オタゲーマーに転生しました。 第九話
「で?翁さん俺たちにどうやってこいつらが転生してることを納得させるつもりだ?」
フクロウが言う。心なしか今までよりも態度が柔らかくなっている気がする。それに対し、翁は笑いながら答える。
「フクロウ氏は、まだ彼らが転生している事を疑っているの?」
「そうだな、まだ弱いな。俺たちを完全に納得させられるんだろ?だったらこの程度じゃまだ足りないと思うぞ」
フクロウがもはや自分の納得のためではなく、全員を納得させるために憎まれ役を買って出ていることは、平蔵達の目にも明らかだった。どれほど取り越し苦労であっても、彼にとっては「全員がなんの迷いもなく納得する」ことがクランの和を乱さないことに繋がると思っているのだろう。
翁もそれは分かっているようで、「それに関してはまた後で相談しよう」とだけ言った。
「すまんね、こんな感じでこっちも色々ごたついていて、今の時点では転生関連の解決策を出すことは難しいかな。」
翁が転生組に対して、申し訳なさそうにいった。
「まあ、うちも意外と苦労はしてないし」
とさつき。
「フリードリヒ達は気掛かりだが、致し方ない」
と総士。
「俺はいつ帰っても誰も文句は言わないだろう。大学も卒業する見込みは無い」
と誠。
「個人ではどうにもできない問題なので、そのうちでも考えてくれるだけありがたいです。」
平蔵は言った。
その日はとりあえず転生組を休憩させるためにログアウトさせ、翁、フクロウ、ウオタメ、ゆずは会議室で今後の方針を話し合っていた。
「いやあ、レイドボスの件どうしようね。誰が行くかって言うと、転生組以外になるのかなあ」
翁が頭を掻きながら言う。
「いや、それだと怪しまれませんかね?ここはリーダーとして誠さんを、研究班のリーダーとしてさつきさんを連れて行くだけ連れて行くのがいいと思います」
とウオタメが答える。
「まあ、確かに怪しまれそうやね。本部に行くのはそれで良いんやない?」
ゆずも賛同する。
「じゃあ、本部には誠さん・さつきさん・俺・くまちゃん・フクロウ氏でいいかな?」
と翁が言うと、ウオタメ達も頷いた。
「でだ、例の件、どうすんだよ?」
フクロウが圧を込めて言う。それに対し翁は、
「例の件……?ああ、あれか。転生を周りに納得させることね。あれ?フクロウ氏は転生を疑ってるんじゃなかったっけ?」
とおどけるような口調で言った。
すかさずゆずが言う。
「翁、お前もわかってるだろ?フクロウ氏が本当は……」
フクロウ氏も声のトーンを上げた。
「俺だって心配なんだよ。あいつらどうしちまったんだよ?悪戯じゃねえことは俺にも分かった。じゃあ2重人格か?記憶喪失か?どっちにしろなんかあっただろ。しかも4人同時だぜ?」
「……まあそうね。記憶喪失をみんなに納得させなきゃいけないわけだ。」
「え?便宜上転生って言ってるだけで、まさか本当に転生してる訳じゃないよな?もしそうだとしたら、俺のサブカル知識を持ってしてもそこまで予想できなかったんだが」
「いやいや。記憶喪失みたいなもんさ。それで合ってるよ」
「そうだよな!いやあまさか転生とか、ラノベの話かっつってな」
ウオタメが何か言いたげな目で翁を見ているが、翁は明るく言った。
「そういうことさ。そうだフクロウ氏!俺がみんなにあぉたん達の記憶がないことを証明できるいい方法があるんだ。フクロウ氏、さつきさんと模擬戦してみないかい?」
「「「……はあ!?」」」
その場にいた全員が驚愕した。
「いや、いきなり記憶喪失の人にこのゲームで戦えは無理あるだろ!」
ゆずが呆れ声で言う。
「いやこのゲームむずいっすからねえ。記憶を失う前はあのひとたちすごかったですけど。まあ、同じクランに入っている時のリスポーンは早いし、いいんじゃないすか?」
ウオタメの言うように、ディスコードはリスポーン時間がデスペナルティだ。ゲーム内で死んでしまった場合には、現実世界の時間で3時間のインターバルを置かないと復活できない。しかし、同じクランのメンバーの戦闘は話が別で、その場合は即復活できる様になっている。
「いいんすか?俺が勝っても」
フクロウは釈然としない様子だ。このクランの今のリーダーは翁だ。模擬戦をするのであれば、記憶がないことを疑っているフクロウがさつきと戦うようにさせはしないだろう。
フクロウの疑問に対し、翁は、
「全然構わないよ。思う存分やってくれ。そうしたら、むしろフクロウ氏も『納得』するだろう?」
むしろ模擬戦でフクロウに確信を持たせる(ようメンバーに思わせる)かのような翁の言葉に、フクロウは
「まあ確かにな。よし、仕方ねえからやってやろうじゃねえか!」
と握り拳をつくった。
その後、模擬戦の予定を5日後に決め、フクロウとゆずもログアウトした。
そして誰もいなくなった会議室でウオタメと翁は話し出した。
「翁さん、いつまで転生のことを黙っているんですか?さっさとクランメンバーにだけでもに話したほうが、敵のことも効率的に調べられると思うんですけど。というか、敵について翁さんはどれくらい分かっているんすか?」
まず口を開いたのはウオタメだ。フクロウにバレそうになったのが相当頭にきているようだ。
翁はため息をつき、話し出す。いつになく真面目な口調だった。
「俺が今分かってるのは敵の『大きさ』かな。いつものクラン間抗争やディエス・ウォーズとは比較にならないことになると思ってる。俺が今抱えてる懸念は、こいつらは俺たちの手に余るんじゃないかってこと、もちろん俺たちで解決はしたいけどね。敵さんは俺たちに喧嘩を売ってきた訳だし。」
最後の言葉を言う時、翁の目には剣呑な輝きが宿っていた。続けて翁は話す。
「相手がどうしてこのクランを狙ったのかも大体想像がつく。おそらく、このクランが少数精鋭、つまり少ない人数かつレベルブレイクの保有率が高いことが原因だ。ただ敵さんの詳細は俺も分からないし、調査には慎重を期す必要がある。俺から運営に連絡してみたけど、全然帰ってこないし……ウオタメさん、そっちからも連絡できる?」
困ったように翁が言う。ウオタメは一瞬息を止め、ため息をつく。
「こっちから連絡しても結果は変わらん気がしますなあ…….運営への連絡は私のエクストラコードは関係ないでしょうし。てかそいつら運営に手出せるんすか…..?」
「そうみたいだね。うーん困った。運営に連絡して、後は任せられればそれで良かったけど、出来ないんだよなあ。4人の安否が関わってくるから投げ出すわけにもいかんし……..」
翁は頭を掻く。ウオタメもしばらく考えた後言った。
「とりあえず、れいさんやかみりあさんあたりが遠征から帰ってきたら作戦を開始しやしょう。事態は思ったより深刻そうですからな」
「そうだね。さあて、敵さんに思い知らせてやりましょうかね。どんなやつに喧嘩をふっかけたのか。まあ、ウオタメさんにも頑張ってもらうけどね」
「ええ!?一番最後に聞き捨てならんことを言わんでくださいよ」
「ようやくいつもの感じに戻ってこれたかな?」
ウオタメと翁は笑い合う。おそらく素の関係がこれなのだろう。
次の日の朝、オタゲー部のメンバー全員に通達が入った。
「オタゲー部クランリーダー代理の翁からのアナウンスです。4日後、怪魚とフクロウによる模擬戦が開催されます。観戦者は参加は任意ですので余裕があれば見にきてね」