婚約者と舞踏会(前)
ドレスって、重たいらしいですね。あんなの着て、踊って、何時間も。
女性って、大変だー。
舞踏会でも彼女のエスコートは、出来ない。
ファースト・ダンスもワタミタ王妃と踊ることになっている。
仕方がないこととはいえ、大いに不満だ。
慌ただしく着替えをして、彼女のドレス姿を見に行こうとしたら、また異母弟に捕まった。
何か言いたそうだが、言葉に出来ないようだ。
釘だけさしておいた。
婚約破棄は、するなと。
最近調べた資料も渡して。
「あにうえ・・・。」
初めて聞く情けない声。
「ティッオ、私もティアシャルドネに近づく男性がいたら、牽制するよ。馴れ馴れしかったら、余計に。彼女は、私の大切な婚約者だからね。」
弾かれたように顔を上げた異母弟は、気が付いただろうか?
今、懇意にしている令嬢と婚約者の言い分の違いに。
それともただ単に、異母弟は、今懇意にしている令嬢が、前世持ちかもしれないということがショックなのかな?
前世持ちを嫌っているから。
時間がないので、私は王族専用の控え室に向かう。
まったくこれでティッオがバカをやったら、時間を返せといいたい。
異母弟とその側近候補を落としたら、私と残念男に我が国のヒロインがウロチョロ始める。
面倒だから潰しておこうか。
彼女以外に時間を割きたくない。
けれど、今、異母弟の回りをウロチョロしている令嬢がそうなのかは分からない。
そもそもヒロインは、一人なのか?
乙女ゲームの知識がある者なら、ヒロインになり得る?
対象者と親密になれる方法を知っているのだから。
それに、強制力という言葉も気になる。
はあ。
私は、早く彼女と幸せになりたいだけなのに。
「レオンクラウド殿下、わたくしは、余計なことを申しましたでしょうか。」
部屋の隅で思い悩んだ顔をしている異母弟を見て、ワタミタ王妃が話かけてくる。
「いいえ、貴重な話をありがとうございます。」
出来ればゲーム内容を詳しく知ることができるなら。
「ごめんなさい。ゲームの詳しい話は、することが出来ないの。もう終わっているゲームの話なら出来ますが。」
まだ、この国のゲームは終わっていないということだ。
もしかしたら、始まってもいないかもしれない。
「ただ、ゲームと内容が違うから、いつもよりもお話することが出来ましたが。」
ワタミタ王妃は、申し訳なさそうにしている。
「それが″強制力″ですか?」
ゲームのストーリー通りに関係する人物を動かそうとする抗えない不思議な力が、多分、強制力。
だから、ゲームの内容を知っているワタミタ王妃の口を重くするのも強制力なのだろう。
ゲームの関係者に余計な情報を与えないように。
「魅了、魅縛は、心に干渉する力ですか?」
「本人が持つ力の場合もあり、魔法や魔道具の時もあります。けれど、人を惹き付ける力なので、ヒロインは必ず持っている力なのでしょう。どれだけゲームの内容を知っていても魅力がなければ、惹き付けられないと思いますから。」
それは、とても困った力といえよう。
アンタイルに相談して、どうにかできる魔道具を作るようにしよう。
力で強制的にでも彼女以外の誰かに惹かれるのは、絶対に嫌だ。
「あなたの婚約者は、とても素敵な方ね。」
その言葉はとても嬉しい。
けれど、その言葉だけでは彼女は語れない。
たぶん、語りだしたら、私は止まらないだろう。
いや、勿体なくて語らないかもしれない。
彼女の魅力は、私だけが知っていたらいいと思う部分もあるから。
入場の合図があり、国王と正妃の後ろをワタミタ王妃をエスコートして歩く。
国王の挨拶により、ワタミタ王妃歓迎の舞踏会が始まった。
まず、国王と正妃だけがダンスを踊る。
次に私たちの番だ。
私は、ワタミタ王妃の手を取って、ダンスフロアに向かった。
異母弟が誰と踊っているか確認する。
側妃と踊っていた。
それなら、まだ、安心だ。次に誰と踊るかだが。
もちろん、私は、彼女とだよ。
ちゃんとどこにいるかは、確認ずみだ。
まだ、食べているのかい?
晩餐会では、足りなかった?
お皿が、デザートで一杯だよ。
あ、お酒は、ダメだよ。
酔っ払ったら介抱はしてあげるけど、その姿は誰にも見せたくないからね。
うん、アンタイル、取り上げてくれてありがとう。
「本当に大切なのですね。」
ワタミタ王妃が、クスクス笑っていた。
「申し訳ございません。」
私は、バツが悪く苦笑を浮かべるしかない。
「恋人を楽しむのも必要なことですわ。」
温かく見守るような眼差しに嬉しくなる。
「お気をつけ下さい。ゲームは、始まっています。」
別れ際にワタミタ王妃は、小さくそう言った。
会場に入ってすぐに、彼女を探す。
うん、ちゃんと家族いるね。
じゃあ、大丈夫だ。
あれなら、どっちの悪い虫も近付かない。
ワタミタ王妃とのダンスが終わったら、すぐに迎えに行くから。
だから、大人しく待っているんだよ。




