第27話 お前がオレたちを引き裂くの?
翌日、キリカはこっそり百合泉に入った。外で自分を怪しんで見ている人も、両親の姿も見えなかった。ほっと一息つき、少し安心できそうだ。
「もう運命共同体やな。ほんまに全部……バンドに注ぎ込まなあかんのか……」
キリカは自分の席に座り、新しい服を見つめた。百合泉では制服の着用を強制されていないが、周りの生徒はほとんど制服を着ている。キリカは制服を着ていない。今日彼女が着ているのは、未使用のカガミのJK制服だ。カガミはスカートを履くと場違いに見えるし、カガミはズボンが好きなので、キリカに履かせた。元の服は元の部屋に置き去りにされたからだ。
「わあ、キリカちゃん、今日はあのかっこいい服着てへんの?」クラスメートたちが次々と集まって尋ねた。
「うん。あの服、洗ったけどまだ乾いてへんねん。」
「残念やなあ。あんなかっこいい服やったら、絶対たくさんの男や女を引きつけられるのに。」
「もうええわ。どうせ普段は週に1、2日しか来へんし。」
「でもほんま羨ましいわ。あんたの家、そんなにお金持ちで、しかもこんな可愛い娘がおるなんて、考えただけで……わあ、私もキリカちゃんにアプローチしたいわ!」
「……」キリカはその言葉を聞いて顔色が大きく変わり、無理に笑顔を浮かべて外に出て、職員室へ向かった。
「高田先生、長期休暇を取りたいんです。」
高田という先生は、とても気さくそうな女性の先生。彼女は顔を上げてキリカを一瞥し、尋ねた:
「普段からご両親が休ませることもあるよね?なんで今日は長期の休暇届が必要なの?」
「……家で問題が起きました。」
「でも、親の承認が必要だよ。あなたの言うだけでは認められない。」
「……先生、親は無理です。」キリカが以前カガミやヨシコと一緒に手続きした書類を取り出して、先生に渡した。
「私の家族が私に家庭内暴力を振るいました。私は家を出て、すでに身分証明書も取得しています。だから、どうか承認してください。」
高田先生は信じられないという表情で彼女を見つめた。寒川家のお嬢様が家出するなんてありえない。高田先生は信じたくなかったが、目の前の書類は本物だった。
「どうか絶対に秘密にしてください。さもないと私は捕まってしまいます。」
高田は気持ちを落ち着けてうなずき、キリカに申請書を渡した。
「これに記入して、新しい後見人にサインをもらいなさい。午後に私に渡してくれれば、休学手続きを始めることができる。」
「……わかりました。先生、ありがとうございます。誰にも言わないでください。」
昼、カガミ家。
「先生がキリカちゃんの休学を許可したの?」カガミがキリカに尋ねた。
「うん。これからはドラムの練習に集中するつもりや。リハーサルがない時は、バイトして稼ごうと思う。いつまでもあんたらに負担かけたくないし。」
キリカはソファに座ってスマホをいじっていた。少し前に新しいMVを撮る約束をしていたが、一連のトラブルのせいで中止になった。明日火曜日には練習があり、彼女たちはMVの撮影を準備している。ハナルが書いた新曲のことだ。
「誰があんたを負担やと思うねん。」トモがキッチンから出てきた。ヨシコは買い物に出かけており、今日はトモが家事をしている。兄として妹が増えたのは確かに少し慣れないが、それでも——一番可愛がっているカガミの妹やし、しっかりしてる。負担に思うことなんて何もない。両親が思っていた通り、みんなキリカを傷ついた子だと思っている。「早よ食べ。冷めたらまずいで。」
「兄ちゃん、普段はそんなに気ぃ使わんでええのに!」
「あんたはほんまにいたずら好きやな。俺を見てみ?ちゃんと親の手伝いしとるやろ?」トモは笑いながらカガミを見た。
「知らん、知らん!妹やからってなんで差別すんねん?兄ちゃんだって高校卒業してへんのに……」
「黙れ!もう言うな!」トモはすぐに飛びついて妹の口を塞いだ。
キリカは横で見ていて、珍しく本心を見せた顔をしていた。
これこそが家なんやな。
午後。
「じゃあ、『CRAKAY』いうライブハウスで会いましょう!ドラマーさんを楽しみにしてます!」
「わかった。」キリカは電話を切り、自分のバッグを手に取り、深呼吸をした。彼女はちょうど学校で休学申請書を提出して帰ってきたところで、まだ息が切れていた。少し休んだら、約束されたライブハウスへ向かうつもりだ。
「わあ、キリカちゃん、絶対に浮気せんといてや。あんたはうちらのFAの正式なドラマーやで!他のバンドに正式に入ることはできへんで!」カガミは半分冗談めかして言った。
「他のバンドにあんたらみたいな仲間がおるかいな。うちを恩知らずと思うなよ!」
「はは、わかったわ。兄ちゃんに送ってもらう?」
「いらん。遠ないし、歩いて行く。」
キリカはドラムスティックの入った小さなバッグを背負い、外へ出ていった。
CRAKAYは、心斎橋の地下にあるライブハウスだった。階段を下りるほどに、重低音がじんじんと響いてくる。キリカはドラムスティックの入った小さなバッグを肩に掛け、ゆっくりと扉を押し開けた。
「あ、来た来た!」
中から明るい声が飛んでくる。キリカが目を向けると、若い男が二人、ドラムセットの前に立っていた。一人は長髪を後ろで束ねていて、もう一人は派手な柄シャツを着ている。二人ともキリカよりは年上に見えた。
「君が噂のドラマー?めっちゃ若いやん!」長髪の男が笑いながら近づいてきた。
「池田キリカです。よろしく。」キリカは無表情で軽く会釈した。
「うちのバンド、『レイジング・ブル』いうねん。今日は急遽ドラマーが必要になってな。助かるわ。」柄シャツの男が言う。
キリカはうなずき、ドラムセットの後ろに歩いていった。その時——隅の方に、もう一人人影があることに気づいた。
壁際に立っている。ベースケースを背負って、腕を組んでいる。見覚えのあるシルエット。キリカの足が止まった。
「……ユキ。」
思わず名前が口から漏れた。向こうも気づいたらしい。ゆっくりと顔を上げる。あの、いつも無表情だった顔が、今は驚きと——何か別の感情で歪んでいた。
「……キリカ。」ユキの声は冷たかった。「なんでお前がここにおるんや。」
「知り合いなん?」長髪の男が首をかしげる。
「元バンドメイトやった。」キリカは簡潔に答え、視線はユキから外さなかった。
「元、ね。」ユキが鼻で笑った。「よく言うわ。お前らにあのバンド、辞められたんやから。」
「お前が自分で辞めたんやろ。」キリカの声も冷たくなった。
長髪の男が慌てて間に入る。「まあまあ、とりあえず練習しようや。せっかく来てもらったんし——」
「練習?」ユキが嘲るように口元を歪めた。「こいつ、まともに叩けるんか?前のバンド、あんなレベルやったしな。」
「ユキ。」キリカが低い声で警告する。
「何、その目。怖いわ〜」ユキは大げさに肩をすくめた。その時、彼女の目がキリカの服装に止まった。百合泉の制服じゃない。どこかで見たことのある、ちょっと派手な女子高生の服。
「……その服、どこのや。」ユキが眉をひそめた。
「関係ないやろ。」キリカはそっけなく答える。
「関係あるで。百合泉の制服着てへんし、名字も『池田』って——」ユキがじろりと見つめる。「お前、まさか家出したんか?」
「違う。」キリカは即座に否定した。顔色は変わらない。ユキは家出のことは知らない。知られるわけにはいかない。
「ふうん。」ユキは疑い深そうに、それ以上は追及しなかった。「まあええわ。どうせお前の家なんて、どうでもええし。」
キリカはほっとしたが、気を緩めない。
「で、あのバンドはどうなったん?まだ続いとるんか?」ユキが尋ねる。
「続いとる。」キリカは短く答えた。
「へえ。」ユキは鼻で笑った。「よく続くな。あんなメンツで。ボーカルはどもるし、ギターは初心者——」
「それはこっちの話や。」キリカが遮る。
ユキの目つきが変わった。何かを企んでいるように、にたりと笑う。
「そういえば聞いたで。あのバンド、新しいベーシストが来たんやろ?名前、何やったっけ——白石英美?」
キリカは答えない。
「あの女、前からアコのとこにちょくちょく来とったやつやな。」ユキは楽しそうに続ける。「『助っ人』って言うてたけど、本当はベースの座、狙っとるんやろ。人の居場所を奪う——まるで『すり寄り猫』やな。」
「……黙れ。」キリカの手が震えた。
「図星か。」ユキは構わず続ける。「あのバンド、所詮はそんなもんや。偽物の絆。すぐに壊れるわ。」
キリカは深く息を吸い込み、ドラムスティックを置いた。バッグを手に取り、立ち上がる。
「おや、もう帰るん?」ユキがからかうように言う。
「こんなとこ、一秒もおれへん。」
キリカは背を向け、扉に向かって歩き出した。背後からユキの声が追いかけてくる。
「カガミにも伝えとき。『家族』ごっこ、ほどほどにしとけってな。」
キリカは立ち止まった。振り返らない。
「……壊れても、また作ればええねん。」
それだけ言って、彼女は扉を勢いよく押し開けた。重低音が、一瞬大きくなって、また消えた。
外の空気が冷たかった。キリカは深く息を吸い込み、歩き出した。スマホが震えている。カガミからだ。
『キリカちゃん、どうやった?』
キリカは少し迷って、文字を打ち込んだ。
『行かんかった。もうええわ。』
すぐに返信が来た。
『え!?なんで?なんかあったん?』
『……後で話す。』
キリカはスマホをポケットにしまい、歩道を歩き続けた。街灯が、彼女の影を長く伸ばしている。
ユキの言葉が、まだ耳の奥に残っていた。あの女は『すり寄り猫』——キリカは歯を食いしばった。ヒデミのことをそんな風に呼ぶなんて、絶対に許せない。
それに——『偽物の絆』。
キリカは空を見上げた。星は一つも見えなかった。でも、彼女の胸の中には、確かな温もりがあった。
カガミの声。「キリカちゃん!ご飯やで!過去のことなんて考えんとって——早よ来い、早よ!みんな待っとるで。」
ハナルの声。「キ、キリカちゃん!頑張ってね!あ、あたしたちは、あ、あなたの味方やよ。あたしたちは、家族!」
セイナの声。「ありがとう、キリカさん。あなたに認めていただいた分、全力でお返しします。」
アコの声。「もう怒らんといて。うちたちは家族やから、辛かったらうちの胸の中で泣き。」
ヒデミの声。「ごっこ遊びでも、本気でやるもんやろ?ましてやこれはただのロールプレイングやないし。」
「偽物やない。絶対に……!!!!!!!」
(From Dandy:
I'll update another chapter tonight. Stay tuned!)




