これから続くエピローグ。もう少し先のプロローグ。
天寿を全うし、天国へと召された僕を待っていたのは、三つの選択肢だった。
一つ。このまま天国でのんびりとした日々を送る。
二つ。今の記憶を消し、まっさらな状態で現世へと転生をする。
三つ。今の記憶を維持し、様々なサポートを得た上で別世界へ転生をする。
説明を要求した僕の選択は、間違ってはいないと思う。
真っ白な空間で、僕は温かな光から説明を受けた。
一つ目の選択肢は、ただ永遠に続く安寧。何も変化せず、ただ安らぎだけが与えられる。時間という概念すらないのだから、その感情が一時のものなのか、どれだけ享受したものなのかも判らない。
まぁ、僕は充分な生を満喫したのだし、そう言った感覚を味わってみるのもいいと思う。……味わう? いや、味わえるのか? そういった感情を感じて、で? なにか感情を突き動かすものがあるのか? 安寧の中で?
その不確かさを問うてみても、それは体験してみなければ判らないと言われてしまった。当事者意識に欠ける人だ。勧めるのなら、ちゃんと教えてほしい。
二つ目の選択肢は、僕の不満を読み取ったのかしっかりと説明してくれた。
「君の意識はここでお仕舞いさ、ベイビー」
急にフランクになるなよ。って思った感情をなくすのは勿体ない。勿体なくない? だって、もしも生まれ変わってもう一度ここで来たら、また同じ遣り取りをする羽目になるかもしれないんだよ?
いや、生まれ変わったら記憶をなく済んだから、関係ないじゃんと思うかもしれない。けど、けれど。今僕が思うこの感情はどうなの? って話。
すっごい複雑じゃん。そんな軽く言われて転生するの。
そもそも、死んだら閻魔様の判決を受けるとか、そう言ったものはないのかと。自分のもっていた死後の世界との乖離が激しくて、そのもやもやが綺麗さっぱりなくなってしまうのがなんか嫌だ。
年老いたはずなのに、何故か思考が若返っているような気分になってる。何かを期待している自分がいるのだろうか。この感情を理解してほしい自分がいる。
そんな意思を伝えたところ、温かな光はこう言った。
「そうやってコミュニケーションを取ろうとする人は、結局三つ目の選択肢を選ぶと思いますよ」
……なんか、ぐうの音も出なかった。
そりゃそうだろう。全てを果たして、ここに来て、選択肢を提示されて時。安寧を求めるなら一つ目を選ぶ。終わりを求めるなら二つ目を。では、会話を望むなら?
そりゃ、三つ目にしか答えはない。
「つまり、僕はこのまま進めるのかい?」
慣れ親しんだ声が発せられた。それに安堵してしまった。だったらもう、選ぶべき選択肢は決まっている。
「ですね。様々な変化を得ることも可能ですけど。いずれにせよ、この選択肢は自分が今、感じているその先を示しているのです。永遠に続く安寧。自身の締め括り。そして――未練」
未練、か。
「満足はしたけれど、それを忘れてしまうのは勿体ないのでしょう? 満足したままでは終われない。でも、それを感じたままではいられない。もっと違うものを、もっと大きなものを求めてしまう。まだまだ先を知りたい」
見透かされているのだろうか。現世でやりたいことはやり尽くして、そうして年老いて生を終えたというのに、まだまだやりたいことが――いや、違う。
「憧れたものが、あるんですよね?」
僕の人生は、確かに満足できるものだった。幼馴染との愛を実らせることにも成功したし、子宝にも恵まれた。
何の変哲もない、ごく普通の会社員としての生活も満足していたし、趣味に使う時間もあって、誰かに不満を言うこともなかった。
なら、なにに未練がある? なにに憧れていた?
「……なにを、言わせたいのかな?」
「あえて答えを出してあげましょう。あなたの望むものを、最後に与えてあげるのです」
「望むものを?」
「そう。それが私達にできる最大限のサポート。そして、別の世界へ旅立つあなた達へ贈る最後の思い出」
自分の内側で、何かが高鳴る。
「これから、あなたは自由に選ぶことができます。そして、そのまま先に進むのかを考える時間が与えられます。――ようこそ、レミニセンス学園都市へ。あなたの、この世で最後の素敵な思い出を作りましょう」
――望んでください。あなたの理想を。
その言葉に従って、僕は想像をする。
子供の頃から憧れた、自分の姿を。こんな人生を送りたいと願った、ファンタジーを。
さようなら、僕の愛した世界よ。――という言葉を残すのは、もう少し先になりそうだ。




