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ルインシールサーガ 二章 奴隷紋は光らない  作者: 宮下しのぶ
第七章 悪の華を手折る薔薇

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悪の華を手折る薔薇 2

 

 円卓裁判。

 その裁判は文字通り、円卓議会が主導で行う裁判である。そして円卓議会が主導という事は王家主導、国王自らが裁定を下すということであった。

 形骸化していた。

 セインブルグ王家とは、大国の主と呼べば聞こえは良いが、その実は大国を統べるために分割統治を強いられ、強国の主と呼べるほどに実権は無い。国が領地を広げ、強固になるにつれ領地運営を任された貴爵十八翼の力は強まり、王家は力をつけた公爵家が分立しないように絶えず顔色を伺うしかなかった。それがこの国の王家の実態である。

 円卓裁判も王家が絶対なる力で裁定を下すと言えば英雄活劇の締めと思われるかもしれないが、結局のところ、そんな暴挙に出たところで貴族の圧力には勝てないし、よしんば上手くいったとしても反感を買い、最悪、首を挿げ替えられてしまう事になる。王は子供を残すことも仕事である。遠縁まで含めたら王家の血筋などいくらでもいる。

 このような背景の下で円卓議会を開廷するなど、命知らずの愚王だけである。

 形骸化したといっても形だけは存続しているので、偶に演出として出来レースのように結果の決まった裁判をあたかも力ある王のように執り行うぐらいで、こうも真っ向から行われる事例はほぼ、皆無であった。

 執り行われる場所は、上院裁判の行われる上院裁判所であった。厳かなアークライツ様式。神殿建造などに取り入られるそれは、裁判所の神聖と潔癖を表すかのようであった。

 国王主導の円卓裁判と言えども、執り行う為の然るべき施設があるわけではない。過去に円卓裁判所なる物が建造されるという計画も持ち上がった事はあるが、数節か、あるいは数年に一度、賽の気まぐれのように行われる裁判の為に振り分けられる予算も土地も、ありはしなかった。

 なので、円卓裁判は上院裁判所で行われることが通例であった。上院裁判所も円卓裁判ほどではないが、常に行われるものではない。輝爵十八翼に反意を示す命知らずの愚か者など、そうそういない。なので大きな施設を遊ばせておくならば、といった程度の理由であった。

 大理石の白を基調として建造され、清廉を示す厳かな建造物はしかし、その実、暗澹とした黒々しい見えない何かを醸し出し、今日という日にこれから起こる波乱を予感させるかのような臭気をひっそりと放ち続けていた。

 その厳かな建造物の前、ダフトフ=ノーヴ=バンドゥは緊張を得ていた。まさか、公爵家などの裁判に用いられるはずの上院裁判所で自分が裁判を受けるはずになるとは想像もしなかった。当然ながら、緊張も得る。

 視線を移すと、隣には同様に今日、裁判を受ける手筈のドラン=ドッチ。そして周りには案内役である法治律政院の職員数名。更に軍の第一師団、いわゆる王城防衛部隊に所属する精鋭が数名。ダフトフ男爵、並びにドラン頭取の警護が表向きの目的だが、逃亡阻止の役目も同時に承る。

 普段とは違う光景に動揺を隠せずにいると、横に佇むドランが、そっと耳打ちをした。

「安心を。少々、状況は違いますが請け負います裁判員は全てが大后の手の者です。きっと良く、計らってくれるでありましょう」

「それは本当なのだな」

「昨夜、こちらの手の者が本日の名簿を流してくれたので。法治律政院の院長印も本物の様でした。おそらく、問題は無いかと」

「なるほど。ならば、大事は女王だな」

「反メリアリア太后殿下派閥の筆頭ですからな。こちらに有利な立場であるますまい。けれども、継承して一年足らずの小娘と聞きます。そんなもの、如何様にも出来ましょう」

「なるほど。大方、即位したての若い娘が、舐められまいと箔をつける為に、対外的な力を誇示しようと考えて、といったところなのだろうな。だが、そう思惑通りに行かないことをしかと、高い授業料含めて、存分に思い知らせてやらねばならぬな」

「上手く事を運び、泥を塗れば、現政権の移行にも繋がるでしょう。そうなれば、今の状況を快く思わない大后殿下の、男爵閣下に対する覚えも良くなる事でしょう」

「それは良い。大后殿下に対する良き土産話になる。それを皮切りに、今より良き爵位を賜るような話になれば勿怪の幸いといった所だな」

 そう、起りうるかもわからぬ妄想の霧に包まれた物語に夢想を隠せないダフトフの姿があった。対して、背後に佇む法治律政院の職員が声をかけた。

「もう時期に、三刻の鐘がなります。女王陛下の御立ち合いになられます場故に、失礼が無きようにお急ぎ頂けますと幸いにございます」

「解っている。焦らせるな」

 ダフトフは、若干ながら不当に急された事に足して僅かな苛立ちを覚えながらも、傍らのドランを促すように一言、告げた。

「ならば。案ずる事など無き事だろう。行くとするか」


お読みいただき、ありがとうございます。

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