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第三話 「牛の首に念仏」承2

「は?じゃああんたは、本が、生首に入れ替わった謎が解けたって言うわけ?」

「えぇ。」

来たぞ。今までの経験上、佐野詩織の推理は、一発目のだけは、一発で当てるんだ。生首の謎が今解かれる!

「皆さん、この黒い箱、ずっと見ていた気になっていらっしゃるようですが、実は目を離していた時間があるんです。」

全員が固唾を飲んで、佐野詩織の次の言葉を待つ中で、俺は、嫌な予感がしていた。まさか『あの時間』のことじゃないよな?

「そう、黙祷の時間です!」

俺は即座に、得意気なキメ顔をした佐野詩織の手を掴んで、「ちょっとごめん、こっち来て。」と言いながら襖を開けて廊下まで引っ張ってきた。

「何かな?急に。まだ謎解きの途中なのだけども。」

一呼吸置いて、俺は告白した。

「黙祷の時間、俺、目つぶってません。」

佐野詩織お得意の、口あんぐり顔が炸裂した。

「え、え、え?ずっと目開けてたのか?」

「いやそりゃ瞬きぐらいはしてたけど、皆みたいに目瞑り続けてはない。」

「なゼかナ?」

佐野詩織の声が裏返っていた。

「瞑想と黙祷って、違うじゃん?黙祷は黙ってれば良いわけで、目はつぶんなくても黙祷じゃん?目つぶったら、その間に、何かに襲われそうで怖いな、と思って。」

俺たちはしばらく見つめ合った。今まで、人類の歴史を通して、こんなにもロマンスのない、男女の見つめ合いがあっただろうか。

「まぁじか。」

佐野詩織はそう呟くと、襖を開けて、皆のところに戻った。

どうする気だ。この状況を、どう打開する気なんだ、佐野詩織。

「え〜、私ですね、どうやら思い違いをしていたようでしてですね、ということでまずは、長谷川さんからですね、『牛の首』の話をですね、聞かないことには始まらんでしょう!」

出たよ、困ったときの政治家演説モード。ほぉら、皆呆気に取られてるじゃないか。

「あ、はい。」

長谷川さんがそれに応じてくれ、なんとか事態は収拾がついた。


『牛の首』の話は、一応呪われる危険がある、ということで、聞きたくない人は読経部屋に残って良いことになったので、俺は最初残ろうとした。だが、佐野詩織が無言の圧力をかけてきたのと、聞かなきゃ5万が減額されるんじゃないか、ということが頭をよぎったので、俺も別室に移った。

滝さんと鬼島さん、あと、加賀先輩は、残った。


俺たちは宴会場のような、黒で揃えられた卓と座椅子がズラーッと並べられた部屋に通された。

「皆様どうぞお座りください。」

俺たちが長谷川さんを囲むように座椅子に腰掛けるが早いか、とうまさんともう一人のお坊さんがせっせとお茶を配ってくれた。配り終わると、二人はお盆を持って退室した。

やっぱり『牛の首』は聞かないのか。

「あ、宜しければこちらのお菓子もどうぞ。檀家さんから頂いたものです。」

卓の真ん中にある籠に、おまんじゅうにしては平べったい何かが、積まれていた。

「私は職業柄頂けませんので。」

と、長谷川さんの真向かいに座る刑事さんが遠慮したせいか、誰もお菓子には手を伸ばさなかった。お茶は良いのか……?

すると、その気まずい空気に堪りかねた長谷川さんが、噺家さんのような口調で、話し始めた。

(注:この話を聞いたあとも俺はピンピンしているので皆様安心してお読みください。)

「時は戦国。先の戦いで討ち取った敵の総大将の首を、二人の男が、あの〜何と言いましたっけ、あの〜最近物忘れが激しくて……、とにかく、その〜首桶に総大将の首をこう、入れてですね、それを手拭いでくるんで、棒に括り付けて運んでおりました。」

冒頭からグッダグダだなぁ、おい。

「険しい山道を下る途中、勢いあまってすっ転んだ二人は、山中にある神社までコロコロと転がり落ちてしまいました。」

険しい山道、山中の神社。ここのことか?あ、ここは寺か。

「アイタタ、なんて言いながら二人が起き上がりますと大変なことに気がつきました。棒に括り付けてあった手拭いがほどけて、くるんであった首桶は、蓋が開いた状態でそこら辺に転がり、中に入っていた敵の首が消えていたのでございます。慌てて二人は辺り一面を探しましたが、とうとう見つかりませんでした。このままでは、自分達の手柄が水の泡になってしまうと絶望しかけたその時、そこには神社で飼われた牛がおりました。敵の総大将は元々『牛面』なんて言われておりましたから、なんとかなるだろうと思った二人はこれ幸いと、その牛の首を斬り落としたのです。」

いや、なんとかならんだろうよ。いくら牛に似てるったって、牛そのものが来たら、違うって分かるわ!

とか思ってたら、話はもっと残酷だった。

「当時、首実検と言いまして、首の主を知る者に首を見せ、大将が、その首を敵将のものか確かめる詮議がございましたが、戦いの中で切り落とされた首というのは損傷が激しいことがザラでしたから、まじまじと観察されることなく、判定されることも多かったので、彼らはこれを、利用しました。切り取った牛の首をズタズタに斬りつけ、殴りつけ、蹴りつけ、それはそれは見るもおぞましい首にして、首桶に入れ、自分の国へと持ち帰ったのでございます。」

ひぇ〜〜〜〜!こっっわ!何が怖いって、自分の手柄のために、そこまで残虐非道なことができる人間がこぇぇよ。『牛の首』って人怖話だったのか。

「国に帰った二人は、大将に『すぐにでも首実検を』と申し出ましたが、首実検には、それ相応の準備が要ります故、『まずは、疲れを癒して眠りなさい』と言われ、床について眠りました。」

あ、まだ話続くのか。さっきのがオチかと思った。

「翌朝、使いの者が二人を起こしに参りますと、二人が眠っておった部屋には人の姿はなく、ただ、首桶が二桶あるばかり。敵将の首は一つでしょうに、とおかしく思ったその者が、首桶の蓋を開けますと、中には牛の首ではなく、あの二人の首が入っていたのでございます。まあ、ざっとではありますが、このような話でありました。それでは、おあとがよろしいようで。」

長谷川さんは話し終えると深々と頭を下げた。

おあとは、全然よろしくねぇぇぇえ!

「ちなみに、『おあとがよろしいようで』は、寄席で次の演者が準備万端になりました、って意味で使うんですよ。単なる締めの言葉じゃないので、この場合は、『ご清聴ありがとうございました』などが正しいかと。」

佐野詩織の添削が入った。どこに注目して聴いてんだよ。

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