7話 エンカウント
壮絶な復讐劇を終えた翌日。
俺はこれまで希望の灯火が懇意にしていた宿屋を去る事にした。
帝国総銀行へ行き、3人を奴隷にして得た金とオークジェネラル討伐で得た報酬金を使って新しい装備品や日用品を少し新調し。
その他にも、色々と使った。
結局。
俺の手元に残されたソルテは、全て合わせて一千万ソルテ。
思ったよりも使ってしまったが、Cランクに昇格したばかりの冒険者としては多過ぎる位だろう。
これだけ有れば、出来る事は多い。
冒険者として未来への投資と考えればこの程度の出費から目を瞑むれる。
本来なら、低く見積もっても一千五百万ソルテが手元に残っていた筈だ。
だが、俺が殺した村人達の墓代などに使った。
これで少しでも罪滅ぼしになればと…まぁそんな事、あり得ないが。
冒険者としてやって行けば、いずれは取り返せる。
あの後、三人の末路をアルレッキーノから聞かされた。
アルトは物好きな貴族の奴隷として飼われる事が決まった。
何でもその貴族は、動物と人間の交配実験に非常に興味を持ち買った奴隷達を様々な動物と交尾させると言った悪趣味を持っているんだとか。
ロゼッタは、帝国の歓楽都市で最も有名な娼館に売られたその美しい容姿と身体が客に受け、日々過酷な奉仕生活を送る羽目になりそうなんだとか。
ラーズは…男色と言う噂のある大貴族の性奴隷として高額に取引されたらしい。
クズには、お似合いの末路じゃ無いか。
ロゼッタは、まだ他の2人よりもマシな末路だろう。
かの有名な歓楽都市最大の娼館で人気嬢になれるのは光栄な事だろう、皮肉にも冒険者としては大成出来ずとも最も嫌っていた娼婦で大成する事になりそうだ。
正直、自分がここまで冷酷になれるとは思わなかった。
あの4人は本当に仲間だと思っていた。だからこそ、裏切られた時はショックだったし、ここまで憤怒してしまったんだ。
だからこそ、俺はこれから堂々と生きて行かなければならない。
「ふぅー、なんか少し疲れたな。」
本当に疲れた。
真実を言えば、村人を実際に手に掛けたのはアルカポネ組の構成員達だ。
俺はただ、俺が殺したかのように演じただけに過ぎない…だが、その一連の物語を考えたのは紛れもない俺だ。
たとえ自らが手を下した訳ではなくとも、俺はこれから人殺しと後ろ指を刺され続けるだろう。
全て承知の上だ。
俺も何も感じない訳じゃ無い。
今だって、そんな事を考え続けている内に無法街の方に行き着いてしまっていた。
「やけに静かだな。」
いや、こんなものか。
ここは帝国一、治安の悪い都市だ。
犯罪者、麻薬取引、人攫い、人身売買などが日常茶飯事であり多くの暴力団組織がこの都市を拠点としている。
アルカポネ組も、ここに拠点を構えているのは言うまでもない。
基本的にこの都市に住まう奴等は深夜に活動する人間が多い。
昼間は、帝国と帝国騎士団や冒険者ギルドの監視の目が厳しいからだろう。
ここを拠点に活動するのも悪くはなさそうだ。
良くも悪くも、帝国内で名が広まった立場に居る以上…同業者や帝国騎士に襲われる事も不思議では無い。
仕方のない事だ、これも俺が世界最強になる為に必要な事だろう。
「いずれ、アリアが俺を殺しに来る事だってあり得るかもな。」
アリアは今頃、王国或いは聖皇国に辿り着いているだろうか。
アイツが俺に好意を持っている事も知っていた、それに応える事はなかった。
だが、こうして自分が窮地に追いやったアリアを少なからず心配しているという事は少しばかり俺も好意を抱いていたのだろう。
尤も、もう会う事は無いに越した事はないのだがな。
心残りがあるとすれば、彼女の好意に応えて俺の魔眼。
【色欲の魔眼】の効果を実感しておけば良かった。
男ならやっぱりハーレムを築かなきゃな、次に仲間を募集する時はなるべく女が良いな。
師匠も欲には忠実あれ!といつも言っていた。
一つ、問題があるとすれば…初めての相手が師匠だった所為か、俺は尻と胸がデカい歳上の女にしか興奮しなくなってしまった。
アリアは、歳上だったが胸と尻は平均より少し小さめだった。
って、なんの話をしてるんだろうか…
とっととこの辛気臭い場所から離れよう。
「まぁ、また一から始める事からかね。」
希望の灯火と言う冒険者パーティーは実質的に、解散と言って良いだろう。
そうなった原因は、間違いなく俺でもありアルト達でもあるがな。
まぁ今まで通りに希望の灯火を名乗ればある程度は知名度があると思うが…それは、あの4人が居たからこその話だ。
奴らは、間違いなく才能の原石だったさ。
奴らと和解して今後も活動を続ける事も出来ただろう。
だが、これまでの関係が元通りになる事は無いと断言出来る。
リーダーと副リーダーが同時に居なくなった時点で、解散は逃れられなかった。
今度は、俺がリーダーになれば良い。
そうすれば、メンバーの選別も全て俺が自由に行える…幸いにも、ランクアップで新たに得た魔眼の権能で個人の能力や人間性を得られる力を手に入れたからな。
今度は俺がリーダーとして、パーティーメンバーを募る事から始めよう。
今回の件で、俺の元にやって来る冒険者が居るかどうかは別の話だが…
もう少し強く俺がリーダーをやると言えばまた違った結末になったのかも知れない。
そうなれば今頃も、俺達は仲良く冒険者として夢の為に走り続けていたのだろうか。
彼等にも俺と似た野望があった。
最高の冒険者になってこの世界に自分達の名を刻みたい…その夢は美しいと思った。
アルトは人望も熱く俺と似た野心があった、だからこそ希望の灯火の勧誘を喜んで受け入れた。
暫くは、リーダーを任せても良いと思っていた。
だが失敗した。
もう失敗は繰り返さない。
2度と、あんな事をするのはゴメンだからな。
「やれやれ…厄介事ってやつはどうしてこうも続くのかね。」
この無法都市に入り込んでからずっと感じていた気配にそろそろ鬱陶しくなったので、対処することにした。
ほら、やっこさん達の登場でい。
「
物陰から5人の強面の男たちが姿を現す。
この辺りは確か、例のモレヴッチ家の汚物…カールマン・ファミリアの拠点が近くにあったな。
まさかこんなにも早く、エンカウントするとはな。
男達は下卑た目と笑みを浮かべながら各々が武器を抜いた。
「なんだ、お前ら。」
俺が敢えて彼らに質問すると、チンピラ達のリーダーと思われるロン毛男は俺の身体を舐め回す様にみながら嗤う。
「お前みたいな華奢な小娘が、こーんな危ない所を歩いては行けないよ〜?
ほら、兄さん達が出口まで案内してあげる。」
あー、コイツら俺の事を女と勘違いしてんのか?
まぁ確かに、初対面の人間なら必ず勘違いしてしまう程に俺は綺麗だからな。なんて、自分で言うなよ!
奴の言葉は間違いなく嘘だろう。たまに迷子になる女や子供をこうやって優しく寄り添って食い物にするのが奴等の手口の一つ。
こんな怪しい奴等に引っ掛かる訳ないだろうと思うだろうが、案外そうでも無い。
人は、不安や寂しさが限界に達した時…いかに怪しくともその言葉を信じてしまう。
奴らは、それを利用して己の性欲と金欲を満たす。
文字通り、クズ野郎だ。
「その汚い笑みを俺に向けるな。」
「ああん!?」
「ったく、こっちは生憎、虫の居所が悪い。俺の気が変わらない内に失せろ。」
「おいおい、俺達が誰だか分かって言ってるのか?俺達はモレヴッチ・ファミリアの大幹部にして次期当主カールマン・モレヴッチが率いるカールマン・ファミリアだぜ?」
「はっ、モレヴッチ家の『汚物』様が率いるチンピラ様方が偉そうに威張った所で大して脅しにもならんぜ?」
幸いにも、情報屋から仕入れていた情報の中にあったあの女は居ないみたいだな。
なら、余裕だな。
俺をか弱い女だと勘違いして舐め腐っている、腹立つな。
「死にてぇようだな。お前を痛めつけて、全員で輪姦した後で殺してやるよ。」
「ほら、かかってこいよ。」
おそらく、奴らはあの様子からして俺の事を知らない。
ならやりようは幾らでもある。
嫉妬の魔眼で苦しめても良いが…それじゃスッキリしないしな。
それに、コイツらに魔眼を使う価値もないか…
俺は舐め腐った目で男達を挑発する。
チンピラ共は、堪忍袋の尾が切れ闇雲に突撃して来る。
「馬鹿が。」
怒りで我を忘れれば行動は単調になる。
それに見た所、奴らは戦闘に関してはど素人らしい。
「ぐはっ!?」
俺は真っ先に突進して来た男の腕を掴み、思いっきり振り回す。
そしてそのまま、遅れて突撃してきたチンピラ共に向かってぶん投げる。
全速力で走って来た男達は回避しようとするが、間に合わず飛んできた男に巻き込まれて吹き飛んだ。
「がぁぁ…」
おいおい、コレで終わりかよ。
まぁ仕方ないか、コイツらは冒険者駆け出しレベルの強さだったし。
吹き飛ばされて瓦礫に埋もれた男達は、その衝撃に耐え切れずに意識を失い掛けている。
「さてと、どうすべきかーーっ!?」
俺が奴等をどう扱おうかと考えていると、ふと目の前に一人の女が立っていた。
音も気配もなく、最初からこの場に居たかのように。
妍しい顔立ちの中に、妖艶さと男らしさが入り混じり。
その瞳は、力強くそれでいて鋭い。
褐色の肌と異様に鍛え抜かれた筋肉に似つかない豊満な身体。
露出の激しいビキニアーマー。
巨大な大剣を背中に背負い、こちらを見据える。
俺はこの女の存在を知っていた。
モレヴッチ・ファミリアの当主がカールマンに与えるには過ぎたものの一つ。
それは、カールマンの実の母にして当主の実妹であり傑物と言われた若頭スカンレーナ・モレヴッチ。
そして、カールマンを守るべく当主によって送られた最強の護衛。
彼女の名は、ヒッポリュテ・アマゾネイヤ。カールマン組と敵対するにあたって最も警戒すべき人物にして…俺が最も欲する優秀な戦士。
職能はBランクの『狂戦士』に加え、珍しい女人族と言う種族としてのポテンシャルを合わせれば、その力はAランク相当と謳われる人物。
元々は、モレヴッチ組の当主コロンビーナに雇われた護衛だったがカールマン組が新たに立ち上がったと同時にカールマン組の用心棒として与えられた。
指定暴力団の間では、愚か者には宝の持ち腐れでは無いかと噂されている。
実際、俺もそう思っている。
何故、かの高貴なアマゾネスがあんな仁義の欠片もない屑に従っているのか疑問だった。
それにしても、まさかココで彼女と相対す事になるとはな…
「そこまでにして貰おうかフェル・アルゴメリア。」
「俺を知ってるのか?」
「ああ、アルカポネ組と同盟を結び、自分を裏切ったパーティーメンバーの故郷を焼き払い、メンバーを奴隷へと堕とした鬼畜。」
「流石だな。だからこそ惜しいな…」
「?」
「なぁアンタ、俺の仲間にならないか?」
俺の言葉に、彼女はぽかーんと口を開けて固まってしまう。
そりゃそうか、喧嘩を売られた相手から急にそんな事を言われたら俺だって何言ってるだコイツって思うさ。
だが、勧誘せずにはいられなかった…これはチャンスだ、彼女が俺の冒険者メンバーに加われば解散した希望の灯火メンバーの損失を大きく挽回できる。
「俺と来れば、アンタの望みだって叶える事が出来る。何て言ったってこの俺は世界最強の冒険者になる男だからな。」
「大した自信だな。見た所…アンタはアタイよりも弱い…」
「ああ、今はな?だが…俺は必ずアンタよりも強くなる。これは過信じゃない!確信さ!俺は世界最強になる男だ、どうだ?ヒッポリュテ・アマゾネイヤ、俺の仲間にならないか?」
俺は、彼女に向かってその手を伸ばす。
「面白い男だね、だが断るよ。アタイはカールマン組の用心棒さ。
それに、アタイには既に雇用主が居る諦めな。」
当然、そうなるな。
だが、俺は諦めない。
「お前はそれで満足か?かの女人族たるお前が、どうしてあの男の護衛を引き受けた?」
「アタイは、あの女に恩がある。アタイは、それを返しているに過ぎない。」
「それはいつまでだ?悪いが、アンタは利用されてる様にしか思えない。恩という言葉を人質にしてアンタを縛り続け死ぬまでコキ使われるだけにしか思えない。」
彼女の行動は、俺や冒険者達の耳にも入って来る。
これまでに何度も本家の危機を救ってきた、とっくに恩は返し切った筈だ。
それでも尚、何故彼女はモレヴッチ組に居座り続ける?
俺はそれが疑問で仕方ない。
「…」
「俺の元へ来いヒッポリュテ・アマゾネイヤ。お前が自分からその鎖を破れないのなら、この俺が破ってやろう。
俺の仲間になれ、そうすればアンタの願い或いは野望を叶えてやる。」
「……」
「まぁ良い、気が向いたらCランク専用の酒場『猛き希望達』か俺が拠点にしている宿『癒しの泉』を訪ねてみてくれ。いつでも歓迎するぜ。
良い返事を待ってるぜ。」
彼女は何も言わず、地面に倒れる組員を担いで消えて行った。
スカウトは失敗という風に考える事は早計だな。
あの反応を見るに、彼女は何処か迷っていたみたいだ…一体、何に迷っているかはわからない。
が、あの女は必ずコチラに引き込んでやるさ…俺の野望の為にな。
想定していたよりも早く、カールマン組と事を構える事になりそうだな。
そうなれば、俺もたった一人と言うわけには行かない。
仲間を集う。
その動機や信念はどうでも良い、必要なのは最強への野心と覚悟。
希望の灯火は、生まれ変わる。
皇帝は俺だ。
野望を叶える為に必要とあらば神にさえ喧嘩を売れる覚悟がある奴らを集う。
そして喰らって、喰らい続けて、誰よりも最強になる。
ああ、見える。
この俺が、全ての頂点に立つ姿が。




