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オタゲーマーに転生しました。 第十話

「……と言う訳で、さつきさんは4日後フクロウ氏と戦ってもらうことになったよ。え?どうやって戦うんだって?大丈夫さ!経験豊富なアドバイザーが基本操作は教えられるからね」

「せっかくゲーマーに転生したのだから、とりあえずゲームを楽しんでもいいんじゃないかな?」という翁の言葉を受け、平蔵たち4人が次の日もログインすると、翁による模擬戦の通達がちょうど聞こえてきたところであった。上のセリフは、会議室に状況を確認しにきた平蔵たちに、翁が戯けながらいった言葉である。

「いや、そんなことよりなんでうちが選ばれて戦うことになってるん?どうやって戦うのかも気にはなるけど、まずそこじゃない?」

 とさつきがいう。翁はニコニコしている。

「ほら、さつきさんの体の怪魚氏は結構フクロウ氏とよく遊んでいたっていうか、怪魚氏の研究室にフクロウ氏が入り浸っていたというか。まあそんな2人だから新開発の装備を試すために模擬戦してもおかしくないっていうか」

「……つまり?なんでフクロウさん?とうちが戦わなきゃいけないわけ?」

 翁の話はいまいち要領を得ない。なおも胡乱げな目を向けるさつきに翁は申し訳なさそうに言った。

「うちのクランはね、いつもの場合は指揮系統はしっかりしているんだけど各々が自由すぎるから、今君たちに起こっている事件を全員にどんな形であれ納得させなきゃいかんのよ。ましてや今はその事件によって指揮系統もぐちゃぐちゃだしね。他の人を混乱させたくないってのもある」

 要するに、平蔵たちの転生はごく一部のメンバーを除き隠しておきたいらしい。

「それで模擬戦って……もっとましな方法はなかったのか?例えば、さっきの全体通知を使って1から説明するとか」

 総士も難しい顔をしている。翁は首を横に振った。

「いや、それだと敵に勘づかれる可能性がある」

 転生者は首を傾げた。敵とは誰なのか。翁は何を警戒しているのか。

 少しの間があり、平蔵が質問した。

「……つまりどういう……?」

「これはまだ一部の人にしか言ってないんだけど、敵はこのゲーム内にいる確率が高い。だから迂闊に通信の技術は使えない。ウオタメさんはこのクランにしかいないけど、敵が通信を傍受する技術を持っていたらそこから敵に勘づかれるかもしれない。例えこっちがぼかして伝えようとね」

「「「……!?」」」

 翁の言葉に転生組は絶句した。

「……それが本当だったとして、そのゲーム内にいる敵と貴方殿との関係性がわからないな。なぜ相手の居所をを知っている?」

 総士が声を絞り出すようにいう。翁は苦笑した。

「とりあえず俺は敵じゃないよ。もし敵ならこんなことを言う理由はない。嘘をついているかどうかは……まあ今のところは信用してもらうしかないかな?」

「今のところ信用するどころか怪しさ満点なんですけど」

 さつきが呆れたようにいう。平蔵も同感だった。


『私のことを便利な通信機器のように言ってましたね。聞こえてましたよ翁氏』

 その時、突然一同の頭の中で声が響いた。転生組は驚いて固まっているが、翁はなんでもないかのように片耳を押さえて応えた。

「......ありゃ、聞かれちゃってたか。でも、盗み聞きは良くないんじゃないかな?」

『私のエクストラコードを知っておきながら、油断したのが運の尽きですね。ま、冗談ですけど。あ、転生組の皆さんは2回目ですかね?私はウオタメっていいます。よろしくお願いします〜』

 固まったままの4人に、声の主、ウオタメはのんびりとした口調で言った。翁には掛け合いをするように軽く話し掛けている。

『翁氏、“コード“についての説明しました?さつきさん達が何も言ってこないのを見る限り、まだしてなさそうですが』

「まだしてないよ。先に拠点を軽く案内してから、修練場で説明した方がスムーズかなと思ってさ。先にそっちから説明しようか?」

『いやまあそれでいいと思いますな。まだ模擬戦まで日数ありますし』

「よし!というわけで皆さんにまずは拠点を案内しよう」

 翁は元気よく言い、そのまま歩いて行く。

「うちはまだ全然納得いってないんですけど。だいたい、なんでうちだけ模擬戦?することになってるの?ほかの奴らにもやらせるとか、一緒に戦うとかあったでしょもっと」

 さつきが他の転生者を見ながらぶつぶつ呟いている。明らかに嫌そうな顔をしているのが平蔵にも見えた。

 そして、この間誠は一度も言葉を発さなかった。



 会議室から出ると、ギャラリーから1階に向かって階段が伸びているのが見える。そこを降りると平蔵達が最初に入った広い空間がある。テーブルがいくつかあるが、今は誰もいない。

「この建物は1階が談話室になっている。ここが一番情報が集まりやすいから、基本みんなここでログアウトするね。会議室の上階があって、司令室になってるよ」

 翁が説明する。平蔵にとっては、初めてこのゲームにログインした時に魑魅魍魎に囲まれた因縁の場所でもある。今はなんとも思ってない自分に対し、平蔵はつい苦笑が漏れた。

「うちらが最初に会った所だね。ていうか、まかちーさんといいここの人たち変わったアバターしてる人がいるよね。うちらの中にもなかなかの人がいるし」

 さつきが周りを見渡しながら言う。さつきの言うアバターとは、ゲームの世界での外見のことだろう。さつきのいう「なかなかの人」とは、もしかしたら自分のことだろうか。

 翁が「そろそろ次行こうか」といいながら歩き出したので、平蔵の思考はここで止まった。



 拠点を出ると、大きな木道が真っ直ぐ伸びている。総士は拠点の扉前でスポーンし、周りを見る余裕なく他3人と合流したため気づかなかったが、拠点以外にも施設はあるようだ。右奥にある体育館大のたてものが一際目を引き、それ以外にも様々な施設があるのが見える。そしてそれが少し細い木道で繋がっている。最早小さな街と呼べる拠点の様子を眺めながら、総士は考えていた。

(一つの少数のクランがこの程度の領地を持てるなら、この世界はかなり広いだろう、意識をゲームにダイブさせるという新しい技術で話題性もある。あまり広報等で話を聞かないのは、コアな層を狙っているということかな。なんにせよ、色々な考えを持つユーザーがくるだろう。翁さんの言ったゲーム内に敵がいるという話もあり得ない話では無い。)

 しかし翁は現時点でかなり怪しい。翁の態度はかなり協力的だし、こちらに情報を渡すメリットも見当たらない。しかしここは総士の知らないゲームの世界だ。相手側にしか分からないメリットが存在することだってあるだろう。翁のことは信用はできないが、生き抜くためにも従っておくほかはない。

「いい天気だねー!この辺りいつも湿っぽいのに、まるで案内しろって言われてるみたいだ。さあ次に行こうか」

 総士の考えなど知らず、翁が呑気な口調で話す。

(まだ情報が少ない、ここで誰かを疑うのも早計か……)

 平蔵達三人がついていくのに合わせて、総士もとりあえず翁の案内に従うことにした。



 翁の案内により総士達が辿り着いたのは石レンガ造りの三角屋根の建物であった。牧場のようなものが外に取り付けられている。ここだけ沼地と言うより、草原の川辺に建っていてもおかしくはない情景である。

「ここは研究所だよ。研究組の渾身の力作だ。特に地上生物用飼育施設──まあ俺らは『牧場』って言ってるんだけど──を作っていた時、めちゃくちゃ大変そうにしてたね。特にあの仕切りとか」

 翁の言う通り、施設内には仕切りがあり、それぞれの仕切りの中に入れた生物が暮らしやすいように環境が整備されているようだ。

「クランのみんなでこの動物達を食べたり乗ったりしてるよ」

 確かによく見ると、馬のような動物や牛のような魚のような生き物もいる。なんだかよくわからないふわふわした生き物もいるようだ。しかし。

「......小さくない?この動物達。本当に役に立つの?」

 さつきの言うように牧場の中の動物はかなり小さい。さつきの疑問に翁が答えた。

「それについては、また今度牧場に入る時に話すよ。......ってありゃ?鍵が開いてるな。誰か入ってるのかな?」

 翁が訝しみながらドアを開けると、

「うっす、翁さん。おめーらもな」

 ちょうど水槽を積み上げて持ったフクロウが通りかかるところだった。


「なんだフクロウ氏か、何してるんすか?」

 翁が不思議そうにいう。どうやらフクロウは別に示し合わせてここにいたわけでは無いようだ。

 それとは別に、めちゃくちゃさつきがフクロウの事を見ている。緑の瞳を細めてジト目でしっかりと見ている。差し詰め対戦相手の観察と言ったところだろうか。見るにしろもう少しあからさまに見ない方がいいだろうと総士は思う。

 フクロウは決まり悪そうに答えた。

「あのですねぇ、恥ずかしいことにぃ、こいつらの世話にこまってましてぇ......」

 フクロウは視線を下に落とす。視線の先には積み上げられた水槽がある。水槽の中身は、フクロウが運んでいる時には逆光で見えなかったが、緑の丸い......

 まさか、あれは。

 その瞬間総士は何も考えられなくなった。

「待ってくれ、彼らをどうするつもりだい?」

「このマリモンスターどうすっ......は?」

 フクロウはこちらを向いた。驚いているようだ。構わず総士は続ける。

「マリモンスターと言ったね。マリモと基本的な飼育方法は変わらないのかい?」

「い、いやまあそうだけど、こいつらの方が温度の変化に弱くて......」

「なるほど、少し気難しいんだね。わかった。僕が育てよう」

「あの、なんであんたが?記憶喪失で結構大変なんじゃ無いのか?」

 フクロウがかなり押されている。総士は何も考えていない。愛するマリモ。その生まれ変わりとも言うべき姿が目の前にあるのだ。

「構わない、彼らを助けることができるなら僕はなんでもするよ」

「......まぁ処分したかったわけじゃねえけど、そんなに言うなら......」

 そんなわけで、マリモンスター達は総士が世話をすることになった。


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