8話
「すぷーん」
「ちがう。これはナイフだ」
「ないふ」
「そうだ。ナイフ」
「そう。これはないふ。これ?」
「きのこ」
「きのこ、きのこ」と連呼し無邪気に喜びきのこをグサリとナイフに突き刺して齧る。まるで本当に子供のようだ。彼女は機械であることを忘れてしまう。
「はるき」
つぎは俺を指さしてそう言った。
「そうだ。よく知ってるな」
「はるき、はるき。しってる」
また連呼してにっこり微笑んだ。
本当にこいつは機械か?そんな疑問が生じた。彼女の瞳をじっくり見つめるとその奥で何か様々なパーツが動いているのが見えた。恐らく手に持ったキノコにレンズの焦点を合わせているのだろう。
「お前は何なんだ?」
返答無し。きのこに夢中になってる。改めて彼女を指さして質問する。
「おまえはなに?」
彼女はきょろきょろと辺りを見回し自分に指先が向いているのに気が付くと触覚がぴくっと動いて彼女は返事をした。
「ひと」
おれは返事に詰まった。それは明らかに間違った答えだ。しかしそれを訂正する気にはなれなかった。人の外見を真似て、人の生活を真似て、人の言葉を真似て。恐らく人になろうとしている彼女にそれは言えなかった。
「ちがう、なまえ」
話題を逸らす。彼女はぽかんとしてる。
「おれ、なまえ、はるき。おまえ、なまえ?」
彼女は固まった。最近気づいたのだがこうやって彼女たちが固まってしまうのは考え事をする時らしい。パソコンで重い処理をしているように情報の処理に集中して動きを止めてしまう。
「しって、ない」
触覚をうなだれさせて悲しそうな顔でそう答えた。残念がることもできるのかと若干驚いた。
「じゃあ『キリ』おまえのなまえ『キリ』」
「きり!おれ、きり」
「ちがう、わたしキリ」
薄々気づいていたが彼女、キリは俺の言った単語の中でしか話さない。違う恐らく話せない。俺と話している内に学習して会話している。彼女がもとから知っていた言葉は「ふぉーく」「はるき」そして「ひと」だけだ。
目の前で「わたし、きり、きり」と繰り返す彼女は明らかに他の少女たちとは違う。明確な目的に沿って造られている。人とのコミュニケーションに特化している。これを造った人物は人との交流を目的にキリを造ったのだ。それでも疑問は残る彼女は何故言葉を知らない?もし人と交流が目的なら事前に言葉を覚えさせておくべきだ。まるで彼女たちの創造主も人間を知らないよう……
考えごとをしていると向かいに座ったキリの様子がおかしいことに気づいた。変なにおいがする。なにか焦げ臭い。
「うううう……」
苦しそうにうめくキリの頭から……煙が出てる。もくもくと白い煙が立ち昇る。
「おい!大丈夫か!あっつ!?」
机に突っ伏して、目を回す彼女に触ると。燃えるように熱かった。
「あつ……あつ……」
「おい誰か!」
俺の助けを聞いてか知らないが、メイド服を着たいつもの少女たち四人、列をなしてやってきた。一人が何かキリの首に鍵のような器具を刺す。キリはぐったりと動かなくなる。二人目が消火器のような道具で消火。キリに消火剤をぶっかける。三人目が運び役。消火剤で真っ白になったキリを肩に担ぐ。三人はくるりと方向転換して風のように去っていった。そして四人目は俺の背後に回ると腰辺りを押して庭園の外に追い出した。完璧な連携プレー。
「いや、なんだったんだ今の」
俺は締め出された扉の前でぼやいた。
キリの絵を描いていましたが、なんか可愛くない。という理由で現在手直し中です。楽しみにしていた皆さん申し訳ありません。後々追加します。謝罪致します。原因はアルコールを飲んで描いていたことだと思われます。皆さんも大人になったときはアルコールの飲みすぎ注意です。私はたくさんお酒で失敗しました。しかし思えばそれもいい思い出だったと思います。看板に抱き着いたり、電車のホームで吐いたり、路上で吐いたり、友達の家で吐いたり、急性アルコール中毒でひっくり返ったり、いい思い出ですが他人に迷惑をかけてしまいます。飲酒はほどほどに。