第30話 LIVEやる!
日曜日。
MOCAの前には、もうたくさんの人が集まっとった。招待状を配ってライブに来てもらうのは大変やけど、口コミで広がって、開演までまだ二時間以上あるいうのに、もう人が待っとる。
「わあ、アコちゃんまだ来てへんの?早よ準備せなあかんって言うたのに。」カガミはもう我慢できへん。元々せっかちな性格やのに、今日アコが忙しいなんて知らんかったから、すぐに和歌山まで迎えに行きたくなっとった。
「あ、アコちゃんが買うてくれた服、見て。す、すごくきれいやね……」ハナルはスマホを見て嬉しそうに言うた。
「そうなん?カガミ、昨日の夜、アコがスカート買うてくれたって言うとったで。」キリカが笑うた。
「それ、言わんといて!見たら自分で着替えるから。」カガミは腰に手を当てた。
一方、セイナはずっと黙っとった。爪が柔らかい手を傷つけそうで、緊張で冷や汗が止まらん。ハナルは笑っとったけど、セイナの様子を見てすぐに駆け寄って抱きしめた。
「せ、セイナちゃん、ど、どうしたん?体調悪いん?」
「緊張してしまって……もし上手く弾けんかったら……」セイナは息をするのも苦しそうやった。
「あ、安心して。わ、私たちはあんたを一人で困らせたりせんよ。みんなで助けるから。」
「……」セイナは何も言わず、隣のギターを手に取った。
彼女は手に持ったギターを見つめとった。感触は変わらんけど、今回は特に重く感じられた。セイナは譜面台のギター譜を見つめ、一曲完璧に弾きたいと思っとった。そしたら、そんなに緊張せんで済むかもしれへん。
けど、彼女はただコードを押さえて、ピックで弦を弾いた。
少なくとも、この30個は全部正しく弾かんとあかんやろ?
セイナは「Prayer」を選んで練習を始めた。優しく弦を弾きながら、間違えんように願うた。
けど、3つ目の音を間違えた。セイナはしっかり押さえられへんかったから、音が低くなってもうた。
カガミとキリカは彼女がおかしいことに気づいて、二人とも心配そうに見つめとった。セイナは深呼吸して、もう一回始めた。
今度は2回目で間違えた。明らかに弦を間違えた。
「……もう一回。」セイナはギターをぎゅっと握った。3回目の「Prayer」が鳴り響く。今度は最初から確かにええ音やった。けど……
「バン。」
ここはスライドが必要なんや。メインギターもリズムギターもスライドを使うとこや。ここのメインギターはスライドが多いけど、この位置だけは他のと違うて、リズムギターにもスライドがある。けど、セイナはできへんかった。
彼女はギターを置いて、放心して座り込んだ。
「ほんまに役立たずや……こんなに下手くそで……」
キリカとカガミは飛びつかんばかりやったけど、セイナはもう頭を抱えてしもてた。涙は出てへんけど、心はもうぼんやりし始めとった。
「どないしょ……しっかりして、セイナちゃん!あんたがいなんだら、うちらどないなるん!」
「そうや!はよ元気出せ!『うまくできへん』なんて絶対に思わんって言うたやろ!」
けどセイナはただ座っとった。返事したいけど、口を開けても言葉が出てこん。
「みんな!うちら来たで!」アコが個室のドアを開けて、後ろからヒデミがついてきた。アコはベースを背負い、手にはキーボードを持っとった。ヒデミはいくつかの袋を持っとった。
「ほんまに楽そうやな。」ヒデミが横目でアコを見た。
「うちが背負っとるほうが、あんたより重いで?」
「まだ化粧品も持っとるし。」ヒデミはその袋を床に置いて、床に座るセイナを見つけた。アコも気づいて、ギターケースを置くのも忘れて急いで近づいた。
「どないしたん?セイナちゃん?大丈夫?」
「きっと緊張しすぎたんや……」カガミの声だけでも心配が伝わってきて、自分も緊張してまう。
「無能や……」セイナの目から輝きが消えた。
アコはヒデミに目配せして、ヒデミがアコのギターケースを下ろしてくれた。アコはセイナを抱きしめた。相変わらずや。
「セイナちゃん?具合悪いの?」
「役立たずや……足を引っ張るだけ……」
アコは、ちゃんと置かれとらんギターや散らばった楽譜を見て、何かを察した。セイナが間違えても大丈夫やって知らせるような方法は使いたくなかった。今、アコが願うのは、セイナに自信を持たせることやった。
「あんたがそんなに下手くそやとは思わへんで、セイナちゃん。」
アコは譜面を譜面台から外して、適当にペンを一本取った。細い指でペンを持ち、楽譜に素早く何度か線を引いて、セイナに渡した。
「これ、弾いてみ。」
まだ「Prayer」の楽譜やけど、見てわかるように、かなり……簡略化されとった。大事なリズムは強調されとるけど、複雑なテクニックはアコがだいぶ簡単にしとった。
キリカが白い頭を突き出して楽譜を見た。セイナはそれを見て、おずおずと立ち上がり、ギターを手に取った。
楽譜の各行の始めには笑顔が描いてある。見た目は素朴やけど、心が落ち着く。セイナは深呼吸して、さっき失った元気を取り戻した。
そして、弾き始めた。
最初はベースかと思われたけど、数回簡単に弦を弾くと、これがギターやと気づかされた。ギター特有のロック感が出てきた。
そう、低音の伴奏が聴衆にリズムを伝えすぎてもうた。リズムギターが本来ベースの役割をしもたかもしれへん。
セイナが弾き終わった。さっきのリズムが強すぎて、カガミもつい踊りたくなってもた。
「見て、すごいやろ?」アコはセイナをまた胸に押し付けた。「『もう怖がらんでええ』って言うたやろ。自信持ち。残りはうちがキーボードでフォローするから。」
セイナは涙を拭いて、「ありがとう、アコさん。みんな、ほんまに優しいな。」
「まるでママみたいやわ。」キリカが珍しく褒めた。
ヒデミは何も言わず、セイナに微笑んでから化粧品をいじり始めた。
「ハナル、あんたからな。メイクしたるわ。」
「あ、わ、わかった。」
しばらくして、誰かがドアを開けた。赤い髪の人やった。トモや。
「おお!兄ちゃん!なんで来たん?」カガミは兄を見て興奮して飛びついた。
キリカも今の兄を見て、思わず微笑んだ。認めたくはなかったけど、自分はもうカガミの姉みたいなもんやった。
「おとんとおかんが、お前たちのライブ見に来たんや。」トモは中にいる数人に手を振って挨拶し、アコとセイナの方をちょっと見た。
「パパとママはどこにおるん?」
「1階で店長と昔話しとる。これ、持ってきたで。」
トモは手に持った箱から何かを取り出した……ドローンや。
「後でこれでみんなを撮影するから。曲ごとに飛ばすで、その時は気ぃつけて。ドローンの位置は変わるから、お客さんにも伝えといて。」
トモは普段から写真撮るのが好きな男や。そんなもん持っとるのは珍しくないけど、不器用な妹に触られたらあかんから、普段は出さん。けど、カガミはそれを見るなりすぐに手に取った。
「やっぱり四つ翼や!最高や!撮影終わったらすぐにXに上げるわ!」
その時、ヒデミはキリカのメイクを半分ほど終えたとこやった。彼女はキリカの顔を反対側に向けた。
十五分後。六人が鏡の前に立つ。
アコが選んだ衣装は、どれも個性的やった。けど、そろったとき——まるで一枚の絵のように調和しとった。黒を基調に、ところどころに鮮やかな赤、青、白がアクセントになっとる。ロックやけど、ガーリーな雰囲気も忘れてへん。ヒデミが軽くアイロンをかけたおかげで、どの服もシャープなシルエットを描いとった。
化粧もヒデミの手によるもんや。濃すぎず、薄すぎず。それぞれの顔立ちを引き立てる自然な仕上がりに、カガミが「プロか!」と叫んだほどやった。
「……なんか、すごいな。」キリカが自分の手のひらを見つめる。
「当たり前や。うちがやったんやから。」ヒデミはだるそうに言うけど、口元は緩んどる。
アコはみんなの姿を順に見て、小さく息を吐いた。そして、自分も黒のTシャツと赤のチェックスカートの襟を直した。
「……行こか。」
「うん。」
ステージ袖から見る客席は、思っとるよりずっと広かった。まだ開演まで一時間以上あるいうのに、三十人以上は集まっとる。知らん顔も多い。SNSで募集を見て来た人たちやろ。
「す、すごい……こんなに……」ハナルが声を震わせる。
「練習通りにやればええねん。」ヒデミがアコの肩を軽く叩く。
カガミは深呼吸して、マイクを握りしめた。ステージに上がる順番は、一番最初が彼女や。
「……よし。行くで。」
ステージの照明が落ちる。ざわついとった客席が、一瞬で静まった。
スポットライトが一つ、センターに立つカガミを照らす。今日の彼女は黒と赤の野球ユニフォームに黒いスカート。珍しくスカートを履いとる。普段のガサツさが嘘のように、凛とした姿やった。
「……み、みんな、こんにちは。」
最初の言葉で、ほんのちょっとだけどもった。客席から優しい笑いが漏れる。カガミは顔を赤らめながらも、マイクを握り直す。
「うちら、フォルティシモ・アリーナ、略してFAです。今日は……は、初めてのちゃんとしたライブをやります。曲、聴いてください。」
もう少しでハナルみたいに吃るとこやった。けど、彼女は諦めず、落ち込んでもせんかった。深く息を吸って、叫んだ。
「『Adventure』!」
それに続いて、キリカがドラムスティックを振り上げる音がした!
ドラムのスティックが交差する音。キリカの正確なカウントが、暗闇を切り裂く。
ハナルの声が、会場全体を包み込む。澄んでて、力強くて、迷いがない。練習の時よりも何倍も、何十倍も輝いとった。
客席のペンライトが、ゆらゆらと揺れ始める。誰かが小さく「すごい」と呟いた。その言葉が、波のように広がっていく。
ハナルがマイクを握りしめ、目を閉じた。そして——歌い出した。
「朝の光 窓を叩いて」
「眠い目をこする日々に」
「ちょっとだけ 冒険のスパイス」
「混ぜたら ほら 始まるのさ」
「地図にない道を 行こう」
「コンパスなんて いらない」
「風の向きが 教えてくれる」
「今日はどこへ 連れて行くの?」
メロディーはとても可愛らしく歌える。まるで放課後の中学生が街を走り回り、元気いっぱいに跳ね回っているみたい。そして会場の下では——ついにフラッシュライトを振る動きが始まった。
(From Dandy:
They've got a new song! Ready to watch the full live next time?Remember to like it.)




