第36話 Sunset before night,Sunrise with you
日が沈みかけた海辺に、一台の軽自動車が停まった。
「着いたで。」ヒデミがエンジンを切る。
「わあ——」カガミが窓から顔を出して叫ぶ。「めっちゃ綺麗やん!」
水平線がオレンジに染まって、波がキラキラ光っている。ここはほとんど人が知らない小さなビーチで、とても静かやった。今は彼女たちだけがここにいる。静かで、広くて、まるで六人だけの世界みたいやった。
「こ、ここで撮るんですか?」ハナルがおそるおそる車から降りる。砂が靴の中に入って、くすぐったそう。
「うん。いい場所やろ?」アコが砂浜に降り立って、大きく伸びをした。潮風が白いブラウスをふわりと揺らす。
「アコちゃん、めっちゃええ顔してる!」カガミが早速スマホを取り出す。
「ま、まだ撮らんでええ!」アコが慌てて手で顔を隠す。
「ええやん、ええやん。自然体が一番や!」
「カガミさん、まずは場所を決めませんと……」セイナが苦笑いしながら、周りを見回す。「あそこの岩場、背景にええかもしれへん。」
「おお!セイナちゃん、ナイス!」カガミが走り出す。
「ま、待ってください!」セイナも後に続く。
キリカはドアにもたれて、呆れたように言った。「まだ元気有り余っとるんか……」
「キリカも行きや。」ヒデミが彼女の背中をポンと叩いた。
「……別にええけど。」
砂浜に六人の足跡が並ぶ。波が来ては消し、来ては消し。
「ここ、どう?」セイナが岩場の前で立ち止まる。背景は海と空と、沈みかけの太陽。まるで絵葉書みたいやった。
「完璧や!」カガミが即答する。「よし、じゃあまずは——キャプテンから行くで!」
「え?自分が撮るんじゃないんですか?」セイナが首をかしげる。
「ええねん、ええねん。オレは撮る側に回るわ。セイナちゃん、モデルやってみ?」
「わ、私ですか……?」セイナが顔を赤らめる。
「ほら、あそこに立って。」カガミが岩場の少し高いところを指さす。
セイナはおそるおそる登る。風が黒い長い髪をなびかせる。夕日を浴びて、普段の堅苦しさがふわっと溶けたみたい。
「いいよいいよ!そのまま!」カガミがしゃがみ込んで、角度を変える。「もうちょっと顎上げて——そうそう!目線はこっち!」
パシャ。
「はい次の——手を広げてみ?」
「こ、こんな感じですか?」セイナが不自然に両手を広げる。まるでロボットみたいで、見てるこっちが笑ってしまう。
「違う違う!もっと自然に!こう——」カガミが自分でポーズをとって見せる。
「カガミさん、それ、ガニ股ですよ……」ハナルが小さな声でツッコミを入れる。
「ええねん!これがオレのスタイルや!」
セイナは必死に笑いをこらえながら、もう一度ポーズをとる。今度はさっきより少し柔らかくなった。
パシャ。
「よし!次はハナルちゃん!」
「え?わ、私も?」ハナルがどもりながら前に出る。
「もちろんや!FAのボーカルやで!」カガミがハナルの手を引いて岩場の上に押し上げる。
ハナルは緊張して、手足の置き場に困っている。目線も定まらない。
「ハナルちゃん、こっち向いて。」キリカが突然言った。
ハナルがそっちを向くと、キリカがスマホを構えていた。
「キ、キリカちゃんも撮るん?」
「カガミが下手くそやから、オレが撮ったるわ。」
「はあ!?」カガミが飛び上がる。「オレの写真、そんなに悪いか!」
「悪くはない。でも、オレの方が上手い。」
「勝負や!」カガミが構える。「どっちがええ写真撮れるか、勝負!」
「受けて立つ。」キリカが涼しい顔で答える。
ハナルは二人の間に挟まれて、どっちを向けばいいかわからない。
「ハナルちゃん、笑って!」カガミが叫ぶ。
「わ、笑うの、苦手で……」
「じゃあ、海を見て。」キリカが言う。
ハナルが海の方を向く。波が寄せては返す。遠くでカモメが鳴いている。夕日が水面にキラキラと反射して、まるでダイヤモンドみたい。
「いいね、そのまま。」キリカがそっとシャッターを切る。
カガミも負けじと別の角度から撮る。
パシャパシャパシャ——シャッター音が波の音に混ざる。
「わ、私、次、誰か代わって……」ハナルが限界を訴える。
「はいはい、次はアコちゃん!」カガミがターゲットを変える。
アコは少し迷って、岩場に立った。風が赤いスカートを揺らす。白いブラウスが夕日に透けて、幻想的な雰囲気。
「わあ、めっちゃええ……」カガミが息を呑む。
「……こっち、見んといて。」アコが照れて顔を背ける。
「それもええ!」パシャ。
「アコ、もっとこっち向いて。」ヒデミが突然言った。
アコが振り返ると、ヒデミが自分のスマホで撮っていた。
「あ、あんたも撮るん?」
「記念やし。」
「……べつにええけど。」
アコは少し頬を赤らめて、カメラ目線をちょっとだけくれる。ヒデミが無言で何枚か撮る。
「ヒデミ、もっとこう——」カガミがアドバイスしようとする。
「いらん。これでええ。」ヒデミはそっけない。
「ツンデレ!」
「うるさい。」
その時、セイナが遠くから走ってきて、手に何かを持っている。
「みんな!見つけました!」
「なんやそれ?」カガミが首をかしげる。
セイナが手を開くと、そこには小さな貝殻と、丸いシーグラス。夕日に透けて、ほんのり光っている。
「わあ、綺麗……」ハナルが目を輝かせる。
「これ、撮影に使えませんか?」セイナが貝殻をカメラのレンズの前に持っていく。「こうやって、覗き込む感じで——」
「セイナちゃん、天才!」カガミが飛びつく。
そのアイデアで、次々に新しいポーズが生まれる。貝殻を耳に当てて「海の声聴こえる?」とポーズをとるハナル。シーグラスを目に当てて「未来が見える」と真顔で言うキリカ。砂に大きなハートを描いて、その中に寝転がるカガミ。
「もう、カガミさん、それ、砂まみれになりますよ!」セイナが笑う。
「ええねん!これがロックや!」
「ロックと砂、関係あるんですかね……」ハナルが首をかしげる。
「あるねん!」
適当すぎる答えに、みんなで笑い転げる。
日が完全に沈みかけた頃、ヒデミが車のトランクから小さなクーラーボックスを取り出した。
「なんやそれ?」カガミが近づく。
「ジュース。缶のやつ。適当に取れや。」
「ヒデミちゃん、準備ええなあ!」
「別に。たまたま入れてただけ。」
缶を開けるプシュッという音が、波の音に重なる。
六人は砂浜に座って、ジュースを飲みながら、空の色の変化を眺めていた。オレンジからピンクへ。ピンクから紫へ。星が一つ、また一つと輝き始める。
「なあ、次のライブ、どこでやる?」カガミが空を見上げながら言う。
「まだ決まってへんけど……せっかくやから、もっと大きいとこがええな。」キリカが答える。
「そういえば、浦和会長が松園でできるって言うてたよな?」セイナが提案する。
「あ、あそこ、結、結構広いで。五、五百人は入るって。」ハナルが言う。
「五百人!」カガミが立ち上がる。「そしたら、あのユキも見直すやろ!」
「まだユキのこと気にしとるん?」アコが聞く。
「気にはなってへん。見せつけてやりたいだけ。」
「それ、気にしてるって言うねん。」キリカが呆れる。
「もうええわ!」
みんなでまた笑う。
「でも、他校の生徒が出演するのは許可されるの?」
「大丈夫や。うちの学校、そんなに厳しゅうないし。校長に見せたら、多分大丈夫やろ。」
その時、ハナルが小さな声で言った。
「……あ、あの、歌、歌ってもいいですか?」
「え?今から?」カガミが驚く。
「はい。こ、こんな綺麗な夕焼け、久しぶりやから。」
「いいよ!聴かせて!」
ハナルは立ち上がって、海に向かって深呼吸した。それから、静かに歌い出した。
歌詞はない。ただのハミング。でも、そのメロディーは優しくて、温かくて、波の音と混ざり合って、海の向こうまで響いていった。
誰も喋らなかった。ただその声を聴いていた。
ハミングが終わると、カガミがぽつりと言った。「……ハナルちゃん、それ新曲?」
「い、いいえ。なんとなく、浮かんだメロディーで。」
「それ、使おうや。」キリカが言った。「次の曲。」
「え?で、でも、歌詞もないし——」
「これから作ればええ。」ヒデミが言う。
「みんなで作ろう。」アコも言った。
ハナルは目を潤ませて、こくんとうなずいた。「……はい。ありがとうございます。」
星が増えていく。波の音が優しい。
「そろそろ帰ろか。」ヒデミが立ち上がる。
「もうちょっとだけ!」カガミがねだる。
「もう九時やで。」
「え!?もうそんな時間!?」
「写真撮りすぎやねん。」キリカが立ち上がって、砂をはたく。
片付けを始める六人。クーラーボックスを車に積み込み、砂まみれの靴を履き、貝殻をポケットにしまう。
「今日、楽しかったな。」セイナが小さな声で言う。
「うん。」ハナルがうなずく。
「また来ような。」カガミが笑う。
「そうやな。」キリカも珍しく笑った。
車に乗り込む。後ろの座席は相変わらずぎゅうぎゅう。
「ヒデミちゃん、また海連れてきてな。」カガミが言う。
「めんどくさいなあ。」そう言いながらも、ヒデミはエンジンをかけた。
車が走り出す。後ろの窓から、星が輝く海が見える。
「ねえ、みんな。」アコが突然言った。
「ん?」
「……写真、どれにする?次のSNSに載せるやつ。」
「オレが撮ったやつ!」カガミが即答する。
「いや、私の。」キリカが言う。
「じゃあ、みんなで選ぼう。」セイナが提案する。
「それええな!」
車の中で、スマホを見せ合いっこしながら、あーでもないこーでもないと話し合う。
「これ、ハナルちゃん、めっちゃええやん!」
「こ、これは照れます……」
「これ、ヒデミが撮ったやつ、なんか変。」
「変やない。自然体や。」
「自然体すぎやろ!」
「うるさい。」
笑い声が車内に広がる。
「……決まった?」アコが聞く。
「うん。これ!」カガミが一枚の写真を指さす。
そこには、六人が砂浜に並んで立っている後ろ姿。夕日がシルエットを照らして、手を繋いでいるように見える。誰が撮ったのか、もう覚えていない。でも、それが一番、FAらしい写真だった。
「いいね。それでいこう。」キリカが言う。
「うん!」
車は、街灯が点き始めた道を走り続ける。海の潮の香りが、まだどこか残っていた。
「明日もストリートライブやで~」セイナが思い切って、みんなを笑わせる一言を言った。
「また苦しめるんか?」ヒデミが笑う。
「明日は何曲歌う?じゃあ、オリジナル全部やろか。」キリカは目を閉じて、笑いながら言う。
「ハナルちゃんの喉を大事にしてあげてな。」アコは助手席に座って、笑った。
「わ、私、頑張るよ。」ハナルも恥ずかしそうに言った。
普段一番よく喋るカガミは今日は何も言わず、ただ座っているだけだった。
「愛してるよ。チームメイトたち。」
(From Dandy:
The sea breeze, the sunset, and the six of them. This is the photo I want to treasure forever. The new song is on its way——stay tuned! And as always, thank you for your support. Love you all.
These days I'm going to ask my friends to draw their character concept art for me. )




