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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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パタつかせてぶらりんこ

短めですいません

 


 少なくとも俺こと水鳥(みずとり) (そら)は頭の悪い男ではなかったと思う。



 無論、優れた頭脳を持っているという訳でもなく、至って平凡であり、平均的などこにでもいる人と同じ思考を持って生きてきたというくらいの自負を持っていた。



「…………」



 酷く重たい頭と胸焼けにも似た気持ち悪さのダブルパンチの中で澄み渡る空から登る朝日を睨み付ける。登るの早ぇよ、と言わんばかりに。


逆恨みと解っていても恨まずにはいられない。あまりのストレスでふわふわの羽毛が抜けそうだ。


 寝不足の危険性を確認した昨日に続いて睡眠を削る阿呆な俺、身体中からクレームが酷い。ごめんよ、本当にごめんよ。でもこのくらいなら前世では余裕で……はい、今は無理です。


 なんならこれから本気の二度寝に洒落込む事も考える俺へと近付く足音。昨日よりはマシな思考をしている俺は音の主へと振り返る。



「あ、ソラ様。おはようございます。その……昨夜も遅かったのですか? もし良ければ、その……」


 柔らかな朝日を受けて煌めきで返す白銀の翼と濡れ羽色の長髪を揺らすクリムがそこにいた。こうして改めて見ると見紛う事なき美少女天使だ。


 確かに彼女は俺のストライクゾーンに豪速球を投げ込む強肩のピッチャーだろう。実直なまでの外見(ストレート)に、よく言えばお淑やかな内面(チェンジアップ)だなんて俺という凡才バッターは空振り三振だろう。


 ……うん、やっぱり寝不足だ。自分で思考が纏まってない気がする。


「……ソラ様?」


「あぁ、おはよ。他のみんなは……朝飯か」


 離れた場所でみんなワイワイムシャムシャしているのが見えた。よかった、芋虫のキィルもキチンと食事に混ぜて貰っているようだ。勿論、食べられる側ではなく。



「ソラ様もお食べになりますか? それなら私が――」


「あぁ、いいや。ちょっと寝直すから」


「そう、ですか……」



 本当は俺も朝飯を食べるべきなんだろうけど、いかんせん眠い。食欲より睡眠欲を優先してしまおう。


 そのままごろりと朝日に背を向けて寝転んで目をつむる俺だが、クリムから動く気配はない。微動だにしない訳でもない、傍らに座るような気配を感じる。



「……なに?」


「あの、もしよければ昨日のように私の膝をお使い頂ければ、と……」



 あぁ、そういう事か。確かにクリムの膝枕は恥ずかしさを除けば至高の枕になるだろう。なるんだろうけど……



「いいよ。あっちでご飯食べてきたら? じゃ、そういう事でもう少し寝るわ……」


「え……?」



 それだけ告げて、俺は睡魔に身を任せる。気が付けば無くなる朝靄のような睡魔を探して、身を任せる。


 努めて寝息に近い呼吸を繰り返す内に、失礼しますとクリムが離れていった。自分から言っておいて胸が痛むとか、本当に阿呆なペンギンだと思う。



 でも、これでいいんだ。



 無理やりに何かを押さえ込み、俺はきつく目を閉じた。



 ◇ ◇



 ぎゅむぼふ。



 いつの間にか眠りに付いていた俺は、そんな音と共に身体を襲う圧迫感に目を覚ました。


「ソラー。あさだよー」


「キシャー」


 間延びした声と共に襲いかかる、ふわふわとした質感、むにむにとした質感。前者がよく知る羽毛布団ならば、後者は温かい水風船か。出来れば左右ではなく、上下で楽しみたいものだ。



「うーん、あと少しだけ」


「だめっ、ソラおきるの!!」


「キシャー」



 ふわふわもちもちと俺を揺さぶれども、むしろ心地良くさえある感触だ。諦めて一緒に快眠に身をゆだねてはくれないだろうか。



「うん? キィル、なにしてるの?」


「シャー……」



 ふふ、そうやって俺の気を引いて起こそうという算段だな? なかなか考えるじゃないかジョニー。でも、まだ甘いな。そんなにころころと転がしても俺は諦めたりなんか……うん?



「おい、いもむ……キィル。これはなんだ?」


 流石に目を開けて状況を確認すると俺の真っ白わたふわボディが、糸でぐるぐる巻きにされていた。



「あ、ソラおきた。おはよう」


「シャー?」


「あぁ、おはようジョニー。それで、これはどういう事だ?」



 キィルが頭を上げると、口から垂れ流しの糸に絡まる俺もぶらりんこ。くるくると回されながらも問わずにはいられない。そういえば糸吐きながら喋られるんだな。



「キシャー。シャー」


「……あぁ、うん」



 成る程、わからん。


 イボイボ手を振り、頭を振り、何かを伝えようとしたところで俺の身体が振り子のように揺れるだけ。なんだよこのシュールな絵面。


「ソラ。キィルはなんていってるの?」


 未だに俺が芋虫語を理解していると疑わないジョニーから綺麗な眼差しを受けて、俺は次第に振り幅が大きくなる恐怖のなかで考える。



「シャーシャー」


「キィルは……遊びたいんだってよ」



 さぁ、判定や如何に!?



「シャー!!」



 ぷつん。外れらしい、残念だ。



 何かが切れた音と共に、俺の身体は宙に舞った。


 受け身? 取れるわけねぇよ。




今年もあと少しで仕事が荒れてきた…!!


そういえば来年の干支は酉なので何かしたいですね。


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