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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第二章 ペンずる者は掬われる
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パタつかせて爺さん

 


「大変、申し訳ございませんでした」



 結局の所、体感的に数分で目を覚ましたおじいちゃんに出来たのはそれだけだった。そう、土下座だ。


 状況を整理してみると、事の発端は姉のせいで、おじいちゃんを引っ張り出したのは兄の仕業、頭をつついたのも兄で、目覚めの一撃をお見舞いしたのは俺だ。こちらが全面的に悪く、少なくとも前世であればお縄についても何らおかしくはない所業であった。


 であれば、一応精神年齢的に年長者として俺が代表して謝罪すべきであろう。例え、ペンギンの身であろうと、言葉が伝わらずとも雰囲気は伝わる筈だ、多分。




「いやいや、見事な一撃だった。誠に良い物を見せて、感じさせてもらったぞい」


「いえいえ、私も見ての通り若輩の身で誉めていただけるような芸とは、とても……」


「ほほっ、謙遜(けんそん)する魔物とはまた珍しい。しかし、見てくれ通りの歳であればもっと我を強くもっておった方がよい事もあろう。その時でしか得られぬものもある、急ぐことはない」


「御教授頂き、恐悦至極……って、話通じてるのかよ」



 おっと、いけない。思わずツッコミを入れてしまった。久々に社交的な会話っぽかったけど、結構錆び付いてると実感する。直ぐにぼろが出るとは。あれだ、ここ数日のペン生でかなり自由に生きていたからかな。



「ほほっ、何やら難儀な生き方をしておる様子で。左様、お主の言葉を儂は理解しておる。それで、ここはいったい?」


「えっと、私達の家で……」


「ふむ。つまり、儂は"極樹"を登り切ったわけなのだな?」



 きょくじゅ? おじいちゃんの言葉に、改めて自分の住む家のことさえ無知だと思い知った。それと同時に、我が家の構図を思い出してみる。



 ペンギンロケット事件やピクニックで、ママ鳥と共に巣から離れる過程で、この巣の外見は知っている。


 笑ってしまう程、大きな木の頂上部分が丸ごと鳥の巣なのだ。ざっくりした言い方になるがブロッコリーの上に巣がある。雨とかどうなるんだろうね。


 おじいちゃんの言う極樹、ママ鳥が凶極鳥という鳥である事から極繋がりなのか。


「どうかしたかの?」


「あぁ、申し訳ない。客人の手前、考えに没頭しておりました」


「ほほぅ、幼いながら知性を持ってるだけはあるのぅ」



 それで? と水を向けられれば、恐らくは何を考えていたのかだろう。異種間コミュニケーションの一環にも情報収集にも繋がるだろう。


 しかし、メアリーとはあまりこういった意見交換はしてこなかったな。若い子に教えて貰う事に抵抗を覚える歳にでもなったか……おっと、脱線した。



「まぁ、私の夢想は置いておかせて頂くとして……その前に、自己紹介をさせて貰っても? 私はソラと申します」


「人間臭い魔物じゃのぅ。まぁ、よい……儂の名はグリ…………ジョルトじゃ」



 どこか不機嫌そうに顔をしかめた老人。人間臭いとはなんとも鋭いというべきか俺の落ち度か……それより、なんなのその名乗りの間。まさか偽名かよ。俺も偽名を名乗ればよかったか。前世のハンドルネームとか……ないわー。



「ではジョルト老と呼んでも?」


「構わぬ。それで、彼方にいるひよこは……」



 あぁ、こっちの世界もひよこはひよこなのか。


「姉と兄で――」



 彼方?といわれ見ればふたりは遠くに避難、視線を移すと同時。さらに彼方に面倒がやってくるのが見えた。


いや、面倒とか酷いと思うけど……



 タイミング悪いよ。ママ鳥。



「ほぅ、あれは……ぬぅ!?」


「……母です」


 思考のなかで、この世界の、と付けてしまう辺り、まだまだ母さん呼びは遠いかな……なんて考えて――



 羽根を越えて肌を刺す感覚があった。



 これは、なんだ?



 身体は小さく震えて止まってくれない。


 これは……なんだ?



 不思議と脳裏を過ぎたのは、湖で水龍を瞬殺したママ鳥の姿だ。どうしてだろう。どんどん近付くママ鳥から同じ、いやそれ以上の圧迫感を覚えるのは。



「人間よ、殺されに来たか……」



 巣の上まで帰るとママ鳥は強く翼をはためかせてホバリングする。その声にいつもの色はない、あるのは外敵に対するような冷たい、ただ冷たい響きだけだった。



 あぁ、これは殺気か。



 呆然とママ鳥を見上げながら、俺は自分の状況をどこか客観的に考えていた。いつか見た圧倒的な力の差を見た。



これ、巻き添え食らっただけでも死ぬな。


 

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