婚約者と晩餐会(中)
おとゲー、したことがありません。
シミュレーションゲームは、あるけど。
だから、間違っていたら、ごめんなさい。
始めは、たわいのない話題だった。
「ルミ殿下は、異世界の記憶をお持ちでいらっしゃると。」
誰かが聞いた。
「ええ、そのお陰で国を救うことが出来ましたわ。」
私はその言葉に喜んだ。
異世界の前世持ちは悪ではないということが証明できたということに。
だか、ワタミタ王妃は私のほうと異母弟のほうを見て、悲しそうな表情をした。
私と異母弟は向かい合わせで座っている。それぞれの婚約者を隣に座らせて。
「でも、国を混乱に陥れ戦渦に巻き込もうとしたのも異世界の前世を持つ者でしたから。」
その言葉に私は、ワタミタ王妃を調べた時、気になる事例があったのを思い出した。
「第二王子の起こした婚約破棄騒動ですか?」
第二王子という言葉に異母弟の肩がびくりと震えた。
「やはりよくお調べになられてますね。レオンクラウド殿下の婚約者様は、乙女ゲームというモノをご存知ですか?」
話をふられ一気に注目を浴びた彼女は一瞬はビクリとしながらも凜とした姿勢を崩さない。
貴族令嬢としての気品を失わない。
それでも皆から見えない膝の上に置かれた手は、小さく震えている。
私はそっと手を伸ばし、その震えた手に重ねる。
大丈夫だよ。
彼女は私の方を見て安心したように微笑んだ。
うん、部屋に連れていきたいね、今すぐに。
「恋愛型シミュレーションゲームですか?話は聞いたことがありましたが、私は、したことがありません。冒険のゲームのほうが好みでしたので。」
恋愛型シミュレーションゲーム?
それはなんなのだろう。
冒険のゲームは聞いたことがある。
勇者になって、旅に出て、魔王を倒しに行くゲームだったよね。
「ええ、ヒロインと呼ばれる女主人公がいくつもの選択肢から一つを選び男性と疑似恋愛を楽しむゲームですわ。たった一人、時には複数の男性と仲良くなりますの。」
ワタミタ国に調べたことを思い浮かべる。
王太子であった第二王子とその側近候補たちが、一人の令嬢に懸想していた報告があった。
まさか、な。
「ワタミタ国が、その乙女ゲームとかの舞台とよく似てみえた?」
私の言葉にワタミタ王妃は、良くできましたというようにニッコリ笑われた。
「ええ、前世でよく遊んでいたゲームに本当に良く似ていましたわ。
ヒロインが疑似恋愛になるのは、五人の男性。第二王子とその側近候補たち。ヒロインはゲーム通りに五人の男性と仲良くなっていました。」
私は、視界の隅に映った異母弟の様子が可笑しいのに気が付いた。
顔色が悪くなっている。
「わたくしが前世を思い出した時には、第二王子はヒロインに夢中でしたわ。そのままヒロインが第二王子と結ばれれば良かったのですが、彼女は五人の男性と疑似恋愛を達成したあと、恋愛対象となる留学されてみえた隣国の王子と結ばれることを望んでいました。」
ワタミタ王妃は小さくため息をつかれた。
「隣国の王子と結ばれる話では、ヒロインは第二王子とは友人関係でした。けれど、ヒロインと第二王子は恋愛関係で、そのまま隣国の王子と結ばれようとしていたのです。このままでは、戦争になってしまう可能性があったので、わたくしは彼女に止めるように言いました。」
資料によるとワタミタ王妃は説得に失敗した。
第二王子に投獄され、処刑される予定だった。
だが、ワタミタ王妃は生き残り、王妃となった。
「わたくしの夫、先王は、第一王子であったのですが、生まれた時から病弱であったため、王位継承権の順番が第二王子と入れ替わっておりました。第二王子が、力のない下級貴族であるわたくしを投獄し処刑を決めたと聞いて、わたくしに会いに来て下さいました。
わたくしは、第一王子に全てを話しました。気が触れていると思われても構いませんでした。
隣国は軍事力が強く、ワタミタ国には勝機はありませんでした。戦争になれば、わたくしの兄弟が戦地に送られしまいます。そんな未来を回避したく必死でした。
第一王子はわたくしを王弟殿下の元に逃がし、ヒロインの自分勝手な望みを打ち砕いたのです。」
亡くなった先王の考えたことが分かる気がした。
資料を読んだ限り、第二王子に婚約者破棄騒動を起こさせず穏便に済ませることが可能だった。
第一王子は、家族を思い必死に戦争を起こさないよう願うワタミタ王妃に心奪われたのだ。
だから、ワタミタ王妃を手に入れるために、またワタミタ王妃を処刑しようとした者たちを許すことが出来ずに、第二王子たちを陥れた。
まず、叔父である王弟殿下にワタミタ王妃を匿わせ、ワタミタ王妃には理由をつけて王妃教育を受けさせた。
自分の妃にするために。
そして、ヒロインを手に入れるために国王主催の舞踏会で婚約者に破棄を申し立てた第二王子たちを断罪し、後々ワタミタ王妃に害になりそうな者たちを全て排除した。
ワタミタ王妃が自分の死後なるべく幸せな生活を送れるように。
先王、第一王子が生きてなくてよかった。
鏡を見ているようで気持ち悪かったかもしれない。
恋愛ゲームとなっているだけに、ヒロインの恋敵になる人物もいるらしい。
対象者の婚約者だったり、対象者に片想い中な女性であったり。
中には、悪役令嬢なるものもいるらしい。
ヒロインが私に近づいてきたら、可愛い彼女は、嫉妬してくれるのかな?
それは、きっと可愛い嫉妬だろう。
もし、涙目で問い責められたとしたら、すぐにでも部屋に連れ込みたくなるよ。
嫉妬してほしいけど、私の理性が持つか、それが問題だ。
6月20日に短編『婚約者と転生王妃(王妃視点)』を投稿します。




