第50話 明るい争いと陰湿な争い
その一方で、FAのソーシャルアカウントではライブ配信が行われており、FAを愛する多くのファンが視聴しており、コメント欄は大騒ぎになっている。
Evan Rov:「頑張って!特にセルリー・チャン!」
返信:
ユウ重度依存:「もうすぐRBの演奏があるようで、まるで対決みたいだね。」
注文済み:「すごく激しい感じ。」
Choooooooooooooovy:「FA、頑張って!WaywardさんとAuraさんのパフォーマンス本当大好き。純粋な楽しみ。」
返信:虹色:「なぜウェイワードはこんなにもねじれるのが好きなん。本当に魅力的。」
Lyyn:「もう考えるな!ウェイワードは私たちレジェンズのものだ。レジェンズとワイワード、絵のように美しい!」
そして今、バックエンド。
「彼女たちはとても良いパフォーマンスを見せたわ。」唯は一方に座っているユキに言った。
「じゃあどうするの?彼女たちよりも上手くなるわ。私たちのファンももっと多いし。」ユキは舞台を冷ややかな目で見つめていた。
「私たちは勝つよ。安心して。」
ステージ袖では、トモがカメラを持ってしゃがみ込んでいた。さっきまでハナルのソロを撮っていたが、今はキリカのドラムソロに切り替えている。
「よし、いい感じ!」
彼はファインダーを覗きながら、つい笑みをこぼした。ここで写真を撮れるようになったのは、実は妹のおかげだ。
一週間前。岩橋家のリビング。
「お兄ちゃん、ちょっと頼みがあるんやけど。」
カガミが珍しく真面目な顔でトモの前に立っていた。
「なに?」
「文化祭の写真撮ってくれへん?公式のカメラマンが足りないって浦和会長が言うとった。それで、オレ、お兄ちゃんのこと紹介したんや。」
「はあ?」トモは眉をひそめた。「俺、あの学校の生徒やないし、女子高やで?」
「それが大丈夫やって!浦和会長、『実力があれば関係ない』って。それに、お兄ちゃんの写真、めっちゃ上手いし!」
「……お前、勝手に決めたんか。」
「だって、いい機会やし!それに、お父さんもお母さんも賛成してくれたで。」
トモはため息をついた。妹の無茶な頼みは今に始まったことじゃない。
「……しゃあないなあ。日曜日、空いとるで。」
「やった!ありがとう、お兄ちゃん!」
カガミはそう言って飛び跳ねた。トモはその背中を見ながら、またため息をついた。
それで、今日ここにいる。トモは文化祭の公式カメラマンとして、一番前の席で六人の演奏を記録している。
「次はセイナか……なかなか様になってきたな。」トモがシャッターを切る。セイナはさっきまで緊張していたけど、今はもう落ち着いている。ギターを抱える手つきも、前よりずっと自然だ。
ステージの袖では、茉莉奈が興奮して飛び跳ねていた。
「すごい、めっちゃすごい!FA、かっこよすぎる!」
「落ち着きなよ、茉莉奈。」花火が笑う。「まだ一曲目やで。」
「だって、こんなに近くで見るの初めてやもん!」
野美はキリカの手元をじっと見つめていた。指の動き、スティックの角度、リズムの刻み方——すべてが参考になる。
「……すごいです。」小さな声で呟いた。
美沙はハナルを見つめていた。彼女の歌声に、何度も胸が熱くなった。
「美沙、泣いてるの?」茉莉奈が気づく。
「違うよ……目にゴミが入っただけ。」
「またそれ〜。」
四人とも笑った。
「『Adventure』!」
キリカのスティックが鳴る。軽快なリズムが会場に広がる。
カガミのギターがそれに重なり、ヒデミのベースが低く支える。アコのキーボードが光るような音を奏で、セイナはしっかりとコードを刻む。
ハナルがマイクを握りしめて歌い出す。
「朝の光 窓を叩いて」
「眠い目をこする日々に」
「ちょっとだけ 冒険のスパイス」
「混ぜたら ほら 始まるのさ」
さっきまでの韓国語の曲とは違う。もっと明るくて、もっと軽やかで、まるで駆け出したくなるようなリズム。
客席のペンライトが、さっきより軽やかに揺れている。
「地図にない道を 行こう」
「コンパスなんて いらない」
「風の向きが 教えてくれる」
「今日はどこへ 連れて行くの?」
ハナルはステージの端まで歩いて、客席に向かって手を振った。それに応えるように、ペンライトの海が広がる。
「一緒に行こう どこまでも」
「怖がらなくていいんだよ」
「迷ったら 歌を歌おう」
「その声が 道になる」
カガミがギターソロに入る。指が弦の上を滑るように動く。さっきまで緊張していたのが嘘みたいに、笑いながら弾いている。
「カガミ、めっちゃ楽しそう!」キリカがドラムを叩きながら言う。
「当たり前や!これがライブってやつや!」
セイナは自分のギターを見つめた。さっきまで震えていた指が、今はしっかりと弦を押さえている。間違えるのが怖かった。失敗するのが怖かった。でも今は――間違えてもいい。失敗してもいい。だって、みんながいるから。
美沙はその光景を見て、また涙が出そうになった。
「……やっぱりFAはすごいな。」
「うん。」花火もうなずく。「一人一人が、ちゃんと輝いてる。」
「私たちも、あんなふうになりたい。」野美が小さな声で言う。
「なれるよ。」茉莉奈が笑う。「だって、私たちもバンドやもん。」
「そうやな。」
四人はうなずき合った。
ステージの上では、曲がクライマックスへ向かっていた。
「朝の光 窓を叩いて」
「眠い目をこする日々に」
「ちょっとだけ 冒険のスパイス」
「混ぜたら ほら 始まるのさ」
ハナルの声が、会場中に広がっていく。
「地図にない道を 行こう」
「コンパスなんて いらない」
「風の向きが 教えてくれる」
「今日はどこへ 連れて行くの?」
最後の音が響き、大きな拍手が起こる。
「ありがとうございました!」カガミが叫ぶ。六人が一列に並んで、深々とお辞儀をした。
客席からは、鳴り止まない拍手と歓声。
「すごい!」「もう一回!」「FA!」
「カガミさん!」
カガミは踊りながらみんなに手を振った。
「次は――」
その時、ヒデミが彼女に近づき、耳元でささやいた。何かを相談しているようだった。
カガミは一瞬間を置いてから、納得したようにうなずいた。
「今度はRBの演奏です。皆さんも頑張ってください。」
それだけ言って、六人はステージを降りた。
『次は――Ragging Bull!』
空気が一瞬で変わった。さっきまでの温かい雰囲気が、緊張感に変わる。二人だけが知っている。それはユキのバンド。
「さっき、ユキは私たちの歌を聞いてくれたの?」アコが尋ねた。
「さあ。」キリカは素っ気なく答えた。「でも、どうでもいい。」
そこへ美沙が茉莉奈を連れて近づき、花火と野美もついてきた。
「私たち十人で写真、撮りませんか?」
「あ、いいね!」カガミがすぐに賛成する。
トモはこの時カメラを構え、「はい、ポーズを決めて!」と声をかけた。
十人が並ぶ。前列にしゃがむ子もいれば、後ろで手を挙げる子もいる。笑顔がはじける。
トモは何度もシャッターを切った。
「よし、いいよ!」彼が親指を立てる。
「ありがとうございます!」十人の声が重なった。
その時、唯がやってきた。
「そろそろ出番だよ。ユキも呼んでくる。」
セイナは小さく「頑張ってください」と声をかける。彼女は自分がその時少し過激だったことを知っていたので、励ますために何かしたかったの。唯は軽くうなずいて、歩き出した。
空気が再び張り詰める。
その背中を見送りながら、ハナルが小さな声で言った。
「……ユキさん、ちゃんと、聴、聴いてたのかな。」
「聴いてたよ。」ヒデミが短く答える。「ずっと、あそこに立ってた。」
「どう、お、思ったんだろう。」
「知らん。本人に聞け。」
ステージに、五人の姿が現れた。ユキは黒のタンクトップに迷彩柄のパンツ。髪は前にまとめて、いつもより少しだけ攻撃的に見える。
唯は白いブラウスに黒いベスト。落ち着いた雰囲気だが、ギターを抱える手つきは確かだ。
『みなさん、こんにちは。Ragging Bullです。』
ユキが前に出て、ベースを構えた。
『さっきのバンド、聴きましたか?』
客席からは、まばらな拍手。
ユキは冷ややかに笑った。
まさか自分の演奏前に他のバンドの名前を出すとは思わなかったので、観客も戸惑っているようだ。
『彼女たちの話はよく聞くけど……』ユキは続ける。『技術がない奴は、いくら綺麗事を並べても意味がない。音楽は結果だ。』
客席が静かになる。
『ウチのバンドは、そういう誰かを慰めるだけの偽善的な音楽はやらない。』
『本当に上手いやつだけが、ステージに立つ価値がある。』
そう言って、ユキはベースの弦を掻き鳴らした。
音が炸裂する。鋭く、攻撃的で、さっきまでのFAの温かい音とは対照的だった。
「……あの子、まだ言うとる。」アコの声が震えた。
「ほっとけ。」ヒデミは短く言う。
「でも――」
「聴かなきゃいい。自分たちのやるべきことをやれば。」
アコは黙った。唇を噛みしめて、ステージを見つめている。
一方、ステージ上。
ユキのベースが唸る。速いフレーズを正確に刻み、唯のギターと呼応する。テクニックは確かだ。
でも――どこか冷たい。五人それぞれが自分の技術を誇示しているようで、一つになっていない。
カガミは唇を噛んだ。悔しいけど、認めざるを得なかった。
キリカは無言で見つめていた。彼女の目は、ユキの指先だけを追っている。
「……あんたが言うことは違う。バンドは技術だけじゃない……」
その時、ステージで唯が一歩前に出た。
ギターソロだ。普段は控えめな唯が、一瞬息を止めるようなフレーズを弾く。
指が弦の上を滑る。速く、正確で、それでいて――優しい。
カガミは思わず息を呑んだ。誰よりもそのギターの音に聞き入っていた。
彼女は唯とユキが自分たちに敵意を持っていないことを知っているので、純粋に唯の演奏を楽しんでいる。
曲が終わり、拍手が起こる。それなりに大きい。
しかし熱はこもっていない。さっきのFAの時ほどの興奮はない。
客席では、何人かがこっそりスマホをいじっている。
ユキはそれを見て、歯を食いしばった。
唯は何も言わなかった。ただ、自分のギターを見つめている。
(From Dandy:
It's been a long chapter today. Look forward to the next side of the story.)




