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3話 裏切り

「アリア!しっかりしろ!」

「アリア!」

「……」


次の日の依頼。

どうやら俺の嫌な予感は最悪の形で的中してしまったらしい。

俺達は現在、Dランク最後の依頼内容である帝都の外れにある廃坑に発生したレベルⅣの大穴ダンジョン内でピンチに陥っていた。


最初までは何事もなく、いつも通りに周りの雑魚から次々と片付けていた。

問題と言えば、ラーズが昨日の酒がまだ残っていて集中力を欠いている所と他のメンバーもまた少し落ち着かない様子だった。

ランクアップ目前にしての、興奮と緊張から来るものだろう。

俺は、これまでにない危機感を持ってこの依頼に臨んでいた。


今回のボスは、【上位魔将】デッドワイバーン。

Cランクアップ目前の冒険者達の死亡率が最も多い事から、死を呼ぶ竜と呼ばれ恐れられている。

これまで戦って来たボスの中でも群を抜いて強いだろう、今の俺達でもほんの少しのミスで全滅も有り得る。


だからこそ、俺は本当にこの状況を危惧していた。

アルトに依頼は次の日に延期しようと伝えたが、アルトはこれまでの連続の依頼成功率に完全に正常な判断を失っている状態だった。

魔眼の力を使って、洗脳し依頼を引き伸ばす手も使えたが流石に良心が痛むので渋々受け入れた。


ただもう引き返す事は出来ない、大穴ダンジョンは入るのは自由だが、引き返す事は出来ないのだ。

ただ、魔導具を使用すれば大穴ダンジョンから脱出する事は可能。

生憎、俺達はそんな値段が嵩張る魔導具を全員分買うほど金を持っている訳でもないし、将来の事を考えれば無駄遣いは避けるべきだ。


つまり、俺達はもう大穴ダンジョンの主であるデッドワイバーンを殺すしか方法はないのだ。

そんな不安の中始まったボスとの戦闘で悲劇は起きた。

いつものように短期決戦を行う為に、戦士ラーズと剣士アルトによる一撃必殺を喰らわせる為に行動を開始した時だった…アルトの動きは完璧だった。

しかし、ラーズは昨日の酒が残っていた所為なのだろう普段と比べて動きが悪く攻撃のタイミングがズレてしまった。

ラーズは、すぐさま追撃をかまそうと動き出すがソレを許す程かのデッドワイバーンは甘くはなかった。

強靭な尻尾がラーズに向かって振り下ろされる。


「危ない!」


その刹那ーー恐怖で動けなくなったラーズを庇ったアリアが尻尾の攻撃の餌食となってしまった。

デッドワイバーンにはデバフが、アリアには俺のバフが掛かっているのにも関わらずその一撃はあまりにも強力で…アリアは血飛沫を上げてその華奢な身体は勢い良く吹き飛ばされてしまった。


「アリア!!?」


俺達は、恐怖と動揺で動けなくなったラーズを無理矢理引っ張ってデッドワイバーンから距離を取り、大きな瓦礫の裏に身を隠す。

俺はすぐに、アリアの状態を確認する。

脈はある…だけど、腹部をざっくり切られている…これは、早く回復しないと不味いぞ。

俺は、予め持っていたポーションをアリアに飲ませる。

顔色は良くなったが、応急処置に過ぎない…


「そ、そんな…お、俺の所為で…」


ラーズは、想い人のアリアを傷付けてしまった事実を受け入れる事が出来ずに放心状態だった。

アルトやロゼッタもまた、顔を青ざめ酷く動揺している。

まずいな…こんな状態の3人が居た所で勝率は低い…ヒーラーであるアリアを落とされたのが痛手だった。


だが、ロゼッタ・ラーズ・アルトによる最大火力の攻撃だったら倒せる可能性はある…俺にも、切り札があるが…もしダメだった時に足手纏いが増えるだけだ。

でも、今のアイツらは役に立たない…ここまでが順調過ぎたのだ…だから、慢心してしまった…油断してしまった。

些細な、油断や慢心が死を招く…師匠の教えが現実の物になってしまうとはな…


「アルト、まだ策はある。俺とお前とラーズとロゼッタの四人ならまだ…勝機はある。」

「無理よ…あんな化け物に勝てる訳ないじゃない…」

「だから逃げるのか?どっちにしろ、ボスを殺さずに大穴ダンジョンから出るのは不可能だ。」

「アリアが…俺の所為で、、、アリアが、、、」

「チッ!」


この2人は使い物にならない…完全に戦意喪失してやがる。

こうグダグダしている間に、デッドワイバーンがコチラに迫って来ている…どうする?

俺とアルトで戦うしかないか?いや、あまりにも現実的では無い…ここで、奥の手を使うか?

て言うか、アルトはさっきから何故黙っている?


「そうだ…もう、それしか方法がない…」

「アルト?」


アルトの様子がおかしい。

その表情は苦悶に苛まれている、罪悪感か?後悔か?その念を測り切る事は出来ない。

だが生憎、そんな事を黙って見ている時間の余裕も心の余裕もない。


「おい、アルト!リーダーだろ!?早く決断しろ!」


今は、お前がリーダーなんだ…ならせめて、その責務を全うしろ。

この依頼を終えたら、少し今後を考えなければいけないな…アルトは、ようやく決心がついたのか立ち上がる。


「ああ、決めたよ。」

「よしならーー「フェル、すまない。」


俺は一瞬ーーアルトが何をしたのか理解出来なかった。

ただ分かったのは、俺の背には無慈悲に振り下ろされた斬撃によって血飛沫を上げて地に倒れ伏した事だけだった。


「なっ…ア、アルト…?」


何が起こったのか理解出来ず、背中に襲い掛かる激しい痛みに苦しみながらアルトを見上げる。


「すまない…こうするしか、僕達が助かる方法を思い浮かばなかった…」

「お、おいアルト?」

「アル?何してるの!?」


流石に、ロゼッタとラーズもアルトの予想外の行動に思わず驚愕の声を洩らす。

そんな彼等を尻目にアルトは続ける。


「これが最善の方法なんだ!僕は君達を殺すようなマネは出来ない…君達は僕の家族だ…フェルはそう、仲間だ。家族と仲間…天秤に掛ければどちらが傾くかわかりきっている!」


ナニヲイッテイルンダ?

俺は、アルトの言っている事そしてこれから行おうとしている事が簡単に予想できてしまった。

アルトが懐から取り出したのは、綺麗な蒼い結晶…な!?


「そ、れは…転移結晶!?」


コイツ、持っていたのか?


「コレが有れば僕達だけはこの大穴ダンジョンから逃げられる。冒険者学校の卒業生に一つずつ与えられる魔導具…こんなにも早く使う事になるとは思わなかったけど、やむおえない。」


嘘、だろ?

本気なのか…冒険者のタブーの中に、冒険者パーティー内の裏切り行為は重罪なんだぞ?

ああ、いや違うか…ここが大穴ダンジョンだからか、ここなら証拠は残らない…メンバーはボスに敗れて死亡したと報告すればバレない。


ラーズとロゼッタも、同じように転移結晶を取り出した。

もはや、腹は決まっているらしい。


「すまねぇなフェル。テメェには悪いがこれも『希望の灯火』の為だ。」

「ご、ごめん…そういう事だから、許してね?」

「ふざ、けるなっーーがはっ!?」


俺が、怒号を飛ばそうとした瞬間ーーラーズの蹴りが俺の腹部に突き刺さる。

凄まじい衝撃に俺の身体は、宙を舞いデッドドラゴンの目の前に放り出される。


「そう言う訳だ…君と居た半年は忘れないよ。アリアには上手く説明しておくから君は安心してボスの囮になって欲しい。」


これまで、完璧な優男だったアルトの顔は崩れ醜い屑野郎としての一面が満を辞して姿を現した。

師匠の言葉を思い出した、『冒険者ってのは、死に瀕した時初めてその中に眠る本性が姿を現すのだ。』と。

少し舐めていた…

コイツらの事は、曲がりなりにも仲間だと思っていた…ある程度の信頼関係は築いていたと思っていた。


だが、コイツの行動も理解できる。

俺も同じ状況なら、たかが半年冒険者として過ごして来た仲間よりも生まれた時から一緒だった家族の方が大切なのは理解できるからこそ、腹が立った。

こんなにも、"憤り"を感じたのは師匠を失った日以来だな。


「さよならだ、永遠に…他の冒険者には君は誇り高く死んでいったと伝えておくよ。」


その言葉を残して、4人は転移結晶で姿を消した。


ーー


俺はたった独り、絶望の中で残された。


目の前には、今にも獲物を喰らわんとその歩みを進めるデッドワイバーン。

満身創痍の状態で横たわる俺を、ただの餌と認識して無警戒に近付いて来る。

要するに、コイツも仲間に裏切られた俺を見て嘲笑っているんだ。

アイツらもまた、仲間を裏切って生き延びた事を喜び祝杯でも揚げているのだろう。

そして、俺の死亡報告を聞いて所詮は魔眼使い…運が良かっただけなんだよと、嘲笑うのだろう。


ああ、気に入らない…


この身体が壊れてしまいそうな程の、"憤怒"の感情が俺の中で暴れ回っている。

こんな事なら、最初から一人で冒険者を始めて…本当に信頼を置ける仲間を集めるべきだったか?

いや、それだけでは足りない…俺を"皇帝"として信奉し心の底から服従させてこそ、信頼に値すべき仲間と呼べるだろう。


もうしくじらない…そして、リスクがどうとか言って出し惜しみもしない…たかが、【咎人】。たかが【魔眼使い】として侮ったカス共を…跪かせてやる。

誰もが、最強最悪の冒険者はフェル・アルゴメリアだと理解させる為に…俺は、俺の力だけで世界最強の冒険師団(ギルド)を創り、その皇帝として君臨してやる。


まずは、その第一歩としてあの気に入らない蜥蜴をぶっ殺してやるよ。


俺は、魔眼を起動する。

ゆっくりと、猛き怒りの焔に染まった魔眼が姿を現す。

【憤怒の魔眼】:己の身体損傷と憤怒の情が50%を上回った時に発動可能となる魔眼。


「ーー『過剰摂取(オーバードーズ)


憤怒の魔眼の権能ーー『過剰摂取(オーバードーズ)』:俺が持つ自己強化スキルの一つ。

薬物注入(ドーピング)の上位互換で、人体の許容量を超えた魔力を全身に巡らせる事で全ての能力を何十倍にも活性化させる力だ。

デメリットとして、これを使った後は凄まじい倦怠感と激痛に苛まれる。


これが、俺が持つ最強の切り札。


勝負は一瞬ーー効果が切れる数十秒の間にケリを付ける。


ああ、身体が熱い…まるで100度を超える焔の中に裸で放り込まれているような感覚が全身に疾る。

そして、力が漲る…これまでの怪我が嘘だったかのように何も感じない。


さぁ、やろうぜ。


するとフェルの姿がデッドワイバーンの前から消えた。

そして次の瞬間、デッドワイバーンの身体に激しい痛みが迸る。その原因となっのは先程まで餌だと思い見下していた美しい顔をした子供が、己の心の臓を2本の剣で穿っていた。


彼はすぐさま、迎撃の為に強靭な爪を振り下ろすがもうそこに子供は居なかった。

刹那ーー彼は、巨大な口からドス黒い血を滝のように流す。

歴戦の猛者たるワイバーンは理解した、あの武器には強烈な毒が仕込まれていたのだと…竜には並大抵の毒には耐性が付いている、しかし同じ竜の名を冠する者の毒は例外だ…


しかも、この毒は竜をも一瞬で殺し去る猛毒を超えた猛毒…あの忌々しきヒュドラの毒だ。

心の臓を穿たれ、全てを殺し得る毒を受けたこの命はあと数秒も満たずに尽きるだろう。


故に、デッドワイバーンは目の前に立ち塞がる子供を己の仇敵と認めて最期の戦いへと望む。

美しい顔を悪魔の様に歪めた少年がククリナイフを構える。

デッドワイバーンもまた、目の前の敵を見据えて強靭な尾を漆黒の刃へ変え構える。


ポツリと、小石が落ちる。


刹那ーーほぼ同時に、互いが大きく地面を踏み込んだ。


そして、二つの影が交差し互いの位置が入れ替わり共に動きを止める。


しばしの沈黙の後ーー数々の冒険者を死の海に沈めて来た最恐の黒竜は大量の血を滝のように吐き出しながら誇り高くその場に倒れ息絶える。


フェルもまた、その美しい顔の半分を強靭な漆黒の刃を受け鮮血を流していた。


勝敗は決した。


宿主を失った大穴ダンジョンは、崩れていく。


命を賭けた殺し合いに勝利した少年は、ただ吠える。


勝利に歓喜してか、或いは、裏切られた事への憤怒か。


ただただ吠える。


ただただ嗤う。


そして、すべての力を使い果たし倒れゆく中で最後に呟いた。


ーー次は、お前達だと。

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