の生活費はすべて師匠が払うようになるため、学園の先生の給料もそれを前提としているそう。
普通は学園の先生は弟子を十人くらい取るもの、とスクは言っていた。
なるほど、自分たちくらいはどうにでもなるのだろうか。
金銭面で困っている様子は確かになかったな、とロトを思い返して苦笑をした。
迷惑そうな顔をしている松原を、部屋から引っ張り出してきたスク。
スクもかなり遠慮がなくなってきた。
「俺、これからもこの家に住むからよろしくね! ちゃんとロトちゃんの弟子だからね!」
「はいはい。毎日賑やかだね」
鹿野の言葉に、藤田と松原は笑った。




