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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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パタつかせて成長

 


 芋虫から蓑虫にされるという珍事に見舞われたが、怪我もなく無事に本日も修行を始める事に――



「ソラよ。何時までも走って避けてばかりでは飽きたじゃろう」


 伸びた髭の先をしゃりしゃりとさすりながら、あまりに唐突な言葉を投げかけてきたジョルト師匠に、俺は驚きを禁じ得なかった。



 飽きる程やらせていた自覚があったのか、と。



 ひいこら言って走る弟子へと枝を投げつけて楽しんでいるだけではなかったのか……というのは冗談だけど、そう思われても不思議ではない程にキツい扱きだったのだ。


 新たにクリムやキィルを加えて賑やかになったギャラリーのなか、それをよく知るメアリーが驚きに目を剥いているのが見えた。



「本当に走らなくて、いいんですか?」


「走りたいか?」



 問い返されれば秒を置かずして答えが口から飛び出す。いやです、と。


 言葉が飛び出てからクチバシを閉じても時既に遅し、走り込みの意味も効果も理解して納得しているのだが、身体は正直だった。


 そんな俺の言葉を、ジョルト師匠はどう思ったのだろう。そんなに嫌かと苦笑混じりに呟きを零す。怒っていないのが救いか。


「ふふっ、そう慌てふためくでないわ。ソラよ、万事を受け入れる不動の心もまた、我が流派の要よ」


「……賜りました」


 なんだ。今日の師匠はなんだか凄く師匠っぽいぞ? 飯時には酒をかっ食らい、修行時には弟子を苛め抜く鬼爺なのに、それもまた師匠らしいといえばそうなのだが……


 いや、もしかしたら昨日の夜辺りに今の要とやらを思い付き、言いたかったのかも知れないな。可愛い爺様だ。



「それでは師匠、本日はどのような修行を――」



 言われたばかりなのに落ち着くことを覚えない心のまま、しかしというかやはり、その言葉はジョルト師匠の手に制される。


 くっ、完全に手玉に取られているではないか。これではまるで餌を強請(ねだ)る犬同然、仕事を強請る社畜同然ではないか。え? 俺ってばこのペン生においても調教されちゃうの?



「内容を切り出す前に……ジョニー、メアリー」


「なに、じゃなくって、はいっ!!」


「……はい」



 恐ろしい事実にわなわなと軽い恐慌状態に陥る俺を軽くスルーして、ジョルト師匠は兄姉であり弟妹弟子のふたりを呼び出した。末っ子ではあるが、ふたりの兄弟子として直ぐに姿勢を正して心を落ち着ける。


 ジョルト師匠へと向かい合うように横一列に並ぶ俺達。毎日顔は合わせているが、こうして並んで見るとふたりの成長がよく判る。勿論、まだふたりともひよこなのだけれど。


 メアリーは翼と尾が少し長くなり、恐らくこの丸っこい身体がこれからスマートに成長していく事を容易に想像させる。羽の色も黄色が抜けていき、乳白色に近い。もしかしたらもうそろそろ飛べるんじゃないか、羨ましい限りである。まぁ、俺は滑空という意味なら一番乗りなんだけどな。


 そんなメアリーだが、何だかまた元気がなさそうにも見える。アンニュイに見せるポーズなだけという可能性のコイツの事だから捨てきれないが……とりあえず訊くだけ訊くか。家族だもんな。



「おいメアリー。お前なんか、大丈夫か。なんかあったか?」


 自分で言っておいて、訊き方よと心中でツッコミを入れた。


 家族とはいえ、もう少し上手く訊けんもんかね? 自身に問いかけるが、返ってくる(ことば)は、これだ。



 そんな器用さと機転があれば少なくとも彼女のひとりでもいただろう?、と。


是非も無し。



「なぁ、ソラ。一応、私にも色々思うところはあるが大丈夫だ。と言いたかったが、今この一瞬でキミこそ大丈夫か? と問いたくなる顔をしているぞ? 特に目が死んでるが……」


「……お気遣い、ありがとよ」



 なぜか逆に心配された。まったく涙が出そうだぜ。そうか、死んだ魚アイになってるか。



「メア、ソラ。おじぃ、まってるよ?」



 頭の上から振ってくる、とは言い過ぎだが、俺達の頭よりも高い所からその声が聞こえて俺は視線を斜め上へと向ける。


 メアリーの成長も()ることながら、それでもこれはどうなのかと思わされるのがジョニーだ。


 メアリーと違い、少し赤みを帯びた黄色の羽に包まれたひよこのフォルムはそのままに、しかし明らかにその身体は大きさを増し、日に日に大きくなっている錯覚すらある。


 なんと身長は既にジョルト師匠を越えてしまっている。ちなみに俺の身長でもジョルト師匠の首元辺りだ、師匠と出会った当初では鳩尾辺りだった気がする。つまり、変わらんな。


 しかし、ジョニーの恐ろしいところは身体の大きさと比例したとして尚、太く見える両足にある。突進ばかりしている為か、そこに秘められたらパワーは計り知れない。というかこんな巨体で飛べるのだろうか、まぁママ鳥があれだから何も心配ないか。



「……ソラ、どうしたの?」


「いや、ジョニーはでっかくなったなぁって」


「うむ。私も日々思うところだな。同じひよこでもここまで違いが出る辺りは流石ファンタジーだと言ったところか」



 ひよこに混ざってペンギンいるからな。そりゃファンタジーでしかないわな。


 ジョニーやメアリーほどではないが、俺の身体も大きくなって……あれ?



「なぁ、メアリーさんや」


「どうしたんだい、ソラさんや」


「俺の身体、成長してる?」



 多少大きくなってるけど、そういえば身体の一部が大きくなったりしてないよな。


 問いかけに応じるようにメアリーの視線が俺の身体をじっくりと眺める。両手をパタパタと振りながら、よく見ろとアピールし、なんなら触ってもいいんだぞともふもふさせる。


「これは……」


「どうだ?」



注目の鑑定結果は……?



「お腹の辺りのふわっふわっさが上がってるようだ。肩の筋肉も多少ついたんじゃないか? しかしやはり特筆すべきは触り心地だな、あんなに翼を酷使して良くこのコンディションを保てると思うよ、本当に」


 …………ふわっふわっさ、て。


 まぁ、あれだ。



 やったぞ。かた の きんにく が ふえたぞ!!



「そろそろいいかのぅ?」



 あっ、はい。お待たせしました。


 久しぶりの姉弟トークを生暖かい目で見守ってくれたジョルト師匠に向き直って、俺達は今度こそ修行内容を待つ。




「では、これより。模擬戦を行う」



 ジョルト師匠の言葉は決して予想外ではないにしろ。言葉を失わせるに充分だった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


改めて成長した様子を書かせて貰いました。同時にソラ、メアリー、ジョニーの三兄弟久しぶりの会話回、思いの外楽しく書けてどこまでも続かせたかったというのは秘密。


今年もあと少し……PS4買いたい。

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