第五章
刻をさかのぼって、今年の一月。
今からいうと3ヵ月、4ヵ月まえくらいの、ある日の話。
その日。
僕、白澤朝奈にとって衝撃的な日であり、人生の中でとても、おかしな日であった。
簡単に言えば、とある変態と初めてであった日。
その変態とか無論記村深雪のこと。
つまり、白澤朝奈と記村深雪が初めて出会った日である。
その日外はめずらしく雪が降っており、かなり寒かった。
ここら一帯は滅多に雪は降らない。
つまり今日はとても寒い日である。
しかし、外はたくさんの人で埋めつくされていた。
日にちは一月四日。
まだ年明け間もない。
しかし、あたりは初売りなど正月行事で賑わっている。
僕は家にいてもあまりに暇だったので適当に外を出回ってみていた。
普通は暇だからといって、外を出歩こうなどと、こんな滅多なことはしない。
しかし、今日はなんというか………………。
そう言う日だったのだろう。
久々に外に出た。
冬休みに入ってからというものほとんど家に籠もっていたので本当に久々だった。
ま………学校があるなら嫌でも外に出ないといけないが。
しかし、気分転換も必要だ。
冬休み中、ずっと家じっとしていたら脳が腐ってしまいそうだ。
それに、ちょうどいいことに、初詣もまだだったので、せっかくだからと思い、歩いて神社に向かっている。
しかし、はっきり言ってしまえば、ここから歩いて行けるようなところに神社なんて無かった。
しかし、乗り物にも乗らずに歩いて神社を目指していた。
何故か?
と聞かれたら、おそらく
「気分」と答えるだろう。
実際に気分以外のなんでもない。
外に出たのも気分だし、神社に行こうと思ったのも、気分。
だから歩いて行こうと思ったのも気分だ。
だから、ここからだと歩いたら二時間以上かかろうが関係ない。
気分がそうなのだから仕方がない。
そんな、こんなで僕は家から近い住宅地を歩いていた。
早さは別に早くも、遅くもない。
ただ普通に歩いている。
僕の場合は普通の人よりも歩くのが早いので早いのかもしれないが、僕が普通に歩いていると思えば、これが普通なのだろう。
歩いているときは特に何も考えていない。
そんな調子で歩いていると……………。
すると…………。
空から人が落ちてきた。
ドスン!!
アスファルトに人の身体が叩きつけられる。
しかも、どうやらかなりの早さで落下したようだ、アスファルトにひびが何十もできている。
「………………。」
もちろん足を止めた。
さすがにスルーして通り過ぎてしまったら人間としてどうかしていると思ったから。
そして僕は落ちた人物を見た。
人物は女性だった。
どうやら、意識はあるようだ。
しかし、なんか苦しそうにしている。
「大丈夫ですか?」
「ノー………ノープロブレム。」
女性は苦しそうに、言った。
しかも、何故か英語だ。
外人のように見えないが、ま………そこは気にしない。
むしろ何も気にしない。
「問題ないですか?なら、では。よい、お年を」
僕はそう言って、彼女の横たわる隣を何事も無かったかのように通り過ぎようとした。
しかし……………。
「って!ちょっと待ってよ!」
彼女は叫ぶ。
しかも、平然と立ち上がって。
「なんですか?」
「いや。何って、そりゃ…………ほら、普通に道に困っている人がいるなら助けないと!」
「でも、先程は問題ないって言ったでしょう?」
「ノープロブレムしか言ってないでしょ!?問題ないなんか言ってないわよ!!」
「……………。」
どうやらノープロブレムの意味知らずに使っていたらしい。
どうやら頭がよろしくないようだ。
ま、それは仕方ないことだ。
人間だれもが同じようにはいかない。
この人はもの覚えが悪い体質なのだろう。
それか中学時代の英語の時間を放棄していたかのどちらかだ。
いくらなんでもノープロブレムの意味くらいわかりそうなものだが。
「で、まだ僕に何かようですか?その様子では、もう大丈夫なんでしょう?」
僕は彼女の身体を指差した。
彼女はなんともなさそうな状態である。
そして、彼女はしまった!というような顔を浮かばせる。
そして………。
「ふふっ、どうやら私の嘘に惑わされなかったようね。」
そう言った。
不適に笑みを浮かばせながら………。
「嘘って何のことですか?」
僕は当然指摘した。
「ふふっ、ばれてしまったからには仕方ない。私は、ここを通る通行人に空から落ちてきて見せて、反応を見るてるの。あっ、落ちたのは、そこの二階建ての家の屋根からなんだけど落ちる瞬間にクッション敷いているから大丈夫よ。」
どうやらクッションはコンクリートと同じ色に塗装されていてひびまでしっかりと書かれていた。
どうやら手のこんだ演技を見せられていたようだ。
「そうですか。ここを通った通行人も災難ですね。では。僕はここで。」
そういって一歩、踏み出そうとした瞬間。
「って!待ってよ!!他に何か言うことないの?英語で言うとフー、キャン、ユー、プレイ、ベースボールだっけ?」
あなたは野球ができますか……………それがどうした!?
どうやら相当頭が悪いようだ。
僕はため息をついた。
そして、仕方がないので、彼女の相手をしてやることにした。
「他に言うことと言うと?」
「ん?たとえば、なんでこんな所でそんなことしているのかとか………。」
「なら、なんでこんな所でそんな馬鹿みたいなことしてるんですか?」
「馬鹿とは何よ!馬鹿と言う奴が馬鹿なんだよ!!バーカ!」
幼いように彼女は、そう言ってくる。
「……………。答えないなら先に行かせてもらいますよ。」
「あっ!ちょっと!待って!ドント、ラブ!!」
愛を止めろ?
彼女は意味も知らないような英語を使いながら僕を止める。
英語を知らないなら、わざわざ英語に直そうとしなくてもいいじゃ、ないか。
僕はそう思った。
「ま、私がここで何でこんなことをしていたかといいますと、そう!私はここで面白いやつを待ってたのよ!そう!面白い奴!仮面を被ったブリーフ男、真っ黒なナース服を着た女性、または男性。そんな奴、見るからに面白そうな奴を探しているの」
「………………。」
反応しずらい。
一つ、言わせてもらうと彼女の言っているような例の人物がいたら逆に恐い。
そいつらは面白いのレベルでは無いと思うぞ、すでに……………。
そして、ここにきて完全に分かった。
この娘は完璧に変なやつだと…………。
そして彼女に言ってあげたい
「あなたが一番面白いですよ」って。
「…………。そうだったんですか。なら、がんばって下さい。面白い人が見つかるといいですね。」
僕は適当なことばを並べて、早くこの場を立ち去ろうとした。
が……………。
「ふふっ、でも。もう、その必要が無くなったから。」
怪しい笑みを見せて彼女は言った。
僕はいやな予感がした。
「そう!私が探している面白い人物は君のようなやつだよ!!」
彼女は僕を指差して、そう言ったのだった。
そして、僕の予想は惜しくも当たってしまった。
彼女の発言の後、なにやら不思議に間が空いた。
「………………。」
僕は何も言わない。
代わりに顔で訴える。
「何で?」みたいな顔をしていた。
そして一息をして
「えーっと、何で僕なのかな?理由を言って貰いたい。」
僕はそう主張した。
それに対して、
「ふむっ」と腕を組んで、少女が答える。
「ここを通ったの実はあなたが一番最初だったからね。ただ、それだけ」
少女はそんな理由にもならないような答えを口にする。
「なら、まだ待っていればいいじゃないか。面白い奴探したいなら、きっと僕よりも面白い奴がいるよ。それに、僕は仮面を被ったブリーフ男、真っ黒なナース服を着た女性、または男性みたいに、いかにも危なそうな連中じゃないよ。普通さ、普通。いや、普通よりも面白くないかもしれないよ。あー、だって僕なんて、まったくもってつまらない男だから。」
僕は全力で否定した。
しかし………。
「いや!」
わずか一秒で否定を否定で返された。
トランプの大富豪で
「やったぜ!革命だ!」と勢い良く出したら、
「食らいな!秘儀………革命返し!!」とすぐさま返されたような感覚。
「とにかく、私は君みたいな奴が異常で面白いと思うの。格好が馬鹿みたいで異常な奴も面白いけど、そんなのよりも君みたいに精神的に可笑しな人間の方が面白みがあるわ」
「……………。」
初対面の相手を異常だ!だの、面白いだの、精神的に可笑しいだの、言ってくる少女。
まったく何様のつもりであろうか?
僕は少し腹を立てた。
が、特に起こるまでの理由もないので、何も反論はしなかった。
少しぴくっと頭にきたくらいで怒りだしたりはしない。
それに、このタイプの人間に対して怒りをぶつける事は空気を切ることや、水を切るくらいに無意味であろう。
僕は無言だった。
すると今度は、こちらの顔をまじまじと観察し始めた。
「ふむ…………ふむ、ふむ。」
僕の顔を眺めて、頷いている。
次はいったい何が始まるのだろうか。
僕は少々身を構えた。
「へぇ、よく見ればかなり顔が綺麗なんだ。女の子みたい。」
すると少女はそんなことを口にした。
なるほど、次は精神攻撃か、今の一撃はかなりのものだ。
何を隠そう、僕は中学の時に顔が綺麗、顔がかわいいだの言われてクラスメートに女装させられたことがあった。
今はもう、忘れたものと思っていたが…………こんな形で思い出すとは…………。
ああ、あのときのクラスメートの笑い顔、思い出しただけで殴り飛ばしたくなる。
「ん、どうかしたの?」
しかし、少女はそんなことを知らず、平然としたように言ってくる。
「君…………。面白い奴を探しているか知らないけど僕に何の恨みがあるんだ?」
「恨み?んなもん無いわ。ただ私は一番近くに一番面白いものを置いときたいわけよ。」
変わっている。
いや、単に僕と考えが間逆だから、そう思うのかもしれない。
僕なら、とくに騒がしくないように一人でゆっくりしておきたい。
そう思う。
「つまり、私は君を私のものにしたいわけなのよ!!」
「………………。」
言っている意味が残念ながら、僕には分からなかった。
この女は人の命をなんだと思っていやがるんだ!
人をもの呼ばわりしやがって!!
「というわけよ。」
少女はサラリという。
「というわけよじゃないだろ。というか。名前も知らないのに、そう易々と人が人に親しく接すると思うのか?」
ん?そう、そう言えば、まだ自己紹介をしていなかった。
それどころか名前すら知らない。
判っているのは、あの少女が絶対に変人ということと僕は今彼女のお気に入りにされそうなけとくらい。
すると少女は
「なるほ」と今風に言ってぽんっと手のひらを叩いた。
「確かに、そういえば、自己紹介がまだやって無かったわね。」
彼女はそう言って肩まで伸びた髪をすくい上げる仕草をする。
「えっと、私はマリー・アントワネット様よ。女王様と呼びなさい。」
少女はそう言った。
「僕はトーマス。探偵さ………。」
僕はそう言った。
お互い、どう考えても偽名を名乗った。
何がマリー・アントワネットだ!?
ま、人のことは言えないが…………。
「………………。」
「………………。」
しばらく、両者無言だった。
そして先に言葉を発したのはマリー・アントワネット…………いや、名前も知らない少女だった。
「なるほど、惚けに対しては簡単にはつっこんでくれないのか。まさか、あの瞬間に惚けを惚けで返すなんて。やるわね………。」
「…………。どうも」
なんか知らないが誉められてしまったので、礼をした。
「ま、お互い警戒するのは止めましょうか。」
「ああ。」
何で警戒しなければいけないのかは知らないが、警戒し合っている関係にあるらしい。
ちなみに、僕は警戒しているつもりはない。
「じゃあ、私の本当の名前は記村深雪。花の高校二年生よ。」
少女は髪をすくう仕草をしながら名を名乗る。
そして深雪と名乗った少女は手を差し出してくる。
「僕は白澤朝奈だ。歳は同じで高二だ。」
僕は名乗り返し、手を取ろうとしたが、止めた。
「あれ?なんで?なんで、手を取らないの?そこは、しっかり握手しあうとこじゃないの?」
「いや。なんとなくだけど。手を取る勇気が無い。実は僕は異性と初めて今話しているんだ。(嘘だけど)」
「ふーん。実は私もよ。(おそらく嘘をついたのだろう)」
そんな会話の後、お互い手を引いた。
「それにしても朝奈ってめずらしい名前ね。いや、女には多いかな?男だったら、まずおそらくいないだろうけどね。」
「…………。」
この女はまたしても痛いところを突いてきた。
女顔で女みたいな名前は僕にとっての繋がれた鎖のようなものだ。
「いや、知らないのか?朝奈って名前は最近流行っているらしいぜ。(嘘だけど)」
「へえ―――。」
深雪と名乗る少女は疑っているのか、疑っていなく単に納得したのか、どっちか判らないような微妙な反応をした。
「ま、どうでもいいわ。ねっ。自己紹介も終わったことだし、私たち付き合わない?」
「ぶっっ!!」
少女のことばの後に直ぐ様、僕は吹き出してしまった。
「うわっ!いきなり吹き出さないでよ。びっくりするでしょう!……………。で、私たち付き合いましょう。」
少女は訳の判らないことを口にする。
付き合おう?
何を言っているのだろうかこの娘は………。
まだ出会って十分しか立ってないのに、いきなり告白されてしまったのは僕の人生の中でも一番最短記録となった。
いや、むしろ、世界のワールドレコードで告白の早さという項目がもしあったとしたら記録行進!ぶっちぎり一位の記録だろう。
「ねぇってば!?」
深雪と名乗る少女は、色気を掛けた声で誘惑してくる。
少女の顔は決して悪くない。
むしろ、顔だけみると今まで見たどの女子にも比較できないほどの超駑級の美貌の持ち主である。
風になびかれてサラサラの髪が揺れる。
「……………。」
落ち着け、落ち着くんだ、朝奈。
考えろ、よく考えろ!
いくら美貌だからって、性格は超変人だ。
それに、さっきの告白にしても罠かもしれない!
罠を張る意味はよくわからんが罠と言う可能性もある。
僕は頭の中を高速運転しはじめる。
「ねっ。し・ら・さ・わ君。大・好・きだよ!」
「………………。」
頭の制御コントロールが不能になる。
敵の攻撃は戦艦の主砲級なのか!?
ともかく今の誘惑はやばい!!
男ならこの告白で拒否する奴はいないだろう。
だけど…………。
僕はゆっくりと首を振ったのだった。
首を振った。
うん、首を横に振った。
つまり断った。
告白を拒否したのだ。
それに対して少女は。
「何でよ!何で断るのよ?てか私のあの告白を受けて何で断れるのよ!?」
どうやら彼女はかなりの自信家だったらしい。(ま、見れば判ることだが)
かなりの自信で、どうやら僕が骨を折って告白に応じるとでも思っていたらしい。
「何でと言われてもな」
僕は頬をかきながら言った。
「私の誘惑に勝った奴なんて誰もいなかったのに!!何で?えっ、何故?WHY?」
「だから知らないって。ただ付き合いたくなかっただけだよ。」
「つまり…………白澤はチキン野郎なの?」
少女はそう聞いてくる。
無論、僕は否定した。
「何でそうなる。」
「だって、こんなに可愛い娘がこんな男性にとっては理想的な、所謂ギャルゲーの展開のような告白したのよ!!断る奴はチキンかヘタレよ!!男ならこの場で押し倒すとかしなさいよ!」
「……………。」
かってに彼女はチキンやらヘタレやらと僕を断定した。
「はあ…………。もう自由にに一人でやってくれ。僕は用があるから、失礼する。」
「待って!何処かいくの?」
少女は僕を呼び止めて、問う。
「神社。」
僕はポツリと場所だけを答える。
「神社?」
少女は首を捻る。
「なんで神社なの?今日、どこかの神社でお祭りでもあったっけ?」
「ただの初詣だ。」
僕がそう言うと、さらに少女の首は曲がる。
その首は、もう少しで90度までいきそうだった。
「初詣って今頃?普通は一月一日、元旦に行くものでしょ?」
「普通はな。僕はあんな人込みの中に入ってまで神社なんて詣らない。」
すると、その言った瞬間、何故か殴られる。
どすっ!
勢い良く右の拳が顔面を捕らえる。
「なんたることだ主は!?元旦に初詣をしない?ふざけるな!!元旦に初詣をしない奴なんて日本人じゃない!!まさか貴様!!宇宙人か!?」
少女はそう主張する。
僕は殴られた箇所を押さえる。
素で痛かった。
この女、マジで殴りやがった。
しかも言っている意味がわからない。
一日に初詣に行かない日本人だって山のようにいるはずだ。
なのに宇宙人呼ばわりされても困る。
「もう!しかたないわね!私が非国民に神社の詣り方を教えてあげようじゃない!一緒に行ってあげるわ。」
「……………。」
ああ、変な奴に絡まれたと思ったら、本当に面倒な事になってきた。
まったく…………。
「最悪だな…………。」
僕は小声でつぶやく。
「ん?何か言った?」
「いいえ、何も」
「よし!いざ!鎌倉!」
「何故鎌倉?」
「いちいち、つこまないでよ。いざときたら鎌倉でしょ。勢いよ。勢い。掛詞みたいなものよ。それに人生、勢いが必要でしょ。」
「……………。」
ということで僕は変人と二人で神社に向かうこととなった。
これでは祈る前に死んでしまいそうだ。
「ちょっ…………と。」
後ろできつそうな声を出しながら深雪と名乗る少女はしゃべり掛けてくる。
「なんだ。」
歩いている足を止めずに返事をする。
「なんだ、じゃなくて…………なんで!交通手段が歩きなのよ?この距離だったら普通はバスかタクシーを使うでしょ?」
「タクシーは金がかかる。」
「ならバスは!」
「残念だけどバスが通っていない。」
「なら別の神社でいいじゃない!!わざわざ、遠くの神社に行かなくても」
「ふー…………。」
僕は大きく息を吐いた。
「文句言うならついてくるなよ。」
「そうわいかないわ!折角、見つけた私の認めた男なんだから!」
「……………。」
勝手に認められても困るのだが。
普通なら認められると嬉しいのだが、これほど無価値な認められ方は無いだろう。
僕はそう思いながら足を進めていた。
神社に着いたのは歩き始めて二時間たったくらいの頃だった。
後ろではきつそうな顔をした少女の姿。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないかも。死んじゃうかも。だから私と付き合ってよ。」
さりげなく問題発言する深雪。
「そうか…………。大丈夫か。」
僕は勝手に頷いた。
ああ、これじゃ、逆ストーキングだよ。
あ、でも実際は逆ストーカーと言う言葉は無いらしい。
メディアの陰謀からできた言葉である。
まったく嫌な社会だ。
「それにしても以外と人はいるのね。」
少女は辺りを見渡しながらそうつぶやいた。
それもそのはず、まだ一応、年明けのシーズンなんだ、人もそれなりには集まるはずだ。
「でも、やっぱり邪道よね。なんで一日に初詣に行かないのかしら?」
「一日にみんなが休む中に仕事をするやつだっている。」
「必殺仕事人ね。馬鹿みたい。」
「馬鹿みたいは無いだろ。好きで仕事をしているわけじゃないんだから。」
「そんなの私が知ったことじゃないわ。大晦日に仕事をする人なんて、きっとマゾヒストよ!」
「……………。」
少女は訳の判らんことを口にする。
誰が好んで年明けに仕事をしようか…………。
彼らには負うものがあるんだよ!きっと!家族とか名誉とか。
僕は心の中で深雪によってマゾ扱いされた人々を敬った。
「ま、とりあえず、行くぞ」
僕が進みだすと、はいはいと言いながら少女は後をついてくる。
階段を登って、頂上にある門をくぐる。
門をくぐると屋台がいくつか立ち並んでいた。
僕らは、その中を突き進む。
その間に何度も
「あっ!あの林檎飴おいしそう!」だの
「私ならあの射的で全てを打ち落とすことが可能よ。私が今まで打ち落とせなかったのはあなたのハート。でも次期に私のものになるけどね。」などと背後から言っている奴がいた。
そんな深雪を放って、屋台の通りを突き抜ける。
そして、ようやく神社の参拝所やおみくじらが立ち並ぶ所へと着いた。
人がたくさん集まっており、それぞれ参拝やくじを引いていたりしている。
「さて、まずは参拝でもするか。」
僕がそういうと。
「ダメよ!!」
直ぐ様否定された。
「なんでだ?」
「まずは参拝よりも先に体を水で清めるのが先よ!!」
ああ、なるほど。
彼女の意見に初めて納得した。
確かに清め水で手を洗ったりするのが先か。
そういうことで、まずは水の出ているところへと向かった。
ししゃくを手にとって取って適当に手を清める。
「白澤、それじゃダメよ。ちゃんと手順を踏まないと。」
少女は指摘してくる。
確かに看板に清める手順て奴が書いてある。
しかし…………。
「こんなの手順を踏んで意味あるのか?結局は清めていることには代わりがないだろ。礼の時だって二回手を叩いて一礼するみたいなルールがあるけど結局は礼拝したってことでみんな同じなんだし」
「なんか嫌な奴の言い方ね。やっぱり書いてあるからには、それなりに意味があるんじゃないの?」
ずいぶんと投げ遣りに少女はそう答える。
「そう言うもんなのか」
「そう言うもんじゃないの」
ふーん、と反応してみせる。
ま、確かにこうして看板に参拝例やら清め方などと書いてあるからには意味があるのだろう。
「そういえば、なんで白澤ってば初詣に行こうなんて思ったの?なんか性格とかからしたら行かない派でしょう。絶対に………。」
少女がいまさらながら聞いてくる。
「ま、暇だったからな」
「ふーん。ずいぶんと暇みたいね。二時間もわざわざ歩いて」
「それはお互い様のように見えるが」
僕はそう言うと、少女は図星だったらしく黙り込んだ。
「ま、生きていれば暇もでるけどな。むしろ人生の間で目標をもって過ごす時間のほうが圧倒的に多いからな。」
「そりゃ、そうでしょうね。」
少女も納得したように頷く。
「ま、とりあず、さっさと参拝しようか。」
僕はそう言ってししゃくを置いた。
その時だった。
近くで悲鳴が聞こえた。
僕は悲鳴の聞こえた方向に目を向けた。
無論、目を向けたのは僕だけてはなく、おそらくその場にいた人物の全員が同じ様に目を向けただろう。
目を向けると男が大木の前に立っていた。
しかし、問題はその男は左手で女性の髪をひっぱり近寄せて右手で拳銃を構えて女性の額に突き付けていたことだ。
女性の体はひどくガタガタと震えている。
あの様子を見ると演技ではないことくらい誰でもわかる。
つまり、あの拳銃は本物で男には殺意がある。
辺りが騒ぎだす。
当たり前だ。
これは滅多にないような出来事である。
興味を示したり動揺し始める奴なんて山ほどいる。
「うるさいだまれ!」
男は、そう叫び声をあげた。
しかし。
辺りの空気は納まらなかった。
がやがやと人々は興奮している。
次の瞬間。
ばんっ!!
射撃音が鳴り響いた。
瞬間に静かになる。
何故なら男が撃ったのは威嚇射撃ではなかった。
つまり。
男を取り巻く観客の一人に当たった。
当たったのは歳を老いた老人であった。
苦しそうに胸に手を当てて藻掻き苦しんでいる。
そして間もなく動かなくなる。
どうやら死んでしまったようだ。
冗談のように騒いでいた人たちの顔から焦りがはっきりと確認できる。
全員が全員、青ざめていた。
しかし、こんな状況になりながら僕は何の焦りもしなかった。
あと、隣にいる記村深雪も、また平然とした様子でいた。
いや……………。
正確に言うと平然としていたのは僕だ。
記村深雪はというと、笑っているように見えた。
「動くな!!警察は呼ぶな!!」
男は辺りにいる人たち、全員に聞こえる声の大きさで言った。
「全員離れろ!十メートル以内に入るな!!近寄ったら撃つ!!そして動いても撃つ。」
男の命令で逃げるように一気に後ろに下がる人だかり。
そのせいで一番後ろだった僕らが一番最前列になっていた。
そして……………。
「うわあああぁ!!」
恐怖のあまりに誰かが叫びだしながら逃げ出した。
男は舌打ちをする。
そして容赦なく弾を放った。
弾は見事に人物の頭を貫いた。
男の腕はそうとうなものなのだろう。
射撃に関しての知識が無い僕でも凄さがわかった。
そして、辺りはぴくりとも動かなくなった。
そして十分ほど静まりかえる神社の礼拝堂付近。
………………。
ああ、みんな腰抜けだな…………。
これじゃ、容疑者の言いなりじゃないか。
僕がそう思った瞬間だった。
「君の目的はなんだ!」
と、隣の隣にいた若い男性が威勢のいい声をあげて容疑者に言った。
おっ!根性あるやつがいるんだな。
めずらしい。
「馬鹿なことは止めたまえ!人質を返すんだ!」
「なんだオマエ?」
容疑者はいかにもめんどくさそうだった。
「どうせ、後で警察が来て君は捕まる。早くおとなしくするんだ!」
男は正論を述べる。
男の言っていることは確かに正論であった。
しかし………………。
だが、この人は何もわかっていない。
この容疑者はさっきためらいもなく人を殺してみせたんだ。
つまり、人を殺すことに罪悪感を持たない人間だ。
そんなのに今更自首して、投降しろだの言っても意味はない。
世の中には正論なんて聞かない部類の人間だっている。
そんなことを言ったら……………。
「さぁ!早く!人質を…………。」
ばんっ!
言葉の途中で射撃音が鳴った。
勇敢なのはいいが容疑者を刺激しすぎてはいけないんだよ。
ああ、いわんこっちゃない。
僕は頭を抱え込んだ仕草を取った。
再び辺りの人々は点々と騒めき始める。
僕は撃たれた男に目を移した。
どうやら、撃たれた男はまだ死んではいないようだった。
しかし、老人と動揺に藻掻き苦しんでいる。
ま、当たり前だ。
銃に撃たれたんだ。
だが、見たところまだ若いから老人のようには直ぐには死なないだろう。
しかし、このままが続くといづれ死んでしまう。
僕は溜息をついた。
「言うことを聞け!!じゃないと容赦なく撃つぞ!!」
男は喚いた。
どうやら本格的に調子に乗り始めたらしい。
「ああ、馬鹿みたいに騒ぐ。」
僕は小声で呟いた。
「何!?」
男は反応する。
おっ、聞こえてしまったか。
耳はどうやらかなりいいようだ。
「おい!そこの小僧。今何ていった!?」
男は銃口をこちらに向ける。
ああ、めんど臭くなった…………。
ま、どちらにせよ、こいつをどうにかしないと僕らはこうしていなければいけないんだ。
ちょうどいい。
僕はみんなから一歩前にでた。
そして目線が全て僕に向けられる。
「はあ、だから馬鹿みたいに騒いでるなって言ったんだよ。」
やれやれと肩をすくめてみせた。
「おい、オマエ!さっきの男を見ていただろ?そうなりたくなかったら口の聞き方に気を付けな」
「ん?何?気を付けたら逃がしてくれるの?それだったらいいけど。」
「………………。」
男の顔が引きつった。
「ほう、どうやら肝がすわっているようだな。だが、その選択は間違いなんだよ。オレは射撃においては一流。いわゆるプロだ。ここからなら顔面を目がけて放つことができる。」
自慢のように鼻を高くして男は言った。
「ふーん。で、なんでおじさんはこんなことをしようとしてるの?人質とって、おまけに人を二人も殺して」
僕が言うと男は笑った。
「なーに。ただ現実に飽き飽きしているだけさ。オレみたいに頭が悪い奴らは社会から見捨てられてしまっているから何もやっても駄目。だからどうせなら得意なこれ(銃)で人前で見せてみようってね。」
「ふーん。なるほどね。ま、わかるよ。つまらないよね世の中って奴は」
僕がそう言うと男は唖然とした。
その唖然とした表情はなんとも言えないくらいのアホ面だった。
「…………。まさかオマエみたいな歳もいかない少年に納得されるとはな。」
「ま、色々あったからね。けど……………。こんな馬鹿みたいなことは間違ってもしないよ。」
「なっ、何!!」
「哀れだね。本当に馬鹿でどうしようもないよ。」
「くそガキが!!」
ばんっ!!
男は銃を撃った。
これで3発目だった。
そして、これは……………。
外れた。
いや、正確には避けたのだった。
軌道を見切って僕はわずか半歩を動かすだけの動作で避けた。
それと同時に僕は走りだした。
もちろん、容疑者の男に向かって。
男はかなり動揺した。
ばんっ!
ばんっ!
2発連続で銃声が鳴る。
まったく馬鹿だ。
走りながら避けつつ僕は思った。
一発目が外れて動揺して、僕が走ったから動揺して、そんな状態で狙いもしっかりせずに2発、3発と撃っても当たるはずがない。
「くそっ!なんで当たらねぇんだ!!」
男は喚く。
それにな。
「人に向けて射撃をやるんだったら狙いは顔じゃない。狙うなら心臓だ。身体なら相手が逸れても違うところに当たる確立が多い。顔ならしゃがんでしまえば、まず当たらない。」
僕はそう言いながら、走り間合いをつめた。
「っ、来るなっ!!」
ばんっ!
目の前のところでもう一発放たれた。
が、それも回避に成功。
ま、これは実際賭けだった。
弾が当たるか否かの瀬戸際。
だが僕は避けた。
賭けは成功した。
僕はそのまま男の手を足で蹴とばす。
「っつ!!」
男の手に握られた銃が手から離れた。
「どうやらおじさんは何のプロにもなれてなかったんだよ。当たり前だ。だって雑魚は雑魚でしかない。落ちこぼれは、落ちこぼれって知らなかった。」
男の目の前で立ち止まっていった。
男はくそっと呟いた。
しかし……………。
次の瞬間、男の顔に笑みが蘇った。
どうやら、僕は少しばかり男を侮っていた。
ばんっ!
「っ!」
男の手から再び銃声が鳴った。
油断していた。
なんとか急所を外したが右肩に弾が命中した。
「ふふっ、確かにそうか。確かにオレはこれでもプロに成れない。だけど、裏の読み合いなら負けないぜ。誰も銃が一丁しかないなんて言ってないだろ。」
そう男は拳銃を二丁持っていたのだ。
自慢のように隠し持っていた二丁目の銃を見せ付ける。
やられたよ。
「……………。」
僕は男の目の前、わずか2メートル無いくらいで立ち止まった。
「おっと!動くなよ!忘れてたぜ。こっちには人質がいるんだ。」
男は人質にしていた女性を前に出して銃口を再び突き付ける。
「ちょっと熱くなってしまったぜ。でも、もう終わりだ。この場にいる全員を一人ずつ銃殺してやる。」
「っ……………。くそ。ここまでか。僕の負けです。撃ちたいならどうぞ。」
僕は手を上げてそう言った。
「へへっ!」
男は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「と言うと思いますか!?」
僕は男が笑ったのを見た後、すぐにその後の言葉を続けた。
「何っ!?」
男は直ぐ様身構える。
しかし、もう遅い。
それに、反応するのはこっちではない。
「左を見なよ」
笑顔で僕は呟いた。
男は言われたとおりに左を反射的に向いた。
その瞬間にカチャと銃が引かれて、バンッ!………………………。
男の脳天を弾が貫いた。
血が勢い良く辺りに飛び散った。
「ああ…あ。どうやら裏の読み合いも僕の勝ちのようだね。」
「なっ……………。ばかな………………。」
男はそう言いながら倒れた。
人質は解放されて震えながら急いでその場から逃げ出した。
「ふー。」
僕は長く息を吐いた。
「まったく早く手を貸してくれよ。」
「ふふっ。」
そう僕の言ったことに、笑ったのは記村深雪であった。
深雪は男が落とした一丁目の銃を手に持って立っていた。
「まったく、とぼけても無駄よ。私まで計算の内に入れて操ったでしょう。まるで私がこう動くように仕向けるようにね。」
「何のことだか。」
「ふふっ。私が白澤を死なせるようなことにさせるわけないでしょう。そう。あなたは私が助けることを想定して動いていた。最後の最後まで計画通りだったんでしょう。」
少女は笑った。
「まさかここまで面白いとは思わなかった。私の目に狂いは無かったわ。あなたは最高よ。」
少女は満面の笑みを見せる。
ああ、やっぱり変なやつだな。
人のこと言えた義理じゃないけど。
「ねえ、私と付き合ってよ。」
「いやだ。」
「何でよ!」
「君といたら危ない目にあいそうだから」
「あら。私は楽しくて好きだけど。あっ、そういえば前から言おうと思っていたけど、私のことは君じゃなくて愛しい深雪ちゃんと呼んでね。愛しいし・ら・さ・わ君。」
「………………。」
僕は押し黙った。
「ああ、そういや撃たれたんだっけ?大丈夫?」
少女は近寄って来て傷口を見る。
「そんなにひどい傷じゃないわね。……………。肩貸そうか?」
「……………。」
「ほら遠慮うしないで」
「……………。わかった。でも、そもそも君がもっと早く助けに来ればよかったんだ。こんな傷負わずにすんだのに」
「だ・か・ら!君じゃないってば!」
「……………。はいはい。深雪だろ。」
「あれ?愛しのは?」
「愛しくもなんともないのに言えるかよ!」
「もう照れちゃって」
「……………。」
話が通用しない。
「はい、肩。」
そうして…………。
僕は深雪に肩を預けたのだった。
これが初めて記村深雪と出会った日の話。
それから4ヵ月くらいたった新学期の新しい教室で再び出会うことになるとは……………。
思いもしなかったし、僕の時世はなんでこんなに不幸なのかと思った。
ま、これが僕の人生で一番変なやつとの再開のエピソードである。




