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ルインシールサーガ 二章 奴隷紋は光らない  作者: 宮下しのぶ
第三章 「気づけばすでに手遅れだった」

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「気づけばすでに手遅れだった」 9

 

 拍手を浴びながら、青年が壇上に登る。

 まず、カーリャが印象として感じたのは端正な顔立ちの青年だという事である。演目の男優のような造詣。主演に抜擢されてもおかしくないほどの色気がある。

 髪は緋の混じった黒。まるで闇の中の火のような強さを感じた。瞳も同じく。ただ、なんと言えば良いのだろうか。それは純粋な黒さではなく、なにか異物の混ざったような黒さであった。端正なだけに、その濁りに妙な違和感を感じずにはいられなかった。

 服装は平服のシャツにズボン。ブレストプレート。一見地味だが、平服は魔道銀糸が織り込まれている特注品の魔道衣だし、雑に見えるブレストプレートは魔法銀製である。白金貨が動く。普通のハンター職が手に入れられる代物ではない。

 ディア・ナロウ所属王金級ハンター。

 ディア・ナロウは狩猟組合の正式名称であり、王金級というのはその中でも最高位に位置づけられる狩猟者の名である。普通に猪を狩っているだけならば当然ながら王金級にはなれない。王金になるには最低でも、竜や大鬼などの上位種と呼ばれる魔物を討伐しなければならない。ちなみに竜と人間の戦力差は一対百とされている。つつましやかに小鬼を相手にしていたのならば未来永劫縁のない等級である。

 王都のみならず、王領以外にも十八の領土が存在する広大なるセインブルグ。その膨大な領土の中でも王金級のハンターが現在、何人在籍しているかカーリャは正確に把握していない。ただ、いえるのはせいぜい両手の指で足りる程度の人数であるという事だけである。その一つ下の金等級ならばチラホラ存在するのだが、王金級ともなるとちょっと聞いた事がなかった。

 しかし、クレハ=カズヤとは。少々珍しい名前だとカーリャは思った。あまり聞かない名前である。東方にあるシフォンがたしか、このような名前が多いように聞いているが、もしかしたらシフォン人なのかもしれない。

 そのような事を考えていると隣のミシューがなにか、おかしな表情をしていた。いや、おかしいのは今日に始まった事ではないし、そもそも今日に関しては普段の三割増しで徹頭徹尾おかしいのでこれも今更の話なのではあるが、どうにも動揺している様子である。まるで、壇上の男性に対して、何か知っている様子であった。

「知り合い?」

 気になって、そう聞くが。

「ううん。知り合いではないんだけど。ちょっと、気になることがあって。クレハ=カズヤ。クレハ……もしかして、あの人……」

 生き別れの兄とかだろうか。いや、髪の色違うだろ。だったら故郷での恋人とか。いや、そもそもが今までに彼氏いないと言っていたしそれも違うように思える。同郷という事でもないだろう。そもそも、壇上の男性はベルファンド人にすら見えないし。

 そのようなことを考えていると壇上のクレハ?カズヤ?どちらが名前だろうか。とりあえずクレハと呼ぶことにしよう。クレハという名の男性が口を開く。

「こんにちは。今、紹介にあがりましたクレハ=カズヤです。冒険者……いや、この世界ではハンターというのかな。なので、あまりこういった壇上で話させていただく事はないので緊張していますが、本日はよろしくお願いします」

 そこで拍手が起こる。

「元々は、このガリア大陸の小国出身なのですが、自らの力を試したいのと、色々な土地を旅してみたいという気持ちがありまして現在はこの王都アークガイアを基点にハンターギルドに所属し、様々な依頼をこなして生活をしています」

 ガリア大陸には様々な小国がある。主な大国はセインブルグでそこに準ずる形でベルファンドが存在するが、広大なガリア大陸である。大国に取り込まれない形で生き延びる小国も無数にある。そういった国の一つの出身なのだろう。カーリャはシフォン人だと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。世界は広いと感じてしまった。もしかしたら、異世界とかも存在するのかもしれない。いや、さすがにそれはおとぎ話過ぎるかとすぐに否定するが。

 そこで、司会進行を兼ねているドラン=ドッチ頭取が補足するように口を開く。

「こちらのクレハ=カズヤ氏は、このアークガイアに移住し、僅か二年で金等級にまで昇格しております。これは王都でも歴代二位の速さであり、討伐の履歴の中には下位の竜や大鬼なども記録されております」

 カーリャはその言葉に感嘆する。

「へえ。すごいのね」

「すごいの」

「すごいでしょ。竜はあーた、実際戦ったから知っているでしょうけど、大鬼とかもすごいのよ。全長、一ルゥースとか二ルゥースあるんだから。そりゃ竜ほどは大きくないけれども、普通のハンターじゃ束になっても叶わないんだからね」

「へえ、三メートル以上は普通にあるのか~。ちなみにあの森で会った竜とどっちが強い?」

「そりゃあ断然、あいつだろうけどね。いや、そもそもあの森のあいつは、普通遭遇しないと思うけどね。よく、生きて帰ってこれたものだわ」

「じゃあ、あの人も、森で出会ったあのう〇ち色のドラゴン倒したってこと?」

「んなこと言うから襲われたのよ。その質問の答えもノーよ。一般的に竜と言われているのは下位のロウドラゴン。火も吐かないし空も飛ばない。その上位種のノーブルドラゴンになると色々な特殊能力を所有するけど。まあ、普通に考えてロウ・ドラゴンじゃない。知らんけど」

「へえ。じゃあ、あの人、強いんだ」

「でしょうね」

 ミシューの言葉に頷きながらも、カーリャは壇上のクレハと呼ばれた男性を見定める。

 おそらく、強い。それも洒落にならないほど。王金などという等級、普通にやっていては取得できるものではない。ましてや、有象無象の塵芥相手に無双しているようでは。

 一見すると、朗らかな優男のような風貌ではあるが、四肢から微妙な脱力があるし、身体つきも均整がとれている。

 さすがに三流演目の主人公ではないので一目見ただけであの手の力量を正確に察することなどはカーリャには出来ないが、どうにも斬りかかっても躱されて、返り討ちに合う印象しか持てなかった。

「こういう時、王道だと鑑定スキルとかあってレベルとか、攻撃力とか解ったりするんだけど、どうして私は持ってないんだろうね」

「何言ってんの?あんた」

 ミシューの、あいもかわらぬ訳の分からぬ言葉を話し半分で聞き流していると、再びドラン頭取が話を始める。

「それから、半年の間は昇格がなかったのですが、この度、ゼファーリア大森林で確認されたノーブル種、つまりは高位の竜種を討伐した功績がディア・ナロウにより正式に認可されたために、厳正な審査の上、王金級への昇格が決定しました。これは王都アークガイア史上において七人目の快挙であります」

 建国以来、三百年。狩猟組合の歴史がどれほどかは知らないがそれでも王都で七人。この数字が実際に多いか少ないかは知らないが、一つだけ言えるのはとてつもない異業という事だけだろうとカーリャは思う。

 しかし、ゼファーリア大森林とは。この前、竜種を倒したばかりだというのにまた現れたのだろうか。グランクもバナンも、そのような事は一言も漏らしていなかったが王都近郊に竜種が現れたら基本的に騒動になる。自分の知らないところでこっそりと解決したのだろうか。この前の鉄砲玉騒動もあるし、意図的に知らされなかったのだろうかと思いながらカーリャは話を聞いていたのだが。

「皆様方、よもや疑ってはいないでしょうか。ならば、証拠をご覧いただきましょう。これが、クレハ氏の竜討伐を行ったという証明です」

 ドラン頭取の言葉に、使用人が二人係で中型の装飾された煌びやかな運搬台車に荷を乗せてやって来た。そしてその台車の上には、一本の竜の爪が乗せられていた。

「これぞ、クレハ氏が討伐した証明である竜の爪です。鋼よりも固く、鋼よりも鋭い。一薙ぎで洗練された騎士の大軍すら薙ぎ倒す竜の爪です。皆さま、遠慮される事なくご覧ください」

 歓声が沸いた。大きな歓声であった。

 竜の爪など、一般人は見たことがない。ただその巨大な事から、爪の持ち主が相応の巨体だという事は一目で証明されるほどに鈍く、重く、威圧的であった。会場が歓喜に包まれるのも無理はない。

 カーリャも、いい加減喉が渇いたので会場で試供されていたヴァイタルポーションを飲みながらしみじみと竜の爪を眺めた。あらこれすっぱ美味しい。癖になりそう。帰りに買って帰ろうかしら。順調に洗脳されている。

 しかし、竜の爪とは。あるところにはあるものである。素人目なので、何の種族の爪かは判別できないが、中々に質感良さそうである。少なくともロウドラゴンの爪ではあるまい。重量感というか、醸し出される高級感が違う。カーリャのさして当てにならない真贋がそう告げていた。

 しかし、どうにもどこかでみたことがあるような形状の爪であった。何とも言えないが、前にも一度見たような覚えがある。竜の爪などどれも同じような形なので全部同じに見えても仕方がないのだが。カーリャは元々、人の顔や物の形を覚えるのが苦手なので、今回もその類の気のせいだと思ったのだが。

「あー!」

 隣のミシューがそこで大きな声をあげる。何をそんなに大騒ぎをしているのだ。ついに脳天に神が下りてきてあっぱらぱーになってしまったかと思ったが、すぐにミシューの言わんことをカーリャは理解した。

「あれ!あれだよ!この前、森でであったあのう〇こ色のあれ!あれ、倒したの私たちで、ヴォフト区の狩猟組合に買い取ってもらったはずなのに、どうしてふごふごふご!」

 ミシューがこれ以上余計な事を言わないうちに、カーリャは慌ててミシューの口を手でふさいだ。

 急に横やりを入れられたことで周りの視線が怖い。カーリャは珍しく慣れない愛想笑いを浮かべてうまくごまかした。気のせいか、特に視線が厳しかったのは会の主催者一同、ハラム関係者であった。まるで探られたくない腹を探られてしまい、触れられたくない腹に触れられたような顔をしていた。その鋭い視線から、カーリャは自分達の推察が概ね、的を得ていると確信することができた。

 あまりにも激しく動くのでカーリャが軽く力を弱めるとミシューが咎めるような口調で言う。

「カーリャ。あれ、私たちのだよ」

「解ってるって。落ち着きなさいな。それを言ってどうするのよ。静かになさい」

「だって、悔しいじゃん。あんなに苦労して倒したのに」

「大方、実物を見せて箔を付けたかったという所なんじゃない。貴族社会ではよくあることよ。我慢なさい」

「だって~」

 カーリャは騒ぎ続けるミシューを力づくで抑え込み、なだめながらも、続けてくださいとばかりに周りに愛想笑いを浮かべる。ドッチ頭取は、おおよそミシューの先ほど叫んでいたことが図星だったのだろう。多少苛立ちを見せながらもすぐに表情を朗らかに変え、何事もなかったかのように話を続ける。

「なにやら会場が騒々しいようですが話を続けましょう。ディア・ナロウにおいて輝かしい功績を残しているクレハ氏でございますが、実は当ハラムビジネスにおいて、その初期草案を提供してくださった方で、彼がいなければ皆様方の実りある日々を提供するハラムビジネスは現在、存在しなかったと言っても過言ではありません。つまり、クレハ=カズヤ氏はハラムビジネスに置けるもう一人の創始者と言っても過言ではないのです。皆さま、クレハ=カズヤ氏にもう一度、温かな拍手をお願いします」

 ドラン=ドッチ頭取の言葉に会場が再び沸いた。ハラムビジネスの熱狂的な信者が集まっている為、会場は大いに盛り上がっているとカーリャは感じた。おそらくこの熱気に皆、やられてしまうのだろう。

 会場の溢れん夏を象徴するかのような熱気にドラン=ドッチ頭取は満足げに微笑むと、傍らのクレハ=カズヤと目を合わせて、再び口を開いた。

「では、皆さまも待ちわびた事でしょう。そろそろ、ハラムビジネスの概要をご紹介しましょう。期待を裏切ることはしません。今日という日が皆様にとって心の底から貴重だと思える、素晴らしい一日となるように、心躍り胸の熱くなる情報と体感を今日はお持ち帰りいただきたいと思います。では、これより、ハラムビジネスの本社ミーティングを開始したいと思います!」


 〇 〇 〇


 そこから先は、非常に胸の躍らない、心の底から胸焼けするような過多な情報を永遠と垂れ流される時間が続いた。ミーティングと称された拷問はおおよそ一刻、日が完全に傾くまで続けられ、再びダフトフの屋敷を出て、弱弱しくなり始めた太陽を拝んだ時、完全に時間を無駄にしたという後悔と悔恨の念がカーリャ=レベリオンの胸に怨念のように強く宿った。

 一緒に話を聞いていたミシュー=スフィールは同じく会場から出てくる時に再び洗脳が強化されたのか、目をギンギンのガンギマリにして顔を後光にでも照らされたかのように輝かせ、同じ拷問を受けたと思えないほどに元気な様子で「素晴らしい体験だったね。これから、一緒にビジネス頑張ろうね」と言って来たので今度という今度はマジで■■してやろうかと強く思った。

 地獄のような一日だった。

 こんなことならば、グランクの言葉を大人しく聞いて、王宮で警察と軍が情報収集してくれるのを待っていた方が良かったなあと純粋思った。グランクの説教よりも、貴族院総会の突き上げよりもはるかに辛い時間であった。


 無駄な一日であった。



お読みいただき、ありがとうございます。

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