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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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パタつかせて猛省

ストック二本目!!

 

 教訓。


 人にされて嫌な事は、人にしない。



「いやはや、本当。ガチ泣きとかないわー。本当ないわー」



 あれからどれだけ時間が経っただろうか。恐らく深夜帯だろう。少なくとも、ペンギンになってから今夜が今までで一番遅くまで起きている自信がある。無駄な自信だが。



 まぁ、不貞寝して寝過ぎたから眠れないというだけだ。



 別に師匠と慕う人から、心底気持ち悪い反吐が出ると言わんばかりの目を向けられたのがショックすぎて、泣いて……悶々としてるせいじゃない。決してそんなことはない。ないんだけど……



「師匠の阿呆。ついでに俺の阿呆」



 少し前に似たような事をママ鳥にした俺だが、まさか同じくらいのダメージを負ってないだろうか。というのが先の教訓である。



 こんな時は、がぶがぶとミルキーワームと噛み締めるに限る。え? やけ食いじゃないし、晩飯だし。誰に言ってんだが、情緒不安定だな。ちくせう。



 しかし、まさか転生者が世に知れ渡ってる世界だったとはな。筋肉神め、そんな事言ってなかった……言ってなかったか? 言ってないよな。先客(メアリー)がいるのは言ってたし可能性は十二分にあったか。


「あ、あの……」


 でも、ジョルト師匠があんな顔をするくらいだ。転生者ってのは、この世界じゃどんな存在なんだろうか。でもなー、ジョルト師匠に訊くにも訊けないし。



「す、すいません。ソラ様――」



 でもママ鳥は知ってるっぽかったし。知ってて変わらず接してくれてる節があったんだよな。それなのに俺は……



「あ、あのっ!!」


「どうしようもない馬鹿が……!!」


「も、申し訳ありません!?」


「うぉい!?」



 誰だ!? 天使か!? なんだ、天使かよ。違うよ、コミュ障(メアリー)か。違うな、コミュ障(クリム)さんだったよ。びっくりした。人に羽根生えてるから天使かと思ったよ。うん?天使か。そっか。



「ど、どうしようもない馬鹿なのは従順承知なのですが……そ、その……」


「あぁ、いや。それは俺の事なんだけ……なんですけど、どうかしましたか?」



 切り替えろ、俺。お仕事(めんどう)の時間だぞ。よし、オッケー。前世の社畜は伊達じゃない。26時間逝けます。むしろ助かりま――



 もにょごにょ。



「何か食べるものを頂ければ……」



 つまり、お腹が空いて眠れなかった。と……もにょごにょ長ぇよ。


 ここでミルキーワーム(ミミズ)を出すと、驚くか、気絶するか、泣くか。どれかだろう。うん、(ろく)な事にならんな。


 さて、どうしようか。果実がまだ残ってたか。それすら食べるか分からん人かも知れないんだが……うーん。



「……何でもいいですか?」


「は、はい。さ、最悪まともに食べられる物じゃなくても大丈夫です。いけます……!!」


痩せこけた両腕でファイティングポーズをとられても怖いわ。食べられる物じゃないのは普通に食べられないだろ。なんなのこの人。地べたに座った事ない野宿未経験者でこのハングリー精神なんなん?



「え、えっと……この巣なんですけど、あぁ、いや……巣は食べられない、いや、食べちゃ駄目ですけど……」


「え、と……?」



 百聞は一見に如かず、か。最近はすっかりめっきりやらなくなったけど。どうなるか……やってみるか。


 せーの。



 夜天に届け!! 我がクチバシ!!



 からのぉ一気に巣にズドン!!



 (いで)よ!! なにか!!




 ソラ は ネジ を ほりだした !!



「……こういうことです」


「……これは、食べても?」


「駄目だよ、馬鹿か?見てわかるだろ」


「ひ、ひどい……」



 本当、なんでネジだよ。なんなんだよ。



「っと、失礼。この巣は得体の知れない物が掘れるのです」


「は、はい……」


「それでも師匠。あ、さっき話した枯れ木みたいな人間なんですが、あの人は大体これで日々の食料を獲ってます」


「え……? そ、それはつまり、この下に食べ物が……?」



 枯れ木みたいなの件はスルーか。やるな、この子。



「ちなみに、その師匠ですが……師匠も、この巣から穫れました」


「…………」



 嘘じゃねぇよ。そんな目で見るなよ。泣きたくなるだろうが。デリケートなんだぞ今の俺は。



「と、とりあえず、解りました。あの、ちなみに……あの人間のお爺さんは日頃は何を食べてるんですか?」



 おずおずと手を上げながら問いかけるクリムさん。お、慎重だね。情報収集をちゃんとするのは先生好感持てるよ。



「まぁ、巣から出してるのは、酒と……酒と……干し肉は、アレは自作してたから違うか」


「ちょっと待ってください。この巣からは何が穫れるんですか?」


「え? 酒と、師匠と、ミミズと、ゴミと……伝説の剣?」


「……そうなんですかー」



 嘘じゃねぇって。その顔止めろ、ちょっと可愛いけどよ。あれ、あの剣どこにやったっけか。誰も使わないから鏡にして……どうなったんだか。まぁ、いいか。



「腹、減ってるんでしょう?」


「……はい」


「まぁ、試しにやってみるといいですよ。一応危ないから力いっぱいに掘らない方がいいです」


「…………はい」



 確かに物々しいラインナップなのは否めないけどさ。


 ようやく腹を(くく)ったらしいクリムさん。初めてのトレジャーハントです。



「え、えっと……この辺りでしょうか……食べ物、食べ物……」



 夜空の下、薄暗いなかを食い物を漁るべく四つん這いで地面を手で掘る翼の生えた黒髪少女。



 こんな酷い絵面を見る日が来るとは思わなかった。



「あ……な、何か見えてきました」


「みんな寝てるから少し静かにね」


「も、申し訳ありません……」



 少しだけ弾んだ声になったのはこちらも嬉しいが、近所迷惑になるのはまずい。近所はないけど。



 テンションが下がったり上がったりと、忙しいクリムさんであるが……もうクリムでいいな。そこはかとない残念さが滲み出てきてるし。


 そして、ようやくクリムが巣からそれを掘り出した。





 クリム は いも を ほりだした !!



「こ、これは……食べられますか?」


「あー……生じゃ、食べないね?たぶん」


「……食べても大丈夫ですか?」


「……ちなみに、前に食事をしたのは?」



 どんだけ腹減ってるのか。あまりに空腹を訴えるクリムに問わずにはいられなかった。



「昨日は、水と、一昨日は――」


「オッケー解った。手伝おう」



 水で一日を過ごしたらしいクリムのあまりにもアレな解答に、俺は彼女の晩御飯調達に付き合う事にした。流石に不憫(ふびん)が過ぎる。天体観測してる場合じゃなかったろ。


 と、いうか水しか飲まなかったのに、野宿未経験とか、余計に彼女の出所が判らなくなったのだが。



 ざく。がっ。


 ソラ は えんぴつ を ほりだした。



 ざっ。ざっ。


 クリム は すいとう(中身無し) を ほりだした。



 ざく。ぱん。


 ソラ は かみふうせん(壊れ) を ほりだした。



 ざっ。ざっ。


 クリム は ヘッドホン を ほりだした。



 ざく。ざく。がっ。さっ!!


 ソラ は えっちなほん を ほりだした。


 


 ざっ。ざっ。ざっ。


 クリム は りんご を ほりだした。




「や、やりました……!!」


「ん!? あぁ、よ、よかったねぇ」


「はいっ、と……すいません。声が……」


 見たところ傷もない物に、クリムはパァッと花の咲いたような笑顔を俺に向けてきた。そんな彼女に俺もニチャァって咲いた笑顔で返す。いやぁ、頑張ってみるモノだね。


「一応よく拭いて、痛んでるようなら食べちゃ駄目だからね」


「……はい。本当にありがとうございました。あ、あの……実は、途中から諦めてまして――」


「いや、仕方ないよね。俺もまさか出てくるか判らなかったし……こんな本が」


「え? そういえば、ソラ様も何か穫れたんですか?」


「いや、残念だが食べ物は何もなかった」



 本当に、この巣はどうなってるのやら。本当に困った物だなぁ!! お尻の下に敷くような本しか見つからないとはね!!



「そうだったんですか……そ、それなら半分食べま――」


「いや、それはクリムさんが見つけたんだ。それに、もうこんな時間だ。早く食べて寝るといい。疲れただろう?」



「え、あ……そうですね。こんな時間まで突き合わせてしまって、本当に申し訳ありませんでした」


「クリムさん。困った時はお互い様だよ、ね?」



 だから早く食って寝ろ。そんな念を込めたつもりはないが、クリムは俺の言葉に驚いたように青い目を見開いた。なに? なんなん?



「……ソラ様。貴方の深い慈悲に感謝を。私なんかの事……その……」


 もにょごにょ。



「クリムさん。もういいんだって」


「で、ですが――」


「それじゃあ、今度俺が困った時に助けてよ、ね?」


 まぁ、その困った事は現在進行複数形(とっちらかってるん)だがな。



「……解りました。その時は是非、こんな私で良ければ」



 その言葉は、クリムが発したとは思えない程に凛としていて、可愛いけど少しだけ格好良くもあった。



「それではソラ様。おやすみなさいませ」


「あ、うん。おやすみなさい」


「っ……それでは」



 何回それではするのだろう。律儀に何回もお辞儀をして、クリムはベッドのある方へと歩いていった。



行ったか?


 ……行ったな?




「まったく、とんだ一日だったぜ」



 ゆっくりと腰を上げ、夜空に向かって溜め息混じりにそんな言葉を吐いてみた。吐いて、吸って、深呼吸、深呼吸。



 そして、ぐるんと音を立てて、その物体へと身を(ひるがえ)す。



 そう、エロ本(おたから)である。



 俺も男だ。仕方のない事である。いや、これは異世界における文化の調査であって決してやましい事は何もない。そう、これはこの世界の学術的な部分がどの程度の発展を遂げているのかを調べる為なのだ。つまり、俺は勤勉なのだ。見よ、背表紙は糊付けではなく、雑ながらホチキスのような者で留めてある。これは前世でもペンギン○○○さんとかでもなされている方法であってペンギンの俺も非常に好き、好意的な作りとなっている。


 惜しむべくは、この翼がページを捲る事に適していない事か。だが、しかし。明らかにこの壁サークル常連の神絵師が描いたようなサキュバスっぽいお姉さんが表紙の本を前にしてその程度、些事である。



「なんまいだー、なんまいだー」



 よし、拝んだ。みんな、寝た。


 さぁ、勉強の時間と行こうか……!!


 俺のトレジャーハントがはじまる……!!

















 BL(そのエロ)は管轄外だよファッ○!!


クリムのリンゴは腐ってませんでしたが、ソラの本は腐ってました。

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