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第28話 解き放て

キリカがカガミの家に帰ってきたのは、夜の九時を過ぎていた。玄関のドアを開けると、リビングから灯りが漏れている。カガミがソファに寝転がってスマホをいじっていた。

「おかえり。どないやった?」

「……ダメだったわ。」キリカは靴を脱ぎながら短く答えた。「ユキに会ったの。」

「え?ユキちゃん?どこで?」カガミがむっくり起き上がる。

「ライブハウスよ。あの子、別のバンドのベースをやってた。」

「なんやそれ……」カガミの顔が曇る。「なんか言われたん?」

キリカは少し間を置いてから言った。「あまり聞かないほうがいいと思う。」

「オレに言えへんことなんてあらへんやろ!」カガミが立ち上がる。

キリカはため息をついた。「……『偽物の絆』って、『すり寄り猫』って。私たちのバンドのことよ。」

カガミの拳が震えた。「あいつ、まだそんなこと……あの時、オレもっと怒ってやればよかった。先輩だからって遠慮しちゃって……本当はオレが何とかしなきゃいけなかったのに。」

「でも。」キリカは顔を上げた。「私、もう気にしないことにしたの。あんな奴にかまってられるか。」

「キリカちゃん……」

「ねえ、カガミ。ビデオ通話、できる?」キリカがスマホを取り出す。「みんなに話したいことがあるの。」

カガミは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにうなずいた。「わかった。オレが呼ぶわ。」

グループ通話を立ち上げる。数秒後、ハナルの顔が映った。背景は自分の部屋。小さなデスクライトが点いていて、その隣に歌詞カードが広がっている。

「き、キリカちゃん、カガミちゃん。ど、どうしたん?こ、こんな遅くに。」

「ごめんね、急に呼び出して。ハナル、声、大丈夫?なんか掠れてるみたいだけど。」

「あ、あの、ちょっと歌の練習しすぎて……声、出にくくて……」ハナルは照れくさそうにうつむいた。喉を押さえながら、小さく咳払いをした。

次にセイナが映った。画面の向こうは薄暗い廊下だ。声を潜めて話している。

「キリカさん、カガミさん。今、大丈夫です。母と父はもう休んでいますので。」

「悪いね、遅くに。セイナ、部屋じゃないの?」

「はい。廊下から出ました。部屋だと声が聞こえるかもしれないので。」セイナが小さく笑った。

最後にアコの画面が映った。アコはベッドに横になっていて、布団で鎖骨の下を覆っていた。かつて三人を押さえつけたことのあるその胸も、布団の下から見え隠れしていた——しかし、布地がほとんどない肩からすると、彼女はおそらく何も着ていないようだった。

「あ、アコちゃん、なんか——」

カガミが言いかけた瞬間、画面の端からヒデミの顔がひょっこり現れた。手にはどんぶりを持っている。どうやら夜食を食べているらしい。ヒデミの口元にはまだ少し油がついている。

「あ、ヒデミもおるんか。」

「暇やったから、ちょっとアコのとこに来てたんよ。」ヒデミはあっさり言って、どんぶりからうどんをズルズルとすする。「もうすぐ帰るわ。」

「あの、うちは服着てるよ……笑わないで、カガミちゃん……」アコがむっとして言う。

「誰も脱いでるなんて言うてへん。自分からバラさんとき。」ヒデミが平然と返す。

「黙れ、バカ……」アコは顔を赤らめた。

キリカはみんなの様子を見て、ユキの言葉を思い出し、ますます気分が悪くなった。

「もういいわ。」キリカが話を戻す。「今日、みんなに伝えたいことがあるの。」

画面の中の四人が、一斉にキリカを見た。

「私、ライブハウスでユキに会ったの。」

空気が一瞬で固まった。ハナルが息を呑む。セイナの眉がピクリと動く。アコは布団をぎゅっと握りしめた。ヒデミはどんぶりを置いた。

「あの子、相変わらずだったわ。私たちのことを『偽物の絆』って言ったの。私たちの物語を侮辱し、私たちの絆を侮辱し、さらにヒデミが『すり寄り猫』だって。」

誰も何も言わなかった。

「でもね——」キリカは顔を上げた。「私はもう、あの子に何を言われても気にしないことに決めたの。私には、大切なものがあるから。」

「キリカさん……」セイナが小さな声を出す。

「それでね。みんなにお願いがあるの。」

キリカは一度、深呼吸をした。

「ライブをやりたいの。私たちのバンドで、ちゃんとしたライブを。今までみたいなストリートじゃなくて、大きなステージで。」

カガミの目が輝いた。「いいね!オレも前からやりたかった!場所はオレが探す。」すぐに言う。「MOCAに大きいステージ借りられへんか聞いてみるわ。」

「チラシも作らなくちゃね。」キリカが言う。「写真、新しく撮らない?」

「私、撮るよ。」ヒデミがだるそうに手を挙げる。「バイトでカメラ使うから、ちょっとくらいはできるわ。」

「あ、ヒデミさん、カメラできるんですか?」セイナが驚いた顔をする。

「適当にね。」ヒデミはまたうどんをズルズルと食べ始めた。

「じゃあ、決まりね。」キリカがうなずいた。「明日はまず約束したMVの撮影をしよう。もしヒデミが撮るなら……」

「ちゃんとオレが撮るって言ったのに!」カガミは少し納得がいかない様子で、「前回はオレに先に撮らせるって言ったじゃない。」

「じゃあ、あなたがやってみて。でも一人だとちょっと心配だから、セイナに教えてもらって。」

「ああ、わかった。全力でやるよ。」

「……キリカちゃん。」アコが小さな声で言った。「私も手伝う。みんながこんなに影響を受けるの、見てられない。」

「当たり前でしょ。」キリカが口元を緩ませた。「あなたは私たちのキーボードなんだから。」

「もう遅いし、今日はここまでにしようか。」カガミが言う。「みんな、おやすみ!」

そう言って、ビデオ通話は切れた。

岸和田 晴奈:「おやすみなさい。」

オーロラ:「お、おやすみなさい。」

Juliet:「おやすみなさい、みんなしっかり休んでね。いい子にしてね。」

朝九時憎む:「おやすみ。」

寝ようとしたら、キリカのスマホが鳴った。

「キリカ。」ヒデミからのメッセージ。

「なに?」

「あのユキって子、また何かしてきたら、私に言って。ベースでぶっ飛ばしてやるから。」

キリカは思わず笑った。「……それ、物騒ね。」

「冗談よ。」ヒデミも笑った。「でも、半分は本気。」

通話が切れた。

次の日。火曜日。

カガミは朝一番でMOCAに電話をかけた。

「もしもし、オレ、フォルティシモ・アリーナのキャプテン、岩橋カガミ言います。ステージ付きの練習室を借りたいんですけど、空いてますか?」

電話の向こうで、店長が笑う声が聞こえた。「おや、岩橋ちゃんがまた何か企んでるのかい?」

「ライブをするんです!ちゃんとしたライブを!」

「ほほう。それは楽しみだね。ちょっと待ちな。」

しばらくして、店長が返事をした。「日曜日、一日中空いてるよ。どうする?」

「借ります!ありがとうございます!」

カガミは電話を切ると、すぐにハナルにLINEを入れた。『ハナルちゃん!MOCAのステージ、押さえたで!今日からチラシ作るから、学校終わったらMOCAに来て!』

すぐに返事が来た。『わ、わかりました!た、楽しみです!』

午後四時。MOCAの一階ロビー。

カガミ、ハナル、セイナ、キリカの四人が集まっていた。テーブルの上には、大きな紙とペン、糊、鋏が広がっている。

「で、どんなデザインにする?」カガミが首をかしげる。

「シンプルな方がいいと思います。」セイナが提案する。「バンド名と日時と場所。それと——写真があれば。」

「写真か。」キリカが考え込む。「そういえば、ヒデミが撮ってくれるって言ってたわね。今日来られないの?」

「あとで来るって。」カガミがスマホを確認する。「アコちゃんと一緒に。MVも撮りたいらしい。」

「私だけ?みんな撮らないの?」キリカは眉をひそめた。

「そうやで。キリカちゃん、今日めっちゃかっこいいし。その歌は、あなたが束縛から逃れることを歌っているんや。」

「別にいいけど。」キリカはそっけなく言ったが、口元はわずかに緩んでいた。

四人でチラシを作り始めた。

「もうちょっと左にずらしたほうがいいかな。」

「こ、ここですか?」

「そうそう。いい感じ。」

作業を始めて三十分ほど経った頃、入口のドアが開いた。ヒデミとアコが入ってくる。ヒデミは肩にビデオカメラを担ぎ、三脚を抱えている。アコはその後に続いて、キーボードのバッグを背負っていた。

「遅れてごめん。」ヒデミが軽く手を上げる。「ちょっと機材の準備に時間かかって。」

「気にせんでええよ!まだ途中やし!」カガミが手を振る。

アコはキリカのところに近づいて、小さな声で言った。「……私も手伝うから。何かあれば、遠慮なく言ってください。」

「うん。よろしく。」キリカはうなずいた。

MVの撮影が始まる準備ができた。音声と映像を分離する必要があったため、彼女たちはそれぞれの楽器を準備し、再びその曲を演奏した。

その「解き放て」という歌は、彼女たちの運命が爆発するために生まれたかのようだ。メロディもコーラスも非常に感染力があった。これは彼女たちがこの曲を初めて披露するもので、MVも制作するために特に力を入れていた。

キリカはドラムセットの後ろに座った。スティックを手に取り、軽くシンバルを叩く。澄んだ音が響く。キリカはもう気にせず、思いっきり自分の力を発揮しているようだ。

一瞬の静寂。

次の瞬間、力強いビートが炸裂した。

6人全員が自分の最高の状態に達した。普段はミスばかりするセイナでさえ、今回はみんなのサポートと自分自身の努力によってミスをしなかった。

曲が終わった。

MOCAの店長に頼んで、撮影に適した黒い部屋を使わせてもらった。十分に暗くて、邪魔な背景を無視できるし、後の編集にも適していた。

「はい、次のシーンです——キリカちゃん、カメラの前に立ってくださいね。」カガミがカメラを構えた。キリカはカメラの前に立ち、MV撮影のために真っ白なドレスに着替えた。

彼女の目は開いていた。歌のリズムに合わせて、そして歌詞の意味が心に染み込むにつれて動きを作り出す。それは意図的な演技ではなく、心からのダンスステップだった。

暗い心が彼女の目を一時的に暗くした。彼女はそのメロディーが痛みを訴えるのを聞き、自然と地面に座り込み、頭を抱えて、非常に苦しんでいるように見えた。

「カガミさん!近くから撮ってください!」セイナは横で指揮を執り、ヒデミはカガミの後ろに立って彼女のカメラ設定を手伝っていた。

「心が 儚い痛み」

「目覚め 生きるなんて」

「結局は諦められない」

「自分成れ そういくぜ」

「もはや虚偽縛られない」

キリカは虚無からゆっくりと立ち上がり、その目には怒りと自由への渇望の輝きが燃え上がっていた。まるでそれが彼女の心の声のようだった。

「この所で」

「全部 注ぎ込め——」

爆発的な叫びもキリカの喉から迸り出し、囚われの白鳥のように美しく、心を打つ。この狂気的な感覚が、彼女に自分自身を見つけさせたかのようだった。

誰も何も言えなかった。

「……オッケー。」ヒデミがやっと口を開いた。「ばっちり撮れたわ。」

カガミがはっと我に返った。「キリカちゃん、それ、めっちゃよかった!なんで今まで見せてくれへんかったん!」カガミはカメラを切り、目には輝きが満ちていた。

「見せようと思ったことがなかったからよ。」キリカはスティックを置いて、立ち上がった。隣にいるセイナがカメラを受け取り、中に保存されている映像を見て、すぐにキリカを褒めたくなった。

アコはすぐに駆け寄り、キリカを自分の胸に抱きしめた。ハナルも近づいてきて、今日はツインテールにしていない白い長い髪を整えた。

「幸せだな。」それがキリカのその時の最初の感想だった。

(From Dandy:

Witness their rebirth! Look forward to their concert~ Don't forget to like and save it.)

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