第六章
太陽の光は雲に遮られいて地面に直接照らす光はない。
辺りは薄暗く、いかにも雨が降りそうであった。
その空のした、僕らは街にいた。
三人で繁華街を通って、商店街を抜ける。
今日は平日であり、学校、仕事で人はほとんどいない。
むしろ、人影がさっきから見当たらないくらいだった。
しかし、いつもなら、もっと人はいるはずだった。
あまりに静かすぎて異様さを感じる。
「平日だからって人がいなさ過ぎるわよね。なんか変な感じ。」
そう言ったのは深雪だった。
しかし、いつものように緊張感に欠けた間の抜ける声である。
どうやら深雪にとって辺りの影響とかことの重要さとかいうことものがあっても、興味を示す対象でないかぎり、無関心………………。何でもないらしい。
確か、僕がキリナに襲われているときも平然。
いや、むしろ楽しんでいるかのようだった。
彼女はある意味で一番人間的におかしい人物の類に入るのかもしれない。
「何か起きていると言うことなのか?」
そんな深雪のことは放って僕はキリナを向いて話し掛ける。
それに対してキリナは悩むように首を捻る。
「どうでしょう。でも何かありそうですね。…………はい。」
「何かか………………」
首を傾げてみせる。
おかしいこと。
普通であること。
今や何が普通で何が異常なのか。
人を殺すことは異常、異常と世の中は口にするけど、果たして本当に異常なのか。
今や、人殺しなどの事件はざらではなく数が多い。
君はニュースで誰かが殺されて泣くか?
誰かが殺したからといってそいつを恨むか?
しょせんは他人事でしかない。
誰が死のうが、殺そうが関係ない。
そう考えてると答えなんかない。
殺しは正か負か………………。
それは正であり……………負でもある。
何が異常で何が異常ではないか。
全てのものは異常で、異常ではないのだ。
僕はそう思う。
街を詮索して数十分がたった。
ちょうど、大きな交差点まで来たときだ。
キリナは険しい表情になった。
そして呟く。
「……………。あちこちで血の匂いがします。……です。」
「……………。」
僕は特にこれといった反応をしなかった。
深雪はぴくっと眉を引きつった。
「血って…………。人が少ないのは、みんな殺されているからか。」
「いいえ。血の匂いはそんなにたくさんは無いです。おそらく出歩いている人が少ないのは別の類の何かがあるんでしょう。」
血の匂い。
そんなものは僕は感じない。
おそらく、殺し屋という中で生きる凄盛キリナくらいの人間にしかわからないだろう。
しかしだ。
何で血の匂いがするのか不思議となった。
相手がフォーゼなら狙いは異端者。
つまり僕である。
なのに、なんで血の匂いがするのか。
大量虐殺なんてことはなんの意味もない。
大量虐殺が起こる理由は、容疑者の気の迷いだ。
殺すことに何の意味もない。
意味が無いのでただ数を多く殺そうとした。
それが結果として大量虐殺をうんだのだ。
つまり虐殺には意味はない。
しかし、それでは意味がわからない。
つじつまがあわない。
僕は顔を茂らせた。
「…………………。で、これからどうするつもりだ。」
僕は問いた。
「そうですね。まず、一番近い血の匂いを辿ってみましょうか。…………はい。」
僕は否定しなかった。
否定する理由もない。
僕はキリナに選択をまかせる。
しかし、何故か不満そうな、納得がいかない顔をしている深雪がいたことに気が付いた。
何故、そんな顔をしているのかと少々考えたが、どうでもいいことだと思ったので止める。
「なら案内してきれ。」
僕が言うとキリナは小さく頷いた。
「ここです。………はい。」
まず最初についたのはビルが周りに囲むように建っている、いかにも人気の少なそうな小道である。
青々としている昼の空に一変してビルの影で光が当たらなく薄暗い。
その小道の行き止まりまで来て僕らは足を止めた。
そこには女性の死骸と男性の死骸が二つ、無残な形のまま放置されていた。
「……………。」
「……………。」
「……………。」
三人とも黙って死体に目をやる。
女性の体からは血が流れている。
血が固まっていない。
つまり、死後一時間ないくらい。
でも…………。
「何で白澤じゃなくて他の一般市民が死んでいるの?」
そう口を開いたのは深雪だった。
そう…………。
深雪の言うとおり、なんで僕じゃなくて他の人間に被害が及んでいるのか。
「……………。」
キリナは何も言わない。
ただ黙って死体に目をやる。
「急ごう。殺した奴は、まだ近くにいるはずだ」
僕はそう言って体を半回転させて後ろを向いた。
そこで動きを止めた。
何故かって?
何故なら背後には黒い服を身に纏った男、つまりファミレスで出会った時の男が立っていたからだ。
「……………。」
「……………。」
僕は男と対峙するように向き合った。
無言。
無言で男と向き合う。
他の二人も喋らない。
静かな刻が刻まれる。
ふと僕は男の手に目がいった。
男の右手には赤く染まったナイフが握られていた。
つまり………………。
おそらく、この男がこの死体の人物を殺した人物だろう。
何故に?
何の為に?
この男がキリナの言うフォーゼが僕に仕向けた新しい殺し屋なら何で罪の無い人間を巻き込んだのか。
理由が不明であった。
「どうやら…………。やはり君が白澤朝奈くんのようだね。」
先に男が口を開いた。
男の声は低くとても強みがある声質である。
「……………。そういうお前は何者だよ。」
僕は対峙して向き合っている男を見て言った。
「ふむ、この際に企業秘密とか言っても意味が無いな。………………。私は何宮。何宮優氏。殺し屋だよ。」
何宮と名乗る男は名乗ると軽く頭を下げた。
しかし、これで僕は確定とした。
殺し屋。
彼は殺し屋。
つまり…………、彼は僕の敵である。
「一つ聞くけど、この人を殺したのはお前か?」
「ああ」
僕の問いに直ぐ様に返答してきた。
「殺し屋の仕事は名の通り殺すことだ。こういう人が集まる街には殺すべき人間が数人といるものだ。」
なるほど、この既に死んでいるこの人もまた彼にとってのターゲットだったのだろう。
「なるほとね。それで僕も殺すってことか?」
僕がそう言うと以外にも何宮優氏は顔を歪めた。
「何を言う?私は別に君の命など取りにきたわけではない。ただ面白い人間がいるっていうことで君のことはよく知っている。ブラッド・コントロールの白澤朝奈。」
「………………。」
僕は少々おかしい点に気が付いた。
命を取ろうとはしていない?
彼の発言からすれば、僕はまるで彼の敵では無いみたいのようだ。
どういう意味なのか?
彼はフォーゼの追っ手ではない。
異端者狩りで僕を狙っているわけではない?
話が組み合わない。
それでは話が組み合わない。
すると……………。
「お兄ちゃん………。惑わせられてはいけませんよ。彼は敵です。……………はい。」
隣に立つキリナが小声で助言を挟んだ。
敵……………。
そうだ、惑わされてはいけない。
これは嘘なのだろう。
僕は自らの命が惜しい。
惜しい。
だから、僕は誰だって殺す。
それを聞き僕は目に力を入れた。
「ふむ……………何故か知らないが、君は私に敵意を向けているようだね。」
何宮は腕を組んで困ったように言った。
「仕方がない、私とて君の情報には興味がある。殺るのなら、殺ろうではないか。戦いは常に身のうちとするが我が何宮のもっとうである。しかし、私は戦うものあれば全て狩る。…………それが私の流儀だからね。」
何宮優氏はそう言うとナイフを構えた。
ナイフは彼の背の高い長身からするとかなり小さく見えてしまう。
威圧感。
恐怖心。
向かい合って、対峙するだけで肩が震える。
何宮優氏の殺気は、大抵の人ならば、すでにこの場で逃げ出している。
普通ではない。
人間の第六感がそう伝えてくる。
「ふー………………。」
僕は息を深く吐く。
しかし、不思議と震えが止まった。
ようは、死という概念を無くせばいい。
そうすると不思議に恐怖心は消える。
そして動揺にナイフを構えた。
ナイフは昔に護身用に買った安物のベンチャーナイフである。
すると。
「これを使え。」
何宮優氏はこちらに向かって何かを投げる。
それをうまくキャッチする。
投げてきたのはナイフであった。
しかも、かなり高級なやつだ。
以前に雑誌などで見たことがあった。
確か百万はざらにしそうな高級ナイフだったはず。
「これは?」
「そのナイフでは話にならない。それは君にくれてやる。それを使え。」
何宮優氏はそう述べた。
これは余裕なのか?
それとも単に何宮優氏という人間がフェアな人間なのか?
それか舐められているのか…………。
ま、どちらにせよ。
ありがたい。
お前を殺したら真っ先にこんなナイフ売ってやる。
それが僕なりの君から恩を返すということになる。
「あとで後悔してもしらないよ。」
僕は笑みを浮かべて笑いつつ言った。
それに対して
「かまわん」と返答がくる。
それを聞き確かめた後で僕はナイフをかまえる。
しかし…………。
「ねえ、白澤。」
突如に隣から深雪が声を出してくる。
せっかく今から戦うというときに邪魔をされる。
「なんだよいきなり。」
僕は深雪に顔を向けずに何宮優氏と向かい合ったまま言った。
「なんか変じゃない?」
深雪の声には珍しく感情があった。
その声から感じられる感情はというと不安。
不安のような声。
そんな声で彼女は言ってきた。
変?
なにが?
いや………………、確かに何かがおかしいのは気が付いていた。
しかし……………。
「深雪………黙っていろ。」
「あっ、ちょっと…………。」
僕は深雪の言葉を無視して再び戦闘に切り替えた。
「もう準備はいいか。」
「ああ」
僕はうなずく。
「では、殺しという名の職務をはじめようか。」
何宮優氏のその言葉が戦闘開始の合図となった。
正確には戦闘などではない。
殺し合いだ……………。
殺した方、生きた方の勝ち。
ルールなんて何もない。
それが殺し合いなのだろう。
そして僕が異端者としての初めての殺し合い。
さあ、楽しい殺し合いの始まりだ。
僕は微笑むように笑った。
合図と同時に両者は動いた。
二人は距離をとるように間をとった。
そしれからの行動は早かった。
おそらく考えるよりも体が先に動いたのだろう。
先制は、何宮優氏であった。
常人では計り知れないようなスピードで僕との間合いを詰めてくる。
「なっ!!」
いつの間にか目の前にいる何宮優氏を目にして思わず声をあげる。
直ぐ様、距離をとるために引き剥がそうとナイフを横に大きく振るう。
しかし、当たらない。
紙一重で何宮優氏は攻撃を回避する。
ただのバックステップの回避運動なのだが、それだけ見ればこいつの力量がとんでもないくらいのものだということがわかる。
はっきり言ってレベルが違う。
まあ、それもそのはずだろう。
向こうは戦闘に置けるプロ。
対して、僕はナイフに関しては興味があって知識はあるが、それを使うことにおいての能力がない。
僕はただやみくもにナイフを振るう。
「……………。」
何宮優氏は無言で軽がると攻撃を避ける。
「………っ!」
僕は舌を打った。
これは、猫と虎との戦いとかそんな次元の話ではない。
僕が猫だとしたら、今僕は計り知れない何かと戦っている……………。
そんな感じがする。
しかし、だからといって引くわけにはいかない。
僕は一歩、一歩と前に出る。
そして一旋、一旋とナイフを持って振るう。
「茶番ですね……………。」
避ける何宮優氏は涼しい顔で言った。
「期待したわりには弱い。いや、本当に弱い。これでは人間と戦っているのと何の変わり無い。」
「くっ!」
弱い?
予想外?
何を言っている。
僕は人間だ。
間違ってもお前等と比べられても困る。
「つまり、能力者であるものは能力に頼らないと意味が無いのか。いくら能力が強力でも非戦闘の力であったら意味が無い。ブラッド・コントロールは肉体の向上に何も作用もが起きないのか……………。」
何宮優氏はまるで観察するように戦っている。
彼の目はまるで僕を解体してバラしてしまうような目である。
僕はナイフを振るう。
振るう。
振るう、振るう、振るう、振るう、振るう、振るう、振るう、振るう、振るう………………。
しかし、当たらない。
ナイフの先に擦りもしない。
そして僕はナイフを振るのを止めた。
何宮優氏もまた動きを止めた。
「はぁ、はぁ、……………」
乱れた息を整える。
「何故攻撃しない?」
僕は問う。
ふふっ、と何宮優氏は笑う。
「気分を削がしてしまったか。すまない。別に嫌味で避けているわけではない。単に君の血が恐い。」
何宮優氏は意外なことを口にした。
「恐い?」
「ああ、君の血はある種に置いては最強だ。血によって全てを支配できるからね。だからうっかり攻撃して帰り血で血が付いたなどと言うことは極力さけたい。いや、むしろそんなことになったら私の負け。君は私に自害を命ずれば、私は言われたとおりに自殺するだろう。」
何宮優氏はそう言った。
確かに、いくらプロの殺し屋でも相手の血を触れずに殺すことは難しいのだろう。
相手がいくら格下での話でもだ。
何より獲物がナイフでは突き刺すときに手を赤く染めてしまう。
だから安易には攻撃できない。
そして裏を返せば、こちらは少々無茶をすることができる。
僕はナイフを再度握り締めた。
「再開か。」
何宮優氏もそう言ってナイフを握った。
そして、僕は相手を目指して突っ込んだ。
しかし……………。
途中で体が止まった。
何故?
しかも、体が妙な感じがした。
どさっ。
僕は膝まづくように倒れた。
なるほど。
そして、直ぐ様気が付いた。
気が付くのには簡単だった。
僕の胸にはナイフが刺さっていた。
「………………。」
血が流れる。
しかし、吹き出しはしない。
静かに重力に委ねて下へと垂れ流れる。
「ゆっ…………ゆだんした。」
僕は何宮優氏に向かって言った。
どうやらさっきの言葉は偽りのようだ。
何宮優氏は血が付かないように人をうまく殺すこどは、できないと僕に思い込ませたんだ。
そして無謀に突っ込んだ僕に差し込んだ。
「ふっ、…………血が吹き出さないように人を殺すことはできるんだな。」
「でき無いとは言ってはいない。」
何宮優氏はたんたんとした口調で答える。
確かにそうだ。
僕はそう言おうと思ったが声にならない。
おまけに目眩までしてきた。
血が胸から下へと流れていく。
目先の遠くがぼやける。
しばらくすると、見えるのは目の前にいる虫くらになった。
そして力無く、座り込んだ。
ああ……………。
「さ………最悪だな。」
僕は霞む何宮優氏を向いてそう言葉を吐いた。
「なるほど…………そうか。死ぬっていうことには乏しくてな。死ぬのは最悪なのか。」
何宮優氏はナイフを閉まりこんだ。
今は手には何も持ってない。
「ふっ」
僕は笑った。
不敵ではなく不適に…………。
「何故笑う。死とは楽しいか?」
何宮優氏は問う。
はっ、何を言っているんだこの男は………。
死は楽しい?
死は楽しい?
死は……………。
「楽しいに決まっている。 」
僕は答えた。
「ほう、どのように」
「………………。試してみればいい」
「機会があればな」
何宮優氏はそう言って微笑した。
僕も笑った。
苦笑いだった。
そして……………。
「なら死んでみろよ。何宮優氏。」
僕はそう言葉を発した。
そう命じたんだ。
瞬間。
何宮優氏は瞬時にナイフを持ち、自らの心臓を貫いた。
「なっ……………に…………!」
心臓にナイフが刺さり一番驚いたのは本人だった。
ナイフに籠もる力は強かった。
両腕でぐいぐい食い込ませていく。
刃渡りは全て食い込んでいるがなおもナイフに籠もった力は止まない。
そして血が大量にナイフと体との間からあふれ出ている。
「なっ…………なんで…………。」
口から逆流した血を吐きながら喋る。
僕はふーっとため息をついてゆっくりと立ち上がった。
そして自分の胸に刺さったナイフを抜いた。
かろうじて急所には刺さってはいなかったために一命はある。
凄く痛みが激しく、流出した血の量が多いが、なんとか大丈夫である。
「なんで、お前が僕の命令にしたがったか………………?答えは簡単だ。僕の血に触れたからだ。」
僕は答える。
「ど…………どうやってだ?」
何宮優氏は僕の血に触れた覚えは無いはず。
それもそのはず。
何故なら気が付かれないように僕があいつを使ってやったんだ。
「虫だよ。」
「むし…………」
「ああ、実に簡単な話だ。虫に自分の血をつけて、操ってお前に血をつけたんだ。ここには死体が二つ既にある。蝿が集まってきていてちょうどいいから、うまく使ったんだ。」
「………………。」
それを聞いて何宮優氏は驚きを隠せない顔をする。
確かに、自分でもあの瞬間に虫に目がいくなんて思わなかった。
しかし、結果はこれだ。
「ねえ、死ぬってどんな感じなの?」
僕は笑って、さきほどの問いをそのまま返した。
「……………。ふっ、確かに最悪だな。むしろ、これは屈辱か。」
何宮優氏は苦笑した。
そして。
「ぐほっ!!」
大量の血を吐いた。
どうやらナイフで押して押していった結果、心臓やその他の臓器がいくつか潰れたらしい。
ああなればもう助からない。
「これが死か…………………。」
「悪くわないだろ。どういうのか知らないけど。」
「ふっ…………確かに、悪くわないな………………。」
何宮優氏は笑った。
僕もついでに笑ってやった。
「良い死を………。」
「ふっ……………、お前はいい死に方には成れないぞ。」
「嫌味かい?」
「ふっ………………。」
その後に続く何宮優氏の言葉は無かった。
何宮優氏はくずれるように倒れ落ちた。
ずっと死に至るまでナイフを自らの心臓に突き刺している光景は実に異様であった。
しかし、今は手に込められた力もない。
ありのは横たわって動こうとしない体。
つまり、何宮優氏は死んだ。
この勝負は僕が勝ったのだ。
実感はない。
そして喜びも、達成感もなぜかなかった。
それは何故か…………。
おそらく僕は何宮優氏という人物は嫌いではなかった。
そして彼を殺して残ったのは以外にも不安な感じだった。
何が不安なのか?
わからない。
しかし、不安であった。
僕は、ふーっと大きく息をついた。
途端に目眩がくる。
どうやら血を流しすぎたようだ。
その場でバランスをくずそうとした。
しかし、肩が押さえられてバランスを整えられた。
肩を支えていたのは深雪であった。
「大丈夫?」
心配そうな顔でこちらを見てくる深雪。
彼女のこんな顔を見るのは初めてだった。
どうやら本気で心配してくれていたらしい。
どうやら彼女にも人を思いやる心というものがあるようだ。
よかった、よかった。
「ああ、大丈夫だ。」
僕はそう言って深雪の手を外そうとしたが………………。
その瞬間に再び目眩が襲った。
「ああ!だから無茶しない。私にとって白澤は命よりも大事なんだから!!」
彼女は僕の肩を支えながら発言する。
「ふっ……………。」
僕は笑った。
口元だけの笑みであったが。
「あっ、白澤。まだダメよ。気を緩めちゃ。」
すると深雪はおかしなことを口にした。
僕は何宮優氏を再度確認する。
彼は動かない。
動くはずが無い。
何故なら完全に死んでいるからだ。
「は……………?どういうことだ。」
僕は問いた。
「こういうことですよ。…………はい。」
答えは直ぐ様に帰ってきた。
しかし、答えたのは深雪でなくキリナだった。
僕はキリナの声の方に目を向けた。
すると、そこには例の剣のような、刀のような、刃物を持つキリナが立っていた。
「………………。」
僕は何故、彼女が獲物を掲げているのか判らなかった。
なんで彼女はあんな物騒なものを持っているのか………………。
「ふふっ…………この殺し屋も案外とドジな人でしたね。」
するとキリナは刃物で地面に転がる何宮優氏の首を突き刺した。
しかも笑顔で………。
血が吹きでる。
首と本体との二つに別れる。
いや、むしろ裂かれた。
まだ死後数分の体だ…………臓器によっては活動しているものもあるだろう。
ピクリと反射を起こす。
それは異様であった。
「………………。」
僕は無言だった。
「………………。」
深雪も無言。
しかし、彼女は最初からこうなると分かり切ったような顔をしていた。
「キリナ…………?」
僕は疑問めいた口調で彼女の名前を呼んだ。
「ふふ、違うよ。殺し屋は終わり。殺し屋、凄盛キリナであることはもう終わり。」
キリナはそう口にした。
しかし、僕にはその意味が判らなかった。
「どういう意味だ?」
どういう意味なのか?
キリナはなんで今更になって、刃物を持っているのか?
理解できない。
対してキリナは頬笑んでいる。
笑顔で死体に刃物を突き刺している。
「………………やっぱりそうなのか。」
深雪が僕の隣、肩を抱えながら呟いた。
「白澤、どうやら騙されていたみたいよ。」
彼女は平然とそう口にした。
いつもの坦々として感情が入ってない話し方で。
「……………。」
えっ、と思いはしたが僕は声をあげはしなかった。
騙されている?
僕がキリナに騙されていた?
すると、突然。
「ふふっ………………、ふっはははははは!」
甲高い笑い声。
それは凄盛キリナのものだった。
辺りに響く。
「…………………。」
僕はキリナの顔を見た。
それは僕の知るような、キリナのものでは無い。
「つまり私は殺し屋なんかでは無いのよ。あんな下級な脳を持たない野蛮なやつらとは違うわ。殺ししか脳がないようなやつらとはね!」
鬼気した喋り方。
前の喋り方とは異なる。
「………………。」
「もう判ったでしょう?私はフォーゼの凄盛キリナ。」
彼女は笑顔で名乗った。
フォーゼと……………。
なるほど……………。
僕は心の中で呟く。
どうやら本当に最初から騙されていたようだ。
「まさかブラッド・コントロールに掛かるとは思って無かったから、あれは予想外。でもブラッド・コントロールの効果の機関は二日だけ。それは初めから調査済み。だから悠長とあなたの護衛役のフリを二日間やってたの。ま、二日だから昨日の夕方には効果切れなんだけどね。」
「…………………。」
キリナに対して僕は無言である。
ブラッド・コントロールの性能について説明を入れるキリナ。
どうやらフォーゼは能力者自身もよく知らない力の詳細まで調べ尽くしているようだ。
不本意ながらも少し感心した。
そして、さらにキリナは続ける。
「こいつね、あなたが殺したこいつだけど実際はただの殺し屋。別に白澤朝奈をターゲットにしていたわけではないのよ。だけど、ちょっと細工させてもらってね。白澤朝奈と何宮優氏が戦うように仕組ませてもらったわ。」
キリナは笑った。
楽しむように嘲笑った。
「本当に意味が無い。意味が無い無能のような戦いだった。笑ってしまうわ。倒すべき本来の敵が近くにいるのに気付かずに殺し合っている様子はね。」
「………………。」
僕は無言。
「あらあら、騙されたのがショックかしら?黙り込んでつまらないわね。でも、安心して次期に死ぬんだから。」
笑う。
笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、……………耳障りだ。
いや、間違えた。
目障りだ!
ああ、こんな奴……………消えればいいのに。
消えれば……………。
非常に不愉快だ。
僕が騙されていた?
騙されていた?
ふ………………そんなこと。
「知っていたよ。」
僕は呟いた。
「へぇ、何を知っていたのかしら?」
面白そうに聞いてくる。
ああ、本当に面白そうだな。
だが………………。
本当に面白いのは僕の方だよ。
僕は笑った。
「何笑っているのかしら?気持ち悪いわね。」
「ふふっ、だって……………むしろ騙されていたの君の方なのに気が付かないんだからね。」
僕は笑っていった。
瞬間に、キリナの顔が強張った。
「何をいっているの?」
「だから、最初から君が嘘をついて殺し屋と名乗ったのも、僕が何宮優氏を殺させようと仕組んだのも、最初から最後まで…………全部知っていたんだよ。」
僕は告げた。
対してキリナは笑った。
「何を今更!ふふっ、なら知りながらなんで言うとおりにしたのかしら?全て知っているのなら、ブラッド・コントロールの力で何宮優氏のように自害を命じればよかったじゃない。」
「ま、確かにそうすれば綺麗さっぱりと片が付くよ、確かに………」
確かに………………。
でも、それでは………………。
「凄盛キリナを痛め付けられないからね。」
僕は答えた。
そう。
僕は最初からこいつが殺し屋でないと破っていて何もしないで騙されたフリをしていたのか。
それは………調子に乗った嘘つきに嘘で勝負をするため。
嘘なんて、世の中にはたくさんある。
全てにおける虚言を見破るなんて普通はできやしない。
普通は………………。
でも、僕はどうやら普通ではない。
嘘なら全て見破る。
そして僕の言葉は80%で嘘なんだよ。
僕は笑った。
でもここから先に僕が語ることはおそらく真実だ。
「君の嘘なんて見破るのは簡単だったよ。第1に腹黒い奴に言葉が丁寧で〜ですとか言っている奴の真似なんてできない。はっきり言って滑稽。ははっ、気持ち悪かったね。」
僕は笑う。
「でも、僕は完璧に騙すよ。君も騙した。深雪を騙した。そして、僕自身を騙す。世界を騙す。」
僕は怒れているんだ。
小声で付け加える。
対して……………。
キリナは笑った。
「ははっ、はははっ、どうやら本当に騙されていたようだよ。でもソレが本当だとしても………………その状態で私に勝てるとでも思っているの!?」
キリナは凄んで見せる。
でも今更どうじない。
何故なら……………。
勝負はもうついている。
この虚言と虚言で僕が勝った時点で決着している。
「……………深雪。」
僕は彼女の名を呼んで隣を向いた。
そして、……………。
愛しているよ。
と告げる。
対して
「えへへっ、私も」
そう言って僕らは口付けをした。
それに意味があるか、無いかと言われたら。
意味はあった。
みるみるうちに腹にあったナイフの傷あとが治る。
見た目は傷が塞がるだけだが実際は無くなった血液、痛み、状態を全て治していく。
その様子を見たキリナは唖然だった。
どうやら知らなかったような。
紀村深雪が……………。
治癒能力者ということに
僕の傷は数分で完全に無くなった。
そして深雪から離れる。
「ははっ!二人揃って嘘つきなのか!でも所詮傷が治っても私には勝てないんだよ!!」
おかしそうにキリナは笑った。
そう言って刃物を持ち駆け出した。
僕もナイフを構えた。
「はああああ!しねえええええ!!」
絶叫。
叫びながら攻撃をしかけてくる。
しかし、僕は避けた。
「くそっ!!」
再び閃光のような攻撃。
実際にただの人間ではそれの軌道すら把握できないであろう。
しかし、僕は避ける。
一振り、一振りと、さらに獲物を振るってくる。
風圧が異常である。
彼女もまた人間技とは思えない。
超人的な早さと力。
当たれば体を維持できないくらいにボロボロに吹き飛ばされるだろう。
内蔵などの肉片に変わるだろう。
だけど………………。
僕は当たらない。
再び閃光。
しかし今度は避けない。
避ける必要もない。
僕は軌道を見切ってナイフで受けとめた。
武器の大きさの違いは圧倒的だった。
10センチ程度のナイフに対して無効は1メートル級の刃渡りがある。
しかし、受けとめた。
そして跳ね返した。
「なっ!」
これには動揺を隠しきれない様子のキリナ。
どうやら僕を弱者と思ったのだろう。
それは、そうだろう。
僕自身、ブラッド・コントロールを知らないフリをしてきたのだ。
フリ。
つまり………、本当は知っていた。
そしてブラッド・コントロールは単に血を付いた相手を操る能力ではない。
フォーゼかなんか知らないが能力調査が甘いよ。
血が付く、つまり血があればいい。
血が流れている僕も対象である。
僕に命じればいいのだ。
キリナなを殺せるくらいの身体能力を持てと。
そうすれば血の所有者は最強。
つまり使い方によっては最強で最悪能力なんだよ。
だが実際は無理な話。
無茶な契約。
無茶であるが……………現に今実現している。
現に僕はキリナより上回る身体能力を持っている。
それは何故か?
それは…………………。
僕は笑った。
「待って…………ちょっと、ま」
キリナは言った。
怯えているようだ。
僕は笑った。
そして僕はナイフを力を籠める。
ぐさっ!
鈍い音がした。
ぐちゃ………ぐちゃ、ぐたゃ。
嫌な音がした。
ぼてっ…………………。
僕はキリナの首を切り刻んだ。
そして首は重力に逆らうこと無く落ちた。
僕は笑った。
「死ぬことには偽りはないよ。君は死ぬんだよ。」
僕は吐き捨てるように言いのけた。
ばたん。
少し遅れて凄盛キリナの体は地に倒れ落ちた。
凄盛キリナの最後であった。
ありえないというような目でこちらを見て……………。
死んでいった。
ああ………………。
僕はただ笑っていた。
嘘って楽しいな。




